第286話 現代の聖女と過去の聖女
何故か集まった人達は、それぞれが集まった理由をこう言った。
「孤児院に人が集まっているので覗きに来たのですが、主要メンバーどころかキラービーやカラーが居るので、何か集合がかけられているのかと思いまして。」
エルフと兵士の殆どがそう言ったのだ。キラービーとカラーが集まってきたのがとどめになったらしい。確かにキラービーとカラーが集団でいるのは珍しいから、誤解されても仕方が・・・そうか、お前達が原因か!
「とりあえず、これだけ集まっているので紹介しておくのはリファエルと、エルフィンと、聖女の二人かな?」
「もりそばです。」
「ソレだよ。」
「え、どれ?」
「ソレ・デ・トルー!私の名前よ。」
「へー・・・。」
「なんで私の名前知らないのよ。」
「聞いた事無いような・・・?」
知っている人は少ないようで、太郎は何故か安心した。
現代だったら会社で上司の名前を知らなかったら怒られるだけでは済まないだろう。
「お披露目だか、なんだか、すごい面倒な事やらされたのに・・・。」
「ここでやってないでしょ。」
「・・・あっ。」
「まあ、それは置いといて。」
「置いとかれた・・・聖女なのに・・・。」
特に用は無いドーゴルを少し強引に引っ張ってくる。理由は自分に視線を集中させない為だ。やっぱり魔王様だけあって注目度は高いな。
一つ咳をしてから太郎は言った。
「えーっ、集まっていただいた理由はよくわかりませんが、せっかくなのでこの村の今後の方針というか目的というか、予定を言いたいと思います。」
ざわざわとするかと思ったが、それだけで視線は太郎に集中した。魔王効果はない。
「まず最初に、村は存続させます。」
よかったー。との声があちこちから聞こえてくる。
この村が無くなってしまうのではないかという不安はあったようだが、それがどういう理由かは分からない。
被害状況からすると、普通は廃墟化すると後から魔王の説明を受ける事となるが、兵舎や鉱山は壊れていないし、エルフ達も残っているのに廃墟にしないと思うんだけど。
「だけど、村はほぼ壊滅状態で沢山の犠牲者も出してしまいました。ご冥f・・・ゴホン。」
ご冥福を祈るなんてことは言う意味が無さそうなので止めておく。
「今後の移民や新規の居住者は募集しません。」
ドーゴルが驚いた表情をしている。
「まあ、特定の条件が揃った場合は許可しますが、今のところエルフ以外の亜人種は認める予定はないです。」
オリビアが口元を綻ばせた。エルフは対外的に嫌われている事もあり、逃げたり隠れたりする土地が殆ど無い。いつかこの村の事を知ったエルフ達が逃げてきたら受け入れるつもりだ。忘れるつもりはなかったが、思い出したように兎獣人も付け加える。
それを聞いてオリビアに小声で話しかける者がいる。
「なんか特別扱いじゃない?」
「我々は太郎殿に助けられています。少なくとも我々の居たエルフの国よりも今の村にこの身を捧げるつもりです。」
「捧げる価値のある村とは思えないけど、あの男には有りそうね。」
「はい。」
太郎の考えの半分は、まだ理解できていないドーゴルが不安そうに眺めている。
「二人の聖女のうち、こっちは帰らせるつもりです。」
頭に手をポンと乗せる。
「こっち扱い?!」
「復興についても余計な建物はもう建てません。」
「太郎・・・君。」
ドーゴルが申し訳なさそうに割り込んできた。
「ギルドの再建も?」
魔女はまだ帰って来ておらず、建物は戻せても機能は復活しない。ギルドに必要な設備品は魔王国内に有るが、運んでくるよりも作った方が早いのだ。
瞬間移動が無ければ。の話ではあるが。
「それは後で別に話をしましょう。」
「そ、そうか。うむ。」
立場と権力のバランスを保ちつつ、太郎よりも魔王の方が格が下に見えては拙いので、背筋だけは伸ばしているが、その両肩にはマナと聖女が、頭にはキラービーとカラーが乗っていて、迫力と威厳は半減している。
「まあ、特に言わなくてもこれからやる事はほとんど決まってるんだけどね。」
「で、おれたちゃどーしたらいい?」
「グルさん達はいつも通りで良いですよ。というか、あっちの国の入口も守ってもらっますし。」
「そりゃ兵士の話だな。そうか、じゃあ勝手にやらせてもらう。」
「お願いします。」
ここでオリビアが質問する。
「天使達はどうするのだ?」
「この村に住むつもりがナイみたいだからほっとけばいいよ。まあ、住みたいと言われても断るけど。」
あっさりと断ると言った事に驚きは隠せない。
「そ、そうか。」
「天使はずいぶん嫌われてるわね?」
また、ひそひそとオリビアに話しかける。
「天使達の事情は知りませんが、自分達の居城くらいどこかにあるのでは?噂でしか知りませんが。」
「そう言われれば、気にした事無いわね。」
「元々好かれていた訳でもないですし。」
「それにしては天使達と仲が良かったじゃない?」
「仲が悪い訳でもないようですけど、太郎殿と子作りしたい者も多いようです。」
「ふ~ん・・・。」
視線を太郎に向けるときの頬が少し赤い。
「なんか、視線が凄いんだけど・・・。」
「あとはどうするの?」
マナの単純な質問に太郎は少し考えてから応じた。
「とりあえず魔女の二人が帰ってこないと困るんだよなあ。」
あの二人はまだゴリテアから帰ってこない。グレッグも待ちぼうけを喰らっているようで、未だにマギと一緒に行動している。というよりは、マギの方がグレッグに付いて歩いているような気もする。同じ勇者だった事も有り、仲が悪そうには見えない。
「じゃー、かいさーーん。」
何故かマナがそう言うと集まった人達が散り散りになる。あまりにもあっさりとどこかへ行ってしまうモノだから不安になる。
本当に何で集まってたの?
納得できたようで納得できていない太郎だった。
「私はもう少し付き合ってお話を。」
「そうですね、魔王として聞きたい事もあるんでしょ?」
「まあ、お忍びではなく遊びに来た事にはなっていますが、立場が微妙なモノで。」
「大変ですね。」
「いや、これからの太郎君の方が心配なんだ・・・。」
魔王様に本気で心配されていて、太郎は何故か恥ずかしくなった。
主要メンバーが集まり、夕食会のようになっている。マナーなどに文句を言われる事の無い気楽な雰囲気は、マナだけではなく、聖女の二人がそういう空気をふんわりと広げていた。パンを口に運びながら眺めているドーゴルは、口に広がる美味しさと、目の前の光景の好奇心が脳内で戦っていた。
「聖女が二人、目の前で食事している姿を見ているというのに・・・子供が親の作った料理をただ美味しそうに食べているようにしか見えないのはなんででしょう?」
好奇心が勝利した結果である。
「だいたいもりそばの所為じゃない?」
「マナさ・・・その、もりそばって名前なんとかならない?」
「だめよ、本人が気に入ってるみたいだし。」
自分の名前が呼ばれた事に気が付いたのか、料理を食べながら目を輝かせてこちらを見ている。しかも、その食べ方がマナ以上に汚いので、エカテリーナに口元を綺麗な布で拭ってもらっている。10万年生きているとは思えない。
「他人の姿で食べるのって大変なのよ。」
「マナが言うと納得してしまう自分が怖い。聖女・・・じゃない、あっちのソレって方はいつまで子供のままなの?」
「魔力を溜めているみたいだから暫くはあのままね。」
「たのも~!」
その声と同時にドアが勢い良く開かれると、そこに立っていたのはピュールだった。
「役立たずが来たわ。」
ドラゴン相手でも一蹴するマナの発言だ。
「役たたずとは何だ、これでも魔女や勇者と戦った・・・なんでこいつらがここに居るんだ?」
室内にずかずかと入り、戦闘モードに切り替えようと剣に手を乗せた所で後ろから蹴られて前に倒れた。蹴ったのはフレアリス・・・とスーのどっちだろう?いつの間にか回り込んでいた二人が同じポーズをしている。
「なんでややこしくしようとするんですかねー。」
「そうね。」
二人はある程度の恨みを込めたようだ。立ち上がろうとするピュールに近寄ったマナが頭を撫でる。
「よしよし、今日は大人しくしなさい。」
「え、あ、うん。」
本当に大人しくなった。
そして席を宛がうと、ピュールは自然と食事を始めた。その動作に本人も違和感が無いようだ。
「ココの飯は相変わらず美味いな。」
「当り前よー、うちの天才料理人が作ってるんだから。」
エカテリーナはマナに天才と呼ばれる料理人になっていたのか?
「確かに、この料理なら国王レベルだ・・・お前だれだ?」
面識が無い者が紛れているのに気が付く。
紛れていると言うと語弊しかないが、ピュールからすれば存在不明なモノだ。
因みに聖女が二人いる事には全く気が付いていない。ナナハルや子供達は別のテーブルで食事をしているし、目の前の料理の方が食指をそそる。
「名乗って良いんですかね?」
「なんで俺に訊くのか解らないけど、問題ないと思うよ。」
魔女が普通にいる村だという事になかなか慣れない。
「魔王国の魔王ドーゴルです。」
「っ?!」
驚いて食事を吐き出さなかった事に感心している太郎は、それを見守りながら食べている。少し離れた場所で、その食事している太郎をニコニコして見ているのはエカテリーナである。
「何で魔王がいるんだ?」
「あんただってただ食べに来ただけでしょ。」
「うぐっ・・・。」
「この村って飽きさせてくれないですね。いつも新鮮です。」
「鮮度なら負けないわよ。」
「そんな事で張り合うなよ。」
「それで、何の集まりだ。村を破壊した奴らの国を滅亡させる算段でもするのか?」
「しないよ。」
「・・・しないそうです。」
「するわけないよな。」
「そうね。」
いつの間にか食事を再開しているフレアリスは、ジェームスのお皿にある自分の好物を横取りしている。
「村が破壊されても怒らないのか、お前は。」
「怒るよ。」
一瞬だけ見せた太郎の目にピュールは背筋を凍らせて咳き込んだ。
「そ、そうだよな。でも反撃はしないのか?」
「もうしたわよ。」
「は?」
「聖女ならそこに二人居るし。」
「え?」
「そのうち魔女も帰ってくるはずだし。」
「世界征服でもするのか?」
「・・・しないよ。」
太郎の目にまた怯える。
「あんたは太郎を怒らせる趣味をやめなさい。」
「あ、お、うむ・・・。」
ピュールが素直だ。
「ちょっと待て、聖女が二人?」
「アレとソレ。」
「もりそば!」
「あ、うん。もりそば。」
「これからどうするか話し合って、召喚された聖女を元に戻すつもり。」
「もの凄く簡単に言っているが可能なのか?」
「可能性は有る。」
「あるわ。」
「お前が言うと実現してしまうというか、信じてしまう俺が変なのか?」
「変では無いと思いますよ。太郎君にはそういう力があると思っています。」
魔王に言葉に頷く者は多い。
「・・・本当に魔王?」
「そうですけど?」
「なんか魔王っぽさが無いな。」
「はは・・・良く言われます。」
「面白そうだから俺も付き合うかな。」
「邪魔はしないでね。」
役立たずは素直に頷いた。
魔女の二人が戻って来たのは深夜で、子供達どころか聖女も寝てしまった頃だった。もりそばの方は寝るという睡眠欲は無いが寝られるとの事。うどんも木に戻って寝ている時間だ。
「あら、まだ起きてたの~?」
「あんた達が来ないと聞きたい事も聞けないのよ。」
「あら、魔王じゃない。」
「お邪魔しています。」
エカテリーナはもう寝ているので、スーとフレアリスが給仕をしている。マギとグレッグも待ちくたびれてソファーで寝ていて、ジェームスとフレアリスは少ない酒をチビチビ呑んでいる。
「悪いわね。」
「気にしても良いのよ。」
「遠慮しないでおくわね~。」
「遠慮してくださいねー。」
なんでそんなに嫌そうにやるの?
「それで、何を聞きたいの?」
「もちろん、戻し方をね。ちゃんと調べて来たんでしょ?」
「ばっちり調べたわ。」
「それで、確実に戻せそう?」
「彼女が戻りたいと本気で願っているのなら問題はないわ。」
「願うのが大事なの?」
「戻る手段はこちら側の力だけでは無理なのよ~。」
「マナがこの世界に戻った時と似ているのかな?」
「それは詳しく聞きたい事だけど、元の世界とを繋ぐ残滓レベルに細い糸を辿る事になるわ。」
「繋ぐ?」
「それが途切れていたら不可能というか、この世界に存在する事も出来なくなる筈なんだけど~・・・。」
「けど?」
「現代に生きる聖女と過去の聖女との繋がりが有った場合、存在が可能になるわ~。太郎ちゃんがどういう存在なのかというのも気になるトコロね~。」
「繋がりというか存在意義というか、神でもないと制御できないレベルの話。異分子って分かる?」
「まあ、分かる。」
「この世界にとっての異分子であるかどうかというのが問題で~、それを確認できるのは存在が消えた時だけ~。」
「そっか、生き残った場合、元からこの世界に存在して良いという事になるから、世界の歯車に組み込まれていたという証明になるのか。」
「その通りなんだけど、良くこの短い説明で理解できるわね?」
「その手のファンタジーは良く読んでたから。」
魔女には理解できない返答で受け流すと、太郎はもう一つの質問を受けた。
「聖女の魔力を戻す準備は終わったの?」
「まだ。」
「じゃあ早い方が良いわ。」
太郎は凄く疲れた表情になった。
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※うどん
樹齢8万年でムチムチ高身長おっとりママタイプのトレント
※もりそば
樹齢10万年でぺったん低身長タイプのトレントで聖女の能力がある
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