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第251話 伝説

 周辺諸国でもこれだけの人物が集まる事は、あり得ないと言えるメンバーが揃っている。ダンダイルが居るだけでも大変な事なのに、魔女が二人いて、ドラゴンが二人いる。そのドラゴンのうち一人には殺されかけた経験があるジェームスは、この席に座っているだけでも大変な事であった。


「・・・おかしいな、一介の冒険者だったはずなんだが。」


 憮然として呟くと、隣で同意する声がした。


「そうね。」


 更にその横から、経験者が付け加える。


「諦めたらいいですよー。」


 同じく、一介の冒険者だった過去を持つスーは、フーリンに拾われて以降、太郎に会うまでの間でも驚くような経験していて、まさにそれらを凌駕しそうな経験を積もうとしている。

 もちろん、生き残れればの話だが、太郎と一緒にいるようになって本当の身の危険というのを忘れてしまったのかもしれず、剣の訓練だけは欠かさず行うようにしていた。

 テーブルに飲物を並べているのはメリッサとミューで、エカテリーナは夕食の準備をしている。料理をすると見知らぬ人が集まってくるので太郎の家でやっているのだが、それでも良い匂いというのは漂うらしく、シルバを使って風の流れを変えて、上空へと飛ばしている。

 凄い能力の無駄使いなのだが、使っている方も使われている方も気にしていない。




 一同が席に座り、会議らしく始まるのはダンダイルのおかげとも言える。太郎には苦手な事だからトテモタスカル。

 一人立ち上がり、同席者を一通り眺める。太郎の席はダンダイルの横になる筈だったが、一番遠い席にいる。

 本来は困るが、一般人レベルとして扱って欲しいという、意思表示だという事にして諦めた。もちろん声が届かないほど遠い訳でもないので、そういう意味では困らない。


「一人足りないが、よろしいか?」

「かまわん、始めてくれ。」


 不在なのはツクモで、姉のナナハルが言うのだから問題ない。


「もう解っていると思うが、改めて言わせてもらう。コルドーについてだ。現在調査チームを結成して向かわせているが、向こうのギルドは既に機能していない。と、いうか戻ってこれるかどうかも分からない状態だ。」

「解っている事は?」


 マリアの発言で気が引き締まる。

 何しろ口調が違うからだ。


「勇者が集まり続けている事と、人の数が膨大だ。コルドーやガーデンブルクより北の地域は小国や部族が点在する地域で、今迄も殆ど気にしてこなかったが、かなりの数が流入していると思われる。」

「あんなところ空から飛んでも人なんて見かけなかったけどな?」

「文明を捨てて細々と暮らす者達も居るのだ。」

「大国と関わると碌な事が無いからの。」


 ナナハルにそう言われると反論できる者はいない。


「じゃが、魔物も多いであろう?」

「魔物と言っても知性を持つ人型だ。交渉は可能だし、無駄な争いをしない温厚な奴もいる。」

「ふむ。そのような者達でも聖女の力にあやかりたいという訳じゃな。」

「奇跡には勝てないからな。」


 聖女というのは伝説でもあり、一部では神と同義でもある。全ての病気を治癒し、死者をも蘇らせるとなれば、助けや施しを求めるモノが居ても不思議ではない。


「しかし、ならず者までも集まるであろう?」

「トヒラからの最初のに送られてきた情報の中に、ワンゴの部下を確認したそうだ。裏切ったのか、情報を集めているのか、ソレは判らないそうだが。」

「それでは肝心の、聖女の目的も、コルドーの目標も、全く分からないのじゃな?」


 ダンダイルは、頭をゆっくりと上から下へと動かした。


「コルドーは宗教国家だ。各地に教会があり、魔王国にも有るしこの村にも有る。」

「・・・コルドーの崇拝する神とは何だ?」

「一神教とは聞いているが、何を神として崇めているかは知らないな。過去の調査結果でも経典が有るらしいという事だけで何もわかっていない。」


 そう答えてから視線をとある人物に向ける。

 それに気が付いた者達が視線を追うと、汗をダラダラと流している女性がいた。


あなた(マチルダ)、まだ隠し事が有ったの?」

「え、えと・・・いや、そのー・・・。」

「コルドーと関わっている事は知っているのじゃ、さっさと楽になった方がヨイのではないのか?」


 コルドーの建国から召喚魔法まで、裏で関わっているマチルダは、一応知っているのだが、まさか本当に召喚できるとは思っていなかった事もあって、技術レベルとしての魔法陣の研究は趣味の領域を超えていない。だが、コルドーにとっては本気であったのだから、その結果が今の状態を作っているとなれば、感じる責任は重い。

 だが、その重さを少しだけ軽くしたのは、太郎の一言である。


「所詮、国家も魔法陣も目的を果たす為の道具なんだし、その道具がどう扱われるかなんてその人次第なんだから、気にする事無いんじゃないかな。人々の暮らしを良くする為に作られたのが本来の魔法だとしても、その魔法で人殺しをするんだし。」

「国家を道具なんて言うのは太郎ぐらいなもんじゃぞ。」

「そうね。」

「人が創造したモノは道具だよ。それ以上でもそれ以下でもない。どんなに歴史のある経典だって、人が作ったものだしね。」

「太郎さんは本当に神様が嫌いなんですねー?」

「ホンモノなら嫌いじゃないよ?」


 ダンダイルが小さく咳払いをする。


「真偽は別として、人々を無償で救う者を神に等しく思ってしまうのは間違いない。殆どのモノは助けられて苦情など言わないからな。」

「私なんて勝手に救った事にされて迷惑してるんだけどね。」

「それは世界樹様だけの悩みでしょうな。」


 ソコから話題を戻し、コルドーの現状を説明する。

 総人口の二倍を超える他国の者が入国し、奇跡の日を心待ちにしている。そして先日のピュールの事は直接説明してもらう事になった。


「ほら、話しなさい。」

「話すと言っても近付いたら向こうから襲ってきたんだぞ。」

「そういうのを失敗っていうのよ。」

「うぐっ・・・。」


 フーリンだけではなく、他の強者から睨まれれば顔を赤くして耐えるしかない。グッと堪えて一息吐いてから、言葉にする。


「アレが全員勇者だというのなら、勝ち目はない。死んでも死なない死霊の様な軍団に囲まれたら、個々が弱くてもいずれ負ける。ただ、一番強い勇者が誰かは分からなかったが、グレッグとか言う奴が率先して攻めてきたな。」


 マチルダの身体が僅かに震えたが、気が付いたのは隣に座るマリアだけだった。


「一度は焼き殺すつもりだったが、二度目には防がれると、組手魔法を使ってきやがった。」

「組手魔法って、勇者が?」

「ああ。」

「あれって姉さんが創ったんじゃないの?」

「別に古代からある魔法だけど組手魔法とは呼ばなかったんじゃないかしら。」

「まあ、その組手魔法も使い手に弱い奴がいるとそこが弱点になるみたいでな、何とか逃げてきたんだ。」

「ドラゴンが逃げてくるような相手か。」


 一般人らしい感想をあえてジェームスが言うことで、周囲に浸透する。

 不安になったのか、マリアがピュールに質問する。


「アナタどのくらい強いの?」

「ドラゴンの中では最低ランクね。」


 と、答えたのがフーリンなので文句も言えない。


「アナタは?」

「私はハーフだから何とも言えないけど、わたしより強いとなると指折り数えるくらい・・・。」

「それって1対1の場合でしょう?」

「そりゃあ・・・天使全員を相手に戦うって言われれば、負けないけど勝てる気はしないわ。」


 負けないというトコロにフーリンのプライドを感じる。


「私は負ける気しかしないけど、条件が揃えば勝てるかしら・・・。」

「条件って?」

「それは秘密。でも、逆に条件が揃わなかったらゴブリンの群れでも負けるわ。」

「まあ、条件が揃っても太郎君には勝てないでしょ。」

「それはそうねぇ。」


 魔女とハーフドラゴンが勝てないと認める太郎である。

 その太郎は、何かを考えていたようで、二人の会話を聞いていなかった。


「お主らのレベルにはついていけんわ。」


 ナナハルが両手を上げると、視線が太郎に集中して、初めて気が付く。


「え、なに?」

「太郎君はどう思っているか聞きたいんだ。」


 ここでの太郎は強さの事ではなく、対策について話した。


「聖女の存在が灯りに群がる虫と同じで、今はただ集まっているだけだと思います。だから、聖女さえ元の世界に戻すか、倒してしまえば元に戻るんじゃないですかね。」

「それはその通りだが、勝つ算段は有るのかね?」

「魔女だって結界を張れば魔力を感じなくなるくらいだから、聖女の周囲を強力な結界で閉じ込めたら勇者達も元の状態に戻るんじゃない?」

「まず、彼女に接近する方法が無いのだけど?」

「うん。」

「そして、結界に閉じ込めるのに成功したとしてその聖女と戦うのは誰になるの?」


 視線の熱が強くなって、太郎が身震いをする。


「え・・・俺なの?」

「ここにいるメンバーで一番強いの太郎じゃない。」

「マナにそう軽く言われると強い気がしないんだよ。」

「太郎君なら一人で天使全員相手にしても勝てるんじゃない?」

「あのミカエルって人強そうに見えるけど強さは感じなかったかな。」

「私と数時間渡り合えるくらい強いんだけど?」

「そうなんだ・・・。」


 フーリンが強いのは理解していて、ちょっと前にはスーにも勝てなかった太郎である。それが突然の高評価で、ピュールと戦った時も勝っていないのに、周りからは熱い視線が注がれている。

 そこへタイミングよくやってきたのがツクモである。

 太郎が息を吐き出すと、バタバタと入室してナナハルの横に座る。テーブルには奪い取ってきたガーデンブルク宛の書簡を無造作に広げているが、目の前のスペースに空きを作っている。


「意外と早かったの。」

「なんか落ち着かなかったのよね。」

「で、どうだったのじゃ?」


 その返答にはダンダイルも注目する。


「コルドーを敵にすると反感も多いから時間が掛かるのと、魔王国を敵にする事は無いという確約は貰って来たわ。」

「書簡は?」

「そのうち送るでしょ。」

「何処へじゃ?」

「そりゃあ、魔王国の方じゃないの?」

「何処に送り付けるか確認くらいしてくるのじゃぞ。」

「確認しなくとも書簡なら魔王宛に届くだろう。問題ない。」


 ツクモがうんうんと頷くと、用意してあったのだろう、メリッサが飲物を、ミューが軽食を、目の前の空きにスッと置く。

 ツクモが何も言わずに食べ、笑顔になっている。心の中でコレコレと言っているようでもあった。


「あ゛、もぅもぅ。」

「ちゃんと飲み込んでから喋るのじゃ。」


 ごくり。


「これね、コルドーの使者が持っていた書簡の中に変なのがあったんだけど、コレ姉さん知ってる?」

「なんじゃ・・・。」


 大事に持っていたのか、ツクモは袖の内側から取り出し、その紙を受け取ったナナハルが目を見張った。


「ゴリ・・・テア・・・?」

「知ってる?」

「ゴリテアと言えば伝説の空中要塞の名前よね?」

「巨人族の末裔じゃないのか?」

「古代文明の城ではなかったか?」


 それぞれが別々の感想を言うので、どれが事実なのか分からない。


「わらわが知っているゴリテアと言えば、古代文明の空中要塞じゃが・・・それも巨人族が操っているという文献をどこかで見たのう。」


 二つの意見がくっついた。


「ゴリアテなら聞いた事あるけど、ゴリテアって何だろう?」

「少なくとも、古代から伝わる伝説の種族の名であるのは間違いないな。」

「そうなんだ・・・俺の知ってるのだと天から遣わされた・・・違ったかな?」

「あぁ、地上では他に類を見ない程の巨人であったらしい。確かに天から遣わされたという説もあったが、伝説や空想上のモノだと判断している。」


 太郎は子供の頃に見たアニメを思い出して、墜落する姿を想像していた。


「ゴリテアは有名な伝説でな、巨大な建造物や巨船に名付ける事もある。」

「でも、そういうのって壊されてない?」


 ナナハルは目を大きく開いて太郎を見る。


「太郎の知識はなかなか面白いの。確かにゴリテアと名付けられたモノは全て破壊されておる。確認も取れずに行方不明になったのもあるが、ただの一つも残っていない筈じゃ。」

「へー・・・。」


 一つ気になる言葉もあったが、概ね太郎の想像や伝聞とそれほど変わらない。それならゴリアテって聞こえても良いと思うのだけど。この言語加護はどうなっているのかいまだに謎である。


「それにしてもそんな重要な物を簡単に手に入れるとは。やはりただモノではないという事か。」


 ジェームスが妙な関心をすると、ナナハルも同意する。


「確かにそうじゃ、どうやって手に入れた?」

「ああ、たまたま来てたから殺して奪ったの。」

「なんだ偶然か。」

「いやいや、敵の使者を簡単に殺してしまって良かったのか?!」

「かまわんよ、どうせ状況は変わらない。」


 ナナハルはあっさりと答えた。


「ツクモの姿を見られておるのなら、生かして帰した方が面倒じゃな。」


 ダンダイルも少し考えたが、確かに二人の言うことは正しい。

 状況は変わらないのだ。


「悪化するとは考えないのか?」

「生死関係なく、断れば悪化じゃよ。」

「確かに。」


 ダンダイルが呟くと、ジェームスも納得した。

 しかし、もう一つ気になる事がある。


「殺したのに何も言われなかったのか?」

「そのくらいで言われるような関係では無いわよ。」


 それがツクモが遊び惚けていあちこちを旅して周っていた事が結果的に良かったという事になる。


「でさ、そのゴリテアがなんなの?」

「ん?・・・復活?」


 その言葉に不安が走り抜けた。






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