第300話 受け入れられる
遂に300話到達\(^o^)/
これからもよろしくお願いします...
やっと旅人が減り、村には日常が戻りつつあった。
畑仕事も順調になり、家畜の鶏も、子供達が大切に育てている。朝の鳴き声で目が覚めるのも慣れてきたころ、厳しい表情のオリビアが太郎の前に現れた。
「太郎殿にお願いがあります。」
美しい顔の眉間はしわが多く、それだけで難しい問題を抱えている事が想像できたが、内容はそれほど問題だと感じなかった。
「そのくらいなら問題ないよ。」
オリビアの願い事を横で聞いていたナナハルとスーも、太郎に同意している。
「それで、いつ頃になるの?」
「ダンダイル殿が通行許可を得た。と、先ほどギルドを通じて連絡が来た。」
「直接来ないんだ?」
「エルフだと分かると問題が発生するのを未然に防ぐためにダンダイル殿が護衛をして下さるようだ。」
「じゃあ、今こっちに向かってるんだ?」
「うむ。」
「家は足りる?」
「仮説住居が余って来たのでそれを借りさせてもらう。建てるのは我々でやるので、問題ないのだが・・・。」
「家畜も少ない時に連れてこられてものう。」
「一緒に牛を30頭ほど連れてくる事になっている。」
ツクモの不安を解消させて満足そうだが、牛の歩みである。
「かなり大変そうだね。」
「大変だが、これに関して太郎殿の手を借りる訳に行かないのでな。」
「そんな事も無いけど、そんな事も有るのか。」
「太郎はエルフのプライドも守らねばならんのじゃ。」
「それは理解できるから。」
「もし、その・・・あれなら・・・我が身を差し出しても構わないので・・・。」
オリビアの言葉に驚いたのはスーである。
「そういう立場になってきましたかー。」
「だが、これだけは断言する。決して太郎殿の子が欲しい訳ではない。」
子を持つという事は太郎の家族になるという事で、それは太郎に迷惑をかけるだけでなく、エルフの問題に太郎が関わる事にもなりかねない。
「そういうのは間に合ってるけど、覚悟はしっかり受け取るから、忘れて。」
「そう言って下さると思っていましたが、エルフとして、いや、この村の住人のエルフの代表としては、我儘を言うのにも心苦しく・・・。」
ナナハルとスーは太郎が受け取らない事を理解しているし、オリビアの気持ちも当然のように理解できる。太郎の立場が強過ぎるのと、太郎の周りに居る者達で一番迷惑をかけているように感じているのだから。
「銀髪の志士でもそう成ってしまうのですよー。」
「なんで俺に言うの。」
「エカテリーナと同じですー。」
「一度くらい喰ろうとけばよいのじゃ。ただそれだけの話だが・・・。」
ナナハルが苦笑いをしているのは、太郎は欲が少なく、それは性欲もそうだと思っていたが、やり始めると止まらない太郎を知った事で考え方を改めている。
「銀髪の志士にココまで言わせるとは罪な男よのう。」
ナナハルが苦笑いを止めて普通に笑った。それで理解出来た太郎だった。
「人身御供みたいに扱いたくは無いけど、納得できないなら仕方ないかな。」
と、太郎も柔軟に答えて見せたが、やる事は同じである。
「仲間が到着してしまうと忙しくなるので、出来れば早い方が。」
「今夜。」
「えっ?!」
「太郎さんにしては決断が早いですねー?」
「じゃの?」
「最近、みんな忙しくて相手してもらってないから。」
みんな忙しく、流石のナナハルも疲れているし、スーやエカテリーナも連日の多忙さがやっと減ってきたころである。もりそば、うどん、マナの噂の三姉妹は畑での仕事も減って来たので、世界樹の育成について調べていた。それには太郎も参加していたが、木の伸び具合が悪くなってきた事の原因はマリアにも相談している。
「子供達も来ないとちょっと広くてね。」
やりたくない訳じゃない太郎は、時に素直なのであった。
翌朝は、疲れているが凄くすっきりした表情のオリビアと、笑顔のエカテリーナが太郎の自宅の食堂で会話をしていた。
用意された蜂蜜ホットミルクを飲み干すと、オリビアも笑顔になる。
甘味は正義だ。
「エカテリーナもアレを味わったのか。」
頬を赤くして小さく頷く。
「・・・そうか。」
誰にも聞こえない声で「凄い」と呟いた。
その後は新しい料理道具や食器の話になり、牛が来る事も伝えるとたくさんの料理名を並べる。太郎を喜ばせる事が出来ると無邪気に笑うエカテリーナは女性から見ても可愛い。
朝食を太郎の家族と一緒に過ごしたオリビアは、子供達の笑い声と、何故か太郎にご飯をねだる猫の姿をしたベヒモス、マナの食べこぼしを綺麗にするスー、ナナハルは母親らしく振舞う。
「やはり、家族は良いな。」
「家族って以前もいたんじゃないの?」
「もちろん、子供もいたが・・・私の子ではないし、身内となるべき者は一人もいない。」
「あ、なんかごめん。」
「太郎殿が気にする事ではない。私が好きでそうなったのだ。親も兄弟もどこかで生きているだろうが、会う事は無いだろうな。」
銀髪の志士として生き、裏切り者として生き、故郷を遠く離れ、今は祖国の存在すら解らない。だからといって後悔はしていないオリビアである。
「それよりもあのギデオンがなぜここに来たかの方が気になるのだが。」
「それじゃな。」
「そーですねー。」
「あんなのほっとけば?」
「世界樹よ、そうもいかぬ問題があるのじゃ。」
「あにが?」モグモグ
「キデオンが現れたという事は、何者かによって狙われている可能性がある。」
「そうじゃ。」
「原因としてはー・・・。」
スーがチラチラッと視線を送った先はマナとオリビアだ。
「私の所為にされても困るんだけど?」
「我々に責任があるのは最初から分かっていた。いつかこうなる事も。」
「この問題を解決するには、我らだけでは無理じゃ。」
「今までが意外と平和だったのかな?」
「ゴリテアの件が有っても平和だったと言われると、そういう事になるのかの?」
オリビアの申し出の理由はそこに有る。もう後戻りは出来ないし、これから来る脅威にも備えなければならない。それ以前に解っていなければいけなかった事でもある。
「とは言っても、最も危険なのが控えてるんだけどね。」
「あ~、ドラゴンね。」
「そうそう。」
マナと太郎が軽く言うのでナナハルとオリビアがギョッとした。子供達は食事を終えると家畜の世話や自主訓練に出かけて行き、大人達の会話に興味は無いようである。
「魔王国の兵士だって承知して駐屯している筈だし。」
正確に言うとそこまで覚悟している兵士は初期メンバーだけで、以降追加されてやってきた兵士達はゴリテアが来るまでただの平和な村だと思っていた。
ゴリテアの一件で多くの者達の認識が変わり、それでもこの村にとどまりたいというものは半々くらいだ。
半々といっても任務地としての人気は高く、どこに居ても魔物の脅威が変わらない事を考えれば、なんでも充実しているこの村に居た方がいい。
「エルフと全面戦争になんて・・・ならないよね?」
「それは無かろう。」
「ですねー。魔王国を相手に戦争するようなモノですしー。」
「もはや何もない村ではないからのう・・・。」
「そもそもオリビアさんが気にする事じゃないからね。」
ナナハルが目を見張った。
「おー、良く言うたものじゃ。」
「え?」
「責任は太郎がすべて請け負うという意味じゃろ?」
「立場はみんな平等なんだけど・・・みんながそう思ってはくれないからね。」
少し諦め気味に言う太郎だ。
「太郎殿が望むのであれば私は最初から・・・いや、この話はやめておこう。」
「うん。そうだね。」
「建設的に話をするとどうなりますかねー?」
「俺が考える最悪のシナリオを言うと・・・。」
太郎に視線が集まる。
少し緊張したのは、それほど大それたことを言うつもりではなかったのだが、その内容は恐ろしいモノがぎゅうぎゅう詰めであった。
「・・・太郎の言う、ドラゴンとエルフが協力するなんてことはあり得るのか?」
「無いとは言いません。天使とは協力関係が成立していた時期があったようですし。」
「今の天使は?」
「どう見ても太郎さんに逆らう事は無いですよー。」
「じゃな。」
「・・・魔女も味方ですし。」
「味方になった覚えはなさそうだけど、敵にはならないよね。」
少し前までは完全に敵だったのに、あれほど苦しめられたのに、あっさりと断言する太郎にはスーも驚かされる。
「ですがー・・・、それが成立するのは太郎さんがこの村に居るおかげなんですよねー。」
「無論じゃ。」
「えー・・・私はー?」
「世界樹様だけでもかなり強いですけど、太郎さんみたいには出来ないんじゃないですかー?」
珍しく、マナが大人しく椅子に座って考え込んでいる。
「確かに、そうね。ダンダイルとフーリンは協力してくれるかもしれないけど、世界を敵にするとか、ドラゴンが再び攻めてくるとなったら、さすがに可哀想だし。」
経験者の発言は重い。
「ドラゴンってほとんどフーリンさんより強いんだよね?」
「ハーフドラゴンとして最強じゃないかな、フーリンは。」
「他にもハーフドラゴンってどのくらい存在するの?」
「そういえばフーリン以外に会った事無いわね。」
「殆どは身を隠して生活しておるからの。」
よくよく考えてみれば、この世界の事を俺はどのくらい知っているのだろう?
・・・他にも国があるって言ってたよなあ・・・。
今度は考え込んでいる太郎のおでこをぺちぺちするマナである。
「どしたの?」
「いや、俺この世界の事をほとんど知らないなあって。」
「私も知らないけど?」
「そういう意味じゃなくて・・・えと。」
「世界というと、どの辺りまでじゃ?」
「うーん・・・世界情勢かなあ・・・?」
「それはさすがに解りませんねー・・・。」
「そんな事知ってどうする?」
「知っておいた方がいいんじゃないかな。」
「私が教えられればいいのだが・・・最新の情報が無い。」
悔しそうにオリビアが俯く。
銀髪の志士として活動していた頃なら情報は入ったし、国としての行動も有れば必然と知る事も有る。しかし、身を隠して生活していたとなれば情報とは隔離されるのだ。
「教わるのなら適任者がおるぞ。」
「魔女ですかー?」
「いや、もっと詳しい者がおる。」
「あー、あの将軍ですかー。」
何故となくスーが嫌がっているような感じなのはなんでだろう?
「少なくとも魔王国では一番詳しいのではないか?」
「そうでしょう。」
「そのうち来るだろうから、その時にでも教わるか。」
そうなると来るのを待つだけなのだが、そんな日に限って来る事は無く、数日待つ事になった。




