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第305話 戦わない戦い

 牢屋で身動き一つできないギデオンを確認に来たのはドーゴルとダンダイルで、ゴルルー将軍の案内でその牢屋を遠くから眺めていた。魔力を抑制する不思議な腕輪を魔女から貰っているので、それを手首足首、更に首にも付けてある。普通に動く事は出来るようだが、魔法は全く使えず、筋力が強いだけの戦士に成り下がっていたが、危険度は十分高い。


「あんな奴を我が国で捕らえておく方が危険だと思います。」


 ゴルルーが魔王にそう言うのは今回が初めてではない。今までも何度も上申し、その度に解決策が無いという理由で断られている。封印するべきとの声も多いが、本来、封印するにはそれなりの土地と道具と、高度な魔法技術が必要であり、それが可能なのは魔女ぐらいしか知らない。


「とにかく今は監視してください。ここで逃がしてしまうと我が国以外にも被害が及びます。」

「ですが、その責任を我々だけで負うにはリスクが高過ぎます。」

「そこで提案なのですが・・・。」


 ダンダイルが二人に説明したのは、責任の所在を魔王国に求めるのなら、その対価を要求するという事であった。ギデオンによって被害を受けた国は少なくない。放置すればいつか来るし、大人しくしていれば、それはそれで不安になる。必要があって特殊な討伐依頼などを達成する事も有るが、やはり被害も大きい。


「要求を受け入れるでしょうか?」

「受け入れなくても良いのです。我々が捕縛していると考えれば余計な事をしようとする考えもなくなると思います。」

「なるほど。」

「近隣で脅威となりうる国も今のところは存在しませんし、わざわざ海から攻めてくるような国もありません。ボルドルトぐらい好戦的でも、海を渡るとなればハンハルトが限界でしょう。」


 ギンギール地方に行けば小国や部族の町も有るが、そちらはそちらで戦ったりするのでこちらまで届く事は無い。エルフの国の情報はまだ少ないが、トヒラが持ってくることになっている。ガーデンブルクもハンハルトも、同盟を結んでいて今は敵ではないし、コルドーは国としては崩壊している。


「抑止効果が有るから、このまま抱えると。」

「その通りです。」

「公表するのか、ダンダイルよ。」

「そうだな、ゴルルーの名で宣言してもらえると助かる。」

「何故、私の名ではないんです?」

「魔王が畏怖されるのは当然なのですが、余計な恨みは分散するべきです。」

「ダンダイルは十分に恨みを買っていると?」

「対勇者とザイールで十分買ったし、エルフも私が担当したのだ、少しは分散してもらっても良いと思うが?」

「まあ、立場上は他の将軍達よりは下ですが、仕事も多いですしね。元魔王というのも有りますし、ココはそれで手を打ちましょう。」


 ゴルルーは少し苦い表情をしたが、責任者としての立場もあり、受け入れることにした。最近はダンダイルの活躍の方が大きいので、軍としての威厳を保つ必要もある。

 トヒラもその活躍に寄与していて、トヒラの管轄は魔王軍の中で平時では一番忙しいとも言われている。


「あとはもう一つの問題のエルフの国ですか・・・。」

「問題が多いですなあ。」


 次の問題を話し合う為に、三人は会議室へ移動した。







 ボルドルトの首都で港町のボルドールは、無駄に活気に満ちていて、冒険者は少ないが、商人の活動が活発になっている。ハンハルトとの海運が安定した事で、商人達に軍艦の砲門を取り外して貸し出したりもしている。

 その少ない冒険者を集めている宿屋では、旅立ちの準備を終えた一行が馬車に乗り込んでいた。商売にも闘技場にも興味を示さず、必要な情報を集め、報告を終えた事で帰国する予定を変更し、一番商人が多いガリシア国へ向かう事にした。

 最終的にはフレアリスの故郷である、鬼人族の国を目指す事になる。


「やっぱ、馬車ってこれだよなあ・・・。」


 ガタガタと揺れる幌の付いた荷台に座るジェームスは、不味い干し肉をかじりながら呟いた。


「貴族の馬車ではないですし、揺れるのは仕方がないのでは?」

「あ~・・・、以前太郎君達の旅に同行してな、馬車旅が快適過ぎて、家にいるよりも良いと思ってしまいそうだった。」

「そんなにですか?」

「二人とも知らんから言うが、太郎君と居ると家に居るのと変わらない。まるで家がそのまま移動している気分だ。」

「そうなの?」


 フレアリスが同意を示せるはずもなく、いつもと違うセリフなのは興味を持ったからである。旅の時の事を説明したジェームスは、溜息を吐いてもう一言付け加えた。 


「あんなものを持って旅できるのは太郎君だけだろうな。」


 温かい食事と温かい寝床。旅にそんなものは無い。魔道具を使えば可能になるとはいえ、かなりの高級品で、冒険者が買うようなモノではない。馬車は貸し切りではなく、別のパーティとの共同なので、食事や見張りなどは一部は協力し、強い魔物の出現率もそれほど高くないので、たいした困難も無く到着した。

 三人は街を歩きながら雑談しつつ宿を探す。


「しばらく滞在するんてすか?」

「直ぐに行きたいところだけど、外から帰ってくる者に冷たいのよ。」

「まさか一戦交えるのか?」

「私がいるからそこまでの必要はないわ。けど、土産話くらいは欲しがるかも?」

「なんだそりゃ?」

「あそこは情報に飢えてるから。」


 鬼人族の住む土地にはギルドが無く、強過ぎて他種族から近寄られる事もない。たまに天使がやって来る事があるらしいが、力試しをするくらいとの事。


「そんなに強いのに戦争はしないんですか?」

「だって、負けないのに争う必要がないじゃない。」

「それはそうだな。」

「負けた事ってないんです?」

「個人戦なら負ける事くらい、いくらでも有るわ。勇者なんて鬼人族だって相手したくないのよ。」

「勇者とか、ドラゴンとか、普通は相手にするもんじゃないからなあ。」


 適当な宿を見付け、入口の看板で宿代を確認する。三人で一部屋でも当たり前になったので、宿屋の受付の男に変な目で見られても気にしない。

 手続きを済ませて、ついでにギルドで情報を拾う。ハンハルトならタダで聞けるが、ココでは通用しない。情報料を支払い、幾つかの情報を得る。そして、びっくりする情報が流れていた。


「エルフの集団が魔王国を通過した・・・?」

「これって重要な情報になるんですか?」

「そうね。」

「エルフ嫌いは何処にでもいてな、魔王国が受け入れたとなれば、一騒動起きるってもんだ。・・・どうせ太郎君絡みだろ。」

「そうね。」


 鈴木太郎の名前が出されるとマギも納得する。

 何か有ってもあの男なら不思議ではないと感じてしまうのは、既に共通認識である。


「世界樹の情報も流れているな。ほとんどウソだが、この情報元はどこだろうな?」


 ジェームスが見た情報は、世界樹の葉が流通する為に価格が暴落するとの事だった。もちろんフレアリスもマギも嘘だと分かる。


「なんでこんな情報が流れるんです?」

「ソコソコ高い金を払えば流してくれるのは知ってるだろ?」

「はい。」

「世界樹の葉が欲しいのか、入手方法を探しているのかは知らんが、自分以外の欲しがる者達を動かして少しでも楽に手に入れたいんだろうな。」

「こんな情報で動きますか?」

「俺達は知ってるから動かないが、知らない奴からしたら世界樹の葉は今でも高額で取引されるんだ。そして、世界樹が実際に復活したのは既に周知の事実だ。だけどな・・・。」


 視線を感じたので話を止め、周囲を見渡す。


「エルフも世界樹も情報の危険度は変わらない。」

「そう・・・なの?」


 珍しく同意しない。


「エルフの目指す土地が世界樹の在る場所となれば、注目が集まるからな。」

「そうね。」

「だが、あの土地から情報が出る事は殆ど無い。何しろみんなあの土地に住みたがるからな。」

「わざわざ危険に晒す事もないですもんね。」


 ジェームスは一度頷いてから眉間にしわを寄せる。


「だからこそ、あの土地に行った経験のある奴は言いたい放題なんだ。」

「た、確かに・・・。」


 特にあの土地に行った経験が有る事を証明する物が有れば、信用度も高まる。世界樹の葉は無理でも、一部が流通したエルフが作った道具などは証拠品になる。特にトレント製の食器などは高額で取引されているのだ。


「高級品に溢れすぎていて、あの村で普通の事は、本当は異常なんだった事を故郷に戻る事で実感するのさ。」

「あの村の食事を思い出すと食欲が・・・。」

「そうね・・・。」


 あの村での思い出は、訓練や戦いよりも、食事の内容だ。貰った蜂蜜を食べずに保管して大切に持っているのは、いざという時の回復薬(ポーション)の材料にする為だ。


「いい意味でも悪い意味でもあの村の事は忘れられないよな。」

「そうね。」

「それだからこそ、村の外でもあの村を守る事が出来そうですね。」

「それはそうだな。」


 ジェームスは同意したが、話が横にズレている事に気が付いた。


「ガリシアは商人が多い国だ。キンダース商会もある。あの村絡みの事でキンダース商会が余計な事はしないだろうから、世界樹の葉や雄殺しの蜂蜜が取引されていたら、確実に偽物だろう。」

「偽物を見付けた場合は報告するんですか?」

「する訳ないだろ、知っている事を証明した後の方が面倒だ。」

「そうね。」


 マギがもしも一人で冒険、もしくはパーティリーダーとして仲間と共に旅をしていたとしたら、次々と首を突っ込んでいたのかもしれない。嘘を嘘と教えてあげるのも必要な優しさだと思っているからだ。

 だからこそ、ハンハルトの奴隷制度が嫌いなのだ。それはフレアリスも嫌いだしジェームスも同意している。特にフレアリスはそれで捕まっていた過去もあるくらいだ。


「嘘を嘘と見抜く技術も必要だが、嘘だと教える必要が必ずある訳でもない。」

「は・・・はい。」


 力無く頷いたのは、冒険者としての心得を知るほどに、理想とする冒険者像から離れていくのだ。


「結局・・・俺達はもうあの鈴木太郎の魅力に取りつかれたって事さ。」






※追加情報


■:ドーゴル


 15代目の現魔王

 優しくて穏やかな人


■:ダンダイル


 9代目の元魔王

 勇者対策や、鈴木太郎の対応、諜報活動もする、何でも屋

 立場的には将軍ほどの地位は無いがほぼ同格に扱われている


■:カンガル・ド・ゴルルー


 国土防衛省軍の将軍


■:ギデオン


 イケメンの元勇者だが今は牢獄生活

 思い込みが激しく自分の考えをなかなか曲げない

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