表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
240/403

第220話 子供達の・・・

 孤児院が建設された場所は川の傍で、自由に川で遊べるようになっている。宿舎のような建物は2階建てで、屋上は子供では乗り越えられないように柵がしてあり、子供達の使った衣服などを干す場所となっている。

地上から直接屋上へ向かう階段が設置されていて、基本的には作業をする者だけが上るので、洗濯物が干して有る時は、子供達が屋上で遊ぶのを禁止している。

 川の方に塀は無いが、コの字型に塀が有り、大きな門扉が正門で、小さな門は従業員の出入口兼搬入口になっていた。なので、食糧は沢山保管していない。毎日村の倉庫から運んでいて、孤児院にある食堂で作っている。

 従業員は30名前後で、日によっては応援を必要とする事もあったが、基本的には移住して来た者達の働き口となった。周辺の魔物を退治しに行く者もいるが、この村にギルドはなく、退治する魔物も殆どいない。なぜならエルフと魔王国の兵士達とで殆ど倒してしまうからだ。


「子供が凄い居ますねー。」

「なんだ、気に成るの?」

「子供はあんまり好きじゃないんですよー、意味も無く追い掛け回されるんで。」


 カラー達との会話だ。

 建物が完成したその日から屋上に何匹か遊びに行っていて、川が近くにある事と、風の通りが良い事で、居心地は良いようだ。午前中は子供達に勉強する時間を与えているので、あれほど沢山居るのにとても静かになる。

 午後ともなれば中庭や川で遊ぶ子供達の姿が見れるようになり、子供が好きな大人達が見学に行っている。


「私達も元気な子供が欲しいわね。」


 この村で結婚した兵士とエルフの会話で、なかなか子供が出来ない事を悩んでいるらしい。理由は知らないが子供を見る事で妊娠しやすくなると言われていて、この新婚夫婦は午後に成ると1時間ほど塀の外から眺めているのだ。




 正門は日が落ちると閉じられ、日が上れば開かれる。子供達はいつでも自由に村を散策できるのだが、慣れない土地の所為も有って、1ヶ月経っているが誰も門の外に出ようとはしていなかった。


「あのー・・・なんでここに?」

「ん?だめ?」

「ダメでは無いですけど・・・太郎殿はご存知ですか?」

「いちいち許可なんかとる訳ないじゃん。」

「ん・・・その、もう少し子供っぽくなりませんか?」

「太郎には十分ロリコン心をくすぐられるって言われてるけど?」

「・・・?!」

「なに?」

「あ、いえいえ、今のは内緒にしておきますね。」

「別に、みんな知ってると思うけど。」

「あはは・・・。」


 従業員の女性は乾いた笑いを放った。


「とりあえず、世界樹様はココで教わるような事は無いと思いますけど。」

「子供になって遊ぶと楽しいわよ!」

「それが出来るのは世界樹様だけだと思います・・・、あぁ、そういう事でしたか。」

「そうよー、子供と遊ぶ機会なんてほとんどなかったじゃない。」

「太郎殿のお子さんは?」

「あー、あの子達の場合、遊んでると戦闘バトルになるからメンドクサイのよ。」


 戦闘が遊びとは、流石太郎殿のお子さんだ。

 と、感心してしまった。


「こっちじゃそういうの教えないんでしょ?」

「読み書き計算が主流になります。子供達は勉強する事も親から教わる事も殆ど無かったでしょうから。」


 大人と話をしているとマナは子供達に囲まれた。


「おねーちゃんあそぼーーー!」

「おねーちゃんって、そんなに大人っぽく見える?」

「僕のおねーちゃんよりおねーちゃんに見えるよ!」


 ほらね。

 と、女性従業員の表情である。

 少し困っているようなのでアドバイスを添える事にした。


「太郎殿の好みは知りませんが、髪型を変えたり頭髪をもっと短くしたりするとヨイと思います。」

「長いのが太郎の好みだったんだけどなー。」

「・・・な、内緒に?」

「知ってるんじゃない?」


 デスヨネー。

 太郎殿って・・・。


「なんのはなしー?」

「何でもないわよ、それより何して遊ぶ?」

「ケンケンパってやつ、やろ。」

「あれ、思ったより面白くなかったわ。」

「お前だけ楽しくてもしょうがないだろ。」

「えー・・・。」


 声が尖がってくるのを感じたのでマナが止める。

 なるほど、確かに世界樹様が子供のフリをして下さると楽かもしれない。

 彼女はこの宿舎の責任者に任命されていたので、太郎への報告はするが、内容については詳細を伝えない事にした。なにしろ、あの世界樹様なのだから、ただ遊んでいるだけには思えなかったからである。

 実際は子供達と遊びたかっただけで、特に何も考えていなかったが。

 マナが他の遊びを提案する。


「釣りでもする?」

「竿は無いよ。」

「糸が無いよ。」

「餌も無いよ。」

「ハイどうぞ。」


「「「「えっ?!」」」」


 さっきの従業員の人が持ってきてくれた。

 いつの間に準備したのかと思ったら、すぐ傍がたまたま倉庫だったとの事。

 子供用に作った玩具の様な釣り竿だが、後は針が有れば魚は釣れる。針が無いのはまだ作って貰っていないからで、後日届く予定だ。


「裁縫用の針しかないので、これを曲げて使いましょう。」


 受け取ったマナと従業員の二人が、いとも簡単にぐにゃっと針を曲げた。


「あ、危ないから私がやっとく。」

「え、あ、うん。てか、なんでそんなに簡単に曲がるんだ・・・?」


 他の子供達には出来なかったのは針が硬いからで、本来はそんなに簡単に曲げられるモノではない。従業員は大人だったのでそれほど不思議に思わなかったが、マナが出来て自分に出来なかったのが少し悔しかった。ついでに言うと針にカエシも無いので、上手く釣り上げないと外れて逃げられてしまう。

 釣り道具一式なら太郎が持っているので貸してと言えば済む話なのだが、今のマナにその発想はない。

 

「よーし、釣った数が一番の子には、村の蜂蜜あげちゃう!」


 もの凄く盛り上がったが、当然の様に誰も釣り上げられなかった。




 更に数日経過し、マナはいつも通りに孤児達と仲良く遊んでいたのだが、何故かマナの目の前で言い合いになった。最初は何をして遊ぶかで言い合いに成り、次に誰と遊ぶかで友達の奪い合いになり、

 孤児院では初めてのケガ人が出た。それも腕を折る重傷で、すぐにマリアを派遣して治療させたが、騒ぎは収まらない。

 ケンカの理由はマナを取り合ってとの事だが、内容はかなりマセている。


「マナはな、俺の彼女になったんだよ!」


 名前を言われた本人に、その自覚はこれっぽっちも無い。

 確かに仲良く遊んでいたが、それは男女分け隔てなく遊んでいたつもりで、告白された覚えもない。

 腕を折られたのは結果的には狙ったわけではなく事故だという事だったが、折られた方が許せるはずもなく。


「僕の彼女だよ!おまえなんかにやるもんか!」


 マナはなんでこんな事に成ったのか良く分からない。

 確かにこの男の子二人とはよく遊んでいたし、何かしらの勝負を何度も挑まれていた気がする。

 あれ?

 アレ?


「ねー、あんた達二人はー、なんでこの子を彼女だと思ってるのー?」


 あっさりと治療が終わって回復している事に驚いているのに、それ以上に怒りが収まらない。マナがどれだけ可愛いかは横に置くとして、人懐っこい上に、男女平等に接するし、すぐに身体を寄せて来るし、ボディタッチも全く気にしない。触られてもそれほど怒らないし、下着なんて付けていないのに、走り回って飛び回る。

 結果、勘違いした男の子が二人完成したという訳で、勘違いしかけた女の子も居るのだが、こちらは男の子二人が喧嘩した事で冷静になっていた。


「だ、だって・・・あの時・・・。」

「俺だって、あの日に・・・。」


 マリアがマナを見て困ったように言う。


「なにをしたの~?」

「え~、特に何にもしてないけど。」


 うどんが・・・来なかった。

 というか、来れなかった。

 いつの間にか入ってこようとしたうどんに気が付いたマリアが、他の誰にも気が付かないうちに追い返していた。


「「そんなことないよ!!」」


 あんな事したとか、こんな事したとか、二人の言い合いが始まったのでマナが二人の頭をぺしっと叩いた。


「そんな事ぐらい他の子でもやるわよ!」


「「え~~~~!?」」


 という事で、マリアが集まって来た他の男の子に訊くと、すぐに頷いた。


「うん、ぼくは一緒にお風呂入って洗いっこしたよ。」

「なんだとーー!」


 今度はその子に掴みかかろうとしたので、マナにベチッと叩かれた。


「やめなさい。」

「な、なんだよー・・・。」

「俺だけに優しかったんじゃ・・・。」

「みんなに優しくしてあげないとダメでしょ!」


 マリアは呆れながら聞いていたが、従業員に手を振ると早々に帰って行った。そして、太郎が代わりに現れた。それも当然で、マリアに助けるように言ったのは太郎で、報告を受けて指示した後に、自分の作業を終わらせてからのんびりとやって来たのだ。

 まさか、こんな事に成っているとは思わない。


「なにこれ?」

「あっ、太郎!」


 マナが飛び付くと、逃げるようにして太郎の頭の上に乗った。何故か他の子供達も真似して太郎にしがみ付いてくる。


「お前誰だよ!」


 今度は従業員に怒られた。

 マナと違って叩いたりはしない。


「この人知ってる!ぼくたちを魔法で運んだ人だ!」

「あー・・・俺ってそんなに印象薄かったんだ?」

「太郎は遊びに来ないじゃない。」

「ちょくちょく見には来てたよ。午前中だけど。」

「それじゃあ、知らないわよねぇ・・・。」

「何が?」

「最近はココで私が遊んでること。」

「知ってるけど、別に気にしてないし、夜には帰ってくるじゃん。」

 

 子供にもみくちゃにされて、立っているのが辛くなったのでその場に座る。子供に囲まれるのは慣れているが、周囲には20人ぐらい居て、太郎相手に必至に説明しようとする子供もいて、太郎の耳が10個あっても足りない。


「で、なんでケンカしてたの?」

「私の取り合い。」

「なにそれ?」

「マナは俺が嫁にするんだ!」

「・・・これ?」


 頭の上で困ったように息を吐き出す。


「そう。」


 今度は邪魔される事なくやって来たうどん。

 しかし、マナに近づけなくて子供達が囲んでいる外側でオロオロしている。


「子供の問題なら子供が解決すれば良いと思うけど・・・。」


 腕を組んで少し考える。


「マナが関わっていてると、なんかややこしい事に成るな。」

「ちょっと、どこに連れてくんだよ!」

「マナは孤児じゃないぞ。家が有るんだから帰るに決まってるでしょ?」


 太郎に言われると、ケンカしていた子供が押し黙る。しかし、目は強く何かを訴えかけていて、唇が歪むと、目にいっぱいの涙を浮かべた。

 何も出来ない自分がとても悔しかったのだろう。

 子供だからという理由で、何もさせてもらえなかった事を思い出し、大声で泣きだした。そして、共鳴するように泣き出すと、周りの子供も泣き始めてしまい、収拾がつかなくなってしまった。

 うどんが一人一人丁寧に頭を撫でて宥め始めたので、今度は子供達がうどんにしがみ付いた。凄く困っているけど凄く嬉しそうでニコニコしている。


「任せていい?」

「お任せください。」


 太郎が孤児院を出て一時間後ぐらいには、うどんの周りには泣き止んだ子供達がニコニコしてうどんと話をしていた。

 昨日の事、今日の事、明日の事。

 従業員が見ても見事過ぎる手腕を発揮し、意外過ぎる活躍て、その後、うどんが孤児院に常駐するようになっていた。






いいね ブクマ 評価 ありがとうございます\(^o^)/


感想もお待ちしています!


お気軽に!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ