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第244話 集まる人々

 頭を下げて動かなくなったマチルダを、不機嫌に睨みつけるのはスーで、当然といえば当然である。何しろ散々苦しめられた挙句、苦労して逃げる事になったし、マナにとっては誘拐されてひどい目にあった事も有るのだ。

マナの方は気にしている様子があまり感じられないが。


「太郎君が断っても何の問題はない。立場的に・・・という意味でな。」

「元から関係ないですけどねー。」


 スーがむくれている。


「この問題は国家間で対応するレベルになる。コルドーが宣戦布告をするかどうかは分からないが、勇者が集まるとなればこの大陸以外の国も警戒するだろう。」

「残りの聖女が召喚されたらどうするのよ?」


 マナの疑問はダンダイルの背筋を冷たくする。


「・・・予想はしたくないが、御伽噺と同じようになるでしょうな。」

「それって、コルドーは生き残れるんです?」


 太郎の質問に深く考え込む。


「確かに・・・。生き残る計画は有るんだろうか?」

「聖女の召喚が成功したのなら、他の国でも召喚の儀を実行するでしょうね~。」


 マリアの言葉はマチルダに深く突き刺さる。

 あの魔法陣はそうそうマネできるようなものでは無いし、そもそも作り方を広められても使える者が存在しない。

 ・・・筈であった。


「まあ、ハッキリ言おう。」


 ダンダイルが姿勢を正した。


「いま対応できる人物が居るとすれば、太郎君か世界樹様以外にいない。」


 それはダンダイルの知る範囲で、という限定になるが、国内外でも高い評価を受けていて、信用性も高く、多くの知り合いを持つという稀有な存在であるダンダイルが言うのだから、魔王国内でなら、その一言で決まるだろう。


「俺とマナ・・・ですか・・・。」

「私よりうどんのほうが良いかもね。」

「うどんって強いの?」

「あんなんですけど、魔力量だけなら凄いですよー。もちろん太郎さんとは比べ物になりませんけど。」

「闘いには向いていないと思うけどなあ・・・。」


 ダンダイルはうどんとは関係ない事の方が気がかりで、耳に入っていない。


「戦争になるとしたら各地のコルドー系教会が敵になり、この村も例外ではなくなってしまうのがな・・・。」


 教会の問題は最近の悩みの一つでもある。


「ともかく、コルドーの最終目標が何なのか、ハッキリしないと対応もなかなか。」

「どうせ世界征服でしょ~?」


 もっとも判り易く、もっとも可能性の高い候補の一つだが、現在のコルドーの人口と戦力では不可能に近い。ただ、信者数は不明なので世界中に存在するとなれば脅威でもある。ともかく不確定要素が大きいのだ。


「特に聖女の周囲に勇者が集まるとなれば、時間が経つほど手に負えなくなる。」

「直接原因を取り除くのが効果的なのだけれど~・・・。」


 それは聖女を直接対決で倒すという事になる。


「直ぐに行動に出ますかね?」


 太郎の質問を回答するには重い。

 ただし、ココで回答するのはダンダイルしかいないのだ。


「私が聖女を擁しているという考えで言うのなら、特に何もして欲しくはないな。聖女の力を効果的に広めるには奇跡を起こす方が重要だからなあ。」


 この場合の奇跡の内容については深く言及しない。


「とにかく調査して情報を集めるなら俺が・・・というか、シルバに頼むのが一番安心かな。」


 この場にトヒラがいて、その言葉をきけばがっくりと肩を落としただろう。むろん、シルバの情報収集能力に勝てるとは思っていないが、それでも魔王国で一番だという自信が有るのだ。

 肩を落としているのではなく、全身で力を落しているのが現在のマチルダで、頼る相手の顔を見る事も出来ない。


「いつまでもそうされても困るし、とりあえず引き受ける事にするけどさ・・・。」

「保留付き・・・ということね~?」

「そりゃあ、前みたいにマナに危害を加えるというなら全力で戦うけど、そうでなければ国家間の戦いになるんでしょ?ハンハルトの時みたいに条件が揃ってたら別だけど。」


 ハンハルトが戦争状態に陥ってしまうという事案の時、太郎は仕方がないと思いつつも、意外に積極的に考えた上であの作戦を思いついている。結果として戦争は止まり、争う理由が無くなった事と、相手が物分かりの良い国だったというだけで、太郎としては自慢するような内容ではない。


「同じ作戦は使えませんからな。」


 内容を教わった時の衝撃は忘れられず、効果的であったことを十分に認めているダンダイルは太郎の力を過信しているかもしれない。


「100万人は騙せても、たった一人の聖女を騙す事は出来ないのね?」


 急に真面目になるマリアにはもう慣れたが、スーも同じようなトコロが有り、喋り方が似ている時も有って、分かりやすくて助かる。


「他人を騙すなら身内からというけど、身内を騙す必要が無い時はどうするべきだと思う?」


 珍しい太郎からの質問にダンダイルが答えた。


「先に仕掛けるという事で?」

「うん、さすがに解るよね。」


 だが、それは何も知らない相手に情報を与える事にもなりかねないが、シルバが居る限り情報収集の速さなら負ける事はない。正確性に問題があると思っているのは太郎だけだが。


「戦争を止めるのとは違うから、ウソでも良いから相手に信じ込ませる必要が有るだろうね。」

「何をするつもりなの?」

「聖女って召喚されたんでしょ?」

「そう、ね・・・。」


 不思議な瞳を輝かせて魔女が太郎を見詰める。


「だったら元の場所に戻す、()()魔法もあるでしょ。」

「ないわ~。」

「無くても良いよ、有ると思わせれば。」

「なるほど・・・強制召喚されたのなら、強制送喚もあると?」

「そう思わせれば活動しにくくなるんじゃないかな。」

「確かに・・・。技術的に可能という可能性は?」


 ダンダイルの質問に答えられるのは魔女だけだが、マリアは考え込み、マチルダはすがる様にマリアを見ていて、可能性は低かった。


「転送は出来るのだから、不可能とは言わないわ。ただし、呼び出した人が同じ場所に帰れる保証はほぼ無いわね。」

「そういう可能性の低さなら問題ないよ。実際に俺がこの世界に来ているんだから。」


 マナが思い出したように言った。


「そういえば私は()()()()()もんね。」

「そういうこと。」


 マナと太郎にしか分からない答えがそこにあった。




 コルドーの教会本部では、聖女のお披露目という最大の式典をいつ開催するのか、議論となっていた。ところが、議論をしている間に聖女は町中をウロウロしていて、出会う人々すべて、男女分け隔てなく、種族の壁もこえて、愛を振りまいていた。

 その中には性行為をした者もいるのだが、それ以上に多かったのが、治療を受けた者達である。貧困に苦しむ者も少なくない世界ではあるが、この国では貧困よりも病気で苦しんでいる者の方が多く、特に老人は寝たきりが多い。信者である故に祈りがいつか癒してくれると信じていて、回復魔法もその手段の一つではあるが、末端の信者にまで使ってもらえることは少なく、神によって苦しみから解放される時は、死の時であった。

 そんな彼らをあっさりと救い出したのは名も知らない女性で、それが聖女だという噂はあっという間に広まり、噂が噂ではない事が伝わると、本部の前には多くの信者が集まり、聖女の出現を喜んでいた。


「あの聖女は何を考えているんだ?」

「さっぱり・・・。」

「無節操に振りまかれては聖女の価値が下がる。直ぐに連れ戻すのだ。」


 その命令を出してから、聖女が戻るまで三日かかったのは、そばに勇者が居て手が出せないのと、その勇者らしき人物が30人程に増えていた事だった。

 その中の一人は太郎とした親しく成った者がいるのは、彼等には知らない事だ。

 

「出所不明の者達が聖女を取り囲んでいて、なかなか近づけません。」

「それでは我々の計画が進められないではないか!」

「そう言われましても、近付くと逆に取り込まれてしまう者が多くて。」

「魅了か・・・。」

「そのような魔法を使っているようには見えませんが、近付くだけで何か空気が変わるというか・・・。」

「結界魔法を使ってもダメか?」

「魔法を使うと近づけません。」

「ああ・・・確かにな。」


 結界魔法の精度が低い所為での事であって、魔女程の者が使う魔法であればそんな事はない。


「コルドー教も魔女あってここまでこれたのに、その魔女も頼りにならん。」

「あのお方は今どうしています?」

「敵となった。」

「敵に?!ど、どうして・・・。」

「どうやら聖女の連れていた男の一人が魔女と繋がりが有るようなのだ。詳しくは分からないが、あの男は確か部下だったハズ。勇者だと聞いていたが・・・。」

「ガーデンブルクの兵士でしたよね?」

「魔女の仮の立場との事だが、いつでも捨てられるような立場とも言っていた。」

「このままだと、どうなるのでしょう?」

「ともかく、戻ってきてもらわねば話にならん。」


 こうして、待たされた挙句に本部前の大混雑を解散させるのにさらに五日ほどかかり、聖女と正面に会話出来るようになったのは十日後となった。

 残りの二日間はコルドー5世としての公務で、聖女の所為で湧き立つ貧困街の制御する方法を話し合う事だった。

 貧困と病気は教団としての教えを説くのに効率が良かったから、一定数必要な存在であったのだが、聖女の所為で病気が失われれば、貧困で苦しむ者も減って行く。

 病気もなく働けるのなら収入が得られるわけだから、国として豊かになるのは喜ばしいことではあるが、豊かになった民は神や救いを必要としない。宗教国家としては致命的なのである。


「聖女ソレ様。」

「なーに、あらたまっちゃって。」


 ここ数日で聖女の魔力は増幅されている。

 呼び出した直後とはまるで違うのだ。


「聖女様はこれからどうするおつもりなのか、お聞かせいただきたい。」

「あんた達が呼び出したんでしょ、勝手にやらせてもらうわ。」

「そ、それは困ります。」

「誰が困るのよ。」

「そ、それは・・・その・・・。」


 聖女の後ろには男女50人程が居て、聖女が勝手に連れて来た者達なのだが、食事や宿の面倒はコルドーが手配していた。全てを本部内に入れておくことは出来ないので、近くの教会に移動してもらっているのだが、彼らは聖女の傍に居ない時は至って普通に見える。ただし、コルドー教の信者ではない。

 

「あと、聖女様のお力をむやみに行使されるのは控えて頂きたいのです。」

「なんでよ?」

「回復魔法は使用者が少ないのです。特に聖女様のお力と判れば多くの者達が訪れるでしょう。」

「どこに問題が有るの?」

「多くの者が訪れるという事は、聖女様のお力を悪用しようと思う者も現れます。ご注意あって然るべきと思いませんか?」


 その言葉を吟味するかのように考えている。


「・・・別に困りはしないけど、アナタ達が困るというのなら呼び出した責任と思ってちょうだい。」


 そう言われてしまえば反論の余地はない。

 呼び出された側にしてみれば、何一つわからない世界にたった一人呼び出され、誰一人知り合いはおらず、行動も生活も制限されるとなれば、腹が立って当然なのだ。


「それより、わたしを呼び出す事が出来た事実の方が驚きだわ。これであの子達も来たら大変な事になるんだけど?」

「あの子達・・・?」

「六人姉妹の一人で残りの五人も聖女なんだけど、私が呼び出されたんなら、他の子達も呼び出されるのよね?」

「・・・え?」


 聖女は世界に一人だけだと信じていた男には衝撃的な事実だった。







ワザと 送喚 と表記しています

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