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第233話 魔法袋の中へ

 トヒラが紙とペンを持って太郎に駆け寄ってくる。

理由は太郎の言っていた言葉が気になっているからだ。


「俺もそんなに詳しい訳じゃないよ?」

「知られているのと知られていないのでは雲泥の差ですから。」

「・・・まぁ、確かにそうなんだけど。」

「して、ウイルスとは?」

「俺が今回言うのは、病気になるウイルスって事で、頭痛くなったり咽喉がイガイガしたりするでしょ?」

「しますね。」

「腹痛とか下痢もそうなんだけど、病気の原因だったりするんだ。」

「それをどうやって知るのですか?」

「さぁ・・・?」

「太郎殿はそれをどうやって知ったのです?」

「俺の世界の話だからなあ・・・。」

「あー・・・。」

「家という存在は知っているけど、家をちゃんと建てる方法は知らないでしょ?」


 建築には技術が必要で、勉強する必要がある専門職であるのは、どの世界でも変わらない。


「まぁ、確かに。」

「それと同じで・・・。」


 突然、外からすごい音がする。

 音だけではなく、もの凄い勢いで何かが噴出していた。


「な、なに?!」

「たろーさん、地面から水が噴き出てますよー!」

「みずぅ?」


 水玉が太郎の目の前までやってきて、他人の姿に変わる。


「見付けたよー!」

「え、あ、うん。」


 この水ではない。


「じゃあ、すぐ行く?」


 ウンダンヌは周りの状況を無視して、太郎の腕を引っ張った。


「あぁ、行こう・・・って・・・雨?」


 この村では珍しく雨が降ってきた。

 その急な雨に村人や冒険者だけでなく、兵士達も軒下に隠れて雨を避けていた。


「あれ、なんなん?」


 太郎が指さした先には、間欠泉のように水が噴き出していて、その水から湯気が出ている。


「これ、お湯じゃないか。」

「あー、面倒だったから一気に外に出てきたのよ。」

「それでなんでこんなお湯が出てくるの?」

「水脈をひっかけたみたいねー。」


 と、冷静に言ったのはマリアだ。


「なるほど。じゃあ、これっていつ止まるの?」


 マリアとウンダンヌの目が合う。


「「さあ?」」


 何故か息ぴったりだ。

 水の勢いは少し弱まり、先ほどのように広がる事がなくなり雨は無くなったのだが、噴出口の付近は水浸しになっていて、兵士達がその勢いを弱めようとしていた。


「あっちみたいね。」

「ちょっと見に行こう。」

「えっ、門は~?」

「ファリスはちょっと待っててね。」

「は、はい。」




 兵士達が苦労して蓋をしようとしているのだが、当然止まらない。


「おい、止めないと畑にまで届いてしまうぞ!」

「勢いが凄くて止まりませんよぉ!!」


 むしろ、蓋にしようとした石が吹き飛んでいて危ない。

 駆け付けた太郎が言葉を放つ。


「周囲に壁を作って、一時的に貯めておこう。」

「壁をどうやって?!」


 太郎は石壁を作るのが苦手だ。

 創造魔法が使えるのに石を創ろうとすると何故か泥水が出来てしまう。


「これ使って。」


 太郎が袋の中から次々と木の板を取り出し、それを使って周りを囲むと、少しずつ水が溜まっていき、直ぐに木の板の淵を超えて溢れてきたが、噴き出る水の勢いが噴水程度にまでおさまった。


「これでは止まりませんね。」

「水路を作ってあっちに流そう。」


 太郎は距離を目測で測り、木の板を組み合わせて水を流す通路を作った。

 手作業だったが、兵士達にも手伝ってもらい、浴場まで繋げる事で、常にお湯が流れるようになった。

 ちなみに高さの問題で兵士達が水路を人力で支えているので、支柱も組まなくてはならないのが一番面倒な作業だ。


「このお湯、意外と熱いね。」


 熱いというほど熱くは無いが、湯気が出るほどなので生温い訳でもない。

 良い感じに適温なのだろう。


「それにしても、畑の真ん中に作ってしまってもよかったんですか?」

「こんな所から出ちゃったから仕方が無いよ。畑はまた別のところに造るから良いんだけど、適当に作ったから、後日ちゃんと組み直さないと。」


 予定外の事で太郎が居なくても常に風呂に入れる施設が完成してしまったわけだが、排水の方も作り直さないと、溜め池に流れる前に風呂場が水で溢れてしまいそうだ。


「今は仮だからまた今度ちゃんと考えよう。」

「地面からお湯ってなんか怖いですねー。」


 スーの反応に兵士達も同意していた。





「で、どうやって行くの?」


 ウンダンヌの後ろを歩いているのだが、普通に地面の中に潜ろうとしていたから身体を鷲掴みにして止めた。


「えっとぉ・・・あの辺りに有るんだけど・・・むしろ・・・あの子はどうやって出てきたの?」


 急に話をフラれて戸惑っている。


「あ、あの時は周りも真っ暗で、どうやって歩いたのかもわからず・・・。」

「って事は、あの鉱山には別の出入り口があるってことだよね。」

「わかったわ、調べてくるから待ってて。」

「いや、方向が分かれば掘って進んでも良いんじゃないかな。」

「そんなに簡単に掘れ・・・るわね、主ちゃんなら可能なのよねぇ。」


 ウンダンヌは強い溜息を吐いたが、息ではなく、水が出ている。


「とりあえず、トロッコ有るし乗っていこうか。」


 実は初めて乗るトロッコで、元の世界でもトロッコに乗った事は無い。

 主に鉱石を運ぶ為のモノだが、客車も有り、貨車とは別に運行していた。

 ただし、人力で移動するので速度は遅い。


「太郎殿が乗るのですか?」


 運行を管理している兵士に言われたので肯くと、臨時で出してくれた。

 レールは一本しかないので、太郎達が乗れば鉱山の方からトロッコは出られない。


「大人しいな?」


 それはポニスの事で、ファリスにくっついてくるのは良いのだが、荷台も有るので3人分の場所を必要としていた。

 乗り込んだのは、太郎とマナ、スーとポチに、今回は珍しくエカテリーナと、魔法袋の制作者のマリアに、その中で生活しているデュラハーンのファリスだ。

 ゆっくりと加速し始めるトロッコの最後尾にはシーソーの手漕ぎが付いたトロッコがあり、兵士が二人で顔を真っ赤にして漕いでくれた。

 なんか申し訳ない。


「街灯も有るんだな。」

「明るくしておかないと夜危ないのよ~。」

「魔物ってまだ沢山現れるの?」

「最近はだいぶ減ったんですが、前みたいな事件がいつ起こるとも限らないので警備は怠らないのです。」


 と応じたのは、漕ぎ手の兵士だ。

 ケルベロスの群れがやって来るなんて予想外の事件だったという事もあるが、対応できないといざという時に困るのだ。


「塀も何ヵ所か壊されたんで、修理中です。」


 壊れている所がどこなのか分からないが、資材が置いてあるところを見るとその辺りなんだろう。走るより少し早いくらいの速度でトロッコは進み、レールが何本にも分かれる分岐に来ると、そこに居る兵士に合図を送り、移動先を変更する。

 駅のようなものは無く、行き止まりにぶつかるように止まる。


「気を付けてください。」

「それ、先に言って欲しかったよ。」


 ファリスとエカテリーナが倒れていて、マナとスーがそれぞれを助け起こしている。


「なんだおめーら、こんなところに来るって、めずらしーな。」

「あー、グルさん。お久しぶりです。」

「おー・・・これが噂のデュラハーンか。」

「グルさんは驚かないんですね?」

「もっと珍しいものをこの村で見てるからな、そんなもんじゃ驚かねーぞ。」

「あ~、わたし~?」

「わたしかも~?」

「えー、わたしでしょー!」


 マリアは何言ってるんだ。

 いきなり出て来て、ウンダンヌはなんで対抗したんだ。

 マナは珍しいに決まってるだろ。


「グルさんは何か知っている事が有るんですか?」

「あー、デュラハーンと言えば、魔力を強く含んだ武具を作るのが得意だったという伝説だけが有ったな。」

「へー・・・伝説かあ。」

「まぁ、全部解析済みで今じゃ俺でも作れるがな。」

「あぁ、魔鉄の武具って事ですか。」

「うむ。」


 グルはデュラハーンの娘を軽く一瞥しただけで特に興味は示さず、手を振って仕事に戻っていった。太郎達はそのまま降車して鉱山に入っていく、太郎が先頭で進み、その右肩にはマナではなくウンダンヌが頭だけ出している。


「意外と広いですね。」


 エカテリーナがキョロキョロと周囲を見ている。


「ココは食堂だね、俺が来た時よりもかなり拡張されてるな・・・。」


 何十人も働いている鉱山内部に広大な食堂と、厨房まである。宿舎の様な個室も有るし、しっかりトイレと風呂まである。何しろ常にお湯が流れるポイントが有るので、寒さも軽減できるし、外よりも居心地が良いとの事。


「あっちよ。」


 ウンダンヌが指で示した方向は地下を流れる川の向こうで、薄暗くて見えない。


「ココからだと河が邪魔だなあ・・・橋を作るにしてもちょっと面倒だし・・・。」


 こういう時に太郎は元の世界の常識とのギャップを思い知らされる。


「じゃあ行きましょー。」


 スーとポチが浮いて移動する。

 太郎はマナとポチとエカテリーナとファリスとそのポニスも一緒に浮かせて、川の上を移動する。


「わっわっ、わたし、ういてますよ?!」

「太郎の魔法ならもっと多くても平気よ。」


 マリアはその後ろを太郎の浮力を借りて付いてくる。


「これ、らくだわ~。」


 スッと落ちて、着水寸前で止まる。


「ちょちょちょ、ちょっと~!」

「シルバの力で浮かせてるからマリアを落したのは俺じゃないよ?」

「え~~~~。」


 不満たらたらの声を出すが相手がシルバではそれ以上文句は言えない。


「こっち~。」


 ウンダンヌが更に先行して進むと、周囲が暗くなる。

 その先に小さな空洞があり、横穴が僅かに・・・いや、ハッキリ見えた。


「だれか明るくしてよ~。」


 マリアの魔法だった。


「門はドレ?」

「ここ!」

「ど、どれ・・・?」

「これ!」


 全く分からない。

 横穴は下に向かっていて、何かが擦ったような跡が有るから、きっとここから落ちたんだろう。


「わたしにも見えないんですけど、これって閉じられてるんですか?」

「あ~、これね~。」


 マリアが壁に手を当てると魔力を注ぎ込む。

 珍しく真剣な面持ちで、時間も掛かっているようだった。

 

「内側から魔法で開かないようになっているわね。」


 マナがそう言うとマリアは諦めたようだ。


「む~り~・・・。」

「マナならいける?」

「壊れちゃうかも。」

「良いんじゃないかしら~?」

「まあ、アンタがいるんなら直せるだろうし壊しちゃおっか。」

「わたしを便利などぅ~・・・。」

「あんたは道具で十分よ。」

「・・・。」


 マナにも勝てないようで、マリアは押し黙った。


「よし、一気に行くわね。」


 マナが何もない壁に両手を当てると、一気に押し込んだ・・・。


 地面が僅かに揺れるのと、擦れる音が洞窟内に響く。

 目の前に高さと幅が2メートルほどの門が姿を現したかと思うと、開かれていく。


「直ぐに閉じちゃうからどんどん入って。」


 マナが言うと、ファリスを先頭に中へ入り、最後に太郎がマナの手を掴んで中に入ると、門が地響きと共に閉じた。


「暗いわねぇ・・・。」

「暗いのもそうなんだけど・・・。」

「くさいわ~。」

「くさいですー。」

「なんとも言えない臭いですね。」


 と、それぞれの感想を言った後に、ファリスが太郎達を見て言った。


「こ、こんなに臭かったんですね・・・。」


 ファリスも吃驚していたのは、きっと風呂に入って綺麗にした所為かもしれない。ほとんど入らないと言っていたし、ニオイというのは慣れてしまえば気に成らないからだ。


「うっすらと何か見えるんだけど、アレは何?」


 太郎が見上げた先には巨大な木がある。


「まるで世界樹の小さい頃みたいだ。」


 マナがその木をじっと見つめていると、枝葉が揺れた。


「アレは私達が世界樹と呼んでいるモノです。」

「あれ、大きいけどトレントじゃない。」

「アレがトレントなんだ?」

「あー・・・確かに見覚えがあるわ~。」


 マリアがそう言うと、更に揺れ、葉がパラパラと落ちる。

 すると周囲から何かが集まって来た。

 その何かというのは、ファリスと同じ姿をした武器を手に持った者達だった。






読んで頂きありがとうございます\(^o^)/




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