第285話 事後処理 太郎編
※太郎とナナハルの子供の名前
ハルオ 春男
ハルマ 春馬
タイチ 太一
ジロウ 次郎
ミツギ 三嗣
ナナミ 七海
ナナヨ 七代
ナナコ 七子
ハルカ 春香
ハルミ 春美
まだゴリテアの中に居る頃。
兵士達を開放した後、天使達が順次外に向かって歩き始めていた。
「ホントにそんな理由なの?」
「そりゃあ、基本がサキュバスだから。私の事を自由にしていいってかなりお得よ?」
「そんなお得は知らないな。」
「私がいるもんねー。」
マナに言われたら言い返せません。
「そっちの聖女はトレントが基本ならそんな事は必要ないよね?」
「ないけど、望むならいつでもオッケーよ。」
なんでみんな好きなの・・・。
「運命の人ですし。」
「どういう理由で運命の人なの?」
「魔力量で私を超えるって今まで見た事な・・・他にもいますね?」
「俺以外に?」
「目の前に・・・というか、今更だけど、どうしてこんなに強い人達がウロウロしてるの?よくケンカしないわね。」
「喧嘩は・・・して欲しくないなあ。」
太郎の発言に一部の者達が硬直した。恐怖を感じるほどではないが、背筋に冷たい汗が流れる。
「これだけの事をしたんだからちゃんと責任は取ってくれるでしょ?」
「ずっとここに居たかったの?」
「そんな訳じゃないけど・・・。」
「まあ村に居るくらいなら良いよ。」
「新しい愛の巣ね!」
久しぶりに聞いたぞ、その言葉。
「ざんねーん、もう私と太郎の愛の巣だもんねー!」
今俺は、幼気とも言えるくらい小さな女の子の姿をした長寿命生命体に奪い合いされています。なんか違う。
それ以前にその愛の巣は破壊されてるんだった・・・。
「イチャイチャするのは勝手だが、帰るのなら長居は無用じゃないのか?」
「そうね。」
二人の言葉に助けられた気がする。
「やはりヘンタイなんだな、お前は。」
「やっぱり、そうなんですね・・・。」
なんでマギとグレッグに言われなければならないのか。
「一番若くて8500歳なんだが?」
マナが一番若いなんて既に可笑しい。
「ヘンタイついでに私にもたっぷりほしいのだけど。」
「あんたは他の勇者からたっぷりもらってたでしょ。」
グレッグが視線を逸らした。
マギも頬を赤くして俯いている。
なにかあったな?
「あんなの、もう無くなったからこの姿なんじゃない。」
「また魔力が回復したら元に戻って勇者も集まると面倒にならない?」
「集まる前にちゃんと元の世界に戻れるようにしてくれればいいわ。」
「なるほど?」
「集まるんだから散らすことだってできるでしょ。」
「余計な事に魔力を使いたくないのよ。」
「な、なるほど?」
「それに、その滲み出てくる魔力に充てられると穏やかな気分になるから、いろいろと無防備になりそうで。」
「そりゃあ、太郎だもん。」
「ですよねー。」
「ねー。」
スーとマナで納得しないでくれるかな。
「やはり優秀なのか、その男は。」
「少なくとも私が知っている男の中では最高だわ。産まれてくる子供にも多大な影響を与えるでしょうね。ちょっと100人ぐらい産ませてくれない?」
「・・・へ?」
「私もお願いしたいところね。」
「ちょ、ちょっと・・・。」
慌てるオリビアを見てクスッとエルフィンが笑う。
「大丈夫よ、ココじゃしないわ。それに今後も時間は有る事だし、このはた迷惑そうな女をどっかにやる方が優先なんでしょ?」
「酷い言われようなんだけど。」
「・・・。」
「スーはどうしたの?」
「まあ・・・マナ様には解ってもらえなさそうな気分なんですー。」
「ふーん。」
「じゃあ、この化け物の問題を解決したら私が借りるわね。」
「一応私達の母親なんですけど!」
「リファエル?!」
「はひっ?!」
聖女に怒られるリファエルを見て、ミカエルががっかりする。こんなのでも一応は我々の母親なんだと思うと、同じ気持ちが理解できて、余計に力が抜ける。
「なんだ、その・・・私達は苦労するな。」
ミカエルが自分の肩に添えられたオリビアの手を見て、ホロリト小粒の涙を浮かべた。まるでピンチに駆け付けた仲間、古き友人が現れたかのような、同志とも呼べる存在を、たった今見付けたのである。
フーリンとは遊び(喧嘩)仲間だが、同じ労苦を感じるのは味方である。
「・・・さて、先に行こうかの。」
ナナハルは色々と納得しつつ諦めるといった複雑な表情で、天使達の列に加わって歩き出す。太郎はナナハルに付いていこうとしたのだが、仲良く肩を抱き合う二人が気になって尋ねてしまう。
「で、何やってんの、二人は?」
「太郎。」
「太郎殿。」
急に二人が太郎を見詰める。真剣そのものの瞳には決意が灯る。
「宜しく頼む。」
「他人任せかっ!」
「私達程度で止められる訳が無いだろう。」
「あの二人が相手なら一国の軍隊が一師団あっても安心できない。」
「そんな奴を俺に任せないでくれないかな。」
「太郎殿しか止められないだろうな。」
「凄く同意する。」
「俺はどういう存在なんだ・・・。」
「ツヨイのは間違いないわ。」
聖女がさらりと答える。
「そんなに言われるほど強くなってないぞ?」
「そう思ってるのはアナタだけじゃないの。周りから言われてない?」
「何度か言われてるけどねぇ・・・。」
「まあ、太郎ちゃんがどうなろうと付いていくだけだけど私は必要無いから安心してね。」
付いては来るんだな。
「私達はもうちょっとゴリテアを調査させてもらうから、後で勝手に帰るわ。」
「まだ何か封印が有るの?」
「古い書物がね。」
サキュバスの聖女が何かを思い出したように言う。
「どこかに本が沢山ある部屋があったような。」
「魔女なら心配するような事もないし、面白そうな本が有ったら俺にも見せてね。」
「あら、本に興味があったの?」
「官能小説じゃないわよ?」
マナの言葉に周囲がポカンとしている。
多分、俺とマナしか分からないと思うぞ。
「あら、そう。じゃあ、医学か何かの本かしら?」
だよね。
そーなるよね。
うん。
「小説ってのが良く分からないけど・・・。」
「キニシナクテイイヨ。」
魔女が勝手にどこかへ歩いていくのを見送って、このチャンスに太郎は外へと向かった。何しろこのままだといつ襲われるか分からないからだ。
天使の最後尾に続いて進むと、外は意外と直ぐだった。
その後はトヒラやダンダイルと合流し、幾つかの説明を終えると村に戻る。孤児院の周囲が一番被害が少なく、待っていたツクモとは、少しの会話で直ぐに飛び立ってしまい、太郎はお礼を言う暇もなかった。子供達が飛び付いてきて、兵士達とエカテリーナが用意していた食事を済ませると、太郎の魔法で子供達と一緒にナナハルと村が見渡せる高さまで浮くと、空中から見渡す。
スーやポチが兵士達に加わって魔物退治をしている。さっきまで戦っていたのに元気だ。天使達が遠くから飛んでくるのが見えた。
「エルフ達がだいぶ片付けてくれたようじゃな。」
「そうだね。それでも・・・まだこんなに瓦礫が。」
「おぬしらもよく見ておけ。子供には酷な事かもしれんが目で見て経験するのは大切な事じゃ。」
「う、うん・・・。」
「畑もほとんど無いな。」
子供達も力なく見ている。ナナミとハルカが目に涙を浮かべた。
確かに辛い。
自分達が作り上げたモノが壊されたのを実感するのは。
ギルドも破壊されているので魔女の作った便利魔導具も殆どが失われた。残っているのは孤児院のモノくらいだ。建てたばかりの教会も壊れているが、コルドー教なのでどうでもいい。
「戦いは終わった。でも、またこんな事が起きても困るね。」
「どうすれば良いと思うのじゃ?」
「出来る限り平和にする。少なくとも俺の見える範囲だけでもそうしたい。」
「世界平和と言わない所が太郎らしくて良いの。」
「そんな事をしたらまた戦争になるからね。」
「どうして平和を目指すと戦争になるの?」
「平和の価値がそれぞれ違うから・・・まあ、こーゆーのは勉強というか、ゆっくり教えるよ。」
「わらわも教わろうかの。」
「ナナハルは知ってるでしょ。」
「太郎の想う平和は知らぬ。」
「半分くらいは話してると思うけどね。」
「それについては、ゆっくりと夜にでも話そうぞ。」
ナナハルも狙ってた。もう子供いるじゃん・・・。
「おとーさん、元に戻る?」
「戻る、とは少し違う。俺達で戻すんだ。」
父親のやる気と笑顔で子供達は元気を取り戻す。
「うん!」
「さて、問題しかないの。」
自分の事を棚に上げて別の問題を取り出そうとしたナナハルだが、太郎はそれに乗った。
「そうだね。」
数日が経過し、ミューが娘を連れて太郎の所にやってきた。うどんと新しい聖女のトレントを引き合わせる為に孤児院に居るうどんの所へ向かう前に話しかけられたのだ。
「そろそろ夫に会いに行きたいのですが、皆さん忙しそうでなかなか言えず。」
「あー、こっちに連れてきたまんまだったもんね。店に戻っても良いけど暫くは商品も揃えられないし。」
「かなりの売り上げが有って生活には困りませんので、その点は大丈夫です。商品も調理道具などの売れ残っても困らない物で埋めておきます。」
「フーリンさんもいつの間にかいないしなあ・・・。」
「フーリン様なら家に帰ってますよー。」
「そうなんだ?」
「来る人帰る人で街が滅茶苦茶になりそうなので店が心配だそうですよー。」
「そっか、二人も返してあげた方がいいね。」
「さっさと送ってあげたら?」
マナの言葉に頷いて、太郎は瞬間移動で二人をフーリンの家に送ると、家主が不在だったのも有って直ぐに帰ってきた。街が人だらけで殺気立っていたからとの感想を太郎は残したが、まだまだこれから増えるのだ。
「うどんいる?」
「なんでしょう?」
そう言いながら太郎を後ろから抱きしめた。本当に神出鬼没だ。
「これがトレント?」
「そーだけど、何か違うの?」
「魔力が全く違うわ。」
「母親みたいな魔力ですね?」
「聖女のトレントと、こっちが聖女のサキュバス。」
「聖女ですか・・・確かに魔力が似てますね、親子ですか?」
「それよりちょっと、うどんって何?」
「太郎様が付けてくれた私の名前です。」
何故か気に入ってしまった名前で、もう浸透しているので変更も出来ない。
「まー、そうなんだけどね。」
「それもそうなんだけどトレントの苗木も減っちゃったんだよね。増やせない?」
「種ならすぐ作れます。」
「なんで名前なんか?」
「じゃあさ、また幾つか貰える?」
「名前なんて貰って嬉しいの?」
「今じゃないんですか?」
「うどん・・・良い名前ね・・・。」
「今は忙しいから、後でね。」
「私にも何か名前ちょうだい。」
「わかりました。」
「もり・・・の・・・傍がいいかなあ?」
「残っているトレントもそちらに何本か有りましたね。」
「もり・・・そば・・・!」
「え?」
「え?」
「もりそば!なんかいい響きね。」
「ちょっと待って、何の話してるの?!」
「私の名前の話。」
「で?いまなんと・・・。」
「だから、もりそば。」
「考えるから別の名前にしない?」
「やだー!」
そこへマナがとことことやってきた。ポチがいないので一人で歩いている。
「もりそばって何?」
「私の名前!」
「そう、じゃああなたは今日から、もりそばヨ!」
「もりそば殿、よろしく頼む。」
オリビアがサラッと入ってきた。
「もりそばとは変わった名前だな。」
「そうね。」
ジェームスとフレアリスなのが直ぐ分かる。
魔物を退治した後で暇にったのだろうか、兵士を引き連れてカールがやってきた。
「ここに集合で良かったですか?」
「え?」
気が付くとエルフ達もぞろぞろとやって来るし、トロッコに乗ってグルさんもやってきた。今まともな広場と言えば孤児院の庭しかないが、さすがに狭すぎる。
「なんでみんなズラーッと綺麗に並んでるんですか?」
「村が無くなるかもしれない危機だぞ、おめーの心配してんだよ。」
「俺の?」
「暫くは畑も無いからな、追い出されるんじゃないかと気が気じゃねぇ。」
「兵士の人達迄?」
「そりゃーおめー、村がデカくなった最大の原因だぞ、俺はおめーに呼ばれた側だからよ、追い出されるとは思っちゃいねーがな。」
「追い出すなんてとんでもない。」
グルは溜息を吐いた。
「貴族だろーが聖職者だろーが簡単に追い返すだろ。」
「それは問題が・・・そっか事情を知らない人もいるのか。」
「そーゆーこった。まあ、頼むぞ。」
そう言った後に何故か全力で太郎から逃げ出した。
うどんが耳元で囁いた。
「上から来ます。」
「上から?」
フワッと降りてきたのはフーリンさんではなく、現魔王のドーゴルだった。軽いあいさつの後に説明を付ける。
「ダンダイルとトヒラは忙しいので来れないのです。」
いつの間にかマナがドーゴルの肩に乗っていた。
いつの間に?
「あんた達はもう少し考えてから来なさいよ。」
そう言って頭をペチペチと叩くと魔王は苦みを込めて笑う。
今しがた名前の付いたもりそばがマナとは反対の肩に乗って、髪の毛を引っ張っている。うどんは太郎にぴったりくっついたままだ。
「それにしても酷い事になっていますね。」
「まだ片付けが終わらないですからね。特に遺体が凄くて。」
「少し見せてもらいましたが、必要でしたら援助する準備も有りますよ。」
「いや、遠慮します。」
魔王からの直接の援助をバッサリと斬った太郎に怒ったりはしない。むしろ、断られると思っていたので予想通りだ。そして周囲を見渡すと、ゾクゾクと集まってくる。
「ひょっとして、何かの集まりですか?」
「誰が集めたんですかね・・・?」
魔物の警戒や巡回をしているモノ以外の殆どが集まり、いつものメンバーほか、キラービーやカラーもやって来て、太郎の子供も全員集まった。久しぶりでもないが、ククルとルルクはうどんを押し退けて太郎にべったりだ。
「太郎殿が集めたのではないのか?」
「なんか自然に集まって来てたんだよ。」
「魔王が来ているのに?」
「そういえばなんで来たんです?」
魔王に対しても口調が変わらないので、初めて目の当たりにした兵士は驚く。
「集まると聞いてきてワケじゃなくて、周りが忙しそうになり始めて暇・・・じゃなくて、事務仕事が回ってこなくなったのでダンダイルに代わって様子を見に来たんです。まあ、遊びに来たともいいますが。」
「始めるのでしたらそろそろ・・・。」
「何が始まるんです?」
「太郎殿が今後の村の方針を決めると聞いてきたのですが?」
「確かに必要な事だけど、今はまだ決まってないよ。」
「では今決めましょう!」
魔王がそう言うと、皆が一斉に太郎を見る。孤児院の建物の中からも子供達が窓から顔を覗かせていた。もう何か決めないと収まりがつかない感じがする。
太郎は今後の事も含めて、一度自分の考えを言っておくべきだと思ったのだが、流石に少し急すぎてまとまっていない。聖女の問題はまだ解決していないのだ。
「とりあえず、聖女が二人居るのを何とかしてくれませんか?」
ドーゴルの言葉は太郎の胸に深く突き刺さるのだった。
こいつら事後処理を何だと思っているんだ・・・?w(作者が悪い




