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第3話 生活

異世界0円生活。 ただし持ち込み可。





 俺とマナの木の生活が始まった。たぶん朝日だと思う太陽の光をあびながら、まず最初にやることはマナの木を植えることだ。自分が植えられるところをニコニコとした表情で見ている。


「二日か三日ぐらいである程度大きくなるはずだから、何か作るなら少し離れた場所の方がいいわよ。」


 頷いてテントを張る。少し値段は高かったが遊牧民ほどではない小さいパオを建設した。取扱説明書を見ながら意外にも簡単に作れた。6時間ほど掛かったが。気が付くとマナの木の子供の姿はなかった。内部にマットを敷いて座る。身体は若くなったといっても疲れるものは疲れる。タバコを吸いながら小さなかまどを作り、松脂と薪をライターの火で点火してから、ポリタンクにある水をやかんで沸かす。元の世界から持ち込んだお茶を飲みながら一息つくと、白いワンピースに身を包んだ知らない女の子がやってきた。


「見て見て、もうこんなに成長したのよ。」


 姿としては中学生くらい。可愛い。いや、そうじゃない。


「マナの木・・・なのか。」

「そうよ。」

「・・・マナって呼んでいいかな?」

「そう呼びたいならそう呼んで構わないわ。名前で呼ばれることなんてなかったから。」

「・・・それで俺はこれからどうしたらいいんだ?」

「そんなすぐに状況が変化することはないだろうから、しばらくはこのあたりで生活してもいいわね。ドラゴンにだけは見つからないようにしたいけど。」


 燃やされて枯れる寸前まで追い込まれた嫌な記憶があるのだろう。ちょっと弱々しい口調で悲しげな目をする。


「あ、それと・・・もう少し成長するまでしばらく姿見せないけど、大丈夫よね?」

「それは構わないけど、成長したら移動できないよな?」

「あんまり大きくなったら無理だけど、ある程度の力が戻れば完全な人の姿として移動できるわ。今は大地からマナを吸収して沢山集めないと。」

「そっか。まあ一人暮らしは慣れてるから、周りの状況とか魔物とか調べてみるかな。本当は柵で周りを囲みたいけどそんな加工技術ないしなあ。」

「神さまからもらった道具あるでしょ。あれを使えば木を切ったり加工したりするのはそんなに苦じゃないわ。組み立てるのは自力になるけど。」

「そんなに便利な物が入ってたのか。」


 神さまからもらった袋から武器となる剣を取り出す。軽いなこれ。服装はジーパンにTシャツ、ジャンバーを着ているが、靴ではなくビーチサンダルをはいていた。帽子をかぶってから靴に履きなおす。滑り止めの手袋をつけて、ベルトに挟むように剣を刺す。鞘から抜いて構える。剣道なんてやったことはないからどんな構えが正しいのか知らない。知識としては時代劇を見た程度だ。チャンバラごっこなんて話で聞いたことしかない。ゼンマイ式の腕時計をつけて、3時間程度で戻るつもりの散策へ行くことにした。あまり遠くまで離れると不安になるからだ。


「そういえば、そんなに寒いと感じないけど今は何月くらいなんだ?」

「そうねー、3月の終わりごろかしら。」

「季節でいうと春か。」

「この辺りは夜になると寒いから早めにあったかくして寝た方がいいわよ。」

「魔物に襲われる心配は?」

「熊とかイノシシに似た魔物はいるけど、夜行性ではないし、意外と臆病だから出てこないわ。捕食されるような弱い魔物は周りが見えた方がいいから昼間に現れるだろうけど、たぶん素手で倒せるわね。」

「肉ぐらいは買ってちゃんと血抜きされたものを食べたいな。」

「んー、ここから一番近い町まで歩いて3日ぐらいかかるけど、今でもちゃんと残ってるかなあ?」


 500年不在だったので、最近の事がわからないのは仕方がないが、そんなに遠いのか・・・。往復で6日。1週間で戻ってこれるかな?


「・・・まあどっちにしても周辺を探索しないとな。行ってくる。」

「はーい、いってらっしゃい。気を付けてねー。」


 どこかへ出かけるのに”いってらっしゃい”などと言われるのが久しぶりだった。手を振っているマナを見て振り返す。可愛い。



 探索は森の中に入るのはやめた。どんな虫がいるかわからないし、蛇とかヒルがいても嫌だ。思い込みかもしれないが見るだけにしておこう。小川は水量が豊富で、とてもキレイだ。川沿いに歩いたら町まで行けるのかな。小川には橋はないが、俺の跳躍力でも難なく越えられる。・・・水筒を忘れた。


「そういえば風呂も作らないとなあ・・・。」


 歩きながら独り言をつぶやく。色々なことが山積みだ。今は仮設でもいいが定住するならそれなりの家が欲しいし、冬を越える準備もしなければならない。季節は春と言っていたから夏が終わるころには準備をしよう。

 腕時計は出発前に0時に合わせた時計が2時間ほど経過している。キョロキョロしながら歩いていたから歩みは早くない。戻ろうと思ったその時、森の中から黒っぽいものが現れた。だれがどう見ても熊だ。熊田さんじゃない。立ち上がった姿は2メートルを超える。


(ないないないない・・・いきなりか、いきなりなのか!)


 死んだふりというのはすでに過去のものとなっている。目を見ながら少しずつ後ろに下がるのがいいと、TVで見た記憶を頼りにする。足がガクガクした。剣を握るのが精いっぱいだ。抜くなんて無理すぎる。

 とにかく熊を凝視した。すると、しばらくして熊は視線をそらし、森へ戻っていった。その姿を見送った俺はその場に崩れ落ちた。怖かった。どうにかしてマナの木のところまで戻ると、手足の震えもおさまり、生きている心地を実感した。不思議なことにマナの木の近くにいると安心する。これが守られているということなのだろうか?

 少女の姿はなく、急激な眠気に襲われたので、着替えることもなく寝袋を取り出して寝た。すごくよく寝れた。


 次の日から、剣を振る練習をした。へたくそでも使えないと意味がない。筋トレも始めた。散策に行く気にはなれない。袋の中には神さまから貰った農具もあったので、小さな畑を作った。道具が凄いのか、若くなったからなのか、小さな畑はすぐに出来たので、大根、ジャガイモ、サツマイモ、ニンジン、べビーリーフという家庭菜園用の種を植えた。

 午前中に植えたはずのベビーリーフが午後には芽を出していた。水をやるために近くの小川に水を汲んで戻ってきたら、他のものまで生えていた。これがマナの木の力なのか。大丈夫だと言っていたのも理解できる。季節とか関係なく野菜は作れそうだ。リンゴの苗木も一本植えてみた。翌日には多くの葉っぱが茂り、小さな実を付けている。成長早すぎ。

 朝食にサラダを添えた。調味料はスーパーの棚に並んでいたものをすべて買ってきたので当面困らない。なんに使うのかよくわからないものも有るけど気にせずに保管しておく。主食はインスタントラーメンで、お湯で戻すだけのご飯もあるが、こちらはもう少し保管しておきたい。素振りと筋トレをして、マナの木が視界から消えない距離を歩く。小川までしか行けない。

 さらに翌日、マナの木が大きく成長した。朝起きたら3メートルぐらいになっていた。木もだいぶ太くなっている。可笑しいぐらいの成長だ。マナの力ってスゲーな。植えた根菜類はすでに食べられるぐらい成長しているし、リンゴの実はとてもおいしかった。芋類は主食になりえるから保存食はそのまま保管しておく。水で洗っただけの大根はそのままでも吃驚するぐらいおいしい。


「こんなうまい大根は初めてだ・・・。」


 思わず声に出るほどで、一人で食べる昼食が終わるころ、白いワンピース姿の女性が現れた。吃驚するほど可愛い。


「やっほー、ひさしぶり、って程でもないか。」

「マナも成長したんだな。」

「そうよー、可愛い?」

「あ、うん。可愛い可愛い。」

「なによー、せっかく植えてたものも成長させてあげたんだから、もうちょっと感謝を込めて言ってよね。」

「やっぱり、これはマナの力だったんだ。」

「凄いでショ?」

「凄い凄い、凄すぎ。それでいてちゃんと美味しいから更に凄い。」


 ドヤ顔のマナである。


「そういえば熊とあったみたいだけど、どう?戦えそう?」


 少し心配そうな表情に変わる。知っていることには驚かない。


「今は厳しいかな。」

「あっちの世界は平和だったもんね。」

「この剣の切れ味ってどのくらいなんだろうな?」

「人間ぐらい真っ二つにするぐらいだと思うけど。」

「それ怖いよ。骨も関係ないのか。」

「うん。」


 しばらく考えたが、そんなに危ない剣ならやっぱりちゃんと扱えないと困る。


「試しにそこの木を剣で切ってみたら?」


 マナが指をさしたのは、太さが30cmくらいありそうな木だ。切れんの、これ?言われるがままに立ち上がって剣を抜く。握る手に力が入る。


「てーっ!」


 思い切って横に振る。剣は幹に食い込んだかと思うと、あっさりと通り抜けた。少し斜めに切れたので、剣が通り過ぎてから3秒後ぐらいにバランスを崩して倒れる。葉っぱが擦れる音と倒れた時の振動が僅かに伝わる。


「危ない、怖い。なにこれ、こんなん熊だって倒せるじゃん。」

「じゃあ、今度は勝てそう?」

「怖くなければいけそう。」


  クマと出会った時とは別の怖さに多少震える。一般人で過ごしてきた自分には結構きつい経験だ。剣を鞘に納めて深呼吸する。異世界にも異物にも、これからゆっくり慣れていこうと思った。

 それからは、熊やイノシシと遭遇することもなく、芋をメインにした料理を作った。とはいっても焼くか蒸かすだけだ。キャベツや玉ねぎ、もやしなどを作れば、持ち込んだベーコンやソーセージと一緒に炒める。成長が早いので必要な分を計画して作る。作り過ぎても腐ってしまうし、保存する場所は袋しかない。マナは料理をしないので俺が作った料理をおいしそうに食べている。そういえばこいつ食えたんだな。いつの間にか一か月が過ぎようとしていた。


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