番外 マナの悩み
番外編の3部作最後です
最近あの猫獣人がよく私に話しかけてくる。葉っぱが欲しいのは解ったけど、あなた必要ないでしょう?お金は多くても困らないって、確かにそうだろうけど。ほら、フーリンに怒られるわよ。
「それにしても、なんで大きくならないのかなぁ?」
自分の身体を見る。ぺたぺた触る。揉んでみる。変化が有るはずがない。
日々の悩みとして、自分で自分に水遣りをする。太郎はあいつと訓練ばかりしているので邪魔したくは無いが、少し寂しい。魔法の訓練なら一緒に出来るんだけど。
「世界樹様、どうされました?」
「うーん。ほら、大きくならないって言ったじゃない。マナのコントロール自体は問題なく出来るのよ。もう少し成長しても身体は耐えられるし、移動にも問題ないんだけどなあ。」
「それについてはちょっと思うところが有りますが・・・。」
「解るの?!」
「あ、いえ。期待させて申し訳ありませんが、可能性の一つとしては有るんじゃないかと。」
「それでもいいのよ。何か気が付く事が有ったら言ってちょうだい。」
「わかりました。もうちょっと、様子を見させてください。」
「今言えないの?」
「太郎君の様子をもう少し確認してからですね。」
何の事かは解らなかったけど、フーリンが私に嘘を付く理由が無いから、言われた通り待つ事にした。何もすることが無い、ぼーっとする時間が増えた。とはいえ、それも私には必要な事なのだけど。
植物としての太陽の光は重要で、水も肥料もないと困る。無くても枯れる事はないけど、維持するには別の供給が必要となる。別に食べなくても平気なんだけど、私自身が私の事で分からない事が有る。何しろ考える必要が無かったから、悩まなかったし。
食事は太郎と同じ物を食べている。味はちゃんと分る。スズキタ一族と生活をしていたころから食べていたし、あの頃は何か特別な日じゃないと食べなかった。
太郎が魔法で出した水はすごく美味しい。飲むと身体に吸い込まれていくような感覚が有る。食べたり飲んだりしたモノはすべてマナに変換されるから、変な話だけど、口の中に入るモノなら何でも食べられるという事になる。
「マナは池の水を全部飲み干せるんじゃないか。」
「そうかもねぇ。」
お風呂当番になった太郎とお風呂場で遊ぶ。実は最近ポチの身体を洗うのが楽しい。ごしごしあわあわ。太郎の持っている石鹸を使うと匂いもいい。あまりにも良い匂いがするので食べた事が有るけど、太郎に怒られた。残り少なくなってきてるんだって。段ボールにびっしり詰まっていた石鹸も半分以上なくなった。と、思っていたら別の箱を袋から取り出した。
「まだ沢山あるじゃない。」
「匂いが違う別の石鹸だよ。やっぱりいつでも風呂に入れると消費が早いなあ。ここは排水もしっかりしてるし下水道も有るみたいだし。流石、大きな町は違うなあ。」
感心する方向性が何か違う気がするけど、私にとってもここでの生活は以前とは比べ物にならない。自由に移動する事だって出来ない事も無い。ただ、本体のマナの木が大きくなると、あまり遠くには行けなくなってしまうけど・・・。
それは私にとってつらい事だった。今は太郎と一緒に自由に歩けるし、どこへでも行ける。しかし、この旅の目的も、太郎をこの世界に戻した理由も、私の定住する場所を、根を張り世界のマナを安定させること。そうしたら私は動けなくなってしまう。本体は今の大きさなら身体の内側に隠せる。私自身が作り出した仮の身体に。太郎は解っているのかな?
「早く見つけてあげたいけど、俺がね・・・まだ弱すぎるから、ゴメンな。」
「ううん。いいの。」
その日は朝からベッドに居た。太郎とポチはスーの手伝いに行っている。頼んでおいたものを太郎にばれないように買ってくるように頼んでおいた。
「任せてください。そーゆー方面ならフーリン様より私の方が役に立ちますよ~。」
帰ってきて予定のモノを手に入れたので、こっそりと受け取る。
「世界樹様は寝るとき裸なんでしょう?」
「お風呂に入った後は太郎もそうよ。」
「そのまま夜中にやっているのでしたか。知りませんでしたねー。」
「私は別に隠している必要も感じないけど、太郎がなぜか嫌がるから知らないフリしててね。」
「わっかりましたー。それなら朝も処理してあげてるんですよね。」
「へ?」
いつも太郎の方が早く起きているから気が付かなかった。それにしても、太郎は本当にそんなことして欲しいのかな。良く分からないから、朝起きる前の太郎で試した事が有る。寝ているのにギンギンになっているアレを口で・・・。
朝からドロドロとしたものを2回も飲んだ。だって綺麗にしてあげたらまた硬くなるんだもん。太郎は普段ならあまり見せない、凄く満足気なニコニコとした表情で私の頭を撫でた。
あの猫の言っている事は本当だった。
あれから数日。いつも太郎の方が早く起きてしまうのでなかなかできない。太郎がいない時に"イチャイチャどエロ本"と書かれた表紙の本をこっそりと読む。普段はベッドの下に隠してあるけど、忘れて出しっぱなしにしたこともあったなー。なんか湿ってるけど、バレなくて良かった。そして、知った事が有る。
「えっ、なんです。見せろって。」
「私つるつるなの!」
「え?あ、あの、何の話ですか。」
「これよ、これ。」
その名称を知らないので本の絵を指で示す。この世界にモザイクなんて技術は無い。太郎のゲームではモザイクが有ったし、ずっとつるつるだと思っていたモノだ。聞いてみると、名称自体はあっちもこっちも同じのようで知っていた。
「あなたのを見せなさ・・・。」
「やっ、やめてください私はそっちの趣味はありません。それにこんなところで脱がされるくらいなら普通にお風呂にいけばみんな裸じゃないですかー。」
なるほど。スーの腕を引っ張って風呂場に連れていく。抵抗しないのですっぽっぽんにして仰向けにした。顔が真っ赤だ。
「へ~、こうなってるのね。」
「ううっ。」
広げる。弄る。ぐにぐに。
「なんかぬるぬるしたモノが出てきたけど。」
「ひゃぁっ・・・なんで舐めてるんですかー。」
「再現できるか分からないからよ。」
「どんな魔法ですかそれ・・・。」
実際は魔法ではなく、この具現化についてはちょっと違う。マナを消費するが、神気魔法とも違う。ある意味独自の魔法だ。あっちの世界では擬人化ともいうみたいだけど、本体とは別に出てくるので具現化が正しいと思う。
スーが涙目になったので、頭を撫でてやると抱き付いてきた。なんというか、本当はちょっと怖かったんだって。男をおちょくるのは平気だけど攻められるのはダメだって。あー、わかったわかった。悪かったわね。結局、一緒にお風呂に入って身体を流した。
じっくり見たし、触っても見たが、再現することは出来なかった。なんというか見た目はそうなんだけど、見た目だけで、私には太郎の子供を妊娠する能力までは再現できないらしい。子供ってできないと捨てられちゃうのかな・・・。
「人間って子供が出来ないと捨てられるんですか?」
「太郎の居た世界だとそういう事もあったみたいね。話を聞くだけだと結構多いみたいかも。」
「太郎さんが子供欲しいって言ったんです?」
「言わないけど、欲しいんじゃないかな?」
「どうですかねー。私の常識ですと、産まれて乳離れしたら、父親が誰だったかなんてどうでもいいですから。」
「猫と一緒にされてもなー。」
「だから、私の常識ですって。直接、ちゃんと聞いてみてはいかがです?」
当たって砕けろ。とは正にこの事だと思って突撃したら、太郎はあっさり言った。
「別に子供が欲しいとは思ってないよ。」
「ホントにホント?私が産めないからって遠慮してないよね?」
「そんな怖い顔しなくても・・・。正直昔は・・・って、元の世界では欲しいと思ったこともあるけど、こっちに来てからは別に欲しいと思わなくなったかな。子供が出来ても育てるのに困る気もするし、旅にも影響出るから。」
「あ、そっかー。」
「それにしても・・・だれだ、マナに変な事吹き込んだのは。だいたい予想出来るけど。」
「あははー。まぁ、とにかく、私このままでもいいのよね?」
「うん。全然良いよ。ムシロソノママデ」
なんかぼそぼそ言っているのは気にしないとして、ちょっとホッとした。太郎は私とエッチな事をするけど・・・あれ、なんか問題が変わった気がする。そうじゃなかったような・・・。
それから数日後。あの事件も片付き、夜になったので太郎といつも通り裸で寝ている時に思い出した。ちなみに疲れていたので今日はお風呂に入っていない。
「ねえ、見て見て!」
「ん?」
股間を太郎の顔に押し付けると、凄く驚いてた。だって今までこの場所は本当につるつるで何もなかったから。
「そういう事だったのか。ちなみにエッチな本読んでたのも知ってるからね。」
「マジで?」
「まあ、いつか言ってみようと思ってたけど、最近忙しくて忘れてたからなあ。」
ここから先は二人のお楽しみタイム。いつもとは違う濃厚な時間を過ごした。いちゃらぶ楽しいー。
「昨日はお楽しみでしたねー。バクハツシロ」
スーにそう言われた事が新鮮だった。何しろお楽しみの内容が全く違う。もうなんて言うか、妊娠は出来ないけど子作り気分を味わえたことが、私の中でも、太郎の表情からでも、満足の二文字を表している。
フーリンは半分呆れた表情をしていたが、その日の夜にフーリンの部屋で話し合う事となった。そう、あのことについて。なんでポチもいるの?
「原因はお二人にあると思いますが、一番は世界樹様かと。」
「揉んだら膨らむって、言ってたんだけどなー。」
「・・・その話ではなく、本体のほうの成長の話です。」
「わかってるって、冗談よ。ジョーダン。」
「・・・何かあったのですか。随分すっきりされているようですが。」
「ちょっとねー。で、原因って?」
「その、ラブラブな関係です。」
「へ?フーリンってその手の冗談は言わないタイプだと思ってたけど。」
「冗談ではなく、特に世界樹様が太郎君にベタ惚れ過ぎるんですよ。」
「しょうがないじゃない。大好きだもん。」
私が太郎を好き過ぎる所為で、成長したくないという気持ちがどこかに働いているのだという。確かに成長しちゃうと、動きにくくなるし、大木に成ったら移動できなくなっちゃうし・・・。大きさとしては今ぐらいがちょうどいいかなーとは思っていたのよね。ただ、今は本体と分離していて、分離した身体に木を無理やり閉じ込める事によって、どこへでも移動が可能だから・・・。
「世界樹様は本体が成長しなければマナの安定も広範囲にならないのですよね。今は周辺だけが安定していますが。」
「うん。それは本体のほうが勝手にやっている事だから、今のこの私の意思とは関係ないわ。」
「あと、もう一つの可能性は分離している期間が長すぎるからかもしれません。」
「んー、その可能性は低いかな。太郎がいなかった50年ぐらいは木でいる方が長かったから。」
「本体のほうでも、無意識に成長を拒んでいるのかもしれません。」
「うーん・・・。」
可能性以上のことは解らなかった。でも、フーリンはそれなりの自信が有って言っているみたいで、過去にも恋人同士が魔物によって石にされ、男と引き離されたことで、女が300年間泣き続けたとか。その間、一切の成長する事も老化する事もなく。
その手の話は物語や伝承でも何回か聞いた事が有る。スズキタ一族の事は好きだったけど、今の太郎のような関係に成った者はいない。
「まあ、結論としては今のままが良いって事ね。」
「何かが変われば成長する事もあるでしょうけど、その時は別の解決法が有るでしょう。」
「随分自信あるわね?」
「それはもちろん世界樹様の事ですから。」
二人で軽く笑った後、太郎の部屋に戻ろうとすると、引き留められた。そういえばポチはここで寝ている。
「その、成長の為もあるんですけど。スーちゃんの為に今日は太郎君を譲っていただけませんか。」
「えー・・・なんでー。」
「事件の事もありますし、スーちゃんが泣いて怖がった理由もご存知ですよね?」
あいつ喋ったなー。
「私が無理やり喋らせたんです。その事でお叱りでしたら私が受けます。」
「随分真面目な顔ね。わかったわ。あなたの頼みなら我慢してあげるけど今夜だけだからね。」
「ありがとうございます。それで、その、久しぶりに私と一緒に寝ませんか。」
「あー、そういえばあの時は一緒に寝たわね。」
「そうです、そうです。私も久しぶりに世界樹様を抱きしめたいです。」
「そっかー、あの時のフーリンは寂しそうな表情してたもんね。」
「世界樹様は誰の心でも癒してくれる素敵な存在なのです。」
「あなたぐらい素直な子じゃないと、同じドラゴンでも効果はあんまりないけどね。」
寝ているポチの頭を軽く撫でて、太郎の部屋のベッドより少し大きいベッドに入る。フーリンは子供のような顔で、私の腕の中に入った。すごく幸せそうな表情するわね。
「スーちゃんには見せられないです。」
フーリンの頬は少し赤い。
あの猫の事は、とっちめるのも止めておこうかな。フーリンに聞いて初めて知ったけど、奴隷時代が有ったなんて気が付かなかった。なんか変な怯え方したのよね。普段の姿からは想像できないほどの過去なんて、私にもフーリンにも有る訳だし。ちょっと、嫉妬するけど。あと、太郎と私の為でもあるんだって。そっちはちょっと意味が解らなかったけど。
私はこの夜、初めて夢を見た。夢って、何かふわふわする。私と太郎が見た事もない仲間とともに旅をする。どこか知らない景色を見ている。ポチとスーが喧嘩をしている。フーリンがそれを見て笑っている。
すごく現実味のある、ワクワクとした気持ちになる夢だった。