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第231話 貴重な水(湯)

 翌朝。

何処までも続く青い空の下、慌ただしく働いている者達とは関係なく、朝食をじっくりと味合った後に、首なし少女のファリスは、エカテリーナと話をしていた。


「その黒い鎧着て寝たんですか?」

「黒いだけで実は殆ど布で出来ているので柔らかいんですよ。」

「へー・・・もしかして剣とか得意ですか?」

「一応訓練はしているんですけど・・・その、苦手で・・・。」


 朝食を食べ終えたファリスは、おかわりしたいのを我慢していたところをエカテリーナに気がつかれてしまい、二杯目のスープを飲み干した後に、お礼を言いに行ったところから今の会話は続いている。


「私も戦闘は苦手なのでこうして料理を頑張っているんです。」

「どれも美味しくてビックリしました。」

「そう言ってもらえると凄く嬉しいです。」


 何故か二人してエヘヘと笑っている。

 周囲に年齢の近い女性はエカテリーナしかおらず、そのエカテリーナが実は年下と知ってさらに驚いていた。


「こんなに料理っていっぱい種類が有るのも知らなかったし、伝説の普人どころか、見る人すべての種族が私達の世界では絶滅した事になっていたのに・・・。」

「孤児院に行けばファリスさんと同じくらいの女子も沢山います。」

「子供が沢山・・・?!」

「太郎様が親が亡くなったり捨てられたりした子供達を引き取っている施設です。」


 エカテリーナの言葉には常に引っかかる事がある。

 料理の事を話した時もそうだったので訊いてみる事にした。


「太郎様って呼んでいる人って昨日のあの人ですよね?」

「そうです。」

「ひょっとして偉い人なんですか?」

「はい、この村で一番です!」


 プルプルと震えたファリスの表情が徐々に赤くなっていく。


「え・・・わ、わたし・・・大変に失礼なことしてないですか!」

「そんな事無いですよ、太郎様は優しいですし、怒る事は殆ど無いですから。」

「で、でもっ・・・ここで一番偉いって・・・国王様ですよね?!」


 一瞬の驚きも見せずに応じる。


「えー・・・っと村長?で良いと思います。」

「え、え、えっ?」


 ベッドから起きた時に部屋の窓から外を眺めると、沢山の人が居て、あっちにこっちに家があり、眩しいほどの光が周囲を包んでいた。それほどの人がいるココは国だと思ってしまっても、彼女には仕方の無い事かもしれない。


「ココは村ですよ。」

「村なんですか・・・?」

「はい、村です。」


 よくよく考えてみると、これほど変な会話は無いのだが、ファリスにとっては大変重要な事だった。


「私の村は数十人しか住んでいなかったですし、家はどれも小さくて、堅いベッドに身を寄せて寝ていました。でもここでは一人に一部屋。その部屋も広いし、先ほどお借りしたトイレが綺麗で、身体を洗う場所かと思いました。」

「お風呂・・・一緒に入りますか?」

「そ、そんな貴重な水を!」

「あ、あの、嫌じゃなければ太郎様と一緒に入る口実にしたいんですけど・・・。」


 今度はエカテリーナが頬を赤くする。


「昼間から風呂と良い御身分じゃの。」


 珍しくナナハルがやってきたのは、少女の様子を見に来たからである。


「最近一緒に入ってくれないのです。」

「あ奴にはもう少し強引に迫らぬとダメじゃ。」

「そーですよー!」


 スーも現れた。


「えっと・・・皆さんは男の人と良く入られるのですか?」

「男ならだれでも良い訳では無いぞ、太郎だけじゃ。」

「パパと入るー!」


 子供達もやってきたが、何故かナナハルが男だけを押し退けた。


「今回は女子おなご限定じゃ。」

「えーずるいよー!」

「俺達もー!」

「しつこいと女の子に嫌われちゃいますよー?」


 スーにそう言われて諦めたのは、スーに嫌われたくないからだ。

 ハッキリ言うと子供にスーの裸は刺激が強過ぎる。

 その刺激故に憧れや恋心を持ってしまうのは普通の事だが、スーは太郎の嫁と認識されているので、ただ甘えたいだけである。


「おぬしら邪な目で見ておらぬか?」

「そそそ、そんなことー・・・あ、薪割り頼まれてたから行ってきまーす!」

「鶏小屋の掃除ー。」


 そう言って誤魔化しながら走り去っていった。


「スーは我が子らと入っておったのか?」

「いやー、実は何度も入ってますー。ただ、太郎さんも居ますけどねー。」

「まあ、教育には必要かの。」

「そんな教育は必要無いよ。」


 マナを頭に乗せた太郎がのっそりとやってくる。


「という訳じゃ、風呂へ行くぞ。」

「どういう訳か分からないけど、この子も一緒でいいの?」

「あ、私は平気です。貴重なお水なのでみんなで分けないといけませんから!」

「あんたの勘違いは分かったわ。」


 マナがお風呂という言葉を正しく理解していないファリスの頭をペタペタと撫でた。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


 長い沈黙が続く少女の目の前で屋内の浴室では太郎達が身体を洗っている。

 露天でも良かったが、事情が事情だけに太郎の家の浴室を使うことにしたのだ。

 マナが少女の腕をペシッと叩くと首が落ちたので、床を叩く前にマナが掴む。

 そして、桶に溜めたお湯に浸けた。


「あっ、私の首を勝手に持ってかないでー・・・。え、温かい。」

「お湯なんだから当たり前でしょ。」

「お湯・・・これ全部お湯なんですか?」


 なんでマナがドヤ顔するんだろう?


「太郎様背中洗いますね。」

「あ、うん、ありがと。」


 理解の有る子供達が、エカテリーナと太郎がイチャつくのを湯舟からニヤニヤと眺めていた。まったくもって母親の教育の賜物である。


「身体はいつもどうやって洗ってるんですかー?」


 惜しげもなく、隠さず、たゆんたゅんに揺らしながらファリスに近寄ると、桶の湯に浮かぶ顔に話しかけた。


「布に水を湿らせてそーっと拭いています。女性は週に一度だけ許されていまして、大人に成る、子を産んで母親になると洗いません。」

「そんなに貴重なのか。」

「・・・飲んでもいいですか?」


 湯舟のお湯をそのまま飲もうとするので、何故か置いてあるコップにさっと水を注いだ太郎がスーを経由して少女の目の前にもってくる。


「じ、自分で飲めます・・・うぐっ。」


 マナが面白がってスーからコップを奪い取ると、少女の口に注ぐのではなく、顔に掛けた。

 アワアワしてるのに、何故かちょっと嬉しそうだ。

 貴重な水だもんな。


「流石にちょっと酷いと思いますー。」

「マナは悪戯が好きだからなあ・・・でも、それで止めときなよ。」

「はーい。」


 今度はちゃんと口にコップを近づけて傾けるとゴクゴクと必死に飲んでいる。


「あんた、その飲んだ水はどこに行くの?」

「身体ですけど・・・あわわ・・・なにを?!」


 その身体は子供達に連れられて、全身が泡だらけになっていた。


「あ、あ・・・あぅっ・・・。」


 顔が真っ赤だ。


「子供なのに艶の有る声を出すの。」

「ふみまふぇん・・・ほんはひもひいいのひりまふぇ・・・。」


 まともに喋れていないのは、子供達が泡で遊びだしたからで、太郎は頭を洗っていて周りが見えない。


「太郎様、お願いします。」

「ほい。」


 太郎の頭の上からお湯が降ってくる。

 綺麗に洗い流した後に、子供達に気が付いた太郎がそこにもお湯を降らせた。


「パパー!もっとー!」


 希望に応じて増量すると、お湯が滝のように流れてくる。


「あー!わらわにも、それをやってくれ!」


 ナナハルが子供に混じってお湯を浴びる。


「きもちいいのじゃーー!」

「いいのじゃー!」


 この親にしてこの子らである。





 湯船に浸かってのんびりすると、子供達は満足して出ていく。

 見送ったナナハルが太郎に寄って耳打ちするように言ったのは朝の出来事であった。


「うん、朝一でカールさんが教えてくれた。」

「相当怒っているようじゃ。」

「近付かない方が良いんだろうけど、それだと何も解決しないしなあ。」

「呪いなんて出来る筈もないであろうに。」

「悪い伝説や伝承は、戒めに使われる事は多いけど、なんでデュラハーンがそう言われるのか理由は誰も知らないみたいだし。」

「わらわも知らぬ。」

「不幸になるという話でしたら聞いた事があるってだけですー。」

「マナも知らないんだろ?」

「うん。わたしよりうどんの方が詳しいと思うけど、肝心なことを良く忘れるから。」


 そう言うマナも良く忘れているが。


「子供の頃に読んだ本には、死の使い、不幸を招く、悪魔の手先、いろいろ言われてますねー。」


 個人に対してではなく、その一族が全てそう呼ばれていのだから、たまったモノではない。


「あの子の話が真実ほんとうかどうかはコレから決まるけど、それにしたってそこまで嫌われているなら理由がある筈じゃない?」

「そんな事は無いぞ。エルフ等は根源の理由も知らずに嫌われておるじゃろ。」

「あ~、そうね。」


 エルフが嫌われている理由は既に無い。

 何故なら、エルフの国は一度消滅しているからだ。

 だが、復興も終わっていて、どこかでまたエルフ達が活動を再開しているという話は、まだ太郎の耳には届いていない。


「元々今の人達はエルフとは、ほとんど接点も関係も無いんだよね?」

「無いと思う。が・・・わらわも全てを知っている訳ではないしのう。それこそダンダイルあたりが情報を隠し持っておるのではないか?」

「訊いたら教えてくれるかな?」

「必要ならな。」


 意味もなく天井を眺めながら考える。


「・・・必要なさそうだし、今はあの子の問題を解決させる事かな。」

「解決できるのか?」

「考え方の問題ならいくらでも解決法は有るけど、それを認める気が無ければ言うだけ無駄だからなあ。」

「まぁ、無駄じゃろうな。」

「じゃあ、この村に必要のない人って事になるね。」

「あら、太郎にしてはバッサリなのね。」

「太郎さんはタマに怖い事をサラっと言うんですよねー。」

「そう?俺は信じていないタイプだったからなあ。」

「なにをじゃ?」

「神様を、ね。」

「太郎は神を信じておらんのか?!」

「そんなに驚かなくても・・・。」


 少し熱くなってきたので半身を湯の外へ出すと、他も同じようにする。もちろん、たゆんたゆんに揺れるのは太郎以外だ。

 一部揺れないのもいるが。


「魔法が存在するから呪いくらいあっても不思議じゃないけど、無差別に不幸を持ち込んで来るだけの意味のない呪いが存在するのなら、誰かが封印するなり解呪するなり、対策はしているでしょ。」

「それは、確かにそうじゃ。過去には呪いに染まった村があったが、わらわが生まれる以前に解いておって話しか知らぬ。」

「良い魔法があれば悪い魔法もある。だから、本当は存在していないのに存在しているかのように振舞う事も簡単に出来ちゃうんだよね。」

「なかなか面白い意見じゃな。」

「簡単に出来るんですかねー・・・?」

「ボルドルトでシードラゴンを使ったのが、ある意味呪いと同じ事なんだけどね。」

「本当は存在していないのに存在しているかのように見せる・・・。なるほどー!」


 スーは納得したようだが、それでも呪いの存在については否定していない。


「それなら新しく存在しても不思議ではないという事でもありますよねー?」

「それは、そう。」

「そうね。」


 と、太郎とマナが肯いて、ナナハルは無言で湯舟を出た。

 どうするかは既に決まっていて、太郎は少し厳しい表情で脱衣所へと向かった。






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