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第269話 浮かんでいる悪意

 閃光は人々の視界を奪った。

太郎がマナの木を確認する迄には数分が必要で、それは太郎に限らない。建物の中に居た者でも、眩しくて両手で目を覆ったり、蹲ったりしたぐらいだ。


「大丈夫か?!」

「太郎様、次が来ます。」

「え?」

「次が来ます。」


 空を見ると、同じような何かが飛んでくるのが見えた。

 魔女の二人が何かをしているようだが、効果はなく、焦りに焦っていて、スーやポチは覚悟を決めたかのように太郎に寄り添った。


「マナ、無理だったら頼むよ!」


 そう叫んでから太郎は空に何かを放った。

 それはウンダンヌによって増幅された水の壁だ。

 それが放出されたエネルギーのようなモノを止めるのではなく方向を逸らして曲げたのである。

 直撃を避ける事は出来たが、僅かに逸れただけだったので、世界樹の枝が少し焦げたように黒くなっている。


「おおおお・・・上手く行ったな。」


 魔女の二人が太郎を見る。

 説明を求めているような強い視線が送られてくる。


「ああ、あれは水魔法でレンズを作ったんだ。」

「レンズ?」

「レンズってないの? 虫メガネとか・・・とは言わないよな、小さいモノを拡大してみる道具なんだけど。」

「ああ、モノクルのことかしら?」

「そうそう、それ。それを空中に作ったんだ。凹みの方を向ければ曲がるかな?と。」

「発想は良いけど、曲がらなかったらどうする気だったのよ・・・。」

「むしろ曲がっても狙った通りに曲がるとは限らないじゃない。」

「そこはウンダンヌに頑張ってもらった。」


 その光景を見て目を丸くしたのは、魔女だけではない。その場に居る者達もそうだが、最も驚いているのはその攻撃を放ったゴリテアの搭乗者達である。


「急に曲がったぞ?!」

「あたれば山をも崩す攻撃が二度も防がれた?」

「あそこには何が有るんだ?」

「世界樹とはあんなに恐ろしいものなのか!」


 ざわざわと落ち着かなくなる者達を一瞥し、砲撃手にもう一度指示をする。


「中るまで撃てばよい。」

「はっ。再射出いたします!」


 再び一筋の煌めく光が発射されると、今度は自信を持って対応する太郎に、魔女が好奇心を持って凝視する。


「あの攻撃に対しての防御に特化しているし、曲げるだけで止めた訳では無いからかなり魔力消費も抑えられる、曲げた後の光も一定時間で消滅するって事は射程距離が有るのね。」

「どうして特化する事が可能なのか、その方が気になるのだけど。」


 ふわっと何かが太郎の肩に乗る。

 マナだった。

 布が邪魔で前が見えないです。


「完全には防ぎきれてないけど、あのくらいならかき消せるわ。」

「他の攻撃に変えられると困るけど、アレしか撃ってくる手段がないのかな?」


 その後も3発ほど発射されたが、同じように逸れていく。


「もう少し角度を付けたら跳ね返せそうね?」

「多分可能だと思うけど、失敗して村に被害が出ると困るから、今はこれで。」


 その太郎の答えに魔女達は納得し、無駄撃ちをするゴリテアを哀れに思うようになっていた。太郎の作った水のレンズを光線が見事に貫通しているのだ。


「せ、説明して欲しいのだが・・・。」


 唐突に現れたのはダンダイルで、太郎から少し離れた距離でしゃがみ込んでいる。トヒラが居れば飛び付いて助けただろうが、今は暴動に対処していて不在だ。


「見ていても解らんのだぞ、説明できる者などおらん。」


 ナナハルがそう言ったおかげでダンダイルからの質問は回避されたが、うどんと聖女、動かない勇者達についてはトヒラの報告書待ちにする事で、目の前の異様な光景を再確認する。


「ゴリテアがこんな所に・・・なんてことだ・・・。」


 さすがのダンダイルも驚きを隠せない。

 絶望するという程でもないが、あの謎の光線を曲げて直撃を防いでいる魔法にも、理解するに頭脳の回転が追いつけない。


「な、なるほど。水魔法の障壁で魔力を減衰させてから、削り切れなかった光を捻じ曲げているのか・・・。」


 やっと一つの理解が追いついた時、ゴリテアはさらに接近して来た。その大きさだけで村ではパニックが起きていて、トヒラとオリビアが混乱を収拾しようと奔走しているが、身内までもが混乱し始めていて、もはや収拾がつかない。


「直接・・・何をする気かしら?」


 見上げる者と見下ろす者の視線は交錯せず、互いに意思の疎通もない。だがそれは返答のようにも聞こえた。


「直接真下に落としてやる。これなら防げまい。」


 その声が地上に居る者達に届くはずもなく、ほぼ直上までやってきたゴリテアを多くの者達が見上げた時、何かが光った。



 まばゆい光と、轟音と、それに伴う衝撃波が多くの人がいる場所に直撃した。

 理解を超える爆発と、理解不能な破壊音が鼓膜を傷付けるほどに、何度も繰り返されたのだ。

 数秒だったのか、数十秒だったのか、数分だったのか、理解できた者はいない。

 光と音が消えた後に残ったのは、広がる瓦礫の山と、吹き飛んで倒れている人々。

 燃える建物と、血を流して悲鳴を上げる者。

 母を探す者。子を求める者。

 歩く事も出来ず、視力を失い、その手が握る腕の先になにも無い。



 太郎が周囲を見渡した時、勇者の殆どが吹き飛んでいる。マナは頭の上に居るから分かるが、ダンダイルがいないし、スーやポチもいない。自宅は運が良かったのか、壁の一部が欠けているくらいで被害を殆ど受けていない。中に居る人が無事なら問題はないだろう。直撃したのは村のほぼ中心で、爆発の近くにある建物は全壊と半壊と、吹き飛んだ壁や屋根が刺さっている家もあり、焦げ臭い匂いが鼻をかすめる。


「・・・ひどいわね。」


 マナの声が弱々しい。

 旅人や冒険者たちで直撃した者とその周囲の生き物は、ほぼ消滅していた。

 片腕だけ残った者、下半身だけ残った者、血の匂いと焦げた匂いが村を覆い、世界樹も一部が欠けていて、エルフ達の家は殆どが爆風で倒壊している。新しく作られていた住居も9割が崩れ、もはや村ではなく、村があった場所と化したのだった。

 爆風は孤児院にも襲い掛かっていて、ツクモがいなければ建物は倒壊していただろう。危機を察知して可能な限りの防御魔法を展開したのだが、一度防いだだけでその場に倒れた。孤児院で働く大人達が駆け寄って建物の中に引き摺り込む。


「あんな爆発ヒキョーだ・・・。」


 子供達は怯え、太郎の子供達さえも身体中が震えて動けなくなっている。ツクモを移動させる事が出来たのは、ツクモが向かってくる爆風を一ヶ所に集め、身体で受け止めていて、他に被害が無かったからだ。瓦礫も一身で受け止めた所為でボロボロだ。

 もう一度同じ攻撃を受けたら・・・。



 ゴリテア内でその光景を見ていた者達は、驚愕と歓喜に包まれていた。


「な、なんという破壊力だ・・・。」

「我々の力は本物だったぞ!」

「これで平和を作る英雄の一人に成れるのだ!」

「これは御伽噺で見た古代破壊兵器のようだ・・・。」


 コルドーはその声を聴いて満足に頷いている。あとは、この満足を永続化させる為にも、このゴリテアを完全に掌握しなければならない。正直に言うと、未だに未知の部分があり、[完全ガイドマニュアル]などというたいそうな書物を見付けて読み始めたのに、数ページ書かれていただけで、あとは真っ白だったのだ。

 壁の向こうから声が届く。


「猊下。」

「なんだ?」

「真下に聖女を確認しました。」

「なんだと、こんなところに何の用だ?」

「理由は解りませんが、世界樹が目的以外考えられません。」


 本当は鈴木太郎が目的なのだが、そんな事に気が付ける材料は持ち合わせていない。世界樹の存在はすでに各地に広がっていて、海を渡った向こうの国にも届いている。


「あの魔力を吸収する・・・、ゴリテアで可能なのか?」

「何か不思議な力が働いていて現在は不可能です。」


 含みのある言い方だが、その理由はマニュアル不足と訓練不足である。準備はしていたとしても、ゴリテアを動かす事が出来るのはまだ十数人程度なのだ。他の者達は指示に従って操作しているに過ぎない。

 阿鼻叫喚と化した村を見て、一部の者は視線を逸らしたが、大多数が笑顔で迎えられている。彼等には大量虐殺した自覚はない。


「これは正義と平和の為だ。多少の犠牲は仕方が無いと見るべきだろう。」

「世界樹も、世界樹を抱えるあの村も危険だろう。」

「これからは空から支配すれば良いのだ。」

「ドラゴンと天使がどう出るか・・・。」


 すでに次の事を考えている者もいる中で、被害を受けた者達はそうは考えない。何の抵抗をする事も、何の話し合いもなく、通りがかっただけでチリと化していたのではたまったモノではない。

 それが、コルドーから来た謎の物体だと知れば・・・。


「なんだあの悪魔は・・・。」

「俺の仲間が・・・消えた・・・。」

「ママどこー?パパー?・・・どこー?」


 地上の悲劇は、過激な対応を求める者を呼び起こす。


「攻撃だ!」

「反撃だ!」

「アレを叩き墜とせ!」

「勇者など、聖女だの、信用できない!」


 叫び声はどんどん大きくなり、収拾がつかなくなる。止める者など存在せず、怒りに満ちた彼らは、魔法力の限りを尽くして宙へと飛んだ。その数は軽く数百人を超えたが、空に届く前に魔力が尽きて勝手に落ちていく・・・。


「魔法が届かない?!」

「何かの魔法障壁じゃなくて、あの物体の周囲の外壁が魔法障壁になっているわ・・・。」

「どうやって攻撃を当てるのよ?」

「直接叩くか、それにしても接近しないと・・・。」


 魔女が苦悶の表情で空を睨んでいる。

 誰一人の力も届かず、魔法も効果はなく、絶望している時、一人だけが怒りに満ちていく。股の下からそれを感じたマナは、抱き付いて制止するが、彼には何一つの声どころか、音すら届いていない。

 満ちていく怒りが膨大な魔力へと変化した時、その場で最も近くに居たナナハルは、恐怖で足がすくんで動く事も見る事も出来なかったと、後に語っている。


「直接殴る・・・か。」


 同じ回答を太郎が独自に得た時、上空のゴリテアを睨んだ。


「あんなのは破壊した方が良いんだよな・・・。」

「そりゃ、そうよ。」

「俺が出来る攻撃は・・・。」


 太郎が魔法で水玉を作り出したが、それに脅威は感じられない。


「何をする気なの?」

「ナナハル!」


 そんなに強い言葉で名前を呼ばれた事が無かったので、身体がビクッとする。


「俺が今から創る水玉を圧縮魔法で縮めて。」

「ちょっとー私も圧縮されるんですけどぉ!」

「時間が無い。次に撃たれたら・・・。」


 ナナハルは素直に頷いて、ウンダンヌは苦情を言うのを止めた。マナが緊張して太郎の腰に手を回すと、目の前で魔力が圧縮されていく。


「ドンだけやるつもりなんじゃ・・・。」


 返答はない。

 凝縮された水玉に光が射し込み、宝石のように輝く。


「ねえ、また光り出したわよ!」


 マリアが絶望した声で叫ぶ。

 魔女にしても戦う気力を失う中、太郎は睨み続ける。


「まるで水晶玉じゃな。」


 そう言って太郎が創り出す水を圧縮し続ける。




 眼下に広がる瓦礫の山を見て、そこから飛び上がる者達が何もせずに落ちていく。無駄な事を繰り返す事を、今度は立場が逆になっていた。


「なんだあいつら。」

「無駄だって分からないのか?」

「分かっててもやるしかないだろ。」


 同情する者も現れる。


「猊下、どう致しますか?」

「うるさいハエは叩くに限る。」


 そう言って攻撃を指示した。



 ゴリテアの下腹部が怪しく光り、同じ事が繰り返されそうとした時、どこからともなく火球が降り注ぐ。

 それは魔法の壁によって多少は軽減されたが、幾つかは直撃したがこゆるぎもしない。ただ、あやしい光は一時的に消えた。


「なにがあった?」

「ドラゴンが現れました!」

「数は?」

単独(ひとり)です!」 

 

 ゴリテアもドラゴンも上空に居るが、ゴリテアはそのドラゴンの更に上空に存在している事が分かった。火球は下から上に向かっていたのだ。


「ねぇ、あれフーリンじゃない?!」


 マナの言葉に驚いて上空を探すが、小さくて見えない。ゴリテアが大き過ぎるのだ。


「とんでもないチカラじゃの・・・あれで、効果が無いとは。」


 ゴリテアの下腹部で小爆発を繰り返した後、下腹部とは別の場所から触覚のようなモノが幾つも突出すると、光線が雨のように降り注ぐ。


「ガアアアアア!!」


 遠くて悲鳴は小さいが、黒煙を出しながら落下している。


「ウソでしょ、あのドラゴンがあっさりやられるなんて・・・。」

「あれ、なんか飛んでる・・・?」


 落下するフーリンを助ける何かが現れたが、太郎には見えない。

 助けたのは天使達で、そのままフーリンをどこかへ連れて行く。


「ぐっ・・・。」

「太郎は魔力の使い過ぎよ!」


 マナが背中をペチペチと叩いて制止する。


「も、もうそのくらいで良いじゃろ?」

「こ、ココからじゃ届かないから、誰かあそこ迄・・・。」


 ふわっと現れたのはシルバだったが、太郎に纏わり付いただけで動かない。


「・・・・・・。」


 シルバが喋れないほど魔力を消費している太郎は、魔力が無かったころの普通の太郎だ。だが、太郎にとってはそれが普通である。それでも気を失いそうになるのはこの世界に順応したからだろう。


「私が連れて行ってやろう。」


 太郎の前に現れたのはまさに天の助けだった。





 

 

 

ん~・・・



レンズで曲がる魔法って何だろうな?(こら

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