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第229話 死を招く者

 翌朝。

カールは報告をしていて、その内容にダンダイルが興味を持った。


「ケルベロスの大群とは・・・。」

「253匹を確認しましたが、1/4程は子供で、かなり痩せこけています。」

「食糧不足による村の襲撃か。」

「小さな村では良く有る事ですがこの村では初めてです。」

「毎日駆除は欠かしていないのだろう?」

「もちろんです。ですが、それが悪かったようで・・・。」


 狩り過ぎたわけではないし、弱い魔物や動物は放置しているが、それでもケルベロスの群れは何処からやってきたのか・・・。


「元々かなり遠いところに棲息していた筈だろう?」

「そうなんですが、彼らの話・・・と言うか、ケルベロスの言うことによると、各地で魔物が凶暴化していて、子育てに不向きになったらしいです。」

「ケルベロスの群れでか?」


 ケルベロスは個体でもかなり強く、生活圏を守る事と群れを作る習性がある。そんな生物が逃げてくるほど悪化している地域があるという情報の方が重要かもしれない。


「そのようです。」

「それで、太郎君はどうするつもりか聞いているのかね?」

「今は何処からか持ち込んだ肉を与えているようですが・・・敵に肉を与えるというのが釈然としなくて。」

「同じ立場なら太郎君と同じことをするだろうから疑問は無いが、捕虜と扱うのか家畜にするのかでその後の対応は変わる。」

「なるほど・・・我々は軍隊でしたね。」

「そう言うことだ。」


 どうも納得していない様子なのは見ていれば分かる。

 冒険者として仲間を殺されたのなら、殺した相手を殺すまで憎しみ続けるのは意外でも異常でもない。


「平民殺しのリヒテン・ハーケンの話は知っているかね?」

「・・・軍人としては優秀なのに、何故か被害が一番多くなる指揮官の話ですね。」


 魔王国に実在した将軍で、運用能力と作戦立案に才能を発揮し、作戦の中で最も危険な戦闘配置を常に率先して行い、多大なる功績を残した。そして、その戦果の数々は多くの一般兵士の死体の上に成り立っている。

 そして今は物語として語り継がれている。


「元部下だ。」


 カールは声をおさえて驚いた。

 口をおさえてしばらく見詰め、失礼に当たる事に気が付いて表情を戻す。


「長生きをすると部下なんてほとんど死んでいる。」


 気にするなとは言わないが、いちいち気にしていては軍人は務まらない。死者はどんな形であれ、軍隊である以上、戦死者1名と、数字として記録されるだけである。


「・・・太郎殿の器の広さくらいにしたいと思います。」

「先ずは私を超える事だな。」

「あ、そ、そうですね・・・。」


 その発言はダンダイルですら太郎の器の広さには勝てないことを物語っていた。





「見てみてー、子供がこんなに一杯!」


 マナがケルベロスの子供を両腕に何匹も抱えて遊んでいる。モフモフして気持ちよさそうなのは解るが落とさないように注意して欲しい。

 その子の母親達が、少し困り顔をしてマナの後ろをウロウロしている。ポチに背中を突かれなければ、そのまま家まで連れ帰ったかもしれない。


『代表として礼を言う。』


 まだ態度が硬いのは許すとして、この群をどうするか悩んでいる。


『お前達が殺した者が居る事を忘れるな。』


 よっぽどポチの方が偉そうに見えるのは、同種としての強さが威厳となっている所為かもしれない。代表とポチとではどう見てもポチの方が強いのだから。


『う、うむ・・・。』

『太郎はどうするつもりなんだ?』

『「どうしようかなあ・・・?」』


 その太郎の声がガビガビに聞こえる。ケルベロスの言葉とワルジャウ語が重なったのが原因で、太郎の意思ではない。


『一体どんな声をしているんだ・・・。』

『それは俺が知りたいよ、どんな風に聞こえているのか分からないんだから。』

『難儀な話だ。』


 代表の後ろには、どう処遇されるのか期待に勝手に膨らませていて、落ち着きも無くウロウロしている。子供の方は遠慮なくマナと太郎の周りに群がっていて、肉を配ったのがマナと太郎だった事から、代表を完全無視してすり寄っている。

 子ケルベロスの頭から背中を撫でると柔らかくて気持ちいい。


『迷いの森ってどうなの?』

『あの森って人が迷って抜け出せなくなるって言う話なんだろ?』

『そうなんだ?』

『そーよ。』


 マナも平気でケルベロスの言葉を喋る。

 何処からその音を出しているのかポチ達も理解できないらしい。

 でも言葉は解るから問題ないとの事。


『じゃあ、魔物もウロウロしてるってこと?』

『行った事無いから知らない。』

「しるば~?」


 するーっ・・・


『沢山います。』


 そう言えばシルバは全ての言語を理解できるんだったな。


『なんか・・・急に現れたぞ・・・。』

『あんた達、シルヴァニードを知らないの?』

『そのくらい知っているが・・・俺達に見える訳ないだろ。』

『そう言われれば皆から見えるようになってるよね。』

『太郎様から魔力を頂いていますので。』

『・・・もしかして、精霊を使役しているのか・・・?』

『そうよー、あんた達ちゃんとしていないとお肉にされちゃうわよ!』


 代表の後ろでウロウロしていたケルベロス達が一斉に逃げ出そうとしてピタッと止まった。

 何処に逃げれば良いか分からなかったからである。


『そんな事しないよ。』

『しないって、良かったわね。』

『あ、ありがとうございます・・・。』


 代表も手足が震えて、声も弱くなっていた。


『迷いの森を我々は知らないんだが・・・。』

『詳しい人を呼ぶか。』


 シルバが消えたと思ったら現れた。

 女性を一人追加して。


「ちょっと聞きたい事が有るんだけど。」

「な、なに~?」

「迷いの森ってケルベロスが生きていける?」

「・・・まぁ・・・いけるんじゃないかしら~・・・。」

『魔獣が多いと助かるんだが。』

「魔獣が居ると良いって。」

「あ、あぁ~・・・ソコソコ多いわ~。」

『ソコソコ居るって。』

『そ、そうか・・・というか、その女を見るだけで震えが止まらないんだが。』

『魔女だからじゃない?』

『まじょおおおおおおおおおお?!』


 わおーん!

  わおおおおーーん!


 何も分からない者達にはそう聞こえていて、遠くで巡回していた兵士達の視線が集まる。幾人かの兵士が報告に走り出す。


「うるさいわねぇ~・・・。」


 啼き声が止んだ。


「じゃあ、用が済んだなら戻るわね~。」

「シルバ、元の所に戻しといて。」


 スルっと二人が消えて、シルバだけ戻って来た。


『転移できるのか・・・。』

『瞬間移動なだけだよ。』

『・・・何が違うんだ?』


 これから知らない人に説明する事になるのを想像して、太郎は少し面倒だと思った。今回は人じゃないけど。


『今と同じ方法で運ぼうか?』

『いや・・・そこまで世話には・・・。』

『村の中をこの団体が通るのはよろしくないんじゃない?』

『それもそうか・・・済まないが頼む・・・。』

『じゃあ寄り道して行こうか。』

『よりみ・・・ち?!』


 ふわっと風が流れたと感じると景色が一変した。

 周囲を見渡せば仲間は全員居るし、目の前にはあの巨大な木がある。


「ご主人様ー!」


 カラーのボスがやってきた。

 適当に挨拶して追い払う。


『ここは・・・?』

『マナの本体だから、何か有ったらここを目指すといいよ。迷いの森からでも見えるでしょ。』

『え・・・そんな事を心配して・・・?』

『他の人はどう思うか知らないけど、ポチの仲間には違いないからね。』

「ご主人様は何をして・・・?」

「あんた達は黙ってなさい。」

「はい・・・。」


 また風が吹くと視界が変わる。森の中の小さな家の前で、遠くに世界樹が見える。


『ここは?』

『どこ、ここ?』

『太郎が知らないのなら私も知らないわよ。』

『ココは魔女の家です。』

『魔女ってどっちの?』

『マチルダの方ですね。』

『こんな所に隠れ家が有ったのか。』

『生活に必要な物が隠されているみたいです。』

『そんな感じね・・・妙なマナ溜りが有るわ。』

『分かるんだ?』

『我々も解りますが?』

『太郎は自分が強過ぎて周りが分からなくなってるんじゃないかな?』

『それはそれで面倒だな。』

『それでどうしてここに?』

『魔物の匂いする?』


 ケルベロス達が周囲を探索すると、どうやら大型の生き物の気配は感じないようだ。


『この周囲は比較的安全な様なので、あとは自由に探索をすればよいのでは?』

『それもそうか。洞窟とか有るのかな?』

『洞窟も川もありますが少し離れています。』

『目の前まで運んでも良いのよ?』

『魔物が居ますが宜しいですか?』

『・・・ダメ。』


 魔女の家の中に入るのはやめておいて、太郎はケルベロス達と別れた。別れを惜しむとか名残惜しいとか、そう言ったものは全くなく、彼らの前から姿を消した。


『ボス・・・。』

『あ、うん。分かってるから、今は我々の棲み処を探そう。』


 ケルベロス達にはそれなりのプライドがあって、人を相手に負けない自信はあった。しかし、今回の一件でズタボロである。その上食べ物まで貰い、新たな狩場にも連れて行ってもらい、あの人には絶対に逆らってはいけない何かを感じ取っている。

 そして、これだけの事をしてもらったのに、何一つ返す物が無いのも悔しい。


『せめてあの村に棲めれば何かできたんだろうけどな・・・。』

『えぇ・・・。』




 帰宅した太郎はカールに呼び止められ、ケルベロスをどうしたのか聞いてきたので説明をすると、一つ頷いただけで引き下がった。部下を殺されているから一言ぐらい何か言われると思っていたので、太郎にしてみれば予想外であった。

 ダンダイルも村に来てはいたが、カールからの報告を聞いて満足して帰る事にした。そして、今夜こそは楽しもうとしていたマナとスーが太郎の寝室に忍び込むと、既にカールが来ていて、マリアと共に何かを報告していた。


「え、なんであんた達が居るの?」

「ちょっとね~・・・困った子を拾っちゃったというか、見付けちゃってねぇ~。」

「今夜もですかー?!」


 カールが腕を組んで悩んでいるのは、今からやってくる者が不幸を呼ぶと言われる存在だからだった。


「あっ・・・何か変ったマナを持つモノが来るわね。今まで感じたことが無いわ。」

「でしょうねぇ~・・・私も存在を忘れていたし。」

「マリアはいつも忘れてないか?」

「返す言葉が無いわね~。」


 スーが少し苛立った声で言う。


「なんなんですー、今度来るのってー。」

「デュラハーンの子供よ~。」

「えーーーーーー?!?!」


 スーの叫び声が響き渡り、ケルベロスの時とは違った不安がよぎる。


「死を招く妖精がなんでこんなところに?!」

「デュラハーンって首が取れてるやつの事だよね?」

「認識は間違っていないけど~・・・。」

「常に外している訳では無いんですよ、あの首が取れた時、誰かが死ぬとしか。」


 スーがマジトーンの口調に変わっていて、事の深刻さが理解できる。


「そんな予言めいた事がいつでも発揮できる能力って魔法じゃないよね?」

「デュラハーンとは知り合いになった事は有るのだけど~・・・、周囲で誰かが死んだとしてもそれがデュラハーンの所為なのか確認する事は出来なかったわ~。」


 カールが渋い声で言う。


「事情を説明したのが失敗でな、兵士達が誰も行こうとしないんだ。」

「こんな深夜に子供が一人なんですよね?」

「ああ。」

「じゃあ行こか。」

「ついてくー!」

「ちょっ、た、太郎さん?!」


 ドアを開くと二人はスッと闇に消えたのではなく、瞬間移動していて、スーは間に合わなかった。


「たろーーさーーん!」


 開いたドアの向こうにスーの声が響いた。






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