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第295話 調査対象

 ジェームス達3人が船に乗って10日後。航海は順調で、魔物の出現も天候の悪化も無く、予定通りボルドルトに到着した。

活気に満ちている街は、兵士の姿も商人の姿も多く、その殆どが犬獣人である。他国の冒険者の姿が逆に目立ち、ジェームス達は数少ない冒険者の集まる、ギルドと宿屋と酒場が併設された建物へ入った。


「あれ、ジェームスが来るなんて珍しいな。」

「なんだ、お前も来てたのか。」


 二人の女性をテーブル席に座らせると、ジェームスとその知り合いの男はそのまま立ち話を始める。


「最近の事件は目まぐるしいからな、お前がこっちに来る事は当分無いと思っていたが。」

「立て続けに起きたからな、ゴリテアの話はこっちでも有名なのか?」

「モチロンだ。その前のドラゴンの件の方が話題にはなったがな。お前あのドラゴンと戦ったんだろ?」

「・・・生きてるんだぞ?」


 ドラゴンと戦って生き残るだけでも奇跡である。そのくらい能力に差があるのだから、生きているといえば、逃げのびたという事の方が多い。


「それもそうか。そうすると誰が倒したんだ?」

「こっちでは倒した事になっているのか?」

「違うのか?!」

「倒せるワケないだろ・・・。もしあのまま討伐してたらゴリテアが来る前に別のドラゴンが来るだろ。」

「ふむ。」


 熟練の冒険者らしく、その理由に納得している。


「・・・ゴリテアの情報はどれが本当なのか全く分からん。」

「何か知りたい事でもあるのか?」

「気に成るといえば、天使とエルフが協力して破壊したという話だが・・・。」

「そんな話がもう広まっているのか。」

「コルドーから逃げて来たって言う兵士が最近まで酒場でべらべら喋っていたぞ。故郷に帰るとか言って旅立って行ったが。」

「逃げれた奴がいたんだな。」

「そいつはハンハルト迄を命懸けで逃げたといっていたな。」

「そいつはご苦労な事だ。」


 まるで他人事だが、もちろん他人事である。


「で、どうなんだ。天使が協力するという事も有り得ない話だが、エルフがそれほど集まっているのも不思議な話だ。」


 ジェームスは少し考え込んで、フレアリスの方を見ると、興味が無さそうに酒を飲んでいる。マギも一緒に飲んでいて、いつの間に注文したのかジェームスの分も置かれている。


「世界樹の復活はもう伝わっているよな?」

「ああ、天気がいい日だと灯台から見えるらしい。」

「確かにアレだけでかければなあ・・・。」


 男は腕を組んで返答を待っていると、ジェームスが同じように腕を組んだ。


「それは事実だ。天使ともエルフとも会った。」

「マジか・・・。」


 天使が現れるのは稀有な事だが、エルフが集まっているのはもっと稀有である。エルフが移動すれば大事件で、排他的な種族なうえに、多くの他種族に嫌われているのだ。ジェームスもエルフに対して偏見は持っていたが、今は全くない。マギやフレアレスにも無いだろう。


「今思えばなぜ嫌われているのか理由が解らない。」

「天使の方が協力的なのはどうなんだ?」

「あんなモノに空を支配されたら天使の立場が無いだろ。」

「確かに。」

「だが、天使とエルフが協力するなんて事は有り得ない方が現実だ。」

「・・・どういう意味だ。協力してコルドーと戦ったんだろ?」

「そうなんだが、あんな事は二度と起きないと思う・・・。」

「あんた達いつまでそこで立って話してるの?」

「あ、そうだな。お前も何かつまむか?」

「そうさせてもらうかな・・・。」


 フレアリスの方ではなく、マギを見て積極的に座った。その後ジェームスを見るので、説明を求めている事が分かる。ガルが近くのウエイトレスに注文するのを待ってから話をする。


「彼女はマギでな、今売り出し中の冒険者だ。」

「ほう、若いのに強いのか?」

「まだそこまでは強くないが、根性はある。」

「はい、はじめまして、よろしくお願いします。」

「俺は、ガガール・ハーケンだ。ジェームスの仲間なら気軽にガルと呼んでくれ。」

「はい、ガルさん。」


 酒を飲み干してから、ガルを睨む。


「若い女を見るとそうなるのやめたら?」

「いたのか。」

「ふん、私の事を口説いたころの話をしてあげましょうか?」

「・・・ぐぬ。」

「皆さん知り合いなんですね。」

「出会いは別々だがな。まさかジェームス・・・本気なのか?」

「ウソはないぞ。」

「そうね。」


 マギの理解できない会話で、少し拗ねている。どうやら色恋話なようなのはマギの勘がそう告げていて、知りたがっているのだ。


「も、もしかして・・・三角関係ですかっ?!」


 立ち上がる勢いで酒をこぼしているのにも気が付かない。


「うれしそうね。」

「えへへ。」


 ガルとジェームスが渋い顔をして、酒を一気に飲み干した。






「そんな事があったのか。」

「信じるか信じないかはお前の自由にしろ。」

「そう言われると嘘だと思う気も起きないな。」


 軽い食事を終わらせ、情報交換をしている・・・のだが、マギとフレアリスは宿泊する部屋に移動している。慣れない船での移動に疲れたらしい。


「さて、今度はこっちの番だ。教えてくれるよな?」

「ギルドで入る以上の情報はないぞ。」

「それでいい、話してくれ。」


 ガルの話は殆どがギルドでも手に入る情報ばかりだったが、ガルから聞けば無料だ。それ以上に幾つか重要な事も分かった。


「戦争をしたがっているのか。」

「あぁ、最近じゃ闘技場が盛況でな、兵士が暇を持て余して参加している。」

「優勝者はまだ出ないのか?」

「今も変わらず、チャンピオンはそのままさ。勝てば皇帝陛下のご尊顔が見れるんだけどな。」

「・・・あんなのが見たいか?」


 それは謁見経験のある男の発言である。


「そんな事を言えるのはお前くらいなもんだ。あっちでもこっちでも顔が利くなんて珍しいぞ。」

「運が良い時があったんだ。本当にあの頃は運がよかった。」

「運も実力のウチってな。この国の兵士でお前に声をかける奴なんて本当に用がある奴だけだろ。」

「変に期待されるのも困るんだけどな。」

「お前が来るという事は何か有るって考える奴が殆どだからな。そんなんで何を調べに来たんだ?」

「ココだけの・・・って程でもない。ただの旅行みたいなもんだが、この国の現状をしばらく見ている。」

「見るだけ?」

「そうだ。変わった事が起きなければ何もする事は無い。」

「そーゆ―仕事を受けられるなんて良い身分だな。」

「最近は忙しかったんでな。」

「羽を伸ばして来いって意味も有るのか?」

「あの国王に限ってそんな事は無い。いつでも俺に頼ってばかりだが・・・頼る相手が増えたんだ。」

「それはまたすごい話だな・・・お前以上の奴でも現れたのか?」

「俺以上なんて沢山いるだろ・・・いや、俺の話なんてどうでもいい。戦争の準備はもう整っているのか?」

「いつでも出撃できる状態なんだが、以前起きたシードラゴン事件の所為で出航したがらないんだ。」

「シードラゴン事件・・・。」


 内容は教えてもらっているので知っているがココで言うのは問題がある。


「一瞬にして無人の軍船が三隻バラバラになったんだぞ、商船の連中は平気で出て行くのに、軍人のクセに情けないと嘆いている。」

「実際に見たわけじゃないからな、そんなに凄かったのか?」

「俺も壊れた後しか見ていない。」

「それじゃあ戦争の準備だけして、そのままなのか。そりゃ、確かに暇を持て余しそうだな。訓練も遠征も出来ないだろ?」

「ハンハルトに攻め込む予定だったからな。他の国に攻め込む計画を新たに練っているが、この辺りだと敵として戦えるのは鬼人の国ぐらいだからなあ。」


 鬼人の国とは国と呼ばれているだけで、正確には国ではなく、鬼人族の住む領域を呼称している。


「鬼人族とやったらそう簡単に終わらないだろ。」

「そうさ、だから軍人が暇をしている訳さ。」

「・・・残りの国というと・・・近隣だとシュメル・ガリシア・パフィスの三ヶ国か。敵としてはイマイチなんだよな。」

「強力な魔獣でも棲んでいるのなら討伐に行くかもしれないが、ドラゴンは敵にしたくないし、本当に微妙な状況だ。」

「ギルドの依頼状況は?」

「山賊と盗賊は定期的に討伐している。ダンジョンを棲み処にする魔物も組織的なものは排除済みだ。今は・・・探検家による貴重な植物の採取が主流だな。それに伴う護衛依頼がちょいちょい出るくらいだ。」

「何とも、平和そのものだな。」

「俺も最近は護衛依頼でキャンプ生活ばかりだよ。」

「キャンプ生活か、俺達も少しは経験しておくか。」

「なんだ、やりたいのか?こんなつまらん依頼。」

「いい金は出るんだろ?」

「ソコソコだな。」

「生活分稼げればいい。」

「そんなのでお前が出ると余計に価値が下がりかねん。控えてくれないかな。」

「確かにそうか。まぁ、金には困ってないんでな、暫くは街でも散歩するか。」

「いい御身分だ。」

「そう成るまでに苦労してるんでな。」

「それはそうだ。だが羨ましいのも事実だ。」


 会話が止まって、空のカップを見詰める。


「お前、次の仕事はいつからだ?」

「明日の朝早くから薬草とキノコの採取の護衛だ。」

「ま、頑張れよ。」

「おぅ。」


 二人は席を立ち、一度見合わせただけで直ぐに別方向へ歩き出した。





※追加情報


■:ガガール・ハーケン


ボルドルト出身の男で78歳の犬獣人

冒険者としては熟練のレベルでジェームスとは何度か協力した事がある

ジェームスに一歩及ばないがかなり強い

ガルと名乗っている


■:ワレン・ドベツク


123歳の身長3メートル近い男

闘技場の現チャンピオン

ジェームスでも戦いたくないというほどの相手

とにかくタフ

ボルドルト出身としては珍しい牛獣人

得意武器は斧ではなく槍



■:シュメル国


ボルドルトの隣国の一つ

ガリシアとパフィスとも国境を接している

鬼人国へ続く街道が整備されている

クーデターによってシュメル三十三世で統治が終わった

国名だけは残っていて、現在はドノベル公爵家が代々統治している



■:ガリシア国


ガーデンブルグに似た農業国家

穏やかな気候と温暖な気候で農地に適した土地が多い

ガリシアには国王が存在しない

元老院が政治を行っている



■:パフィス国


ここから船でオオシマノ国に行ける

ハンハルトとも海で繋がっている

海岸沿いが綺麗で海産物に溢れている

防衛の為の軍は有るが、基本的に敵対しない国

スライ・アベド・パフィス2世が統治している

まだ建国してから80年くらい


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