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第228話 ケルベロスvsケルベロス

「」はワルジャウ語です

『』はケルベロスの言語です


宜しくお願いします

 勇敢と言えば勇敢で、無謀と言えば無謀だった。

 ポチは襲い来る敵と戦っているが、それは同種であり、倒しても倒しても次々と襲ってくる。

 戦闘能力は圧倒的にポチの方が強かったが、敵は恐れる事を知らない。血に飢えたというよりも、死を忘れた戦闘狂の演武である。


『あの頃の俺も・・・太郎に会わなければ・・・。』


 ポチの眼が怪しく光ると、無謀にも飛び込んでくるケルベロス達が吹き飛ばされた。


『ほう・・・魔法を使うなんてな。』

『火も吹いてやろう。』


 上空に飛び上がると地面に向けた咆哮が炎になって降り注ぐ。一方的な攻撃に唸り声をあげ、落下するのを待っているが、いつまでも落ちてこない。


『お前らには出来ないだろうな。』


 ポチは自ら落下すると、重力に引き寄せられる速度よりも加速し、群れの中に突撃した。

 衝撃波が発生して周囲が吹き飛ぶ。


『家畜の癖に・・・!』

『兵士が居るのなら守りながら戦う必要があったが、いないのなら思いっきりやるだけだ・・・。』


 襲撃したケルベロス達の視界に巨大化したポチの姿が見える。

 それはマナの増幅によって巨大化したように見えただけだが、恐怖に陥れるには十分だった。





 珍しく子供達が居ない夜。

 マナとスーのテクニックを堪能していたのだが、突然の来訪者によって中断された。慌てて服を着る。

 やってきたのはカールだった。


「あ、世界樹様。」


 最初に出てきたのがマナだったのは、いつもワンピース一枚しか着ていないからだ。


「なによー、これから・・・あれ、ケルベロスがいっぱい?!」


 マナは説明を受ける前に気が付いた。人が沢山いる場所ではマナの索敵能力はあまり意味は無いが、魔物が、それもケルベロスが沢山現れれば流石に気が付く。


「ポチがどうしたの?」


 太郎がやってきてスーが最後なのは着替える手間の所為である。マナの視線を感じ取って太郎はすぐに言った。


「シルバ、俺達をポチの所まで運んで!」


 ふわっと風を感じると、目の前の景色が一瞬で変わる。

 倒れている兵士と、血だらけのポチ。


『なんだ、突然現れたぞ?』

『こいつらね、何の用?!』


 マナがケルベロスの言葉で叫ぶと、明らかに後ずさりした。数は圧倒的にケルベロスの方が多く、森と暗闇の所為で見た目では数えきれない。応援にやってくる兵士はまだ到着せず、カールとスーは既に剣を抜いていた。


「くそぅ・・・こんなに死んでる・・・。」


 カールが悔しそうに舌打ちをする。


「ポチは大丈夫?」

「ただの返り血だ。それより、他の奴を。」


 睨みつつ、マナは魔法で草を伸ばし兵士達を包んで運んでいる。チーズはその大きな身体でポチの後ろに怯えるように隠れていて、子供も母親にぴったりとくっ付いていた。

 草で運ばれ、カールの目の前に並べられた兵士は誰一人動かず、歯軋りするしか出来ない自分に腹を立てた。


『不思議な魔法を使う奴らだ、家畜共々殺せ!』


 沢山のケルベロスが唸り声を共鳴させて飛び掛かってきた。


『やめろ!』


 太郎が叫ぶと全てのケルベロスが止まった。


「シルバ、全部押さえ付けて。」

「承知しました。」


 ケルベロスが動けなくなったのを見て、スーが剣を収めた。


「ふー・・・。太郎さんがいたら、何もする事が無くなっちゃいますねー。」

「ああ、恐ろしいが、それだけに助かる。」

『なんだ・・・これ・・・は・・・。』


 カールも剣を収めると、新たに駆け付けた兵士に死体となった仲間を運ばせ、周囲の状況を再確認する。


「気持ち悪いほどのケルベロスがいるな・・・こいつら一体どこから来たんだ?」

「訊いてみる?」

「教えてくれるのか?」

『あんた達どっからきたの?』


 マナが押さえ付けられている中で一番身体の大きいケルベロスの鼻先に立って、その鼻先を指で突きながら問う。


「なあ、あれ大丈夫なのか?」

「マナ様と太郎さんですよ。」

「あ、あぁ、そうだったな。」


 カールが妙に納得して、落ち着きを取り戻す。


『なんで俺達の言葉が・・・?』

『そんな事どうでもいいから、ササっと言いなさい。』

『誰が言うか!』

『ふーん。じゃあ、そのふわふわで綺麗な毛を全部刈ってツルツルお肌にしちゃうけど良いの?』


 恐怖とは違う絶望感に襲われたが、何とか耐える。


『出来るモノな・・・ぐわあああああああ?!』


 尻尾が綺麗に成ってツルツルになる。

 実行したのは太郎の許可を得たシルバだ。


『もっとツルツルにしちゃうぞー?』


 本当に今恐ろしいのは太郎だが、目の前の少女に完全に怯えている。


『俺に、こ、こんな事をして・・・ただじゃ済まないからな!』

『ほかのみんなの毛も刈っちゃうぞ?』


 他のケルベロスが一斉に暴れ出したが、その場から動けず、情けない鳴き声をしている。ボスケルベロスの胴部分の毛が綺麗に無くなったからだ。

 

『こんなカットした犬を昔見たなあ・・・。』

『こんなみっともない姿・・・。』

『なんか可愛いかも!』


 マナの目がキラキラとしているのだが、死んでいる者もいるのだから今は無視する。


『さて、言う気になった?』

『お前は普人・・・が・・・なぜ我々の・・・。』


 ポチが前足で頭を踏む。


『いいから言え!』

『わ、わかった・・・いうから、言うから拘束を解け!』


 すっと力が抜ける。

 自由に動けるようになったのを確認すると、立ち上がると同時に飛び掛かる。


 ベチン☆


『分かってたからね。』


 マナが全てのケルベロスを伸ばした蔓でリードのように巻き付けていた。


『くそっ、くそっ!』


 暴れても抜け出せず、もう一度ポチに踏まれた。


『なんでこんなに暴れてるんだ?』

『元々、人が嫌いなのよ。』


 チーズが説明してくれた。


『この辺りまで来るのはちょうどいい食糧が豊富だったのと、子供を育てて戦わせるのに丁度良い環境だった・・・のだけど、大分狩り尽くされているはず。』

『魔獣に成りきれなかった弱い生き物ばかりになっているってこと?』

『弱いのは放置しているからな・・・。』


 マナは蔓のリードで繋がれた群れの中を平気で歩いていて、小さいケルベロスを見付けるとその頭を撫でている。


『小っちゃくて可愛いわね。』

『やめて、私の子供食べないで!』


 マナがにんまりと笑うと、太郎の所に戻って来た。


「お肉ある?」

「ポチ用の干し肉で良い?」

「うん。」


 ワルジャウ語で喋っているので野性のケルベロス達には何を言っているのか分からない。カールはいつ襲われるのかという恐怖と戦いながらその光景を眺めているが、スーに至っては完全に気が抜けている。


「太郎殿達が平然としていられるのが凄いな。」

「太郎さんが怒るとあのくらいの敵ならみんな倒しちゃいますからねー。」

「一人で、か?」

「ですですー。」

「そう言えば急に動かなくなった、あれが太郎殿の?」

「魔法ですねー。手段を択ばなかったら国だって破壊出来るってダンダイル様も言っていましたからー。」

「・・・国?!」


 戦意を失ったボスケロベロスの前にしゃがんだ太郎が、干し肉をちらつかせている。そして見せ付けるようにポチに食べさせる。


『お腹が減ると狂暴になるっていうのは動物の本能だからねぇ・・・。』

『これはあの子娘が作った奴か。』

『エカテリーナも喜んでもらえると思って頑張ってるんだよ。』

『そうか・・・。』


 と、この場では関係の無い事を話しだす。

 マナに肉を渡したついでにごっそりと袋から取り出し、どう見ても4匹では食べきれない量が有る。


『ずいぶんあるな。』

『練習も兼ねていっぱい作ったからね。いつか旅に出ても困らない様にって言う事らしいけど。』

『そんな予定が有るのか?』

『有るけど旅って言うほどにならないんじゃないかな。』

『そうか、それは楽しみだな。』


 カットされた肉をビラピラと振る。


『・・・まあ、太郎の事だからな。』

『悪いね。』


 ポチは太郎のする事を理解して諦めた。それでもほかの肉を咥えると、チーズの所に運ぶ。子供達と一緒に食べる為だ。


『素直に成る?』

『うー・・・。』


 マナは子供のケルベロスの方で、その肉を与えて手なずけていた。


『美味しそうに食べるわねぇ・・・。』

『さ、最近食べてなかったから・・・。』

『子供に食べさせないなんて悪い親ねえ。』

『探しても最近魔物が少なくなって・・・。』


 もう少し欲しそうな表情をする子ケルベロスの頭を撫でる。


『・・・そういう事ね。』


 餌を与えられたケルベロスの蔓を外すと、子が母に向かって行く。迎え入れて腹の下に隠すと、母ケルベロスが怯えなくなった。


『アナタ変な感じがするわ。』

『そう?』

『まるで母親みたいな・・・。』

『あんたも食べたいでしょ?』


 周囲からも先ほどの戦意と凶暴さが消えていく。


「久しぶりに感じますけど、やっぱりマナ様は凄いですー・・・。」

「これは?」

「あー穏やかになるー。」


 スーが食べ終えて座り込んでいるポチの身体を背もたれにする。夜空を眺めて欠伸をすると、ポチの身体が動いた。


「背もたれにするな。」

「えー、いいじゃないですかー・・・。」


 部下達の作業が終わると、カールが太郎に話しかける。


「もう危険はないってことで良いかな?」

「大丈夫です。」


 数えた結果253匹のケルベロスが集結していて、それらがすべて大人しくなってその場から動かない。カールにとってはその眼で見ているのにも関わらず、とても信じられない、異様な光景だった。




 干し肉のストックが無くなってしまったが、それでも一口も食べられなかった事は無く、足りない分はマリアが運んできてくれた。

 それが魔女だと知ったケルベロス達の反応は、平伏す事だった。


『強い者に従うのはケルベロスとしては本望だ。』

『俺はこんな奴に従わないぞ。』

『お、おい・・・魔女なんだろ?』

『あの魔女も太郎に従っているからな。』

『・・・?!』

『一体どういう村なんだココは・・・。』

『ドラゴンに燃やされた土地に村が出来ているとは思わなかったぞ。』

『お前達は、知ってて来たんじゃないのか?』

『・・・魔物を駆除しているという事を知ってここに来れば食えると思ったんだ。しかしこんなのは村ではない。』

『村だ。』

『・・・それより、あのデカい木は何だ?』


 夜と言う暗闇の中でも、月明かりに照らされていて、その存在感は消えない。


『アレが世界樹だ。』


 絶句。

 そして、慌てる。


『ドラゴンに燃やされた筈だろ!』

『言っておくが、あそこでお前達の子供とじゃれてるのがマナ・・・、あの世界樹だからな。』


 絶望。

 そして、力なく座り込んだ。


『お前・・・なんでそんなに平気なんだ?!』

『慣れた。』


 その中でもトコトコと平気で歩いているもう一人の女性が、変な姿を見付けて触っている。


「ツルツルなのね~。」

「太郎がやったんだ。」

「ポチちゃんも似合うんじゃないの~?」

「やめろ。」

「冗談よ~。」


 素肌になった部分を撫でると、ふわっと毛が生えてくる。


『お、おおお・・・?!』


 数秒で元に戻ると、その頭を撫でる。


「やっぱり毛が有った方が良いわ~。」

「なんで戻したんだ?」

「太郎ちゃんに頼まれたから~。」

『おい、なんて言った?!』

『太郎に頼まれたから魔女が毛を戻したんだと。』

『そ、そうか・・・俺達はとんでもないところに来たんだな。』

『・・・それは同意する。』


 カールはそれらの事を最後まで見ていて、死んだ兵士達に凄く申し訳ない気分になっている。戦って死んだのだから仕方のない事だし、死と隣り合わせの危険な任務なのは間違っていない。防衛は兵士達の最大の優先事項なのだ。

 しかし、これでは逃げた方が助かった事になる。


「これも仕事だ・・・。」


 そう言って自分に言い聞かせる。

 冒険者であればそんな事をいちいち気にする必要が無かった彼は、兵士に成った事を少し後悔していた。






読んで頂きありがとうございます\(^o^)/








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