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第276話 狙われた太郎

 旅人であった彼らを見送って全てが終われば、次は自分達の食糧問題に直面している。所持していた干し肉は全て渡してしまって、モノの見事に空っぽである。スーが何かをポリポリと食べているのは、干し肉ではなく、ハンハルトで買った保存食である。まだ持っていたのか・・・。


「俺達の食うもんがねーぞ。」


 提供してくれたグルさんからの要求は当然のモノで、兵士も天使も食物が不足している。孤児院と自分達の子供の分は確保してあるので、そちらについてはツクモに任せるとして、残された者達の為にはマナとうどんとベヒモスの協力が必要だった。

 

「これだけ真っ暗だと狩りをするのも難しいぞ。」

「とりあえず畑・・・は全滅してるな・・・。」


 広くもない畑は踏み荒らされた後もあり、あの空からの攻撃でトドメとなって消滅している。マナが調べてもまともな根すらないようである。


「パパ、使って。」

「うん?」


 暗闇から現れたのは双子の娘で、ケルベロスとキラービーが二人の周りに居て護衛をしているようだ。受け取って頭を撫でる。


「ありがとう、助かるよ。」

「マンドラゴラでも食べれるなら良いわね。」

「タロー、こっちの倉庫は無事だぞ。」


 グリフォンの棲み処と化している倉庫にもそこそこの食糧が保管してあり、イモ類が豊富なので、これならマナとうどんの能力で増やせそうだ。


「肉は諦めるしかないかな。」

「カエル肉ならありますよー。」


 スーが兵士が引く荷車を連れてこちらにやってくる。その荷台には肉が山盛りに載せられていて、ポチが嬉しそうに尻尾を振っているが、数百人分と言われるとまだまだ足りない。


「結局あの二人が連れてってくれたから助かったが、諸悪の根源だと言っても信じてもらえんだろうな。」

「迷惑じゃ済まされない事なんですけど・・・。」


 今でも死体の処理に追われている兵士達は、このままだと不眠不休の作業になりそうで、ダンダイルとトヒラは増援部隊を要望する為の手続きの為に一時的に城に戻っている。ついでに食糧も持ってきてくれるらしいから、瞬間移動様様だ。


「そっか、スーと同じ袋って他にも存在するんだな?」

「これだけ魔女やら天使がいるんですから、もっと大きいの作ってもらえないんですかねー?」

「そう言われるとそうだな?」


 マリアが疑問に答えてくれた。


「もちろん作れない事もないけど、魔法袋に耐えられるだけの生地と相当量の魔力と、日数が必要になるわ。作っている期間は他の事が殆どできなくなるけど。」

「日数ってどのくらい?」

「袋の大きさで決まるんだけど・・・、そうね、太郎ちゃんと同じ袋を作るんなら一年ぐらいかかるわ。そっちの小さいのでも数ヶ月は。」

「確実に安全な環境じゃないと作れないってことか。」

「そーゆ―こと。」


 疑問は解決しても腹は膨れない話題は直ぐに放り投げ、もう一度辺りを見渡す。ケルベロスがたくさん集まってきた。大量のレッドボアを引きずって・・・凄い量だな。


「バラバラに作るのは面倒ですし、カレーにしましょう。それでもたくさんの鍋が必要ですけど。」

「良い案だけど鍋の方は?」

「100人分作れる鍋は5個あるので何とか・・・。」


 そんなデカイ鍋が5個もあったのを知らなかった俺は、どれだけエカテリーナに任せきりだったんだろう?


「スパイスは足りる?」

「ダンダイル様が持ってきてくださるそうです。」


 元魔王が子供のお遣いをすると言う方が奇妙な光景な気がする。しかし、今はそんな事は言ってられない。残った者達だけでも軍民合わせて千人ぐらい居るし、何故か旅立たなかった旅人も十数名ほど残っていて、理由を聞くと帰る家が無いそうだ。まだ成人してほどない年齢で家族とコルドーを目指し、そして巻き込まれて生き残った青年をみると、文句なんて言えないし、出て行けなんて言えるはずもない。こんな人を救う方が聖女の仕事じゃないのかな。




 米を炊いたりパンを焼く施設も無いので、具が多いだけのカレーになった。水に困らないのはうどんのおかげでも太郎の能力でもなく、壊れた温泉から今も沸き続けているお湯を利用したからだった。最初からお湯なので時間を短縮できるそうだ。

 成程ねぇ。

 などど感心していると、頭に居たカラーもキラービーもいない。あいつらどこ行ったんだ?いないとなんか寂しく感じるなあ・・・。

 簡易のかまどを作って火を熾した後は、薪は壊れた建物からむしり取って使っているので不足する事は無い。エカテリーナの指導でテキパキと作られていくカレーを待ちながら夜空を見上げる。星空が輝く外での食事は悪い気分ではないが、その前に起きた事件が衝撃的過ぎて、食欲の無い者も多数いるが、カレーの匂いは悪魔的な魅力があるらしい。空腹に負けた者達がぞろぞろと集まってきて、周囲には人だかりができた。

 お皿は最初から足りないので、兵士達はヘルメットを良く洗ってその中にカレーを注いでいる。俺にどうぞって笑顔で渡さなくても家に有るのを使うから。

 その、運良く残った太郎の家では、フーリンやダンダイル、魔女達が利用していて、太郎はエカテリーナやナナハル、その子供達と外で食べていた。


「生き残った者は死んだ者の分も食べて、次に死ぬ準備をするのだ。」


 と言ったのがオリビアだったので悪意が無いのはハッキリしている。それはエルフ達の中でも数十人の死者が存在するからで、魔王軍の兵士も百人以上が死んでいる。仲間の為に生き残り、仲間の為に死ぬのが本望なのはオリビア達が独立していた頃の常識で、魔王軍兵士の常識ではない。死が美徳とされるような考えは、ダンダイルが魔王の時に捨てさせている。それでも、どうしても死が美徳でないと困る連中は一定数存在していて、それが軍に高官に関わる事にもなると、無碍にもできない。


「たくさん死んでも終わらない。他人が死んでも困らない人が戦争を続ける。だから最初に被害を受けるのは国軍じゃなくて国民なんだよね。」


 ダンダイルもトヒラもいなかったので、それを聞いたナナハルが笑っている。


「そういう意味では今回の太郎の活躍はとんでもないことになる。いや、これからの方か。」

「まあ今回は、やらないと今後に影響が出る事が解ってるから。」

「確かにな。」


 因みに、当然の事ながらここには勇者達も天使達も食事をしていて、その中には太郎の事を知っている天使がいた。

 その者が太郎の事をチラチラと見るので、ナナハルに気付かれた。


「あ奴、誰だ?」

「え?」


 バレたと思うと顔を真っ赤にさせ、モジモジとして、カレーを一気に食べ始めた。食べながらもじりじりと近寄ってきていて、その行動の異様さにナナハルもポカーンとしている。


「たたたた、タロウさま!私と子作りしてください!!」


 直後に鈍音がすると、顔中にカレーを付けて、服にも飛び散ったまま、とんでもない事を叫んだ美女が、そのまま目の前に顔から倒れた。


「んべっ?!」


 後ろからスーが現れる。


「なに言ってるんですかこいつはーっ!!」

「なにすんだっ!」


 直ぐに立ち上がると、埃まみれで右手にスプーン、左手に皿を持って構える。

 なにこれ?

 スーの方はおたまの二刀流である。

 だからなにこれ?


「私の未来設計の邪魔をするなっ!」

「あー、アンタあの時の天使!」


 スーが思い出した事で思い出した。

 あの時の白いブーツの様な靴だ。


「サマヨエルだっけか?」

「何じゃ、太郎はこんな天使に知り合いがおるのか?」

「まぁ、ちょっとね。」


 覚えていてくれた事を喜んでいるのか、スプーンと皿をスーに投げつけて飛び込んで来た。正確には太郎の目の前で正座をしている。

 まだ食べてる途中なんだけど。


「やっぱりすごい男だったわね、あんな猫なんかより私の方が美人でしょ?私と子供を作れば最強の家族が出来るわよ?」

「もう子供いるよ。」

「えっ?!だ、誰の子よ?!」

「わらわじゃよ。」


 声の聞こえた方を睨み付けると、驚いて両手を上げた。


「ギャー!九尾?!」

「騒がしい奴じゃ。」

「太郎さんこんな奴ホット・・・ぷへっ?!」


 今度はスーが後ろから倒された。

 その後ろにはサマヨエルに匹敵する美女が群れを成している。


「な、なんなんだ・・・。」


 太郎を査定するような目つきで、ナナハルが呆れている。


「サマヨエルが言ってたけど本当に普人だわ。」

「わ、わたしはずかしいけど、この人なら・・・。」

「まてまて、アタイだって子供欲しいぞ。」


「「「ぴぎゃっ?!」」」


 その美女天使達が一斉に倒れた。

 ビターンと綺麗に地面に顔から突っ込む。


「済まん、太郎。こいつらは後で説教をしておく。」


 彼女達の後ろにはミカエルが申し訳なさそうに立っていて、おでこに手を当てている。凄く恥ずかしそうにも見えた。


「あ、うん。」

「何じゃ、この茶番は?」

「太郎の噂をしている連中がいても実害は無いと思って放っておいたのだが、そいつと知り合いなのか?」


 そいつと呼ばれたサマヨエルは、猫よりも猫のような顔をして、太郎の腕にしがみ付いて頬ずりしている。


「命の恩人だと言っていたが?」

「確かに助けたけど、別にそれ以上の事は・・・ないよ。」


 頬ずりしているサマヨエルを引きはがそうとしているスーに目を向ける。


「こんなバカでドスケベヘンタイ天使なんて!」

「聖女と繋がりがある時点でこいつらは全員ドスケベじゃぞ。」


 聖女の子孫として天使が産まれたのなら、確かにそうかもしれない。


「それだと私も該当するんだが?」


 ミカエルの母親がリファエルで、そのリファエルが聖女を母親としているのならそうなる。たしか、天使ってみんな両性具有だったよな・・・。

 そうなると聖女も・・・?


「何を珍妙な顔をしておる?」

「あ、いや別に。」

「どーせエッチな事でしょ?」オイデオイデ


 サマヨエルが嬉しそうに手招きする。

 

「遠慮しておくよ。」

「私の大事なところをあんなに強く握りつぶしておいて・・・。」

「それやったのマナだからね!」


 そのマナは近くにいない。

 こんな時に何処へ行ったんだろう?


「マナ様なら、うどんさんと何かしてましたよ?」

「うどん?」

「あー・・・食べたら遠征の準備するんだった。」


 騒がしくしているところにまた人が現れる。


「太郎君はいるかな?」


 ダンダイルがトヒラと共にやってきた・・・フレアリスとジェームス、マギとグレッグもやってきた。なんでセット単位でくるの?


「そこのオトロエルとか言う天使が太郎君の事を知っているというから手伝いを頼んだのだが。」


 ナナハルを見て逃げたらしい。


「とりあえず、いい加減に離れて。」

「ひぃっ?!」


 サマヨエルは太郎の後ろから覗き込む二つの顔に驚いて手を離した。


「それはやり過ぎじゃ。」


 ナナハルが呆れるのも当然で、シルバとウンダンヌに睨まれたら、天使程度では死を覚悟するものだ。ただ、太郎の意思で出現させたわけではなく、勝手に出てきただけで、実害はない。

 ないよね?

 泡吹いて倒れてるけど・・・。


「そんな事より作戦の準備について少し相談があるのだが。」


 真面目な口調と態度で接してくれたおかげて、周囲にも少し緊張が・・・緊張が歩いてるな。


「今回は少し遠いですから、兵士の人達には残ってもらいますよ。」

「ああ、応援が来るのも待たねばならんし、こちらは半月ほどかかる。」

「飛べないのは不自由なモノだな。」


 天使達は全員が飛べるので移動速度に関しては問題ない。オリビア達エルフも、一部は飛べるが天使ほど長く浮いていられない。魔王国兵士に関しては、飛べるというより浮くのが精いっぱいで、移動には使えない。

 作戦は迅速であるのが重要であるならば、エルフ達も殆どが居残りになる。太郎とナナハルの子供達も居残り組だ。瞬間移動が使えるとしても、太郎のように複数人を一緒に移動させる事が出来る者は存在しないので、作戦の大半は天使を頼る事となり、ミカエルとも話し合いが必要だった。

 リファエルは参加するつもりらしいが、聖女に関してはどうするのか分からない。何しろさっきまでの敵だった事もあり、信用できる要素が全く無いからだ。

 ただ、ゴリテアに対しては良くないと思っているらしく、リファエルほどの恨みは無いにしても、参加してもらえるのならかなりの戦力になる。

 そして、一番の問題は残された勇者達だった。

 聖女の力が弱まっている所為で、制御の可不可で大幅な変更もあり得るのだった。


「失敗する事も考えないとなあ・・・。」


 太郎のその一言は周囲を驚かせた。






その後の天使達...


あれって本当に普人?

なんか前に会った時と印象が違うって言うか・・・

ミカエル様より強くない?

やっぱりあの人と子作りを・・・


うぉっほん!


ひぃっ?!

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