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第255話 前哨戦の前

 作戦としてはいたってシンプルで、ギリギリまでコルドーに近付き聖女のお披露目が行われて注目が集まった時に騒ぎを起こし、勇者達を出動させる。

そこからマギとグレッグを探し出して封印する。

 封印と言っても強力な結界魔法で、魔女の二人が協力するのを約束してくれた。

 勇者達を遠くへ移動させるのは太郎の役割で、シルバの力をフル活用してすぐに戻れない所に移動させてしまえば、直接戦う必要はないのだ。

 聖女とは直接戦わなければならないが、ピュールは直接戦っていないながらも、恐怖を感じる程度に高い魔力は感知している。

 

「どこまで接近できるかが問題だ。」


 ダンダイルはそう言って作戦の参加者に注意を促しているが、魔女が二人いる時点でダメだとも思っている。


「なんか、結局、みんな来るんだね?」

「当然じゃ、あんな古代の兵器を出されてしまったのじゃ、わらわ一人であれば身を守る事に専念したであろうが・・・。」


 夫がいて、子供がいて、家族となって、仲間もいる。スーとマナとポチは絶対ついてくるし、子供達は母親に言われてやる気満々だ。


「なんか戦いに行くというより、ピクニックに行く雰囲気なんだけど。」

「太郎君らしい言い方ね。」


 こちらも余裕のあるフーリンの発言で、ミカエルも対抗意識を燃やしているのだが、どう考えても聖女より目立とうとするのは判っているので、最初から囮にしようとも太郎は考えている。


「一応止めたんだけどね・・・。」

「まあ、あんな残念天使じゃ無理よね。」


 マナも酷評である。


「迷いの森に棲んでいるあいつらにも声を掛けとくか?」

「やっと安住の地を見付けたんだからそのままにしてあげて。」

「・・・そうか、太郎がそう言うなら。」


 ケルベロスの軍団は太郎に助けられた恩を返したがっているのをポチは知っているので、少し残念にも思ったが、確かに役に立ちそうもない。


「他の天使は来ないの?」

「優勢になったら降りてくるんじゃないかな。」


 ミカエルの返答に驚いたのは俺だけで、どうせそんな程度だと思っていたらしい。俺の中の天使のイメージは、ほぼほぼ崩壊した。


「ところで、そのお披露目とやらはいつ始まるのだ?」

「そろそろ始まる頃かと。」


 トヒラがそう答えると、ミカエルが怒鳴った。


「そういうことは早く言わんggg」


 最後まで言えなかったのはフーリンに叩かれたからである。


「騒がなくても太郎君が連れてってくれるわ。」

「な、なに?」

「あ、うん。その、聖女に気が付かれないぎりぎりの所まで移動するけど、直ぐ出発するの?」

「すまん。」

「ダンダイルさん?」

「トイレ行って来る・・・。」


 こうしてダンダイルを待つ事となった。




 準備する時間を与えてもらったので、太郎は珍しく本気装備だ。真っ白い鎧は目立つのでマントを羽織って隠す。ちなみに、装備を身に着ける時にスーに手伝ってもらっている。子供達にも専用の装備が用意されていて、グルさんの弟子が作ったそうだ。身長に合わせて多少の伸縮を可能にしていて、お値段は金貨1枚じゃ足りないとの事。


「流石に支払ってありますよー。太郎さんが納得しないと思いましたからねー。」

「そか、助かるよ。」

「お礼にキスしてくれてもいいんですよー?」

 

 何故かスーにキスされて、ナナハルどころか、子供達にもされた。

 最後はマナかと思ったら、うどんにアツい抱擁をされている。


「なにこれ?」

「闘いの前のおまじないみたいなもんじゃよ。まあ、本来なら見送る側がするもんなんじゃが・・・。」

「みんなで行く!」


 と、子供達にも言われた。

 ちなみにキスは、子供達が頬で、他は唇だった。何故かミカエルまでしてこようとしたのでフーリンにグーで殴られている。


「すまない、ココで食事すると食べ過ぎてしまうんでな。」

「お前達もトイレ済ませとけよ?」


「「「ハーイ!」」」


 闘いに行くのか、ピクニックに行くのか、差が分からない。




 瞬間移動して到着したのは、太郎達の見覚えのある門の外だ。かなり離れていて門まで遠いが、ココはマリアと名乗っていた頃のマチルダと戦った場所に近い。

 嫌な事を思い出す前に、周囲は騒がしく、門に向かって進む長蛇の列がある。こちらに気が付く者はおらず、突然の団体の出現でも、喧騒に変わりはない。


「みんな揃ってるよね?」


 周りを確認して、メンバーが揃っているのを確認する。


 太郎のすぐ傍には、マナ・スー・ポチ・うどん。その横にナナハルと子供達。後ろにはダンダイルとトヒラがいて、更に後ろにはフーリンとミカエルがいる。


「あれ、あの二人は?」

「バカコンビなら真上よ。」


 上を見ると、浮いている二人が、古代遺跡のようなモノを見詰めている。太郎も巨大浮遊物に視線を向けると、息が漏れた。


「でかいなあ・・・。流石にあんなモノが浮いてるなんてちょっと信じられないな。」

「目の前で見てるのに?」

「まあ、信じられないぐらい凄いって事なんだけどさ。」


 視線を向けたまま会話をしていると、物体の下の方から何かが出てきた。真下に向かって光の筋がゆっくりと伸びるのと同時に、何かも降りているようだが、太郎にはなんだかわからない。


「凄い美人ですねー・・・。」


 スーがそんな感想を言う。

 そのスーだって美人だと思っている太郎だが、世の中には上には上がいるもので、マナがブツブツと呟いている。


「今度あの姿で太郎を・・・。」


 聞かなかった事にしよう。

 それよりも、あの光の筋には連なる列に居る人達も気が付いたようで、騒ぎが大きくなっている。


「太郎殿、これはチャンスだと思います。」


 トヒラが太郎に助言すると、同意の頷きをする。


「よし、じゃあ行くか。」

「太郎さんはダメですよー。」

「え、なんで・・・、あ、そっか。」

「私が部下を集めつつ現地に向かいますので、お子さんたちは任せました。」


 トヒラがスーに太郎の子供達を押し付けているように聞こえるが、これは作戦通りなので問題ない。問題は部下が集まるかどうかである。


「遅れないで下さいねー。」


 そこで対抗心を燃やさないでくれるかな。

 ダンダイルも当然の居残り組で、トヒラの活躍を一番期待している。


「何処から侵入するつもりなんだろ?」


 その素朴な疑問は目の前で解決した。


「ああ・・・飛んで壁を超えるのか。でも、あんなのでカンタンに侵入できるって警備としては困るんじゃないの?」

「太郎君。」

「どうしました?」

「普通は気軽に飛べないんだ。全力で飛んで超えたとしても、その時にはへとへとで直ぐ捕まる。」

「ここって飛べる兵士多くなかった?」


 マナの記憶はたまには正しい。


「そう言われれば結構な数の兵士に追われた気が・・・。」

「警備兵もまともに機能しておらんよ。あの塀の上に居る兵士、子供達に気が付いたがソッポを向いただろう?」

「あ、ホントだ・・・。」


 子供達が次々と越えて行き、最後にスーが飛び込むと、さすがに警笛を鳴らした。指を丸くして口にくわえて吹く、アレである。


「俺、あの鳴らし方出来ないんだよな。」

「鐘を鳴らした方が早いと思うが、そもそもの鐘が配置されていないな。」


 ダンダイルらしく警備状況を確認しているようで、その視線の注ぎ方は熱い。そして、更に熱い視線を送るっている先には、光の筋が消えて、塀の外にまで響く歓声が国中を支配していた。






「飛べるから必要ないんだけど?」

「聖女としてのお披露目ですから目立つ方がいいんです。」

「能力は聖女だけど種族はサキュバスなのよ?」


 コルドー5世は屁理屈を言われても機嫌を損ねない。何しろ夢が目前に迫っていて、それを達成しようとしていのだから、いまなら頭を殴られても笑顔かもしれない。


「ここに立っていればいいのね?」


 満面の笑顔に見送られ、指定した場所に立つと、足元の床が消えた。しかし落ちない。上から光が降り注ぐと、ゆっくりと降下していく。


「なんか凄い技術ね・・・。」


 聖女の横には誰もいない。上には自分を見下ろす者達が、下には自分を見上げて指をさす者が、驚きの黒さだった。


「人だらけ・・・あ、パンツ穿いてないけど良いわよね。」


 横からも下からも風が吹く事は無く、歓声に包まれながら聖女として迎えられていく。地上にはすでに用意された舞台があり、そこに向かっているのは判るのだが、周囲が花で埋め尽くされていて、見るも鮮やか過ぎる。そこへ光によって輝くドレスが更に神々しさを演出し、その意味に理解を求める事もなく、舞台に立った。

 四方から純白の全身鎧に包まれた兵士が集まり、聖女に跪く。この演出の意味も解らないが、更にはこれからの事も意味が分からない。


「ついに聖女様が来たぞ!」


 何日も前から居るし、来たくて来たわけでもない。

 無理矢理召喚されただけなので、帰れる手段を見付けたら帰ろうと思っているなどと言える状況にない。


「聖女様これを。」


 差し出されたのは宝石で作られた豪華なだけの杖で、効果は何もない。真上からの光もいつの間にか消えると、杖を掲げるように促される。

 周囲の熱気に圧されて言われるがままに行うと、花火が打ちあがった。爆発音が国中に響くと、聖女はそのまま歩いて教会に向かう。

 そこで純白の兵士に呼び止められた。

 声はなんとか聞こえる程度にしか耳に入らない。


「あ、そ、そっちではありません、こちらです!」

「こういうのは打合せするんじゃないの?」

「されたのではないのですか?」

「知らないわ。」


 用意された馬車に乗り、作られた舞台の周囲を一周して、更に街をパレードするようにゆっくりと進む。

 道沿いに集まった者達。

 その中には片目や片足を失った者が多く居て、聖女に救いを求める。

 求められると応えてしまうのが聖女の所以であって、サキュバスとしては少し煩わしい。それでも乗った馬車から魔力を注ぎ込まれると、失った手足が、見えなかった視力が、立てなかった者達が、立ち上がって聖女に感謝の声を張り上げる。

 こうして、演出された奇跡は続き、パレードも続いていく。


 その表は賑やか過ぎ、その裏でも溢れた者が歩き回り、更に裏まで避けて、やっと人が通れる道がある。二人がすれ違う程度の狭い道は、生活道路で、道の隅には小さな窪みがあり、排水用の僅かな水が流れている。

 打ちあがる花火の音はここでも聞こえたので、水の流れる音は聞こえない。


「あの人が用意してくれた家がこの辺りに・・・あ、ありましたねー。」


 小さな一軒家は小さな窓と小さなかまどがあるだけの、四角い建物で、水瓶もあるが半分ほど減っている。スー達は素早く中に入り、休憩をする。


「スーさん、この水不味いよ。」

「太郎さんのようにはいきませんよー、元々水なんてそんなもんですしねー。」

「こんなに不味いんだ・・・。泥水飲んでるみたい。」


 子供達は村の有難味を身を持って体験していて、不味い水でも、大切に皆で分けて飲んでいた。


「私にも一口。・・・うん、確かに不味いですねー。」


 と、平気な顔で飲んでいるが、スーも太郎の水を飲み慣れてしまっていて、習慣というのは恐ろしいものだと実感している。


「上手く入り込んだけど、集合場所ってここじゃないよね?」


 ハルオの声は最近太郎に似てきていて、少し甲高いが、スーでも聞き間違えることがあるくらいだ。口調も似てきているかもしれない。


「そうですねー、でも向こうが先に・・・。」

「合図に使う花火あったよ。」

「でも、外もバンバン打ちあがってるけど区別つくのかな?」

「それより干し肉が有りますから、今のうちに軽く食べて置いて・・・あ、非常用の水も少しだけど持ってましたねー。」


 スーの持つ袋は小さいが容量無制限で、袋の口の大きさまでなら何でも入る。なので水筒を何本か用意して入れていたのたが、最近は旅に出ないのですっかり忘れていた。その水は村で汲んだ井戸水で、水瓶よりはマシかと思ったが、古くて飲めなかった。

 水を捨てて干し肉をかじる。小さな窓は外を眺めるのが目的では無く、ただの排煙窓で、そこを眺めていると紙切れが投げ込まれる。


「合図来たよ。」

「向こうも揃ったようですねー。」


 スーの子供達に向ける眼に火が灯る。


「少しぐらいの怪我は良いですけど、必ず逃げるように。目的は勇者達を太郎さんの所まで惹き付ける事です。逃げ過ぎないように、それでいて捕まらない調整が必要です。」

「はい。」

「では次の合図まで待ちましょう。」


 勇者をおびき寄せるのはスー達で、トヒラ達は集まって来るであろう兵士達の邪魔をするのが目的だ。

 そしてもう一つ、重要な言葉を聴くために待っている。

 それはダンダイルがどうしても必要だという言葉で、それが聞けなかった場合は計画を中止すると決めるくらい、今回の最重要項目の一つである。

 トヒラ達は何処から発せられるか分からない言葉を身を潜めて待っていて、パレードが終わりに向かう頃、光の筋も無く、ひっそりとコルドー5世が聖女と同じように降りて来て舞台の真ん中に立った。

 トヒラ達が注視するなか、演説が始まった。それは、空に浮かぶ物体の事であり、ゴリテアは神の船として言い伝えられてきたと説明する。聖女を降臨させ、全ての人達に平等な精神と信仰がココに集まっていると熱弁し、戻ってきた聖女を再び舞台の中央に立たせると宣言した。




―――そして、我が国は全土をコルドー神教国とする!」






 -おまけの二人-

 

 

 

 

ジェームス「こんなところにいたのか。」

フレアリス「モフモフ気持ちいい・・・。」

チーズ「・・・。」

フレアリス「この子、何となくいい匂いするのよね。」

ジェームス「持ち帰るなんて言わないでくれよ?怒られちまう。」

チーズ「?!」

フレアリス「そうね。」モフ

ジェームス「なんか準備してるし、出発するみたいだぞ。」

フレアリス「ん~・・・。」クンカクンカ

ジェームス「みんなに凄い見られてるんだから、そろそろ行かないか?」

フレアリス「そうね。」ポンポン

チーズ「(やっと解放される・・・)」

ジェームス「あ!」

フレアリス「あ?」


(太郎達が瞬間移動する)


ジェームス「行っちまった・・・。」

フレアリス「そうね・・・。」モフモフ

チーズ「(だ、誰か助けて~~!!)」

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