第279話 ゴリテア侵入
ついにトータル300話\(^o^)/
これからもよろしくお願いしますm(_"_)m
魔法が放たれ、爆発と轟音が響き渡る。
元々は外壁を狙った訳ではなく、扉に向けて放ったのだが、すべて外れたのだ。
「どうしてだ?!」
「敵が出てきます!」
「あんな奴らは・・・!」
魔法を放つと、扉の近くでぐにゃっと曲がって外壁に当たる。
扉からぞろぞろと出てきた兵士達が一斉に魔法を放つと、天使達から迎撃の魔法が飛び、交錯する。魔法同士が激突すると先ほどよりも激しい爆発と轟音が敵味方関係なく襲い掛かる。
「これではたまらん。」
「魔法を切り替えろ、風魔法で敵を斬り刻むのだ。」
ミカエルの指示で魔法を変更すると、敵から放たれる魔法を押し返した。
「天使相手に直接戦うとは思わなかったぜ。」
「しかし、なんでゴリテアで攻撃しないんだ?」
「猊下の指示らしい。」
「お、おい、今度は接近してくるぞ?!」
「魔法障壁が展開されているから安心しろ!」
「あれは・・・エンジェルストーム?!」
彼らの言う通り、天使達は突撃し、魔法を跳ね返した直後から急接近したのだ。その昔の伝承から、天使達が大挙として突撃してくる事をエンジェルストームと呼んでいたらしいが、天使達からすれば、一塊で一斉攻撃を仕掛けているだけで、特に狙った特殊な効果はない。
次々と飛び込んで来ては武器を突き立てるが、障壁によって方向を無理やり曲げられて、天使達は明後日の方向へ弾かれていく。
「やべえ、障壁にひびが!」
「慌てるな、直ぐに戻る。」
言われて見ていると、ひびが綺麗に消える。
「こっちの魔法は通過して相手の魔法は弾くなんて、ゴリテアの能力って凄いよな。」
「これなら天使にだって負ける気がしないよな。」
コルドーの兵士達は反撃が届かないと知って血気盛んになる。飛び出しても直ぐに障壁の内側に逃げ込めば良いので、幾人かが浮遊魔法で飛び出し、天使と激突した。
それは思った以上の効果を発揮し、突撃で回避困難な天使達に攻撃を加え、叩き落す事に成功した。反撃する前に逃げ込まれるため、天使達に苛立ちが募る。
ヒットアンドアウェイがこれほどまでに有効だという証明を彼等は実体験しているが、指揮官は奥にいて戦況が見えない為、報告が来るまで優位に戦っているのかどうかわからない。怪我をして交代する兵士の状況説明を受けて、やっと理解するという体たらくであった。
「なんと面倒な・・・。」
こちらはしっかりと指揮官であるミカエルが歯ぎしりしている。再三の攻撃をも完璧に防がれていて、完全に頭に血がのぼり過ぎていた。それでも障壁に対するダメージは蓄積されていて、ゴリテアの魔力も有限ではなく、少しずつ障壁が弱くなっている事に、ミカエルは気が付いていた。しかし、傷付き打ち墜とされる者が増えてくると、流石の天使達も士気が落ち始めていた。
やっと外に出てこれた指揮官が目の前の状況を視認して意気揚々に叫んだ。
「天使相手に勝てる!」
今は森の木々の上をグリフォンの背に乗って移動中である。太郎でも爆発が見えるほど接近しても、どちらが優勢なのか分からない。
それ以前に偵察ではなく、普通に戦闘になっているのは予想通りであった。
「あー、やってるやってるぅ。」
マナがはしゃいでいるのは、久しぶりに制限なく暴れて良いと太郎が言ったからで、今回は敵が巨大すぎる為に、太郎も相手が人でなければ自重しないつもりだった。
「ちょっと・・・良い感じじゃありませんね。」
「なんでわかるの?」
「天使の数が減っています。」
参加当時と現在の人数が合わない事を、激しい爆発が見える中でも正確に把握している。トヒラの能力が発揮された良い例だ。
「我も思いっきりやっていいか?」
「天使を巻き込むなよ。」
「ここからだと大声で注意喚起しても届きませんね。」
「太郎なら届くと思うけど。」
無理に決まっていると言いかけてやめた。
「あー、あれね。ちょっとやってみる。グリフォンは俺が叫んだらやっちゃって。」
「おっけー!」
これから戦闘だというのに、凄く陽気な返事が返ってきて、太郎は困ったように笑ってから大きく息を吸い込んだ。みんなが耳を塞ぐのを確認してから叫ぶ。
「「「攻撃するぞーーーー!」」」
それ自体が物凄い魔力を帯びていて、太郎が同時に3人で喋っているような違和感と、衝撃波で森の木々が左右に吹き飛んだ。地面が一直線にえぐれる。続いたグリフォンの周囲から数多の槍矢の形状をした魔弾が発射される。
「な、なな、なんだ?!」
「おい、左右に散れっ!」
気が付かない兵士達と、気が付いたミカエルと天使達。
障壁の外にいた兵士が吹き飛び、障壁にひびが入ると、2回は耐えたが、3回目に兵士達の前面の障壁が音もなく弾けて消えた。追加で魔弾が来るのを視認する。
「何か飛んできます!」
「退避だ!」
グリフォンは加速しつつ魔法を放ったことで、魔弾の加速力も増していて、そこに太郎の放った超音波が後押しする。数百の爆発がほぼ同時発生し、ゴリテアは地震が起きたかのように揺れた。
内部の兵士達が混乱するのは必至だったが、そんな事は天使達には解らない。解っている事は、ゴリテアの外壁がグリフォンの魔法によって一部欠けたという事だった。
「私まで巻き込むつもりか!」
到着したグリフォンに向かってミカエルが怒鳴ると、魔法障壁の無くなった外壁に着陸した。グリフォンは小さな少女の姿になると、太郎に抱き付いて満面の笑みで太郎を見上げている。怒られた事などまったく気にしていない。
「我を連れてきてよかっただろ!褒めろ!」
「よくやったぞー!」ナデナデ
これが最高のご褒美なのか、ひさしぶりの破壊行為と嬉しさで太郎に抱き付いている力を強め過ぎた。
「ぐぇっ?!」
撫でられたのが終わったのでグリフォンは太郎から離れた。無邪気さはそのままに、あちこちのに魔法を放って爆発させていく。
タノシソウダナー。
「帰りの分の魔力を残しといてね。」
「まかせとけー!」
ここでやっとミカエルが太郎の前にやってきた。
「凄い衝撃波だったが、さっきのはなんだ?」
説明するとミカエルの表情が引き攣った。太郎の前でフーリンと喧嘩するのは辞めようと心に誓った姿である。
「あららー、結構やられちゃってるわね。」
「すみません、母上。」
「ほらーあなた達ー、もうちょっと頑張りなさーい。」
リファエルはそう言って回復魔法を周囲に散らすと、傷付いた身体から回復した天使達が集まってくる。
「太郎さん、ココから入っちゃっていいですかね?」
スーが舌なめずりしていて、戦闘の高揚感を爆発させている。
「狭い所で戦うんなら天使より私の方が役に立ちますよー!」
「俺も行く。」
背中にマナを乗せたポチもやる気満々だ。これを止めるのは無粋というモノだろう。背中に乗っているマナを抱き寄せると、太郎は頷いた。
「えー、私はー?」
「マナは何か有っても困るから俺と一緒な。」
不安そうなジェームスが一応と思って声を掛けようとしたが諦めて別の事を言った。
「ピクニックにでも来てるのか、俺達は。」
「そうね。でもこんなピクニックなら大歓迎だわ。」
フレアリスがゴリテアの外壁を素手で殴ったがびくともしない。そして何故か笑顔になる。
「私達は勝手にさせてもらうわね~。」
マリアとマチルダがスー達よりも先に中に入って行く。目的はゴリテア内にあると予想している書庫だった。丸々奪うつもりらしいので邪魔されたくないようだ。なので太郎達もこの二人に関しては放置する事にしている。
「てか、ちょっとアレやり過ぎじゃない?」
本来は居残る予定だったグリフォンが暴れまくっていて、それもすごく楽しそうなので止められない。外壁は多少の凹みは有るが、元々凸凹しているので変化が良く分からない。あっちで爆発、こっちでも爆発。
「移動としても役に立ってくれたし、良いんじゃないかな。」
障壁も壊れたまま戻らないので問題なし。
ジェームスとグレッグ、フレアリスとマギの四人組は、別の出入口から入る相談をしていて、オリビアとトヒラとナナハルは、無言で周囲を警戒している。
「よし、俺達も行くぞ。太郎君お先に!」
未知のモノに入るというのにジェームスもワクワクしているようで、これが冒険者としての本来の姿なのかもしれない。最後尾のマギが太郎に小さく手を振って、それに応じると、中に入って行った。
と、聖女が呟く。
「ここに居るとなんか気持ち悪い。」
「あんたの存在が気持ち悪いけど?」
マナには容赦というモノが微塵も感じられない。
「でもなんか解るわ、アンタがもう一人居るみたいね。」
「どういうコト?」
マナは太郎の肩に「ヨッコイショ」と言って座ってから応えた。
「こんなガキかどうか解らないけど、似た魔力を感じるわ。」
「聖女の魔力って事?」
「そう・・・だけど・・・凄く優しい波動なのよね、まるでうどんみたいな。」
「うどんって事はトレントが居るんだね。」
「その昔にかなり優秀なトレントをゴリテアに持ち込みましたから。」
リファエルがそう言うので間違いない。
「でも聖女なんだよね?」
「うん、コイツとおんなじ。」
聖女もリファエルも、頭の上にクエスチョンマークが浮かんでは消え、浮かんでは消え、繰り返しているようだ。
聖女とトレントが同じという意味が理解できないのは太郎も同じだ。
ミカエルが頭の上にビックリマークを生やした。もちろん、そう感じただけで実際に存在している訳ではない。
「地上からの侵入に成功したのなら洞窟の方に応援に行こう。」
「それってどの辺りに居るの?」
「・・・どの辺りって、魔力感知だとココの真下だが?」
マナがびょんっと飛び降りて、そのまま地上に降り立つと、周囲から蔓が伸びて来て、伸びた蔓がどんどん太くなり、地面に突き刺さった。
「何をやっているのだ?」
「さあ?」
まるで触手の様に蔓がうねうねと動き、突き抜けたような衝撃と音が聞こえると、蔓がスポッと抜けて大きな穴が開いた。
突然の事に驚いたのは太郎達だけじゃなく、その穴の下に居た者達だ。天井が崩壊し、敵味方関係なく土や石が降り注ぐ・・・。
「お、おい・・・洞窟の天井に穴が開いたぞ・・・。」
「俺達を殺す気かー!」
突然の事に、ただ見たまんまの状況を呟く事しか出来ない者と、埋められる恐怖に怒る者。それは武器を構えて対峙しているコルドー教の兵士達と天使達が意味不明な出来事に見上げている姿であった。
敵が侵入し、ゴリテア内部は混乱どころか大混乱している。そもそも兵士達も必要な部屋以外の構造を理解していないので、どこに逃げればいいのか分からない。上官であるホールズ隊長が、逃げ込む部屋と進入路を塞ぐように指示しているが、入り組んだ通路ではその指示も上手く届かない。近くの部屋に逃げ込んでどうにか呼吸を整える兵士の一人は、その部屋から出られなくなったり、隣の通路に出るだけの扉だったりと、このゴリテアが巨大すぎる事が原因の問題が多発していた。
「ちょくちょく揺れるし、道は分からないし、どうしろと?」
鬼人のごとき破壊力のある拳で吹飛ばされた兵士を見て、みんなが逃げようとする方向へ追いかける逃げる。だが、その方向からも敵がやってきた。
「ここどこなんですかねー?」
「大丈夫だ、匂いで出口は分かる。」
「さすポチさんです!」
そう叫んでから、低い姿勢の突進で敵を切り裂く。数人が血を流して倒れると、そま前方に巨大な盾を構えた兵士が壁を作っていた。
「ここから先は進ませんぞ!」
「って言うか、こっちくんな!」
切実な叫びである。
「あれだけの人を殺してるんですから、そちら側にもそれなりの責任は取っていただきませんとねー。」
ポチを後にしたスーにはまだ心に余裕があった。
別室ではボルドー5世が一人でワインをあおっている。余裕があるのではなく、暇だからだ。ワーグの説明を受けて少し安心したのか、顔を赤くするほど飲んでいる。
「幾つかの制御操作を発見しました。まずはこれで潜入する汚物を消せるとの事。」
「ほほう。」
二人は女を連れて移動していて、より安全な場所に、更に下層へ移動していた。そこは制御室が有り、数人なら一ヶ月はのんびり暮らせる食糧が保管されていて、酒は有限だが水は無制限に使える。
窓もあって、そこから見える景色は畑と大きな木が見えるし、川も流れている。空は無いが、室内とはとても思えない景色だ。女性達は身を清めると称して大きな風呂に入っている。
「侵入者達がいるようですが、このスイッチ一つで・・・。」
ボタンのようなモノを押すと、カチッと音がして、凹んだボタンは暫くして元に戻った。変化は感じられ・・・る。
「なんだ、酔いが醒めたぞ。」
「あれー・・・おかしいな・・・侵入者を消してくれる魔法が出ると思っていたのですが・・・。」
「なんかスッキリした気分だが、何か報告は?」
「変化が有れば兵士の誰かが来そうなものなんですが。」
「何を言っておる、他の者達に秘密で裏の通路を使って来たのだぞ、どうやって報告に来るのだ?」
「あ、元の部屋に通信機が有りますので、来たら解るんです。」
呆れたのか、感心したのか、コルドーは椅子を座り直して窓の外を眺めた。そこに人の姿は無く、緑に溢れている。畑は耕され、何故か成長が早い。そして一つだけ驚くほど大きな木があった。
「あのトレントの放つ消毒魔法って何だったんだ・・・?」
「危険な魔法だったらどうするんだ?」
「記述では週に何度も使用されていたとありましたので危険はないという判断です。」
「そこからどうやって敵を撃退する魔法と考えたんだ?」
「最強の敵を根源から撃滅するとありました。・・・彼らが書き残した最強の敵って侵入者だと思ったのですが。」
確かに違和感のない解釈のような気もするが、ゴリテアがそれほどまでに敵の侵入を許し、戦ったという記録はない。それは調べた本人が一番知っている筈だ。
「そ、それならこちらですね。これは単純に回復魔法らしいです。」
少し自信を失いかけたが、もう一つのスイッチを押す。
すると、今度は周囲がうっすらと光った。
「何か疲れがとれたような?」
「え、ええ・・・回復魔法ですから?」
魔法の探知能力はコルドーよりも低い研究員は、ただ混乱していた。しかし、そのスイッチの効果は侵入した太郎の仲間達を苦しめる事となる。




