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第293話 会議の無い議会

 突然現れた一行ではあったが、途中でツクモを同行させ、面倒な手続きをすべて省いた。直ぐに国王が現れ、別室に三つの国のそれぞれの王が顔を並べるという事態になった。普通に考えなくても大変な事件である。

これは俺の所為じゃない事をしっかり書かないでくれよ・・・頼むから。こんな事に名を連ねられたら逃げ場がなくなるからな!


「ジェームスさん、どうかしました?」

「いや、何でもない。ただの独り言だ。」


 ツクモの態度がいつもの何倍もデカい。

 不思議そうに眺めていたらツクモが寄ってきた。


「頼むから今は何も言わんでくれ、頼むから!」

「あ、うん。」


 マチルダとマリアが積極的に話しているのは、コルドーのその後の立場である。マリアが無理矢理入ろうとするのは、コルドーの教会本部の地下に眠る魔法陣の幾つかにゴリテアの魔法技術が応用されている事を知ったからである。それさえ手に入れば問題ないという事なのだが、何故か邪魔をしてくる。


「あぁんっ、ちょっと、今話し中なんだけど~・・・。」


 ジロリンチョ。


「ア、ハイ。紅茶飲んでま~す。」


 ドーゴルとジョニスが紅茶を飲んでいるテーブルに座らせた。二人はマチルダとの話し合いが終われば今後の戦争計画を話し合う予定である。


「ところでお主、この地にも植えるのであろう?」

「何の話?」

「世界樹の苗木じゃ。」

「あ~・・・。じゃあ一度取りに戻らないと。」

「待っておるぞ。」


 太郎は近くの大きな窓を開くとフワッとシルバが現れる。。


「ちょっと行ってくる。」






「あー、来たわ!」

「たろう、俺達も連れて行け!」

「お、おぅ・・・。」


 村に戻ると、何故か待ち伏せていたポチとマナに怒られた。

 ついでにスーにも怒られたが、怒鳴るのではなく俺の腕に抱き付いて離れなくなった。何で胸を押し付けるんですか、スーさん。


「こうしていないと直ぐにどこかに行っちゃうじゃないですかー。」

「ちゃんと連れてくよ。」

「で、なにしに戻って来たの?」

「あ、忘れるトコだった。」


 世界樹の苗木がある畑に行くと、一本を丁寧に引きn・・・


「あふんっ・・・やさしくぅ・・・。」

「・・・。」

「どしたの?」

「何も感じないよね?」

「うん!」


 元気のある良い返事だ。

 ヨシ無視しよう。

 何故かモジモジしているマナを横に丁寧に土を掘り、土が落ちない様にスーから貰った小さな袋で根を包む。


「ポチ・・・は驚かれないよね?」

「しらん。」


 ふわっと風が流れて、こちらをじ―っと見てくる。


「いいよ。」





「意外と早かったな。」


 ツクモがのそっと現れたわけではなく、その場で動かずに待っていただけである。10分程しか待っていない。


「持ってきたけどドコに植えたらいいかな?」

「中庭に頼れる奴がおる。」

「あっちは放置して良いの?」

「かまわん。」


 マナとスーとポチが妙な表情をしている。

 うん。

 分るよ。

 ツクモの後ろについて城内を勝手に歩いているが、誰も何も言ってこない。兵士なんて道を開けるぐらいだ。


「どうなってるんですかー?」

「いまは何も言わんでくれ。」


 ケルベロスに子供が乗ってノシノシとやって来るが、ツクモを見ると安心している様子なのが気になる。


「なんか気持ち悪いわね。」

「うむ。」


 ポチとマナから同時に向けられた視線に冷や汗が出る。しばらく歩くと綺麗な中庭に出た。かなり綺麗に手入れされていて、マナが珍しく驚いている。


「ナニコレ、結構すごいわね。」

「そうじゃろ。お気に入りの場所じゃ。」

「あんた良いトコロ知ってるわね。」

「へー・・・。」


 ポチもスーも綺麗な景色に目を奪われている。


「おや、ツクモ様?」

「ちと頼みたい事が有って来たぞ。」

「?」


 太郎がさしだした苗木を見て不思議な表情をする。


「この庭はこやつが管理しておる。」

「あんた凄いわねぇ・・・。」

「え、ああ、ありがとうございます。」


 受け取ってからその苗木をまじまじと見ていると何かを感じ取ったようだ。


「これは私が触って良かったモノなんですか?」

「それは私だから、大事にするのよ。」


 老人は混乱している。


「何でこの木から同じ魔力を感じるのですか?」

「アンタ、分かるなんてなかなかやるわね。」

「これは世界樹の苗木じゃ。」


 老人は目に涙を浮かべて震え出した。

 ちょっと心配なくらいに。


「あの、燃え尽きて失われた世界樹の・・・!」


 苗木を大事に足元に置くと、ポケットから取り出したのは綺麗な箱だ。蓋を開けると中から出てきたのは一枚の葉である。


「スズキタ一族として守り続けてきた葉がこのような形で本物に会えるとは・・・。」

「アンタ一族にしては感じないわねぇ。」

「え?えぇ、私は元々戦争孤児でして、子の生まれなかった両親が引き取って育ててくれたのです。しかし・・・。」

「なんじゃ?」

「もう直ぐココの仕事もお役目を終えるので・・・。」


 太郎が何故かスーを見てからツクモに話しかける。


「信用できる人だよね。」

「うむ。」

「じゃあお役目を引き延ばしてもらえばいいじゃないの?」

「そうしてやってもいいが、どちらにしてもこの木は何年も生きるのじゃぞ。」

「満足させるくらいは見ていたいでしょ」

「出来る事ならそうしたいですが、トレントもやっとの思いで育てたので。」

「トレントを育てたって、マジ?」

「ま・・・?あちらに有ります。」


 マナがポチの頭をペチペチと叩くと、のそっと動き出す。スーと太郎が後をついていくのを眺めながら気になる事を聞く。


「あの方達は?」

「村の話は聞いた事は有るか?」

「いえ、ココではそういう話は一切。」

「あの男は今の世界樹の在るところに住む村の代表じゃよ。」

「代表?村長ではなく?」

「村長と呼ばれるのを好まんのだ。それに、あの男が言えば国すら動く。」

「そ、そんなすごい人達に見えませんね。」

「それは同意しておく。」


 そう言ってくすくす笑った。


「あら、そこそこの大木ね。」

「水どころか空気もココだけ凄い綺麗な感じがする。」

「私にはちょっと分かりませんけどー、太郎さんが言うならそうなんですかね?」

「良い匂いがするな。」


 トレントの枝葉が揺れると、木の実が落ちてきた。受け取ったマナがパクッと食べる。俺の分は?と思っているとボトボトと落ちてくるので、スーが地面に落ちる前に全てをキャッチする。


「な・・・なんで今日来たばかりの者達に木の実を?!」

「世界樹じゃからの。」

「事実なんですね・・・。」

「まあ、信じられないのは無理もない。」

「私も滅多に食べさせてもらえないのに・・・。」


 のそのそとゆっくり歩いてくる二人に太郎が言う。


「凄い感謝してるみたいだよ、このトレント。」

「へ?」

「ホントよ。ちょっと待ってなさい。」

「え?」


 マナがポチから飛び降りてペタペタと触るとふんわりと風が流れる。そこに太郎が近づいて一緒に手を添えると、トレントがもう一回り大きくなる。


「こんなもんかな。」

「そうね。」

「いふみてもひゅごいでふねー。」モグモグ

「わう。」シャクシャク


 一般では十分に高級品であるトレントの木の実を平然と食べる二人よりも、トレントの急成長に目を奪われている。枯れかけていた小さなトレントを見付けた時は感動したが、今はそれ以上の奇跡を見ているようだった。手塩にかけて育てたトレントがあっさりと巨木に変化するのは、自分の無力さを痛感するモノも有った。


「こ、これが・・・本当のトレントの姿なのか・・・。」


 元々それなりの大きさの有ったトレントが、今は樹齢数百年に匹敵する大木と差が殆ど無い。ただ、城内にある庭園であまり大きく育ってしまうと困る。残りの少ない庭師としての仕事内容は決まったようなものだ。


「引退までに周辺を再調整しないと・・・。」

「大丈夫、私に任せなさい。」

「・・・え?」


 どこからともなく聞こえた声の後、周囲の草花が勝手に移動して行く。


「トレントってこんな事出来たんだ?」

「私も初めて見たけど。」

「いやいや、これは特殊な能力ではなく、水や土の位置を調整して動いたように見えるだけです。」

「なるほど、地中からか。」

「よく気が付きましたね?」

「他に方法がなさそうだからね。でもやり方が分かったからってそんな細かい操作できないよ。」

「根が無ければ無理でしょうね。」


 トレントが笑っている。

 あれ?

 もしかして・・・。


「ひょっとして、人型に成れる?」

「無理です。でも可能なら成りたいです。どうしても感謝を伝えたいというか、お礼をしたい者が居まして。」

「お礼かあ・・・。人型じゃないと出来ない事ってワケね?」

「そうです。」


 マナを見ると珍しく難しい表情をしている。


「ん~・・・喋るトレントは普通に居るんだけど、人型って簡単に成れたかなあ?」

「うどんやもりそばは人型だけど?」

「でも、あの二人以外にもトレントはいるけど、他はそのままでしょ。」

「そー言われればそうだなあ。」

「あんた何歳くらいなの?」

「えーっと・・・3000歳くらいですかね?」

「若いわね。」


 若いんだ・・・。

 若いって何だろう?


「でもトレントならだれでも人型に成れるようになるんでしょ?」

「それはそう。」

「人型になる為のなにが足りないのだ?」


 ツクモが興味深げに会話に割り込んできた。


「純粋に言うとマナが足りないわ。それと、そのマナを保有する器が小さいのよ。」

「なるほど、では器を広げてやればよいのだな?」

「そんな事出来るの?」

「九尾の一族でも九尾に成れない者が使う秘術がある。」

「なにそれ?」

「一時的に許容量を超えてマナを保有する事が可能な・・・技みたいなものだ。」


 途中で説明が面倒になった。

 と、庭師の老人以外は気が付いた。


「人型になる事で器が広がれば良いが、そうでなければすぐに元に戻るぞ。それでも良いか?」





「太郎殿とツクモ様は?」


 魔女との話し合いを終え、計画内容が十分に話し合われた後に気が付いた。内容と言っても、殆どの権利をハンハルトに譲るという事で、コルドーがハンハルトの一部になるという事で同意するという同意契約の書面が完成していた。


「あの二人はどこかに行きましたよ。他にもメンバーが増えてましたが。」


 ドーゴルがそう答えると、扉が開いた。


「ツクモ様。」

「太郎殿。」


 同時に二人から呼ばれて、それぞれに視線を返す。

 ツクモの方は何やら報告を受けているようで、太郎の方は魔王に問われた。


「何か有ったんですか?」

「世界樹の苗木をこの城の中庭に植えてきました。」

「勝手にそんな事をしてよかったんです?」

「ツクモが良いって言えば良いらしいわよ。」


 向こうでは驚いた表情の国王がいる。こちらでもジェームスと旧知の国王がしかめっ面のまま戻らない。


「こちらの方は終わりましたか?」

「ええ、後は城に戻って協議するだけですけど、ほぼ決定事項です。」

「大変なところに来ちゃいましたー。」


 スーの面倒そうな声を聞いたジェームスがニヤニヤしているのを見逃さない。


「ところでそちらの女性は?」

「トレントです。」


 国王が三人も寄ってきた。

 なにこれ?


「は・・・はじめまして・・・。」


 トレントの方から挨拶をすると、珍しい宝物でも見ているかのように鑑賞している。普通なら怒るところだが、初めての事なので怒るという発想がない。


「あの、国王様。」


 中庭警備の庭師は老人で、現国王がサボるのにも利用した庭の庭師でもある。それがとても若々しく見えるどころか、実際に若く見える。


「お前は・・・ドゥメイなのか?」

「はい。理由は解らないのですが若返らせていただきまして。こちらの女性と結婚する事にしました。」

「説明してやろう。」


 ツクモが説明すると三人の王が感心する。


「若返ったのはこちらの女性のおかげなのですが、プロポーズされまして、断る理由もないですし、むしろ好みですし・・・。」


 モジモジしているのは女性が美しいのと、今までずっと独身で、今後も独身のまま死ぬだろうと思っていた矢先に全ての予定が良い方向へと変わったからである。


「結婚するのに俺に許可が必要なのか?」

「中庭に小さな小屋を建てて住み込みたいのです。」

「ああ、ツクモ様に頼まれたから良いぞ、そのくらい。仕事も続けろ。」


 若返った庭師は涙を流して喜び、それを新妻と分かち合った。太郎にお礼をし、マナに深々と頭を下げ、世界樹の苗木は必ず守ると約束し、二人は退室した。


「そっちも片付いたのなら、今日は少し疲れたから休みたい。」


 何故か主導権を握っているツクモがそう言うと、同意多数によって解散となった。太郎によってそれぞれの国に送り届けられ、王達は忙しく仕事をする事になるが、それからというと、何か有ると太郎を頼るようになったのは言うまでもない・・・。

 太郎によって送り届けられる前の、最後の三人の会話が耳に残る。


「移動が便利なだけじゃなく、我々は鈴木太郎に頭があげられなくなりそうだな。」

「太郎君は既に私を超えていますからね。」

「何で魔王が一番嬉しそうに言うんだ・・・?」







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