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第236話 変わる世界

 マリアが向かった先は、トロイアと呼ばれる村で、村の9割が図書館だ。残りは住居である。毎日書物を読んでいる・・・のではなく、貴重な書籍の保存と写本を行っている。紙は特に貴重なので、紙を作る為だけの木材も保管されていた。

遠慮もなく入ると声をかけられた。


「こんなところに何か御用ですか?」

「アナタ達の大切な資料なんでしょ~?」

「そうですけど、持ち出しは許可できませんよ。」

「持ち出すつもりはないけど~・・・昔ココに本を置いていったような気がして~。」

「・・・そう言われれば先祖代々の言い伝えで、このコインと同じ顔の人に本を渡せというものがありまして。」


 コインはこの世界の貨幣で、古いコインは刻まれた女性の顔が殆ど分からないが、使用せずに保管してあったコインにはマリアと同じ顔が刻まれているのが分かる。

 案内され、図書館の奥へと進む。ボロボロの建物の中でも唯一重厚な扉に閉ざされた部屋の前に辿り着いた。


「ココにあるの~?」

「この扉は誰でも開けますが、中にある本は我々では開けません。」


 押すと鈍い音が響き、真っ暗な部屋の中に台座が有り、そこに置かれた本は分厚い。


「これは・・・思い出したわ・・・でも・・・今の私でも少し・・・足りない・・・か・・・。」


 悩みつつ、マリアは本を手に取ると、許可を求める事無くそのまま持ち出した。





「すごい・・・こんなに美味しくなるなんて・・・。」


 ファリスはどちらの味も知っているので、驚きは小さいが、その他の者達は驚きと食欲が増幅していた。


「こんなに大量に食糧が有るなんて・・・どれも美味いし・・・。」

「しかし、こんな枯れた土でどうやって・・・?」

「ココのトレントってそういう能力ないの?」

「特に・・・何かしてくれたことはなかったよなあ・・・喋ったのだって、さっき初めて聞いたし。」

「あの声ってみんな聞こえてたの?」

「え?えぇ・・・みんな聞いてました。」


 トレントの生えている場所はココからそれなりに離れている。それでも聞こえたという事はトレントが大きいのか、もともとそういう能力なのか、良く分からない。


「じゃあ、話しかけたらこっちの声も聞こえるのかな?」

「おーーーい、きこえるーーーーぅ?!」


 マナがどういう声なのか頭に響く程の大声を発した。


「きこえますぅぅぅぅぅぅ!!」


 トレントの声だ。

 実はこれも鼓膜を叩いているというより頭に響く。

 ちょっと頭が痛い。


「うるさいからやめてぇぇぇぇぇぇえ!!」


 マリアの声だ。

 どうやってるんだこれ。

 周りのみんなも耳ではなく頭を抱えている。

 ポチは特に表情が歪んでいた。


「アンタちゃんとシゴトしてんのおおおおお???」

「してますよおおおおおおおお!!!」

「なんでこんなに作物がダメなのよおおおおお???」

「そんなのこの世界を創った人に言ってくださいよおおおお!!!」


 マナが一瞬考えたがすぐに気が付いた。


「バカ女ああああああ!!!」

「わるかったわねぇぇぇぇぇぇ!!!」


 なんなんだこの会話。


「あんた魔力貰ったでしょおぉぉぉおおお???」

「・・・あっ。」


 空が明るくなって、周囲も良く見えて、自分達が汚れている事も分かる。

 トレントの能力で出来なかったのは単純に魔力が足りなかったからで、今なら可能なのだ。


「そんな事よりぃぃぃ、暇ならこっちきてぇぇぇぇえええ!!!」


 マリアからの突然の招集は、意外な事だった。

 顔を見合わせた太郎達は、ファリス達を残してマリアの求めに応じる事にし、その場をから移動すると、残された者達はファリス親子のあまりの綺麗さに気が付いて、どういうことかと問い詰め始め、太郎達の事も作物の事も一瞬で話題から消えていた。





 お城の中央まで戻ってくると、そこにはマリアが待っていた。


「何の用なの?」

「これ見たらわかるでしょ~?」


 マリアが持っていたのは一冊の分厚い本で、太郎からすると辞書のようにも見える。


「それが何?」


 ムスッとしたマナだったが、突き出された本を受け取ると表情が変わった。


「何か入ってるわね?」

「その本の中に?」

「太郎も持ったらわかるんじゃない?」


 今度はマナから太郎に渡されると、太郎も違和感を感じる。


「なんか、すっごい怒ってない?気の所為なら良いんだけど・・・。」

「間違ってないわ~。」

「何か封印されてるわね。」

「ベヒモスが入ってるの~。」


 マリアの周りにいるデュラハーン達がざわつく。


「ベヒモス?!」


 スーが驚いて変な声が出ている。

 まるで戦闘でやられた時の声に似ていて、イントネーションもおかしい。


「ベヒモスって・・・でっかい魔物?」


 太郎がそう言うとマリアも小さく驚いた。


「知ってるのね~?」

「あ、いや、ゲームの知識なんだけどね。」

「それどんなゲームなのか気に成るんですけどー・・・。」


 スーに珍しい視線で見られたのでちょっと恥ずかしい。


「知ってるのなら早いわ~。倒すの手伝って~。」

「え?」

「は?」

「えぇっ?!」

「ココでやれば他に迷惑かからないから~。」


 確かにココは袋の中だから、ココの以外に被害が広がる事はない。


「予想で言うけどさ、かなりデカいんでしょ?」

「ただデカいってもんじゃないですよー、地上最強の魔物という伝説が有るんですからー。」

「地上最強?」

「ベヒモスという名前は知らないが地上最強と言われると少し気になるな。」


 ポチが知らないのは仕方がないが、その発言にスーがポチを窘めた。


「やめてくださいよー・・・。」

「ガチで強い?」

「ガチ~?」

「あ、本気で強い魔物なの?」

「私が倒すのを諦めたのよ~。」

「封印したのがアンタって訳ね。」

「封印だってやっとの事で罠に嵌めたんだから~。」


 ざわついていたデュラハーンの一人がマリアに話しかけた。


「ココで戦うのですか?」

「大丈夫よ~,戦闘用の結界を張るから~。」

「世界が壊れたりは・・・?」

「無理だったら再封印するわ~。」


 デュラハーン達が慌てて動き出した。風呂に入ろうとしていたのも中止して、入っていた者達も出てきた。


「申し訳ないですが、我々には協力できる者がいません。避難させていただいても・・・?」

「良いわよ~。」


 デュラハーン達は、ポニスを引き連れて四方八方に移動して行く。あっという間に太郎達だけが残ると、マリアが太郎に期待の視線を向けた。


「ちょっと本気を見せてもらっても~?」

「ちょっと、いくらなんでも太郎さんを危険に晒すなんて!」


 スーが本気で怒っているから、それだけヤバいのだろう。何も解らないエカテリーナとポチは様子を窺っているだけで、決断を太郎に任せている。


「そのベヒモスってさ、倒さないとまずいの?」


 基本的な質問である。


「このまま封印してても良いのだけど~・・・、太郎ちゃんがいる今しかないかなって~。」

「そんなに俺が期待されてるの?」


 マリアは真剣に肯いた。


「それもそうなんだけど~、ベヒモスが地上から消えている訳じゃないの~。」

「えっ?ベヒモスって一匹しかいないってー・・・。」

「そうだと思っていたのだけど~、封印した理由がそれなのよ~。」

「どういうことかハッキリ言いなさい!」


 マナがめんどくさそうに怒鳴った。


「ベヒモスの子供がいたのよ~。」

「子供がいるんですかっ?!」


 スーがまた驚いた。


「ベヒモスって世界に一つだけの存在だと思っていたのだけど~・・・、繁殖する能力が有ったのよ~。」

「じゃあ雄雌が有るんだね。」

「ないわ~。」

「じゃあ、どうやって・・・?」

「ベヒモスって、四つ足の生物なら誰でも孕ませる事が出来るらしくて~、最初はマンモスがベヒモスを産んでたわ~。」

「へー、マンモスってまだ存在してるんだ?」

「え?えぇ、普通に寒い地方にいるけど~?」

「そうすると、他にもベヒモスって存在してるんだよね?」

「もちろんよ~。さっきも言ったけど~、子供が・・・あ~、そういう事ね~。」

「どういうことですかー?」


 スーの疑問を太郎が解消する。


「マリアって袋の中に長い間いたんだから、そのときに子供だったベヒモスが成長している筈じゃん。」

「じゃあ・・・昔幾つか聞いた噂は本当だった・・・?」

「噂?」

「伝説のベヒモスがギンギールのどこかに隠れているっていう噂が有ったんですよー。でも、話だけで証拠も何も見付けられなかったのでー・・・。」

「ギンギールっていろんな噂が有るんだね。」

「古代の遺跡が沢山あるのでー・・・真偽不明な御伽噺なら沢山ありますよー。」

「今度行ってみたいな。」


 太郎は世界樹の苗を植えるのに良いかもしれないと考えたが、今はそんな場合ではない。


「ベヒモスを倒さないと困る訳でもないけど、倒せる方法というか、倒す手段がないとベヒモスが増えるって訳か。」

「それこそ勇者に任せておけばいいんじゃないですかー。」

「それはそうだけど、ベヒモスを倒せる勇者が現れても逆に困らない?もし単体でベヒモスを倒せる勇者が暴れ出したら・・・。」


 その程度の想像ならスーじゃなくてもエカテリーナでも判る。


「太郎ちゃんなら安心だから~。」

「あー、確かに太郎ならね。」

「太郎さんですもんねー。」


 なんなんだ俺は。


「じゃあせっかくだし装備も久しぶりに使おうかな。」

「それは、ちょっと期待しちゃいますねー。」

「何か秘密があるの~?」

「魔女でもビックリしますよー!」


 なんでスーがドヤ顔なんだ。


「じゃあ準備しよっか。」

「はーい!」


 久しぶりにやる気を出した太郎にスーは笑顔で応じた。





「驚きの白さなんだけど~。」

「そういう装備なんですよー。」


 太郎は神様から貰った装備一式を身に着けていた。帯剣も普段物ではなく揃えていて、マリアが興味深く見ていた。


「・・・それってあのタヌキの鍛冶屋に見せた事あるの~?」

「無かったような・・・。」

「見せると良いわ~。」

「見せても・・・この装備って他の人が身に着けると動けなくなるからなあ。」

「むしろ持てないですー。」

「農具の方は持てない訳じゃないけど、凄い疲れるって言ってたなぁ。」

「・・・近付く事が出来ないわ~。」

「なんで?」

「なんか、見た事のない恐怖が~・・・太郎ちゃんってこんなに怖かったの・・・。」


 マリアは深呼吸すると、周囲に太郎達以外がいなくなっているのを確認して、魔石に近付く。強い輝きを放つようになった魔石の傍に、本をそのまま置く。


「太郎ちゃんに期待するわ~。」


 触ってもいないのに本が開かれると、四方に光る壁が構築された。

 マリアの結界が広げられたことを視覚によって示したのだ。本は羽ばたくようにバタバタとしているが、その場から浮く事はなく、代わりに黒い皮膚の物体が現れた。


「この恐怖感も久しぶりね~・・・。」






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