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第218話 収穫と建築

 あれからしばらくが経ち、季節が変わると、田んぼは黄金色の穂でいっぱいになっていた。風で揺れる穂波に、思わず声が漏れる。


「こんな景色は久しぶりじゃ。」

「これを全部刈る事を考えるとなかなか・・・。」

「もっと増やすのだろう?」

「その予定なんだけど、やっぱりマナに頼ろうかなあ・・・。」

「お困りですか?」ムギュー

「あれ、うどんよりマナは?」

「いるわよ。」ムギュー


 動き辛いのですが。


「我らも手の空いている者は集めた。一気にやるとしよう。」


 一番頼りになるオリビアさんの号令でエルフ達は刈り始める。

 子供達には、田んぼの隅にある稲穂で鎌を使った刈り方を教える。

 こら、そこ。

 これは武器じゃないから戦闘に使わないように。


「俺に農具を作らせる奴なんかおめーぐらいだ。」


 グルさんは作った道具が刃こぼれしたら研いでくれると言って見学している。手伝ってはくれないらしい。


「久しぶりに外の空気を吸いに来たんだ。エルフ達だってそれなりに打てるからな。」

「モグラよりも長く土の中に居るんじゃないですか?」

「そりゃあ、あそこは天国みたいなもんだからな。でも毎日天国に居たら少しは別のモノにも興味は湧くもんだ。」

「そんなもんですか。」

「そんなもんだ。そんな事より、孤児院をやるって聞いたが?」

「今、集合住宅を建設してます。」

「シューゴージュータク?」

「あー、えーっと・・・宿舎を造ってます。」

「なんだ、めんどくせー言い方するな。」

「あはは、すいません。」

「別に怒ってねーよ。子供がたくさん来るんなら鉱石鑑定の加護を持ってるやつを見付けたら連絡してくれ。」

「鉱石鑑定?」

「おめーの持ってる言語加護の鉱石版だと思えばいい。」

「そんなのが有るんですね。」

「子供の時にその加護に気が付けないと消えっちまうと言う不思議な能力でな、世界でも魔女ぐらい希少な存在だぞ。」

「へー・・・それは珍しいですね。」

「おぅよ。あと、おめーの子供が後ろで騒いでるぞ。」


 後ろを見ると、うどんとマナが居て見えない。

 グルさんは俺に纏わり付いているうどんとマナを見てもなんとも思わなくなったようだ。そのまま身体ごと向きを変えると、タイチとジロウに捕まった。


「おとーさん手伝ってよ―――!」

「お、おおう。いくいく。」


 こうして田んぼの中へと、足を踏み入れた。




 刈り取ったら干して乾燥させて、脱穀まではまだ先だ。夕食も食べることなく、太郎の寝室で疲れて寝ている子供達を眺めていれば、同じように眠くなる。

 ・・・寝ていたらしい。


「パパー、パパー。」


 誰かに起こされた。


「・・・あれ、ククルとルルクじゃん。」


 パパって呼ばれてたっけ?


「畑の話聞きました。」

「あー、スパイスの畑作って貰う話だっけ?」

「うん。」

「育てられそう?」

「うどんさんが来ないと水が足りないの。」

「井戸なかったっけ?」

「元々水をあまり飲まなかったから使わなかったけど、畑で必要になっちゃって。」

「そっか・・・じゃあ今度作りに行くよ。」


 二人はにっこり微笑んだ。

 二人は滅多に太郎の家に来る事は無く、殆どを集落で過ごしている。もちろん、二人にも発情期は有るのだが、自制できる程度なので、他の者達の面倒を見た居る事が多い。村で生まれた男の子は、まだまだ子供なので行為が始まるのはもう少し先らしい。


「もう少しなんだ?」

「もうやり方は知っているみたいで、マンドラゴラをたくさん食べるようになりました。」

「なんか、凄い世界だなあ。」

「パパが来ると襲われるかもしれないけど・・・。」

「マリアに結界を張ってもらえばいいらしいから。」


 結界を張る事で人として認識されなければ襲われる事は無いらしいが、それはそれですごい魔法だと思う。そんな便利な魔法がなんで多くの人に広まらなかったかというと、使えなかったからという単純な事だ。

 いや、使う機会が無いと言うべきか。


「どうしたん?」


 二人がじーっと見詰めてくる。


「?!」


 寝ている太郎の左右に、首筋に唇がくっつくほどぴったりとくっ付いて・・・寝た。


「なんで二人の手が俺の・・・。」


 太郎は暫く眠れなかったが、二人は気持ちよさそうに寝息を立てていた。まだまだ甘えたい年齢なのに、二人は嫌な顔をせずに黙々とやってくれている。こういう事で満足してくれるのなら構わないだろう。

 ただ・・・、なんか艶っぽくなった気がするのは、気の所為だと思いたい。





 孤児院が完成する前に、トロッコ駅の傍に精錬所が建設され、先日に完成した。

 加工場まであるし、グルさんの弟子夫婦がエルフと兵士相手に剣の打ち方を教えていた。子供達もいずれ覚えたいらしい。

 レールは魔物に襲われて破壊されないように頑丈に作ってあるだけじゃなく、定期的に巡回もしている。

 柵を作るように提案したら、直ぐに作り始めたが、逆に入り込んで出られなくなる魔物がいた所為でトロッコが止まった事があったらしい。


「魔物が少ないから滅多に起きる事じゃないのよー。」


 トロッコで魔物を轢き殺すつもりで強化したら重くなり過ぎて移動が遅くなっただけじゃなく、運べる量も減った事で、結局元に戻ったらしい。ダリスの町では魔物が入り込めないくらい大きな町で、鉱山まで直結しているトロッコ鉄道で魔物が邪魔になる事は無い。


「もう鉄道の周囲にも家を建てるとか、側道を作って、街灯を作るとかしちゃえば?」

「ガイトウ?」

「夜に周囲を照らしてくれる柱の上に灯りを付けたものだよ。」

「そんなモノを造ったら魔物が余計に寄って来るような・・・。」

「明るいのって魔物が寄るの?」

「寄る魔物と寄らない魔物がいますが・・・。」

「トレントでも並べたら少しは安心する?」

「トレントってそんな簡単に増やせるんですか?」

「木の実をくれるトレントが居るから、種さえあれば増える筈だけど。」


 カールと相談して悩んでいる時に、うどんがやって来た。

 当然のように豊満な胸を太郎に押し付けてくる。


「お悩みですか?」

「そうそう、木の実が作れるんなら種もあるよね?」

「あります。」

「トレントを増やしたら森の安全性も高まる?」

「逆に魔物が集まります。」

「え?」

「魔物が棲みやすい環境になる筈です。」

「あー、うん。別の方法を考えるか・・・。」


 うどんが少し寂しそうな声で言った。


「トレントは増やしてもらえないのですか?」

「増やすのはかまわないんだけど、以前のこの周囲の森ってトレントだらけだったんだよね?」

「らしいですな。」


 マナが子供達とやってきた。

 剣を打っているのを見ていたが、触らせてもらえないので飽きて帰って来たと。


「なにやってんの?」

「のど乾いたー!」

「おなかすいたー!」


 エカテリーナがやってきて、ササっとお菓子と飲物を用意する。


「マナさ、トレントの森って魔物はどうだったの?」

「入り込めないぐらいぴっちり生えてたから魔物は少なかったわね。」

「あー、なるほど。」

「孤児院とかの周りもトレントで埋めると良いわよ。」

「埋めるって・・・生やすっていうんじゃないのか?」

「どっちでも同じよ。」

「それもそっかー・・・いや、ちがうだろ。」


 ノリツッコミをしてしまった。

 子供達はお菓子に夢中だが、カールが微妙な表情をしていた。


「トレントを生やすにしても、我々には無理なので太郎殿にお願いする事に成りますが・・・。」

「苗木にして植えるのをやって貰えれば。」

「それはお任せください。」


 こうして、トレントの大量生産が決定した。

 他のトレントは仲間が増えるのは大歓迎との事で、トレントの苗木を植えていた場所に移動する事にした。

 子供達も付いて来たので賑やかになったが、カールは他の兵士も集めていて、トレントの苗木を移動させるつもりだ。


「まだ小さいですな。」


 30㎝ほどの高さにしか育っていない。

 というか、太郎があの時に植えて生やした時と変化がない。

 元々すごく成長が遅いのだ。


「うどんさ、種だけ出せる?」

「ん、ん~~~~。」


 唸った後に口を開くと、ぽろぽろと出てきた。


「他の方法で出せないの?」


 スカートをたくし上げたので止めさせた。

 俺が悪かったって。

 うん。


「こんなにいっぺんに育てるの?」

「とりあえず10㎝くらいで。」

「太郎様はトレントのお父様になられるのですね。」


 種を植えるのは面倒なので地面に等間隔で並べていると、うどんが変な事を言う。


「父親って訳じゃないと思うけど。」

「何かを生み出したり作り上げた最初の人って、父とか母とかに例えられるという事でしょう。」


 カールの言うことは分かる。分かるが納得はしたくない。


「よし、これだけ有れば。」

「綺麗に並べたわねぇ。」

「やっちゃって。」

「いくわよ~~~。」


 ニョキニョキと芽が出て、幹が伸び、根が伸び、ぱたぱたと倒れる。

 根が地面に張るよりも早く伸びた所為だ。


「お、おおぅ・・・。」


 久しぶりにクラっと来て、座り込む。

 流石に無茶だったらしい。

 視界が急速に真っ暗になると、マナに倒れ込んだ。


「おい、太郎殿を医務室へ運べ。」

「はっ。」


 運ばれる事に何の抵抗も示さないという事は、太郎は気を失っていたのだった。

 苗木は箱に詰められ、木箱3個分にぴっちり。

 植える作業は翌日にする事としたのは、太郎がその後、丸々一日起きる事は無かったからで、心配したマナとスー、ポチ達がずっとそばにいて、子供達も医務室の外で起きるのを半日ほど待っていた。

 ナナハルは心配するほどでもないと言ってはいたが、時折姿を見せては太郎が起きたか確認しに来ていた。


「死んでいるワケでは無いでの、いずれ目を覚ますじゃろう。」

「ちょっと今回はやり過ぎたわね・・・。」


 マナが反省と心配の念を抱きながら、太郎の頭をずっと撫でている。カラーやキラービー達も窓の外から見ているくらいで、いきなり倒れたことにショックを受けているのだ。グリフォンはたまたま寝ていなかったら、もう少し騒がしくなったかもしれない。

 こういう時にシルバとウンダンヌは役に立たず、エカテリーナは食事を運んできて、少しだけマナと交代させてもらえたが、心配する事と、太郎が起きた時に心配させた事を秤にかけて、いつも通りで安心してもらえる事の方が良いとの考えを、スーとナナハルに提案された事で、いつも通りの作業に戻った。

 当然、いつも通りに作業は出来なかったが。


「太郎は働きすぎじゃ。」


 とのナナハルの言葉には一同が同意した。







2022/09/07


ちょっと文面変更しました。

内容に変化はありません \(^o^)/

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