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第27話 一年間

 本当に一年とは長いようで短い。この町は大きな季節変化をあまり感じなかったことと、暦というモノをあまり見なかった所為もあるかもしれないが、気が付けば3か月、気が付けば半年、あっという間に一年が過ぎている。

 最初の三ヶ月に起きた事と言えば、ダンダイルが勇者撃退専門のアドバイザーとして一時的に軍に復帰した事だ。元魔王が軍隊に所属するのは初めての事ではなかったし、有能だったことから多くの兵士が喜んだ。ただ、アドバイザーだったのは一時的な事で、直ぐに最前線の指揮官に就任している。


「ドーゴルに嵌められた・・・こんな事に引っかかるなんて俺も耄碌(もうろく)したかなあ。」


 と、フーリンに語っている。対勇者の最前線に立ったことでかなりの権限を持つ事にもなったから、俺に対して修行だからという理由で何度か連行された。

 ダンダイルさんとはかなり親しくなったと思う・・・、事情を知らない兵士に副官だと思われたくらいだったから。俺私服なんだけどなあ・・・え、これ魔王軍指定の剣ですか?それでか。



 スーとマナはすごく仲良くなっていた。よくお風呂も一緒に入るようで、俺と入る回数は減ったけど、別に寂しくなんかないぞ。おい、ポチもそっち行くのか・・・。ああ、身体洗うのがマナの方が上手いって事か。そうか。うん。

 石鹸はもうほとんど残っていないが、王都でも売っている。ちょっと高いけど。水酸化ナトリウムなんてどこにあるんだろう・・・?気になったから買った店で訊いてみたが、そもそもどうやって作っているのかは教えてもらえなかった。企業秘密ってどこにもあるんですよね。

 お風呂に毎日入る習慣もなく、三日ぐらい経つと入る。これは俺が来てからだ。フーリンは一週間に一度入るか入らないかくらいで、普段は体臭を消す魔法を使っているそうだ。ちなみにフーリンとは一度も一緒に入ったことはない。他のやつらは入っているようだ。ふーん。



 言葉については問題なく、カジノのレース場で会話が理解できた理由は未だに解らないが、いつの間にかある程度の文字も読めるようになっていた。いつ頃から読めるようになっていたのかが思い出せない。あまりにも自然だったから。しかし書くことは出来ない。書けないと知った時のダンダイルが軍学校で教えている所が有るという事で紹介された。なんかカクカクした文字だったけど何とか覚えた・・・3か月ぐらいで。読めるから書くのを覚えるのも早かったが、日本の文字を忘れそうだ。



 魔法はかなり上達した。水魔法なんていつでもお湯が大量に出せるレベルだ。そりゃお風呂で使っているからね。井戸で水を汲む必要もないので、中庭の隅っこにあった井戸は蓋が閉められている。俺が神気魔法で出した水は澄んでいてとてもおいしいと言っていたので、料理にも使われている。



 剣術はスーとほぼ対等に戦える。毎日の筋トレも欠かさずにしていたから、腕力だけなら勝っている。ジャンプ力とかはどうしても無理だけど、風の魔法で高く跳べるようになった。最初は着地がすごく怖かったけど、何度もやっているうちにゆっくり落下すればいいことに気が付いた。しかし風魔法はマナの消費がすごく激しい。

 剣術の練習はスー以外だとダンダイルのところの兵士と何度もやっている。こちらは少し手応えが無い。スーほどの速さが無いから、力では相手の方が上でも難なくよけれる。スー直伝の連続攻撃が決まると気持ちいい。あんまりにも兵士をボコボコにしていたのでダンダイルに注意された。ついでにスカウトもされたがこちらは鄭重(ていちょう)に断っている。

 そのダンダイルとは一度対戦したが、手も足も出ないまま負けた。なんかもうレベルが違い過ぎる。フーリンのお使い帰りに俺を迎えに来たスーは、対峙(たいじ)しただけでもすごいって言ってた。


「ダンダイル様を目の前にして武器を握って立っていられませよ。身体が震えちゃいますねー。」


 確かに怖かったけど、動けなくなるほどではなかった。後日、勇者を追い払いに行くというので経験上見た方がいいというフーリンの勧めで行くことになったが・・・なんだあの化け物。普通の剣だよな?なんで大木が何本も倒れてるんだ。兵士は近づくことも出来ずに吹き飛んでるし、俺の魔法障壁(マジックシールド)なんか貼った瞬間に割れた。

 ダンダイルはそんな勇者の攻撃をマナのコントロールを使っていなし、魔法攻撃を分散させ、強力な風魔法で吹き飛ばした。なるほど、直接攻撃が出来ないなら飛ばせばいいのか。これ、俺が水魔法でやったやつに似ている戦法だなあ。水魔法を一点に絞るより楽だからというのと、周囲の被害を最小限に留める為らしい。ああ、水だとみんな流してしまうからか。その場所の地形や、その日の天気なども考えて、勇者を誘い込むという、常に相手に主導権を握らせないように考えて戦っているとの事。それにしたって勇者ってそれらを無視して突っ込んでくるからいつも苦労する。しかもたった一人で。


「勇者が群れで来たらどこの国でも勝てない。そうなったらドラゴンも群れで来るんだろうなあ。やめてほしいわ。」


 ダンダイルの苦労は計り知れない。ちなみに勇者が複数同じ場所に現れる事は無いそうだ。この世界の不思議の一つらしい。そんなにポンポン勇者が存在するのも怖いです。



 料理はフーリンが担当していたが、たまには俺も作る。旅料理の本って物を見つけたのでよく読んで作り方を覚えたかったから。俺の世界でしか食べた事の無い料理で簡単に作れそうなものは無かった。だいたい、これだけの食材と調味料が有って、作らないわけないもんなー。ただ、品質には問題が有るから、マナが育てた果物はどこの市場で買うよりもおいしかった。店で売ったらあっという間に大人気になって、商人が直接卸して欲しいと頼みに来たぐらいだ。フーリンがとても困っていたのをよく覚えている。



 ポチは大きくなった。会話は普通にするし、本も読めるようになっていた。しかも口にペンを咥えて文字まで書けるし。身体は当社比二倍ほど・・・というのは冗談だが、かなり大きくなった。これでもまだ成長過程のようだ。風魔法を得意とし、筋力もスピードも桁違いに・・・なったはずだけどダンダイルにボコボコにされて凹んでた。半ベソを掻いているポチにマナは優しい。だって、スーと俺の二人で挑んでもポチに勝てないからってダンダイルが直接戦うとは思わなかった。フーリン?あの人は別格。



 一番の出来事は犯罪撲滅作戦。スーの時もそうだったが、カジノの所為で犯罪者はかなり増えていた。しかし、大物だったワンゴが捕まったことで一時的に犯罪は減ったが、見えにくくなっただけで犯罪は陰湿化しているようだ。奴隷制度を無くすのは無理なので健全化させようとしたことがきっかけというが、魔王国の貴族の一部や、兵士の中にまで紛れ込んでいたのは驚きだった。1000人以上が捕縛され、2000人以上が王都から追い出された。それなりに大物も含まれていて、盗賊が集めた宝を奪って・・・奪回したので、殆どが国庫に納められ、一時的にだが財政難も回避されたらしい。



 俺の一年間の成長した結果―――


 水魔法が得意。ドバドバ出る。

 神気魔法で直接お湯も創れる。

 味の有る水が創れる。ホットも可能。

 炭酸水やコーンスープのようなものは創れない。見た目だけは創れるが味はしない。

 武器や防具を強化する土魔法。疑似的に形も作り出せる。

 ゴーレムが造れるようになるまであと一歩ぐらい。

 今は土魔法でドロドロの人形が出来るが、すぐ崩れる。

 水と土の魔法障壁が作れる。

 料理するのに困らない程度の火の魔法。

 火の球を投げれるが威力はしょぼい。

 空高く跳べる風魔法。ただし長時間連続で使えないので空を飛ぶのは数キロ程度。



 剣術はどのくらいかというと―――



 冒険者ギルドのオーク退治の依頼を受けた時の事だ。森の中で二日間戦った成果、それが20匹のオークを退治する事で、スーと二人で最後の一匹を倒し終えた。


「もう、オーク退治も一人で行けるんじゃないですか?」

「うーん。確かに恐ろしさは感じないかな。」


 スーの脚力は凄まじく、200キロぐらい有りそうな巨漢を蹴り飛ばしている。足だけを見るととても太い。腕は俺よりも細いんだけどなあ。胸は元々大きい。仕事終わりにマナがいないからといってやたら甘えてこないで。暴発しちゃうから・・・。あ、うん。スーありがとう。そしてマナゴメン・・・。


「それにしても逞しくなりましたねぇ。」


 今でも人を殺すという体験はしていないが、魔物ならこの手で直接殺している。オークの腹を切り裂いて、胸に剣を突き刺した。俺の身体にはオークの血がいっぱい付いていた。何かを失い、何かを得たと感じた時だった。

 インプやオーガ、ゴブリンの集団は他のパーティと共闘して退治した。地底に潜むスケルトン退治はとても不気味だった。不気味だけどそんなに強くもなく、殺すとか斃すとかと言う感覚より、壊したという感覚が強かった。ゾンビやグールとは戦う事が無かったけど、そういう不死の魔物が存在する場合は誰かに操られている可能性が高く、スケルトン退治の時も、近くの村に住んでいるとある人物に復讐するために作られただけだった。操っていたのは彼女に振られたという40代の魔法使いで、可愛そうなので見逃してやった。わかるー、わかるぞー。でも危ない事しちゃだめだろう。この時ばかりは傍にスーがいたらこの説得は出来なかったと思う。


「ポチが一緒で助かったよ。」

「役に立ったのならうれしいが、なんか素直に喜べないな。」

「男にしか分からない事ってあるんだよ。」

「俺も男だが・・・いや、オスって言うべきなのか?」


 依頼達成数が10を超えて、俺の冒険者カードはイエローの輝きを放った。これでやっと一般レベルの冒険者だ。一人前とは言いたくない。なんたって皆のおかげだから。俺一人の力じゃないしね。だけど、これ以上望んでいたら旅にも出れそうもない。これから出発の準備をして、もう少ししたら旅に出よう。



 そんな感じで一年は終わった―――






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