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第241話 聖女現る

 国営のギルドが完成し、ギルドには多くの冒険者と商人と旅人が集まっていた。ギルド長に就任したのはトヒラ将軍であったが、それは名前だけで、ほぼ代理が務める事となっている。代理にはカールが適任とされ、就任する予定になっていたが、本人が固辞した為、代理に就いたのはルカ・チャチーノであった。

地方に飛ばされる事を何かの罰だと思い込んでいたのだが、就任して当日から激務に襲われ、寝る暇もない毎日を過ごす事となった。

本来の職務とはかけ離れていたのだが、この村を正しく知る人物としては他に候補者がいなかったというのが大きな要因であった。ダンダイル曰く、落ち着くまでの間だけという事で、正式な人選をこれから考えるという。


「で~、私も忙しいんだけど~?」


 魔女のマリアはギルド設立の初期メンバーに含まれていて、重要なシステムに関してすべての設定を行っている。何しろ、紙を転移させる装置の製作者なので、直接ダンダイルに頼まれたらしい。


「ココは国営と冒険者のギルドとして両方の機能を持つ事になる、統合施設として運営するのに、他に候補者がいない。」


 しっかりとたっぷりの報酬を提示しているというのは後で教えてもらった事だが、お金に転んだという訳では無く、技術者として優秀なのは間違いないので、それだけの価値があるという事で、その金額になったらしい。


「賑やかに成るというのは悪いことじゃないけど、犯罪も増えますからねー。」

「太郎殿に迷惑がかからないようにするさ。」

「むりねぇ~。」

「ですよねー。」


 スーとマリアが同意していて、カールは逃げるように二階の執務室に向かった。その二階には、トヒラとダンダイルとルカが今後の方針について話し合っている。カールはその席に呼ばれていてのだが、巡回で遅れていた昼食を済ませていた時に、スーとマリアに弄られていたのだった。


「おそいぞ。」

「すまん。」


 ダンダイルとトヒラが居ても、二人の会話から始まったのは、カールの情報を待っていたからである。ルカが座ったまま促すと、カールはまとめた書類を手に持ったまま報告する。


「予想通りの結果です。」

「そうか。」

「もう少し知名度を上げてもらった方が良いのでは?」

「それは本人が望まないからな。」

「不思議な人ですなあ。」

「お前から見たらそうだろうな。」

「違うのか?」

「違わない。」


 二人の会話にダンダイルが笑う。


「本気で狙われても見ろ、お前達二人なんで路傍の石ころ程度になるぞ。」

「でしょうね。」


 クスクスとトヒラも笑った。


「それでいて意外と活動家なのも驚きですよ。この村の木材の殆どは太郎殿が伐り出したのでしょう?」


 カールがまとめた書類をテーブルに置いてルカが確認している。


「それよりも凄い情報が入ったぞ。アンサンブル経由だから遅れたが、数日前に現れたらしい。」

「・・・え?」


 カールが何を言っているか分からないような表情でルカを見ている。


「ああ、まだ最新の情報でな、確認は取れていないがコルドーのギルドでは大々的に言いふらしているようだ。」


 そのあとに続いたのはダンダイルである。


「聖女が復活したらしい。」

「・・・聖女?!」





 コルドーの本部内では噂の張本人が大き過ぎる椅子にベールを身体に巻いただけの姿で座っている。

 豊満な胸に似合わない細い身体に、低すぎる身長と、童顔と言われるにふさわしい顔で、綺麗な肌は男を魅了するに十分な美しさがあり、聖女と呼ばれるだけの風格は無い。


「暇なんだけど・・・。」


 座っているだけで何もする事のない聖女の目の前にはコルドー5世しかいない。なぜなら、聖女の放つ魔力に勝てないからで、コルドー5世は既に負けている。


「聖女様は何故そこまで求めるのですか?」

「人は愛するモノでしょう?」

「確かにそうですが・・・。」


 聖女様はすでに10人の男と接していて、虜どころか絞り過ぎて倒れるほどであった。やればやるほど元気になっていく聖女を相手にするのに、体力馬鹿の屈強な男を5人用意しても、翌日には逃げてくるほどだったのだから。


「魔力が必要なのは分かっているでしょう?」

「他に方法はなかったのですか?」

「ないわ。」


 予想の斜め上を平然と行う聖女に、コルドーの幹部達も困っているのだが、困っているだけで対策はない。しかし、見た目は子供で、初見ならそんな人物には全く見えないのも問題であった。


「そろそろ、外に出してくれないのなら勝手に行くけど?」

「そ、それは困ります。」

「呼び出したのはあなた達でしょ。」


 大きな溜息を吐く。


「聖女としてもう少し振る舞いを・・・。」

「あんた達がどんな聖女を期待しているかは知らないけど、本来聖女というのは愛を平等に振りまくのが本分なのよ。」

「愛というか欲望にしか見えないのですが・・・?」

「最初にしてもらって喜んでいた男とはおもえないわね。」


 コルドー5世は色々な意味で顔を赤くする。


「た、確かに愛は頂きましたが、魔力もかなり減ったのですよ。」

「そうしないと私の魔力が回復しないのよ。」

「難儀な・・・。」

「別に私は難儀でもないけど?」


 欠伸をして、伸びをする。

 それだけでベールがはだけてしまい、胸があらわになるが、恥ずかしがるそぶりもない。


「服って面倒ね。」

「着ていただかないと外も歩けない世の中ですよ。」

「そうみたいね、私が生まれた頃は殆ど裸みたいな人ばかりだったけど。」


 何万年前の話なのか問いただしたくなる回答である。


「それよりも、聖女の奇跡は起こせるのですか?」

「蘇生魔法は無理だけど、瀕死くらいならどうにでもなるわよ。」

「魔力が足りれば蘇生魔法も可能なのですか?!」

「不可能ではないけど、神様の許可が必要かしらね。」

「か、かみさま?!」


 本気で言っているその言葉に、驚く以外の事は出来なかった。

 彼女を呼び出してコルドー教の計画を有利に進める計画は、かなり困難な道であるように思えるのだった。






 賑やかになった村では、娯楽も求められるようになっていた。

 そこで呼ばれたのが踊り子の一団で、仮設テントでは美女の踊りや劇を見せる舞台が繰り返されていた。


「太郎さんは行かないんですかー?」


 昼食の時の会話である。


「踊り子って言ってもなあ・・・、劇とかあんまり興味ないから。」

「武勇譚の劇は面白いらしいですよ?」

「どうせ勧善懲悪だろうから・・・ね?」

「あー・・・そうなるんですよねー・・・。」


 太郎の興味は食事の方である。


「ホットケーキにバターをのせて食べるなんて久しぶりで、こっちのほうが嬉しい。」


 エカテリーナはいつも通り食堂で働いているが、それとは別に太郎達の食事も作っている。忙しさはたいして変わらないと言っているが、スーが手伝っている所を見ると、少しは忙しさが増していると思う。


「楽しくてやってるんですからっ。」


 とは、エカテリーナの回答である。


「ギルドから聞いた聖女の方が気になりますかー?」

「聖女って知らないんだけど?」

「マナ様が知らないって事は魔女に聞いた方がいいんですかねー?」

「少なくとも私は知らないわ。勇者なら知ってるけど。」


 室内でするするッと風が吹く。


「聖女について調べてきましょうか?」

「聖女って言うくらいだから悪い存在じゃないでしょ?」

「その昔に現れた聖女は6人程いましたが、今はまだ現れる筈の無い時代なので気になって。」

「ろくにん?!」

「タローはなんでそこで驚くの?」

「そういう特別な存在って・・・いや、勇者も沢山いる世界だし、関係ないか。」

「勇者は面倒だったけど聖女ってどうなの?」

「勇者を従える無敵の集団を作ると言われています。6人いた時は聖女同士で敵対してすべてが滅びました。」

「それ、何年前の話?」

「10まん・・・?」


 シルバが考え込むほど昔の話だという事が分かった。


「勇者ってそんな昔からいたの?」

「当時勇者と呼ばれていたかどうかは知りません。」

「まあ、勇敢なる者って意味をそのまま捉えれば、誰でも勇者に該当するからなあ。」

「それでも、聖女が現れるって、御伽噺でしか聞いた事ありませんねー。これって本当の情報なんですかねー?」

「コルドーがばらまいてるって言ったから、ウソだとしても、なぜ今時期にその嘘をつく必要があるのか根拠を知りたくなるだろうね。」

「侵略ですかねー?」

「ハンハルトも弱体化しているらしいし、ボルドルトは静かだし、ガーデンブルクは攻めてくるはずも無いから・・・。」


 太郎の説明を聞くと、スーの回答が一番正解に近いだろう。


「確定じゃないし、イチイチ村まで来るのも面倒なんだよね。」


 グリフォンが追い払ったおかげで太郎は直接戦闘に参加する事は回避できたが、次も回避できるとは限らない。しかも、今度は聖女がいるとなれば違う方法で接近してくるかもしれない。

 太郎にとっては面倒な話である。


「どんどん村も大きくなるし、そろそろ旅に出ようかなー。」


 子供達を連れていくかどうかも考えなければならない事もあり、太郎の口から旅に出ると言うのは、意外と珍しい。ただ、計画はずっと前から有るのはスーもマナもポチも知っている事だ。


「トレントとマナの木を増やして各地に植えて回るのもマナの為になるかもしれないし・・・。」


 負のマナと正のマナの関係性もまだ詳しく分かっていないが、実行しなければ今後も解らないだろう。

 魔女には反対はされないが協力もしてくれないだろうから、これらは太郎とマナのやるべき事の一つになっているのだった。


「聖女が本物かどうか見極めておいた方がいいかも?」

「うーん・・・マナが言うなら調べておこうかな?」


 太郎がそう言っても、実際に調べてくるのはシルヴァニードである。窓を開くと、風が外に向かってスーっと流れるのを身体で感じると、太郎はそのまま景色を眺めていた。






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