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第217話 孤児

 市場調査を終えて村に帰ってきた太郎達は、何も買えなかった代わりにスパイスの種をたくさん手に入れる事に成功した。

どうやって手に入れたのかというと、マナが種をいつの間にか持っていたのだ。

それって盗んd・・・ゲフンゲフン。


「盗んでないわよ、落ちてたのを拾っただけだから。」

「確かに溢れるほど有ったから周りに零れてたけど・・・。」


 納得はしないし、次はやらないように注意しておく。

 しかし、種さえあればいくらでも量産可能というのは恐ろしい事だ。

 新しく畑を作る必要が有るのは間違いない。


「見た事ない種も在るから、久しぶりに本で確認しないとな。」


 食堂のテーブルで種を皿に分けて確認する。

 なんでマリアが居るの?


「その本が気になってー。」


 日本語で書いてあるのでマナと太郎以外は読めない。

 マナは難しい漢字は読めない。

 俺も読めないぞ・・・なんて読んだかな・・・辞書を持って来ればよかったなんて思うとは。


「まるで本物のような絵だな。」

「これは写真と言って・・・。」


 何でダンダイルさんが居るんだろう?

 子供達も集まって来た。

 種と写真を見比べて、一つ一つタグに名称を書いていく。


「30種類くらいあるわね。」

「良く分からない草の種も混じってるけど。」

「だって拾っただけだもん。」

「あ、うん。そうだね。」 

「それは、マリンローズの種よ。」

「まりんろーず?」

「海岸に咲く綺麗な薔薇なんだけどー、花びらを加工すると毒消しの効果がある丸薬が作れるわー。」

「保管しておいた方が良い?」

「いらなーい。観賞用になら売れるかもねー。」


 保留っと。


「そう言えば、兎獣人も簡単な畑なら管理してたよね?」

「畑を耕すくらいは出来るみたいね。」

「任せるのー?」

「不安でも?」

「枯らすんじゃないかしら・・・。」

「マンドラゴラはちゃんとしてたよ。」

「あれは、存在自体がマナの塊みたいな植物だからー・・・、無制限に育てられる存在がいるこの村なら関係なかったわー。」


 マリアは考えるのを止めた。

 確かに、うどんとマナが居れば、植物を枯らす事は無い。

 膨らまし過ぎて破裂したスイカが有るのだが、そんな事は問題ではない。

 子供達に邪魔をされつつ、種を分類したが、残念な事に誰にも分からない種が一つあった。


「何の種だろうね?」

「今ココで育ててみる?」

「あ、うん。大きくし過ぎないようにね。」


 マナがお皿の上の種を成長させる。

 芽が出た。

 小さな葉が二枚出てくる。

 茎がぐんぐんと伸びて、逆方向に根も伸びる。


「おもしろーい!」


 子供達がはしゃいでいるが、見た事あるよね?

 お、つぼみだ。


「ま、まってー。」


 マリアが成長にストップをかけた。

 ピタッと止まる。


「なによ?」

「これ、つぼみの時が一番効果の高くなる薬でー・・・えーっと・・・名前が・・・思い出せないわー・・・。」


 悩んでいるようだ。


「なんだったかしら~・・・スイカダラ~、スイカドラ~・・・。」

「スイカズラの事ですか?」

「そう、それ~。」


 いつの間にかフーリンさんもいる。

 スイカズラって何だろう?


「加工の仕方で色々な効果が期待できる薬ですが、モンスターも良く食べるのでなかなか採れない貴重な薬です。」

「この辺でも見た事あるわね。」クンクン

「なんか良い香りだね。」

「花瓶で飾るのも悪くないです。花屋の店先に並ぶようなモノじゃないですけど。」

「でも~、育てたら欲しがる人は居ると思うわ~。」

「安価で手に入りますからね。」

「それは育てる価値があるって事?」

「太郎に分かりやすく言うと低所得者向けってトコね。」

「あー、なるほど。」


 それなりに流通していて、高価と言うほどでもなく、生産業者も存在するので安定した価格を維持している数少ない薬である。

 太郎とマナの会話は現代向けでこっちでは分からない事も多いが、ダンダイルはちゃんと理解した。


「低所得者というと、貧民街で重宝すると・・・。悪くないですな。」


 薬不足は重要な問題で、お金が有る人は買えても、お金が無ければ我慢するしかない。その所為で多くの人が死ななくて良い病気で死んでしまうのだ。

 ナナハルがタイミング良く、会話に入ってくる。


「太郎よ、言わんでよいのか?」

「んー。」


 三人の視線が向けられた相手が不思議な表情をする。


「なんですしょう?」

「ちょっと、説明すると長くなるんだけど・・・。」


 説明はナナハルがしてくれた。

 タスカル!


「孤児院を?」

「やっぱり、こっちで勝手にやるのは良くないですか?」

「この村で作るのなら特に必要書類は必要ありません。募集をするのも自由ですが、あまりやり過ぎると子供を棄てたくても悩んでた親が集まりますよ。」

「え?」

「子供を育てるのは金がかかりますからな、子供の内から学業に就ける者と言えば貴族ぐらいなもので、経営者によっては子供に一定の仕事をさせるのも普通です。」

「そう言えば、コルドー教の孤児院もあるって聞きましたが?」

「そうなのか?」


 ダンダイルの後ろに隠れるように立っていたので気が付かなかったが、トヒラもいた。ダンダイルはそのトヒラに訊いたのだ。


「あります。今は詳しく答えられませんが10軒以上がコルドー教が仕切っています。約50軒がキンダース商会です。ただ、双方とも奴隷売買をしているという噂が有るだけで証拠が掴めていないので実態は分かりません。」

「実態とは?」

「経営資金の出どころです。」

「そんなにやばい事に成っているのか?」

「表向きは何の問題も無いです。ただ黒い噂は絶えず出ているのですが・・・。」

「どっちの方だ?」

「双方です。」


 なんでそんなに黒い噂が絶えないのか・・・奴隷売買もしているキンダース商会と、一応は中立的立場のコルドーで、敵対するような事をする筈はないという安易な考えで見逃されている。もちろん、沢山の献金を頂いているのではないかという疑惑もあるが、貰っている方としては、それで黙っておくのも悪くないという考えもある。


「子供をたくさん抱えているのは未来への投資とも考えているのでしょう。」

「コルドーの場合だと、人質じゃないかなぁ・・・。」


 太郎がぼそっと言うと、トヒラは渋い表情をした。


「そう言ってしまうと否定する材料が無いのです。ですが、親のいない子供を育ててもらえるだけありがたいという存在でして。色々と役に立ちますし」

「子供だから許されるって言うのはこっちでも同じかぁ。」

「何か引っかかる言い方ねぇ~。」

「大人に成ってから子供は良いように利用されている事に気が付くんでね。ダンダイルさん。」

「うん?」

「孤児院もそうなんですけど、貧困な人達にはもう少し自由に畑作業が出来る場所が有っても良いと思うんですよ。」

「確か・・・過去に問題になって廃止されたんだよな。」

「そうです、順調に拡大した事と、大豊作の翌年に大飢饉が発生して、良い土地にある畑の権利を奪い合って殺人事件に成った事がありまして、元々は魔物が出没する不安定な土地だったのを整理して畑に使えるようにまでしたのですが・・・。」

「この周辺も魔物出るよね?」

「出ますが、殆ど毎日討伐しておりますので不安は無いです。」


 カールが自信を持って答えてくれたのは良いけど、なんで居るの?

 人が集まってるから気に成ったと。

 野次馬でしたか。


「土地はまだ空いてるから、建物さえ有ればすぐに集めても良いのかな?」

「良いと思います。募集するのでしたら私が手配いたしますが?」

「いいの?一応将軍でしょ?」

「一応って言われる程度の存在なら問題ないと思いますよー。」


 スーは何処から来たんだ。

 トヒラが少しむっとしてるけど、俺の言い方が悪かったという事だ。


「手配するのに公募というと信用が高くなるので数百人ほど集まると思います。」

「・・・孤児ってどのくらいいるの?」

「戦争孤児と限定するのなら数千人程いますが・・・。」

「それ以外だと?」

「一万人程はいるかと。」

「そんなに?!」

「捨てられた子もいますし、飛び出したまま帰らない子供もいます。そして、見つかるまで捜す親も殆どいないんですよ。」

「捜さないんだ・・・。」


 太郎の世界では考えられない事である。

 何故探さないのか。

 もちろん少しは探すし、数日で見つかれば連れ戻すが、捜す手間と時間を考えると、他にも子供が居る事だし、放置してしまう親が多いのだ。

 当然の事ながら捜索依頼など出す余裕はない。


「まー、私の所も兄なんでいつの間にかいなくなってたんで、不思議にも思わなかったですねー。」


 それはスーだからだろうと思うが、種族によって認識が違うんだろう。そんなスーを見て思い出した事がある。


「兎獣人とキラービーがいるけど、子供達に悪影響でないかな?」

「なんで私を見ながら言うんですかー。」

「そんなの、孤児院を離したところに建てればいいじゃない~。」


 それもそうか。


「土地も大分広くなったしなあ。」


 必要な材木は未だに太郎が伐るのが早過ぎるので、兵士達やエルフ達が伐る事もあるが、太郎が日課のように続けている。建築も進んで、たくさん切った後の切株は乾燥させて焚き木にしている。そして、空き地はそのままだ。

 黒ずんだ土地も大半が無くなり、今は草が生い茂っていた。


「・・・数百人規模の孤児が来るとしたら大きな建物も必要だろう。」

「それよりもエルフ達が居る村に来るかしら~?」

「そういえばなんでエルフってそんなに嫌われているの?」


 今オリビアはココにいない。

 今頃はまだどこかの宿で休んでいる頃だろう。

 なので答えてくれたのは別のエルフだ。


「なんででしょうかね?」

「知らないんだ?」

「エルフの国で銀髪の志士が活躍した時代をほとんど知りません。」


 マナを見る。


「私も詳しくは知らないわね。少なくとも私達は嫌ってんかったし。」


 ダンダイルさんを見る。


「魔王だった頃、すでに嫌われていましたな。」


 マリアを見る。


「戦争のし過ぎと、勝ち過ぎた事でしょうね~。」

「あー、魔女が嫌われてるのと同じ理由だね。」

「そうかもね~。」


 周りがぎょっとした表情になる。

 何にしても、魔女を怒らせたり敵に回すなど想像もしたくないのだ。


「太郎君は一番敵に回したくないモノだ。」

「それもそうねぇ~。」


 なんでそんな話に・・・。


「孤児院は建設するという事で宜しいかね?」

「子供なら偏見を持つ事も無いだろうし・・・、ちゃんと教育すれば良いし。」

「学校も作るおつもりで?!」

「最低限の教育は必要だと思うけど。」


 太郎の言う最低限というのは、読み書き算盤で、国語と算数になる。


「村の生活と街の常識は他とは大分違いますが・・・。」

「だからそういうのも教えたら良いんじゃないかな。」


 カラー達も喋れるのだから、ワルジャウ語はちゃんと覚えないと困るだろう。


「カラーって文字読めるの?」

「簡単言葉なら読めるみたいです。流石に書けませんが。」


 鳥がペンを持って文字を書く姿は想像できないな。


「それでは、いつ頃から募集いたしますか?」

「建物が出来てからだから、とりあえず何ヶ月後になるか今はまだはっきりしないかな。」

「分かりました。ではまたその時期が来ましたらご連絡ください。」


 食堂に人が集まっていたので、そのまま夕食となった。エカテリーナと手伝いのエルフ達が、良い匂いを周囲に充満させていて、腹の音が鳴り響いたのも原因の一つだ。

 食事をしながら考える事は、住民が増えた時の対応だ。

 なにしろ、子供だけが大量に来るのだから、相応の寝具や家具、勉強道具に、それだけの人数を住まわせる建物。とにかく更に必要になるのは食糧だ。


「田んぼを場合もっと広げないとなあ・・・。」


 小麦もそうだが、家畜の鶏と牛ももっと増やす必要が有るだろう。鶏は簡単に増えるにしても牛はなかなか増えない。全ての田畑と家畜を一人で管理する訳では無いから、エルフ達には大いに手伝ってもらう事に成る。


「鉄道は暫く先にしてもらおうかな。」


 ブツブツ呟きながら、食事を進める太郎は、食後に子供達と遊んだ。

 いや、遊ばれた太郎だった。






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