第309話 神様再び
太郎とマナの二人が世界樹の上に向かって姿が消えるのを見送った者達は、そこから動けなくなっていた。とてつもないチカラを感じたからだが、それがどんな力なのか分からず、恐怖を感じている。
「あそこで何が起きてるの・・・。」
「動けぬ・・・。」
「世界の終わりを見ている気分だわ。」
その上空からは、翼を広げたまま気絶したカラー達か落ちて来て、地面に転がった。とりあえず死んではいないようだが、誰も助けない。
村全体が、何かに包まれていて、誰もが動けなくなっている。
脱力感に包まれていると理解する力もななくる。ただ、何もせず呆然とし、多少力のある者達が辛うじて自我を保っている所為で、恐れる事を理解してしまったのだった。
「寿命が・・・無い?」
「死なないという訳ではないぞ、回復不能なほどのダメージを受ければ普通に死ぬ。」
「じゃあ私と同じ?」
「世界樹とは違うかな・・・植物と人類とでは・・・いや、そんな境界を作った覚えはないな。」
神様が何か独り言を言っている。
「ともかく、大地に漂う魔素の存在とは関係なく、太郎君は内側から魔素が溢れ出ている筈だ。魔力と勘違いするかもしれんが、太郎君は自然の魔素を含む。その所為で創造魔法が使えるのだと思うのだが、もう一つ問題が有ってな。」
「もう一つ?」
「太郎君を蘇らせるのに少し手間取ってしまったと説明したのを覚えているかね?」
50年探してたってやつか。
「その時に私の肉体の一部を譲渡した事で、神の候補生になってしまったのだ。」
「は?」
「太郎が神様?」
「正確にはまだ神ではない。神となると死ねないからな。なかなか退屈なんだよ。」
そう言われてもなあ・・・。
「俺が神になるとどうなるんです?」
「ワシが引退できる。」
「・・・そうじゃなくて、神として崇められたりするんですか?」
「そんな趣味があったのかね?」
「ナイデス。」
「ワシもない。」
「神になっても良い事無いじゃないですか。」
「・・・・・・・・・。」
なんで無言なの。
「この星を管理して思うように・・・創れなかったなぁ・・・。」
重い溜息を吐かないで下さい。
俺達が慰められるワケないじゃないですか。
「まあ、なりたくなったらいつでも呼んでくれ。」
「全力で遠慮します。」
「・・・だよなあ・・・あの時、私もちゃんと判断できていれば。」
「そんな簡単に神ってなれるもんなんです?」
「本来はそれと認めた存在に血肉を渡す事と、神界に書類を提出して許可が出れば・・・。」
書類?
え?
「神は一人ではなく数えきれないほどいるからな。ワシも知った時に驚いたのだが、こうして人の住める惑星を管理できるのは優等生らしい。」
「ココは地球ではないんですよね?」
「もちろん違う。ただ、似た場所に存在する別次元の世界では地球と呼ぶところもあるようだ。」
「次元が違うとはね。何となく分かっていたけど、突拍子もない話過ぎて理解が追い付かないです。」
「想像力で人に勝るものはいない。創造力なら神が一番だが。」
マナが欠伸している。
済まんけど、もうちょっとね。
「神になるかならないかはいつでもいい。むしろ管理を君に任せて必要な時に呼んでくれる・・・でも良いぞ。」
「そんな無責任な・・・。」
「管理するのが面倒になって全てを滅ぼした神も居るからな。」
とんでもない脅しだよ。
神様が言って良い言葉とは思えない。
「神様って干渉できないとか制約があるんじゃなかったでした?」
「あるよ。ワシもこの星に直接手はだせん。だせるのなら世界樹を創ったりはしないからな。」
そう言われれば、そんな話あったな。
でも滅ぼせるんだ・・・。
神になっても良い事無いし、直接干渉できないなら見ているだけになっちゃうし。
つまらないなあ・・・。
「・・・仕方がないです、この世界に飽きたら呼ぶことにしますんで、暫くはこの世界で生活させてください。」
「うむうむ、いい返事だ。」
飽きる事なんて無いと思うけどね。
「ははは、どうせ飽きる日が来る。」
「思考を読まないで下さいよー。」
笑っているが目は優しい。
その優しい目は俺に向けられているのではなく、マナを見ている。
「隣で飽きて寝てるしな、世界樹もただの子供だ。しかし寝るとは面白いことをするなあ。」
神様なら、みんな子供だろう。
「それは同意します。」
「さて、あんまり居ると魔力が減ってしまうだろうし、そろそろ戻るとする。」
マナが消え行く神に気が付くと起き上がって手を振った。
「また遊びに来てねー。」
マナは神様の事が好きなのは間違いないだろうけど、なんで好きなんだろう?
もっと飛び付いたり、よじ登ったりすると思ったけど、特に何もしていない。そのわりには暇そうにしてたけどなあ。
神様が消えた時、気が付いたらシルバとウンダンヌもいない。どうせ俺の身体の中に隠れてるんだけど。
ともかく、マナにはここでの話の内容を決して口外しないように強く言っておこう。あの二人は直接言わなくても俺の考えぐらいわかるだろうし。
それにしても、俺が神様だって。
やだよ、そんな未来。
世界樹の根元に戻って来ると、子供達が泣いて飛び付いてきた。
まるで数年ぶりに再会したかのように。
「こわかったよぉ~。」
なんか子供みたいなんだけど、確かに子供なんだよな。
見た目は既に高校生ぐらいに見えるけど。
「なにかあったの?」
「あったどころではない、太郎は誰と会っていたのだ?」
「神様ヨ。」
マナがサラッと言っちゃう。
「そうか、あれが・・・。」
「本物ってそういう事なのね。」
「本物って言うか、なんか、神様なんだけど、違うんだよなあ・・・。」
「それで、何を言われたのじゃ?」
それが一番言い難い。
マナの頭を撫でる。
「・・・・・・特に問題は無いよ。」
太郎の言葉に納得したのではなく、太郎の圧力に屈して、その場ではだれも、それ以上の追及は出来なかった。
子供達にも威圧の効果が有ったらしく、ナナハルの後ろに逃げて行ったが、威圧が消えると戻って来た。マナが子供達を避けるように太郎によじ登る。
ゆっくりと近づくナナハルが、ふぅっと息を吐きだした。
「正直、このまま戻ってこないと思ったのじゃ。」
「マナと行ったんだからそんな事にはならないよ。」
「そうよ!」
ひさしぶりにマナが俺の頭に座ってオデコをペチペチしている。
なんか気持ちいい。
「みんなもなんか、心配させたみたいで悪いけど、これからもいつも通りだから。」
地面に転がってたカラー達が復活すると、世界樹に戻って行く。
それが何となく合図になって、解散となった。
マリアだけは凄く何か聞きたそうな表情をしていたけど、とりあえず無視してポチにマナを乗せる。
ゆっくりと、だが確実に、村はいつも通りに戻っていった。
太郎がそうなる事を望めば、みんなはそう動いてくれる。
多少の問題があるくらいが丁度良い。
なんてコトを考えた事を後悔する日が来る太郎だった。
その日の深夜。
深夜の警備の交代が行われる頃、太郎は自分の家の屋根に一人で空を眺めていた。仰向けになっていると、視界には丸くて大きな月が見える。
だが、太郎はその月に興味はなく、様々な思考を巡らせていた。
「こんな所で何してるの?」
太郎の頭を持ち上げると、スッと膝を滑り込ませた。
柔らかい感覚が後頭部を包む。
「なんか久しぶりね、この感じ。」
「そうだね。」
二人しかいないワケではないが、二人っきりの感覚が強い。
元の世界でも異世界でも変わらない、深夜の静けさは、気持ちを孤独にさせる。その世界にマナは自然と入ってくるのだ。
「いい感じに成長したわね、太郎も私も。」
「マナがそう思うんなら、順調なんだろうね。」
「順調というか、予定より何倍も早いわ。私と太郎がこの世界に来てから50年以上経過してるけど、最初はほとんど変化なかったでしょ?」
「そうだねぇ。」
「今は早過ぎるくらいよ。普通の植物と比べたら異常ともいえるわ。でもね、異常じゃないのよ。私の成長は魔素量で決まるのは良く分かったでしょ。」
「それは理解できてる。でも、成長が早過ぎるのも、周囲に影響が出るのも、世界樹の成長に関わってるって分かったから。」
「少し遅らせる?」
「もう手遅れじゃないかな。」
「うーん。確かにそうかも。」
「急いでいる訳じゃないし、急ぐ必要もなくなったし、これからはもう少しのんびりしようかな。」
「太郎も私も寿命なくなっちゃったもんね。」
「その事なんだけど・・・。」
マナに頭を撫でられると心が安らぐ。
「みんなには教えないで欲しいな。」
「それは良いけど、なにか問題有るの?」
「魔女みたいに魔力の保有量が多いと寿命が長くなるみたいだけど、スーやポチなんかは寿命あるだろうし、子供達の方がお爺さんになるのは何となく嫌だなあ。マナだって、沢山の友達や知り合いが死んでいくのを見ただろ?」
「そうねぇ・・・。」
産まれたばかりの子供が、いつの間にか大人に成って、いつの間にかお爺さんになって、いつの間にか存在が消えていく。
それが辛く悲しい事だと知っている。
「まあ、寿命を延ばす方法はあるみたいだし、この世界なら100歳で青年でも変じゃないから、暫くは気付かれないだろうけどね。」
マナに頭を撫でられると、自然と眠くなる。
あれほど考えがまとまらなかった事も、いつの間にかスッキリしている。
「殺される事はあっても死なないって面倒くさいな。」
「あ、私の気持ちわかってくれた?」
そんな二人の会話をこっそりと聞き耳を立てていたのは、スーやナナハルだけじゃなく、マリアも探ろうとしていたが、そこはマナがキッチリ結界を張ってブロックしている。魔力で突こうものなら、反転して来るので手が出せない。
もう魔力でマナに勝てるモノは太郎くらいしかいないのだ。
ただ、残念な事にマナには制約がある。
世界樹から遠く離れられない事と、世界樹から離れる場合は太郎が傍にいなければならない事。
マナはそれを知ってて太郎だけを送り出す事も有る。
自分がいない方が良い時もあるのを知っている。
太郎には自由にさせてあげたいと思う時もある。
自分の我儘で太郎を束縛したくないと思うのも、マナにとっては愛であるのだ。
でも、今は束縛したい。
眠ってしまった太郎の頭をいつまでも撫でているマナであった。




