第219話 完成と歓声
お米がたくさん手に入ったという事で、ご飯を炊く。
炊き方を正しく知っていたのは俺とナナハルだけで、それ以前の問題として、米を炊く釜が無かった。
「いくら余ってるからってミスリルで作る事はねーだろ。」
「熱の伝わり方が均一らしくて美味しく炊けるんですよ。」
「・・・鉄でもいけただろ?」
「何となく・・・ふっくら感が違うんですよね。」
とは、どの金属だと美味しく炊けるか試した結果で、用が無くなれば盾か剣に打ち直してもらう予定だったのだが、ナナハルのお墨付きで決定した。
「これは良いのう。わらわも欲しいぞ。」
「・・・。」
「・・・。」
見詰められた方が吃驚していた。
「なんで俺を見るんだ、俺なんかに訊かなくてもおめーのもんだから勝手にすりゃいーだろ。」
「そう言う訳じゃ、太郎よ。ひとつ頼む。」
頭の下げ方に丁寧さを感じる。
何故ならミスリル製の釜なんてこの世界に存在しているかどうか分からないモノである。値段にしたら・・・想像もつかないのは太郎の金銭感覚がまだ定まっていないだけだろう。
「いいよ。」
?!
後ろを見ると笑顔て運んできた同じ釜がもう一つ。
「作ってたんだ?」
「見事な釜じゃ、これは家宝に・・・いや、使わねば太郎に申し訳が立たんの。」
「モチ米も作って、冬には餅つき大会でも開こう。」
「そうなれば二つ必要という事じゃな。しかし、これからモチ米を育てるのか?」
「もちごめってなーにー?」
「お餅用のお米って・・・まぁ、種から探さないとならないんだけど。」
「ふむ、妹に取りに行かせよう。」
妹は元のナナハルの家で修行に励んでいる・・・らしい。
姉であるナナハルは、たまに確認に行くのだが、確認に行くまでも無く、逆に村にやってきて食事しているとの事。
「遊ばせてばかりでは困るのじゃが、素の素質からして強くてのう・・・。しっかりして貰いたいがわらわでも本気で戦ったら怪我をする。」
「負けはしないんだ?」
「負けはせん。だが、圧倒的に勝つのも無理じゃ。瞬間移動の魔法もこっそり練習していると聞いたが、流石に諦めたようじゃ。」
「使えたら楽になると思ったのかな?」
「太郎ほどのマナが有ってこそ楽になるというモノじゃ、わらわとて何度も使えるモノではない。」
日に何度も使っているのは魔女のマリアで、それでも5回が限度と言っていた。ダンダイルでさえ2回使うとヘトヘトになる魔法で、マチルダでも3回、ナナハルも3回使うと作業に支障が出るという。
「禁忌レベルの魔法というのは禁忌になるだけの理由が有るのは理解しているが、こうも使い難くては誰も使いたがらん。それならば禁忌にする理由もないであろう。」
「創造魔法は?」
「太郎が我慢すればよい。魔女の方は使う気が無いようだし。」
マリアも使える創造魔法は、何でも出来る代わりに消費も激しいという事だ。
「俺もお湯を出すくらいしか使ってないしなあ。」
「贅沢じゃな。」
太郎が何かを思い出して声を上げる。
「お湯で思い出した、井戸掘らないと。」
「兎獣人か・・・あのような生態で生き残るとは思えないが、それでも護るのかえ?」
「助けるのに価値を求めたらダメだよ。それこそ、命を取引する事に成る。」
太郎の言葉にナナハルは小さく驚き、直ぐに表情を消した。
「そうであった、それでこそ太郎であったな。」
ナナハルの感嘆の言葉に、太郎は苦みを込めて笑った。
「これで大丈夫よ~。」
マリアに特殊な結界魔法をかけてもらい、太郎を別の生き物と御認識させることで兎獣人達に襲われないようにしてもい、特殊な結界で守られている集落に入った。
ちなみに、何に誤認させたのかは教えてもらえなかった。
「パパ~。」
ククルとルルクが飛び跳ねるようにして太郎に駆け寄ってきた。井戸は小さいのがあるが、それだけでは足りないという事で、拡張するか、もう一つ掘るか、二者択一である。集落をこれ以上拡張する予定は当分ないが、一つより二つ有った方が便利なのは間違いない。
結界の不要なマナが、太郎が一人で掘り始めたのを見て、言った。
「今なら魔法でも行けそう。」
「あー・・・。」
以前に土魔法で穴を掘るのに失敗した経験が有るので、悩みつつも真下に掘ろうとしていた太郎に提案したのである。
男の手伝いを増やせばいいのだが、兵士達は入れないようにしてあるし、女性のエルフ達に手伝ってもらうのも気が引けた結果である。
護衛に付いて来たのはポチだけで、スーは穴掘りを手伝う気が無かった。
「見てて、いくよー!」
ミシミシと地面が僅かに揺れると、近付こうとする娘二人を抱き寄せた太郎が、マナの後ろまで下がる。
「おー・・・なんか凄いぞ。」
村の方にも何ヵ所か井戸があるが、それは勝手に作られたもので、基本はうどんが浄化した水を使用している。
「こんな感じ?」
地面に見事ぽっかりと穴が空いた。
恐る恐る覗き込むが、底は見えず、水が湧いているか確認できない。
「とりあえず、下に降りてみるか。」
太郎が一人で穴の底に降りる。飛び降りるのではなく、浮遊魔法でゆっくりと降下していき、着地した。暗くてよく見えないからしゃがんで地面を触る。
「なんかカチカチだなあ・・・。」
そこから更にスコップで軽く掘ると、じんわりと水が出てきた。このままだと靴が濡れてしまうので、浮遊しながら底をスコップでやわらかくする。周囲の土壁もカチカチなので、これなら補強する必要も無いだろう。
便利な魔法だ。
気が付くと水がせり上がってきたので、これで完成で良いだろう。あとは穴の周囲を囲んで、つるべ落としが出来るように滑車を付けるだけだ。
必要な材料は用意して来たので、袋から取り出して組み立てるだけだ。
「パパ手伝うよ。」
「じゃあ、そっち支えて、こっち縛るから。」
こうして作業する事約2時間。
あっという間に完成した。
「いきなり崩れないよね?」
「心配なら蔓でも伸ばして補強しようか?」
「あ、それいいね。ついでに柵も蔓で巻き付けたら壊れにくくて良いかも。」
もわっと、どこからともなく蔓が伸びてくる。
ぐるぐるっと絡み付き、ガッチリと頑丈になった。
「おい太郎。あいつら、なんかこっちをジロジロ見て来るんだが?」
兎獣人達がこちらを見ているのは何故だろう?
「多分いきなり井戸が出来たのでビックリしてるんだと思う。」
「それはそうだ。」
「ちょっと休憩しない?」
マナの提案に目を輝かせる娘たち。
「ぱぱ~こっちのお家寄ってって~。」
急に二人の娘に腕を掴まれて連行された。
あの、後ろ向きなんですが。
休憩ってそういう意味じゃないよね?
「ご飯作ったの~。」
「ポチちゃんの分も作ったの~。」
「ほら、太郎さっさと歩け。」
「私の分は~?」
「あるよ~。」
太郎のあたまにマナが乗っかる。
「何なんだ、急に~。」
その日の太郎は、初めて娘の料理を食べるという記念日になった。
「ちゃんと歩かせて~。」
・・・ついでに語尾が伸びる癖が付いた。
暫く平和な日々は続き、今後多くの人が集まる事に成る建物が完成した。多くの人が集まっていて、祭のような雰囲気がある。
「孤児院って言うより、宿舎みたい。」
「それは当然だろう、この敷地に数百人が生活するのだ。」
ある意味、村と切り離されても困らないようにソコソコ大きな畑を作れる土地と、井戸や食糧庫、そして専用の食堂もある。ただし、まだ一人も住んでいない。
「ベッドも遊び場も完備とか、あり得ないぐらいの高待遇で我々でもうやましく感じますな。」
「子供にはもったいないと思いますねー。」
「完成を見てからの方が募集しやすいでしょ?」
「確かに、これを見てからなら自信を持って言えます。」
「募集はトヒラに一任する事にする。」
「承知いたしました。」
ダンダイルが勝手に任命しているが、太郎は何も言わない。
募集と言っても、本当に困っている子供達は募集要項など見ないし、見ても読めない。結局は街を歩き回って親のいない子供達を捜し出し、回収するという根気のいる作業なのだ。
「一度城に集めてもらったら俺がココまで運ぶんで。」
「え、そんなことしたら・・・太郎殿でしたら問題なしでしたね。」
「畑は耕してもらって、ちゃんと働く環境と勉強をする環境も作るし。」
「太郎殿は孤児を育成してどうするおつもりで?」
軍人にでも育てるのかと訊きたいくらいである。
「子供は可能性の塊だけど、環境次第で可能性を潰す事にもなる。それは、善人になるにしても、悪人になるにしても、一定の教育が無いと、自分の未来を自分で決定する事も出来ないからね。」
ビックリしたのはダンダイルとトヒラだ。
「育てた上に子供達には自由にしろと・・・豪胆というか、豪気というか、なんとも例えようのない行動をしますなあ。」
「ハッキリ言うとただの慈善事業だからね。」
ただの慈善事業という言葉なんて、軽く発していいモノではない。
「ある意味魔王国より優れている事を証明してしまうのでは?」
「そんな事は無いし、そんなつもりも無いけど。」
「どの国も孤児には一定の対応はしていますが、本気でどうにかしようと思っているところは殆どありません。ましてや、将来は好き勝手生きろなんて・・・。」
孤児は育てられた環境で変わる。
教会なら信者を育てるし、商会なら優秀な人材だけを優遇する。育てた金を回収する必要も有るので、分かりやすく言えば未来への投資なのだ。
そして、そんな不確定要素しかない遠い未来の為に投資する余裕が有る訳がない。
「太郎殿にはあらゆる意味で勝てそうもない。」
「勝敗で決めようとしないで下さい。」
ダンダイルが笑ったのは降参という意味であり、路頭に迷う子供達が奴隷化されないようにするだけでも、太郎には頭が上がらないのである。
「ドーゴルにはもう少し福祉と奴隷と子供について考えてもらうとしようか。」
「無理しないで下さいね。」
「太郎君に言われると返す言葉が無い。」
「だから、無理して返さなくていいんですよ。」
「・・・太郎殿は凄いなあ・・・。」
多くの人に感心された太郎は、3日後に集められた子供達の人数の多さに驚きつつも、全員を瞬間魔法で運び、子供達への教育はエルフ達が引き受けてくれるという事で、不安でいっぱいの子供達に最初に与えられたのは、食事だった。
パンとカレーしかなかったが、おかわり自由で子供達が食べきれないほど用意した。それは奪い合いになる事を避けた為で、それだけでも、村の食糧の1ヶ月分が2週間足らずで消費される事となった。
ちょっと前までは毎日の食事に困っていた子供達はハシャギまくっていたが、それを教育していくのは予想以上に大変で、太郎が苦渋の表情で了承したのは、何か悪さをした時に食事抜きの罰を与える事と、帰りたいと言う者を返す事だった。
体罰は厳禁とした。
「甘すぎませんか?」
「甘くて結構。大人だって暴力と成れば周りに悪い影響を与えるからね。」
「体罰と暴力は違いますけど。」
「それを区別できる子供が何人いると思うの?」
「・・・そう言われますと。しかし、手に余る子供達もいるでしょう?」
「でも体罰はダメ。」
子供達にとっては、今まで見てきた孤児院との待遇の違いに大喜びする者が殆どだったが、それは何もしなくても食べられる生活という事で、与えられた仕事をサボる者や、敷地を飛び出して悪さをする子供は、直ぐに現れた。
ケンカも1日に一度は必ず発生し、体罰が無い事に調子に乗る者は次第に増えて行った。
最近はファンタジーらしさがめっきり減っていますが、
読んで頂けることに感謝しております\(^o^)/
いいね も ブクマ も 評価 も 大感謝 \(^o^)/
感想もお待ちしておりますよー




