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第281話 解放される者

 逃げ出したコルドーは誰にも会うことなく、通路の裏側を二人で歩いている。もちろん、歩きたくて歩いている訳ではない。その表情は焦りと汗と、怒りと苛立ちでいっぱいだ。その原因も理由も、忠告を無視したからだと分かっているから余計に腹が立つ。

他人の所為にして怒鳴らないダケましかもしれない。


「おい、外はまだか?」


 そろそろ疲れたと言いたいのをぐっと堪える。


「もう少しで出口ですけど、本部まで戻れるのですか?」

「応援の兵士達が居るはずだ。」

「ゴリテア内の兵士達はどうします?」


 少し考えたが、面倒なことは避けたい。


「敵と戦っている者達には囮になってもらおう。」


 見捨てる事が確定した。






「あそこに誰かいるようだ。」


 オリビアの指摘でそちらを見ると、確かに人が居るように見えるが、男か女かもわからない。てか、あの人達服を・・・?


「アレは自称聖女です。」

「自称?」

「あのエロ親父が自分の欲を満たす為に作った名前だけの聖女です。」


 可愛い声だが言葉使いは悪い。


「ん?ずっとここに居たのに何で知ってるの?」

「それは、私がゴリテアの大部分を維持していたからです。」

「大部分って言うと・・・?」

「ほぼ丸ごとです。」


 ゴリテアを構成する部屋や通路の外壁、畑や水などの循環物等、維持管理を行っていたと言う。ただ、自分がやりたくてやっていた訳ではないとの事。


「じゃあ制御しなくなったら?」

「崩壊します。」


 満面の笑顔で言った。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!あとどのくらいなのっ?!」


 マナの問いを無視し、とととっと歩き出してベチッと頭から転んだ。


「お、おい。無理すんなって。」


 太郎が助け起こすとそのまま抱き付いた。


「10万年待ってやっと見つけた運命の人!」

「はぁ?」

「はぁ?!」


 マナと聖女とトレントが、太郎をめぐって争いを始める。殴り合いじゃないだけマシなのだが、トテモうるさい。


「太郎殿はどうしてああなるのだ?」

「太郎じゃからのう。」

「太郎さんですし。」

「それにしても、聖女なの?」


 マナと聖女がトレントをじ―――っと見つめる。

 マナにさんざん言われて白い布を被っただけのような服を着ているが、その服をたくし上げてペタペタ触っている。少女二人が幼女の身体をまさぐるという不思議な光景だ。


「間違いなくおんなじね。」

「うん。」

「聖女って、そんなにポンポン現れるモノなの?」

「さぁ?」

「さて?」

「わかりかねます。」


 マナも聖女も、目の前のトレントも知らないようだ。


「そーゆ―古い事を知ってそうな二人は何処に行ったの?」

「書庫で本を袋に詰めてます。」

「・・・なんで分かるの?」

「今は切り離されたので分かりませんが、あの量の本を詰めるのでしたら相当時間が掛かると思います。」

「書庫ってどこ?」

「あっちです。」


 トレントで聖女の示した方向は壁だ。要するにまっすぐ行けばそこに行けるという事なのだが・・・。ジェームスが忘れないうちに確認する。


「で、ゴリテアはいつ崩壊するんだ?」

「あと3000年くらいです。」


 答えはしたがジェームスに言ったのではなく、太郎に向かってニコニコしながら言っている。フレアリスが不満そうに腕を組んで睨み付けたが、全く気にしていない。3000年なら心配する理由もないし、無理して破壊しなくてもよさそうだ。


「それで、コレからどうするのだ?」


 オリビアが話しかけてくれたので太郎は次の事を考える事にしたのだが、リファエルとナナハルは辺りを見回していて、あっちへウロウロこっちへウロウロ。何をしているのだろう?


「あれじゃな。」

「あっちね。」

「何が有るの?」

「封印の解かれていない者が二人・・・、いや三人いるが一人は死んでおるな。」

「ああ、エルフィンとプラーケとハンプルブスですね。プラーケは死んでいますがその能力だけを利用されています。なので封印されている間は生きている時と同様の能力を発揮していますが、解除すると死にます。」

「エルフィンだと?!」


 オリビアが驚いてその名を叫んだ。


「まさか、エルフィン・リ・スキングという名前か?」

「そーですけどー?」

「太郎殿、すまない。そのお方を助けたい。」


 何故かトレントがブスッとしている。不貞腐れているとでも言うのだろうか?その隙に聖女とマナが太郎にしがみ付いた。

 邪魔なんですけど?


「ひょっとしてあの話の?」

「うむ。」

「じゃあそれを優先して、プラーケってのは最後で良いね。」

「行くの?」

「行くよ。」

「太郎さん、まだ敵があちこちに残っていると思いますよー?」


 スーの指摘はもっともだが、こちら側にはもう負ける要素が無い。降伏した兵士達は天使達が拘束していて、まだ逃げ回っている兵士達も時間の問題だろう。


「ポチ、悪いけど三人宜しく。」


 そう言って太郎は一人ずつ丁寧にポチの背中に乗せた。太郎のする事なので不満はないが、一番不満なのはポチかもしれない。


「子守なら一人も三人も同じだ。」


 三人から同時に背中をペチペチされている。なんで行動が似てるのこの三人。

 残党処理をミカエルに任せると、太郎達はトレントの案内で逃げる兵士達を無視して通路を進む。何度か壁に穴を開けてショートカットするという荒業を駆使しながら、無理矢理中層まで昇ると、その部屋に石膏のようなとても美しい女性の像があった。

 何か操作盤のようなモノが有るが、ナナハルとリファエルが調べても何も反応は無かった。俺も触りたかったけど、その前にやる事がある。

 近寄ると目に見えない壁が有るが、それが結界であるのは太郎でも分かるのは二度目だからだ。鎖のようなモノで縛られているが、それらを斬れるのは太郎の持つ剣だ。


「なんじゃ・・・、とんでもない事をするのう・・・。」

「ゴリテアを破壊するのも不可能じゃないわね。」


 全てを切り裂いた後の感想は、何故かミカエルをドヤ顔にさせた。

 いや、やったの俺だからね?


「・・・り・・・がと・・・う・・・。」


 像が色を取り戻す。

 芸術的なほどに美しいボディラインが露わになると、ジェームスとグレッグはその美しさに目を奪われていた。太郎はスーに目を隠されていて見れなかった。


「いてっ。」

「いつっ。」


 ジェームスが殴られたのは分かる、グレッグは何故殴られたのか分からない。分からないが目の前の全裸美女から視線を逸らした。

 裸の女性は立っていられずにその場に座り込むと、オリビアが駆け寄る。

 

「エルフィン・リ・スキング様。」


 一緒に駆け寄ったスーが袋から取り出した服を、不思議に思いながらも受け取る。沢山の人がゴリテアに乗り込んでくるのは魔力感知で分かっていたが、助けに来たエルフは目の前の一人だけだからだ。


「あれから何年経ったの?」

「正確には解りかねます。」

「そう。それにしても・・・ずいぶん混在しているし、天使なんて珍しいわね。」

「天使が珍しいかどうかは分からないけど、ワルジャウ語を話すの上手いね?」


 聖女もトレントも、今助けたエルフも、ワルジャウ語は知らないはずだと思った太郎が質問する。


「言語加護ならあなたも有るでしょう?」

「加護の力って昔からあるんだ?」


 助けられた女性は一息吐いてスッと立ち上がった。


「そんなつまらない話をする為に私を助けたわけじゃないでしょう?それで、助けてくれたのは・・・だれ?」


 視線が集まった先には、つまらない男が立っている。


「あなたが?」

「うん。」

「なんで助けてくれたの?」


 エルフィンは視線を強くした。ただ助けられたと思っていない。長く封印され続けた事で猜疑心が強くなるのは仕方がないのかもしれないが、オリビアは複雑な心境である。


「ゴリテアに村を破壊されたんでね。」

「そう、さっきのあの攻撃は・・・。」


 自分の力を無意味に使われた事に対する怒りは、誰にぶつける訳でもなく、内に秘めていくしかなかった。それが解放されたのは、封印を解かれたからであるが、封印を解くというコトは何らかの理由があってコソだとも思っている。


「それにしてもここまで来るのは相当な・・・。」

「そこまでにしてあげて。素直に感謝したらどうなの?」

「・・・リファエルか・・・お前が先だとは思わなかったぞ。」

「私の娘の方が優秀なのでね。」


 凝視する眼に力が籠る。それを平然と受け止めているが、周囲の天使達がバタバタと倒れた。リファエルが直ぐに回復魔法でリカバリーする。


「ちょっと、何をするの?!」

「私が助けられたということは何か危機があったのではないか?例えばそこのアホ面が侵略を始めたとか・・・。」


 二人の関係を知らないのでみんな驚いているが、ポチの背に乗った三人は眠そうにしている。ポチの方も眠そうなんだが、多分3人の魔力にあてられてるんだろうな。それにしても、ミカエルとオリビアが二人を必死に止めているなんて、誰が想像したものか。


「何で喧嘩になるんだ・・・?」

「あなたなら止められるでしょ?」

「太郎なら止められるでしょ。」

「運命の人なら!」


 と、勝手な事を言われてるけど、なんで俺が止める事になっているんだ?

 てか、周りからの視線が凄い。

 小声で「仕方ないか」と呟いてから叫ぶ。


「やめろ!」


 太郎の身体から二人が抜け出るように現れると、リファエルとエルフィンの頭にチョップを叩きつけた。


「なにっ・・・?!」


 エルフィンがポカーンとしている。彼女の頭を叩いたのはシルヴァニードだったのだが、当然のように知っていたようだ。


「何故・・・シルヴァニード様が・・・?」


 にっこりと微笑んだ後、つまらない男に吸い込まれるようにフワッと消えた。リファエルの方はウンダンヌだ。


「アンタ達もう少し考えなさいよ?」


 そう言って消え・・・なかった。ウネウネと動いて太郎の身体に纏わり付いている。エルフィンが太郎を指さしてガクガクと震え出した事で、リファエルがケラケラと笑い出した。


「なんでこうなるの?」

「当り前よー、私だけじゃなくてシルバも主ちゃんに従属してるんだからねぇ。」

「なんか久しぶりの感覚だなあ。」


 太郎は困り顔で頭を掻いている。


「私には従わなかったくせに・・・!」

「主ちゃんとどっちが魔力有ると思ってるの?」

「な・・・なんだと?」


 エルフィンが太郎を凝視する。

 その顔が少しずつ青ざめていく・・・。


「ちょっと、太郎また強くなってない?」


 マナも吃驚である。


「そうなん?」

「太郎さんはもうちょっと自覚を持ってほしいですねー。」

「え、あ、う、うん。」


 魔法が強くなっているような気はするけど実感がなかなか湧かない。


「それほどの魔力なら私なんて必要ないじゃない。」

「必要かどうかは知らないけどゴリテアは邪魔だから。」

「あぁ、ゴリテアの価値を無くす為に開放したってコトね。」


 はあ~っと溜息を吐いた。

 まさかここまで自分の価値を低く見られていたという事もショックだが、自分の強さに自信が有ったエルフィンは、リファエルがこの男とつるんでいる事にもっと疑問を持つべきだったのかもしれない。

 そのリファエルにはエルフィンよりも、もっと怖い存在が目の前に居るのだが、まだ気が付いていない。


「これだけの戦力を集めてどうする気だ?」


 今までに何度も問われた、つまらない男へのつまらない質問だ。


「何もしないよ。」

「何もしないのなら結構。しかし、戦力の集中は敵も呼び寄せる。」

「別に来てほしくないから解散してもかまわないけど?」


 ミカエルとリファエルがショックを受けている。

 なんで?


「我々は・・・?」


 オリビアが悲しそうな表情で太郎を見詰めている。


「いや、別に戦う為に来たわけじゃないんだから・・・。」

「あ、う、うむ・・・。」


 少なくともオリビアは以前の話し合いで納得してくれている筈だと思っているが、この世界の住人は血の気が多過ぎる。戦うのが趣味の種族も居るのだ。


「少なくとも俺達は戦う為にココに来たわけだが?」

「そうね。」


 血の気がクール&ホットの二人組が同意を求めてくるが、太郎は首を縦には振らない。戦っている時でさえ、太郎は殺し合いをするつもりはない。戦いで血が流れないなんて事は有り得ないのだが。


「あんたは助けられた事を感謝はしてるんでしょ?」

「それは無論だ。」

「ならそれでいいじゃない。太郎が本気出したらこの周辺全部が吹き飛ぶわよ?」

「は?」

「なんで太郎が不思議な顔してんのよ、可能かどうかで言ったら不可能では無いって意味よ。」

「そうなの?」

「そんなヘンタイじみた事が可能なのは太郎ちゃんだけよ~。」


 周りの天使達が避けて道を作る間から現れたのは魔女二人だ。


「ほら、やっぱり封印といてるじゃないの~。」

「私達の苦労は一体・・・。」


 とは言っているが、マチルダの方も案の定という諦め顔だった。


「それで報告は届いた?」

「報告?」

「どっかの天使に頼んどいたはずなんだけど。」

「部下には戦闘終了まで報告は後回しにしてある。誰か連絡を頼まれた者はいるか?」


 ミカエルの声に応じた者はおらず、ココにはいないらしい。


「そういう事だ、急ぎの用か?」

「まー・・・、別にコルドーが逃げたわよって報告だから~。」

「逃げた?!」


 ミカエルが驚いて部下達を睨むが、みんな困惑顔だった。


「戦闘の方が重要だと思っていたのだ、スマンがもう脱出したのか?」

「外にあの将軍がいるから見逃すハズは無いと思うけど~?」


 あの将軍とは、トヒラの事だ。


「くそっ・・・。」

「イイヨ、ほっといて。」

「え?いや、しかし。」

「本当に何か凄い能力のある人ならこんなもの復活させようなんて考えないでしょ。」

「そうかもしれないが、危険人物だぞ。」


 エルフィンが驚いて太郎に問う。

 こんなにあっさりと逃がすなんて有り得ないからだ。


「そんなこと言ったら俺の方が危険人物扱いされてるような気がするんだけど。」

「そうね。」


 間髪入れずに同意を示したのはフレアリスだ。


「それは確かにそうかもしれないが、放置して良いモノでもないだろ。責任を取ってもらわなきゃ誰も納得しないぞ。」


 ジェームスの言葉にスーも同意しているが、どうせ無理だとも同時に思っている。人は殺さないという誓いを立てている訳ではないが、極刑や死刑を望んでいる訳でもない。ただ、どうする事が最も効果的と考えているのかまでは予想も想像もつかない。


「太郎は時としてエグイ事を考えるからの。」


 ナナハルがこんな状況でも素直に笑っている。


「そうじゃろ?」

「世界に向けて宣戦布告した人が身一つで帰ってきたら民衆がどう思うか、ってことだよ。」


 ナナハルの笑い声がピタリと止んだ。

 そして理解を示すかのように高らかに笑った。


「やはりエグイ事を考えておるのう。」






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