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番外 言語の壁

 夕食を終え、中庭でぼーっとしている。

 少し暇になると、何度か考えてしまう事が有る。それはこの世界の文字と言語についてだ。スー曰く、ギンギールにも独自の言語が有ったらしいが、知っている人は殆どいないという。ただ、文字だけが伝承されていて、その文字も何かの名称に過ぎない。


「古代語なんだ?」

「そうとも言いますけど、古代語と呼ばれるモノは100種類以上はあるそうですよー。」

「そんなにあるんだ・・・。」

「太郎さんは加護で読めるからいいじゃないですかー。冒険者時代は古代語の解読で苦労した事も有ったんですからっ。」

「あー、ね。」


 ギルドに登録した時、俺は俺の国の文字で書いた。日本語だ。だが、それについて言及された事はない。


「前も言いましたけど、ギルドでは自国の文字で登録するのが決まりってわけじゃないですけど、自国の文字でしか表現できない名称が有って、それが名前の中に含まれると書けなくなってしまうんですよ。」

「言葉を文字として当てる方法で書けばいいんじゃないの?例えば・・・。」


 日本語のカタカナで "スー" と書いた。もちろんスーは読めない。


「これが太郎さんの国の文字なんですか?」

「そうだよ。」

「これが私の名前なんですか?」

「うん。」


 スーは不思議そうにその文字を見詰めている。


「フーリン様なら分かるんでしょうかね?」

「どうなんだろ?似たような文字なら在るかもしれない。」

「マナ様は読めるんですよね?」

「難しい漢字は無理とか言ってたけど、だいたい困らない程度に分かるみたいだね。最初から日本語話してたし。こっちの世界に来ても普通に他の人と話してたし。」

「マナ様は凄い賢くて尊敬する事も多いんですけど、何故か子供っぽいんですよねー。世界樹と呼ばれてたとは思えないぐらいです。」

「同感だな。」


 と、傍に居たポチが呟いた。


「ポチさんも凄いですよねー。」

「言語って覚えるの凄く大変だと思うんだけどなあ・・・。」

「俺の場合は周りがずっと喋っているからな。」

「あー、外国に放り込まれて日常生活から体で覚えていくパターンだな。意外と早く覚えるらしいし、ポチはまだ若いから吸収効率もよさそう。」

「きゅうしゅうこうりつ?」

「覚えるスピードが速いってこと・・・なんだけど・・・うーん?」

「どうした?」

「いや、俺ってどうやって喋ってるのか謎なんだよな。自分では普通に喋っているつもりなんだけど、俺のいた世界では自国の言葉の中に他国の単語がごちゃ混ぜになって会話するから。」

「そうなんですか?私にはワルジャウ語を喋っているようにしか聞こえませんけど。」

「ワルジャウ語?」

「この世界の共通言語です。」

「その言葉は世界のどこでも通じるんだ?」

「冒険者になった時にそう教わりました。ギンギールでは私が産まれた時にはその言葉を使っていましたが、名前だけはギンギール語の文字らしいです。古代語を今でも継承して使ってる人って少ないんじゃないですかね?」

「ワルジャウ。」

「?」

「?」

「なんて聞こえた?」

「耳がムズムズしました。」

「ぞわっとする。」

「ラテン語。」

「らてんご?」

「今度はちゃんと聞こえるのか・・・ちょっと良く分からないな。」

「加護が上手く働かない時が有るんですかねー?」

「ポチさ、ちょっとケルベロスの言葉で喋ってみて。」

「(かまわないが、太郎は理解できるのだろう?)」

「(おー、分かる分かる。そのまま日本語に聞こえるぞ。)」

「(ニホンゴ?)」

「(俺の国の言語だよ。)」

「ミミガーむずムズシマすー。」

「スーの耳がが壊れそうなんで止めておくか。」

「唸ってるようなブツブツ言っているような、それでいて耳に変な刺激が・・・。」

「俺達の言葉は人には喋れないはずだからな。太郎がおかしいんだ。マナが少し俺達の言葉を喋ろうとしていた事が有って驚いたが。」

「そんな事あったんだ?」


 そのマナは珍しくこの場に居ない。フーリンと風呂に入っているのだ。


「海を渡った向こう側の国にも別の言語が有ったらしいですけど、ワルジャウで統一されているので困らないんですよね。」

「いつ頃統一されたの?」

「流石にそれは知らないです。」

「9000年から一万年くらい前よ。」


 フーリンの声だ。風呂上がりで良い香りがする。俺が渡した桃の香りのするシャンプーを使った事が分かる。元々はマナに渡したモノだが、香りが気に入ったらしくフーリンにも使ったらしい。


「タロー!」


 風呂上がりのマナが飛び込んでくる。凄く良い香りだけど、まだちゃんと乾いていない。頭に半分巻いていたタオルが落ちる。


「ちゃんと乾かすって言ったのですけど、世界樹様が我慢しきれなくて。」


 風魔法でドライヤーの様に乾かすのは知っている。俺も便利だからやっている。


「太郎に嗅いで欲しかったんだもん。」

「俺が変態みたいじゃないか。」

「ちがうの?」


 お願いだから真顔で言わないで。ね?


「マナってなんでこんなに子供っぽいんですか?フーリンさんより年上なんですよね?最近は子供っぽさに拍車がかかっているというか・・・。」

「太郎君の所為だと思うわ。」

「俺の?」

「子供っぽい女性が好みなんでしょ?」

「否定はしないけど・・・大人の女性も好きですよ?」


 フーリンが少しだけ頬を赤くしたような気がした。風呂上がりの所為だと思うが。


「ところで、ワルジャウ語がどうかしたの?」

「そう、その事で話をしていたんですよ。」

「太郎君は加護持ちでしょう?」

「俺が何をどう変換して聞いたり喋ったりしているのかが謎だったんです。」

「考えるだけ無駄じゃないかしら。」

「やっぱりそーなりますよね。」

「そうよ。」


 マナが抱き付いて頬擦りしてくる。


「スーちゃんはギンギール語で自分の名前を書くと80文字ぐらいになるって言ってたわね。」

「そうなんですよー。だから書くのが凄く面倒だし、最初にギルドで登録した時は最初の三文字でスーってする事にしたんです。」


 どっかの国で先祖の名前をそのまま繋げるってあったな、そんな感じだろう。


「スーってどういう意味なの?」

「自分で言うのも恥ずかしいんですけど、ワルジャウで言うと・・・。」


 その時加護の力が働いたのか、直ぐに理解した。


「可愛い女の子、か。」

「なんで分かったんです・・・加護の力ですかー?」

「多分ね。働く時と働かない時があるんだな。」

「便利なようで面倒ですね。」

「多言語を同時に喋ると、一番主要にしている言語で理解するみたいな感じなのかな・・・。」

「通訳に便利ね。」

「フーリンさんには特別な言語ってないんですか?」

「何種類かは知っているけど、ドラゴン専用の言語はないわね。元々は普人の言葉から始まったというらしいし、ワルジャウ語も魔女達が統一したって言うらしいし。」

「そんな歴史があるんだ。」

「世界を荒らしまわっていた魔女達の間で言語がバラバラで困った事が有ったらしく、魔法文字を統一の文字に出来ないという理由も有って、当時一番使っているのが多かったワルジャウ語を広めたって言われているわ。」

「魔法文字はどうしてダメだったんですか?」

「呪文を唱えることで誰でも簡単に魔法が使えるようにしようと編み出されたのが魔法文字だったのだけど、それを使うと魔法が暴発する恐れがあったので、使用禁止になったのよ。いまは呪魂として一部の道具に使われたりしているわね。結局ワルジャウ語で使われていた文字を分かり易く作り直して今の文字になったの。」

「だいたい魔女の所為ね。」


 便利な魔女だな。


「この世界はどれだけ魔女に脅かされたんだろ?」

「今だって脅かされてるけどね。」


 マナが言うと重みがあるなア。俺に抱き付いているマナの体重は驚くほど軽いけど。あー、この匂い嗅いでるとムラムラする。それにしても子供っぽく感じることが増えたなあ。どうしてこーなったんだ。


「・・・俺の所為か。」

「何の話?」

「いや・・・まあ、そろそろ寝ようかな。」

「じゃーはやくいこー!」


 マナはいつもハイテンションだ。いつでも楽しそうに見える。マナは寝る必要はないが、俺は必要なんだよ。分かってるよね?


「今夜は何するの?」


 ワクワクした目で俺を見ないで。スーとフーリンさんに変な目で見られるから。


「明日も訓練するから夜更かししないでね。」

「はい・・・。」

「じゃあ、おやすみ。」

「おやすみなさいですー。」

「はい、おやすみなさい。」


 こうして、一日が終わっ・・・ちょっと、耳たぶ舐めないで、まだ早いって。ポチにも冷めた目で見られるから、ね?


 俺の一日はもうちょっとだけ続いた。






現実世界での世界共通言語って言うと・・・エスペラント語ですかね?

でも、知らない人が多いと意味ないんですよねー。


魔女は今日も元気です(意味深

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