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第245話 慌ただしく

 シルバの情報を得て、ダンダイルは魔女と太郎とマナを現魔王のドーゴルと面会させた。もちろん、ドーゴルがこの村に訪れていて、美味しい食事と温かい風呂を堪能するのは、この話が終わってからの事である。


「久しぶりですね。」


 相変わらず魔王らしくない魔王は、その挨拶から始まり、現在の状況と聖女の事について詳しく話した。

 聖女でサキュバスで勇者が集うという情報に間違いがない事が確認され、ほぼ同時刻にハンハルトからギルドを通じてジェームスがこの村に来るという手紙を受け取っていた。ギルドが開設されて初めて太郎宛の手紙が、急を要する内容なのが残念だったが、それなら直接太郎が行った方が早いと思っても、むやみに力を行使するモノではないと、ダンダイルに注意されている。

 必要だと思えばすぐに使いたくなるほど便利な瞬間移動魔法は、魔女達も必要時以外使わなくなっていて、数日ごとに行っていた魔王国へのパンの配達も週に1回と減らしている。


「現魔王が訪れるなど、とんでもない事になっておるな。」


 ナナハルが既にテーブルについていて、魔王が来ても動じることなく、ダンダイルとドーゴルの二人に椅子に座るように促している。

 座っていない太郎がいつもはエカテリーナが行う事をやっていて、今回はスーもいない。可能な限りの人払いをと考えていたが、ナナハルに限っては正妻だと主張した事と、マナも太郎も否定しなかった事で、妻としてこの場に居る事を許されていた。

 ただし態度は一番デカい。


「とりあえずコーヒーで良いよね。」

「えぇ、ありがとうございます。」


 集まった四人は、本来は三人の予定だったが、ナナハルは作業に夢中で、情報について少し出遅れている事を悔しがっていて、話を聞きたいと太郎に無理を言って席に座っている。

 纏まった資料はトヒラが作成したもので、ナナハルとドーゴルが読み終えると、二人とも汗を流して、コーヒーを一気に飲み干した。


「これって太郎君が淹れた・・・?」


 飲み干したのを後悔するようにカップの底を眺める。


「気に触るような事でもありましたか?」

「あ、いえいえ。あまりの美味しさに・・・。」

「確かに美味いが、コーヒーよりも聖女の方を気にせんのか?」

「情報を見る限り、我々の出来る事はコルドーがどう動くか監視するだけです。」

「聖女が勇者を集めているという行動を無視するのか?」

「ハンハルトとガーデンブルクはどう動いているか分かりますか?」


 ドーゴルの質問は当然だが、答えられる者はいない。


「ハンハルトならジェームスさんじゃなくてもキンダース商会が居るから、魔女に伝えれば届くんじゃないですかね?」

「そっちは、わたしに任せてもらおう。」


 ダンダイルが言うとドーゴルが肯く。


「ガーデンブルクはおぬしらでは無理じゃな。わらわも無理じゃが、ツクモなら何処にでも行けるでのう。」


 ツクモが妹であるという説明はしない。


「調査をその人に頼んでも?」

「あ奴の住んでいる場所が近いから影響も受けるじゃろ。そのうち逃げてくるだろうから、その時にでも言っておく。」


 ドーゴルは悩むふうでもなく、淡々と物事を通過させているように眺めている。まるで自分の仕事ではないような感じだ。


「しかし、時間はあまり無い。というか、どのくらいの猶予があるかもわからない。」

「猶予がどのくらいというよりも、相手が何を目指しているかという方が重要じゃろうな。」

「それはそうだが、それを確認するには直接見に行くしかないだろう。」

「潜入するという事じゃな。それなら我らでは無理じゃ。」


 魔力が強過ぎてすぐばれるのだ。

 結界で隠す事も可能だが、強力な結界や偽装を掛ければ魔力は隠せるが、逆にバレやすい。


「トヒラに人選させよう。今回は生きて帰れないこともある。」


 ダンダイルが厳しい表情に替わる。


「あとはジェームスさんが来るのを待つか・・・。」


 太郎が呟くと、ナナハルが別の事に気が付き、窓の外に視線を向ける。


「やっぱり呼ばなくても来おったな。」


 飛んで来たツクモが、近くの誰かを捕まえて、ナナハルの居場所を問い質している。答えられる者が見つかるまでに数人が犠牲になり、ドアが開かれるまでに数分待った。


「いたいた!」

「なんじゃ、騒がしい。」


 ドーゴルとダンダイルが居る事を気にすることなく、太郎に目もくれず、姉に直行する。


「変な奴らがぞろぞろやって来て、あちこち荒らされそうだったから吹飛ばしてたんだけど、どんどん数が増えてきて・・・。」

「た、多分勇者みたいなのが数十人ぐらい・・・。」


 多分と言う自信の無さには理由がある。


「なんで、あんなのが集まってくるの?!勇者って同じ場所に来ない筈でしょ!?」

「普通はそうじゃ。じゃが、今は違う。」

「え・・・どういうこと?」


 ここでダンダイルが発言する。

 横から声が聞こえた事だけで驚いていたが、その内容だけでも驚いている。


「勇者が集まってるって・・・。なんなの、世界が終わる準備でもしてるの?」

「半分正解じゃ。」

「半分?」

「これから、そうならない様にするのじゃ。」


 改めてナナハルが説明すると、内容はダンダイルとほぼ同じだが、最後に付け加えられた一言で、ツクモは愕然とする。


「なんでーー!」

「お主、あちこちに知り合いおるじゃろ。遊び歩いておったしの。」

「い、いるけど・・・。」

「なら決まりじゃな。城に入れるのならもっと良いのじゃが。」

「入れない事はないけど。」

「それは都合が良いな。」


 ダンダイルが割り込む。


「なら、ドーゴルの名で書簡を用意する。直接国王に渡して欲しいのだが、出来るかね?」

「そんくらいなら。」


 そこからはツクモの話を詳しく聞く事になった。

 ツクモが襲われた事も重要で、ハンハルトからコルドーに向かった勇者が相当数存在するという事実も、驚愕に値するのだから。






「聖女が現れてから休みなしだよ。」

「そんなこと言わないでくれ。」

「なんでこんなにいるんだ?」

「一度地方に出た奴らも戻ってきているらしいぞ。」

「商人も荷物も山のようにやって来るし、もう二日寝てないぞ・・・。」

「・・・お、おい。ズルいぞ、寝るな!」

「寝る前に、チェック済みの項目を・・・。二度手間になる・・・。」

「あいつらをココから叩き出して廊下で寝かせろ。」

「管理官はどうなさいます?」

「俺が代わりにや・・・r」


 こうして入国管理を行う3人が倒れ、交代を余儀なくされていた。その最大の理由は、全世界のギルドに向けて、聖女披露式典を行うという事を広めたからなのだが、開催まで1ヶ月という短さの所為で殺到しているのだった。

 何しろ聖女は自由に町中を歩き回っているため、既に知らないモノの方が少なく、コルドー5世は予定を大きく変更して、主導権だけは渡さないようにする事に必死だった。


「とにかく盛大にしろ。他国にもっと宣伝するのだ。時間がない。」


 そう指示して、大聖堂の周囲の広場は開催当日まで立ち入り禁止とされ、国費も制限なく投入され、盛大なだけで内容の全くない式典の準備は進められていた。

 その間の聖女は普段と変わらず自由に振舞っていて、集まる勇者たち一人一人に何かを施していた。それが何であるかは全く分からないが、勇者たちはそれぞれが自由な行動を許可され、特に何もなければ聖女によって集められているとは思えないほど、違和感のない生活を送っている。まるでここに居るのが当たり前の様で、太郎が知る勇者の一人であるマギも、ココが家であり、故郷であり、生活圏だという事に違和感がない。

 そんなマギも、呼集されれば、全ての用事をキャンセルして聖女の許に集う。

 その時だけ、勇者たちは周囲から違和感の目を向けられていた。



「もうこんなに集まったのね。」

「100人を超えました。これだけでも一国と戦えるでしょう。」


 応じているのはグレッグで、聖女のお気に入りである。マギはその100人の中に隠れていて、どこにいるか分からない。


「しかしねー・・・集まっても戦争するのが目的じゃないしなあ。」

「聖女様は何を求めるので?」

「平等の愛かしら。」

「それを受け入れられる環境を作りたいのですか?」

「愛に環境は必要無いわ。人と私がそこに居れば成立するのよ。あなた達も同様にね。特定の人は必要ないのだけど・・・。」


 聖女は集めた勇者たちはその場で解散させると、バラバラにどこかへと移動して行く。残ったのはグレッグだけだ。


「あんな魔女に扱き使われていたなんて不幸な子よね。」

「・・・。」

「さあ、いらっしゃい。特別扱いしてあげわね。」


 グレッグは招かれるまま聖女の腕の中へと吸い込まれた。





 それから暫くして、村は異様な活気に包まれていて、聖女の情報が噂と事実を混ぜて広まっている。その村を目指す二人が、息を切らす者と、服に付いた埃を払う余裕が有る者とで、森を抜けた先の広い街道の見える所まで来ていた。


「よし、一週間で着いたぞ・・・。」

「全力で走るなんて思わなかったわ。」

「まだ余裕がありそうだな?」

「そうね。」

「太郎君を探す・・・あ、なんか変わってるな?」

「あれ、鉄道?初めて見たわ。」

「初めて見てわかるのか?」

「実物はね。」

「トロッコが動いてるな。」

「乗る?」

「乗らなくても線路沿いを歩けば着くだろ。重要な施設が有ればその近くに自宅があるだろ。」

「前の所じゃないの?」

「いや、迎えが来たな。」


 パタパタと飛んで来たのはカラーとキラービーだ。それを追うようにケルベロスがやってくる。


「やっぱりお前た・・・ぎゃぁぁぁぁ?!」

「ぽちちゃーーーん!!」


 愛のある強力な抱擁で動かなくなった。


「何やってんだ・・・。」

「太郎様に御用ですよね?」


 ホバリングしている鳥に話しかけられる事も、この村では異常な事ではない。


「ああ、スマンが伝えておいて欲しい。」

「・・・。」

「そっちの雄殺しは何を言ってるんだ?」

「ポチが可哀想だ・・・と言ってます。」

「それは同意する。あと太郎君にポチを少し借りると付け加えておいてくれるか。」

「承知いたしました。」


 パタパタ―っと去って行く二匹よりも、抱き付かれて助けを求めてくる残った一匹に同情の視線を向けた。


「諦めてくれ。」






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