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第207話 報酬とお願い

 王座の間に通された太郎は、ジェームスが付いてきてくれた。妙な緊張感は苦手で、他にも将軍らしき偉そうな顔をした者達が幾人も立っていた。


「圧迫感が凄いな。」

「威圧感は無いわね。」


 二人にしか聞こえない声で小さく呟く。

 マナはいつも通り太郎の頭の上に・・・ではなく、肩車している。ジェームスは入室した時点では後ろに居たのだが、王座の前まで来ると、スッと横にはけて将軍達の後ろに隠れるように移動した。


「よく来てくれた。」


 普通なら膝をついて、視線を下に向けて、声を掛けられるまで待つモノなのだが、太郎は映画やテレビでしか見た事が無いような風景に、そこまで気が回らなかったが、そこまで従順である必要もないとも思っていた。

 先ず、太郎は部下ではない。

 それは周囲の者達も承知しているらしく、無作法を咎められる事は無かった。


「別に呼んでもらいたくて来たワケじゃないけどね。」

「マナはちょっと黙ってて。」

「ハイハイ。」


 この少女が世界樹であるという事は既に情報が回っている。

 そして、太郎がたった一人で敵の戦意を喪失させ、撃退した事も知らされている。もちろん強い箝口令が敷かれていて、秘匿中の秘匿なのだが、流石に敵が攻めてこないという事実は、隠しきれない。あれほど忙しく準備していたのに、突然、急がなくて良いと言われて、事情を知らない兵士達には不安が広がっていた。


「流石に信じられないが、本当に一人で撃退したのだな。」

「確認できましたか?」

「魔法で空を飛ぶことは出来ても戦えないからな。調査に向かわせた。」


 忍び込ませている調査員からの報告も重なり、太郎の行動は意外にも近くで見ていた者が居たのだった。ギルドを使えば情報だけは直ぐに飛んでくる。


「軍艦が三隻沈んだそうだな。」


 国王の口から洩れるように発言されると、周囲の者達は知っていても驚く。太郎はとても居心地が悪くなった。


「戦争を止めればよかったんですよね?」

「・・・もちろんだ。」


 あわよくば全部沈めてしまっても良かったと思っているのは言わない。


「それよりも、少し問題があってな。」

「なんでしょう?」

「功績がデカすぎて褒賞が何も思い付かないのだ。」


 周囲の視線が太郎に集まる。


「何もいらないです。」

「は?」


 どよめきが響く。 


「いやいやいやいやぃゃぃゃ・・・いらないとは何だ。」


 国王は気分を害した。

 功労に対して報酬や褒賞を与えるのは国王の仕事だが、拒否される事は無い。与えられたモノを這いつくばって喜ぶのが普通なのだから、こんな態度を取られるのは予想を通り越して傷付いた気分だ。


「戦争を止めた事による利益を考えたら莫大なモノでしょう、算出方法は分かりませんが、どんぶり勘定にしても、キンダース商会の資産に近くなるんじゃないですか?」


 流石にどんぶり勘定過ぎるが、対価を正確に求めたら、ハンハルトの財源が致命的に減るだろう。その事は予想も出来たが、そう言われると、怒る気力も無くなる。


「・・・確かにそうかもしれんが、功労者に対して何もしないのでは国の矜持にも関わる。」

「関わりませんよ。」

「なんだと?」

「誰にも知らせなければ良いんです。シードラゴンの所為って事にしてあるので、ここで沢山何かを貰うと噂になりかねません。」

「・・・それはその通りか。そこまで考えた上で受け取らないという選択なのだな?」


 国王の口調が強くなったのは、この場の全員にも聞かせる為だ。


「・・・はい。」


 今思い付いたとは言えない太郎だった。

 ただし、何も与えないというのも他の者に示しが付かない為、自由に船を使える権利というモノを与える事にした。

 ハンハルトで船が必要な時に言えばすぐ使えるというモノで、船員も必要な食糧も供与してくれるとの事。悪い話ではなかったが、使う機会があるかどうかは謎だ。この国に居座って生活しているのなら多少は意味もあるだろうが。


「・・・では、本当にご苦労だった。」


 太郎が頭を下げると、ジェームスが寄って来て、退室を促す。


「行こうか。」


 太郎が早過ぎるくらいの歩調で王座の間を出ていくのを見送った国王は、深いため息を吐き出した。世の中には関わっていけない世界がある。ドラゴン関連と、天使関連、公に知られているモノではエルフ関連もそうだ。太郎とマナはその中で魔女と同様に位置付けられた。


 国指定の最重要危険人物として。




 迎賓館を出ると、魔女達が合流してきた。

 まるで待っていたかのように。


「帰るんでしょ?」

「そーだけど、ついて来るの?」

「自力で帰れるけど、ちょっと疲れちゃったー。」


 そう言った魔女はナナハルに睨まれている。

 そのナナハルも一緒に村へ行くという。


「あそこは我が家じゃからの。」

「それはそう。」


 見送りに来たのはジェームスとフレアリスとマギの三人で、国の関係者は一人も・・・ジェームスが代理との事だ。


「それにしても、結局何をしに来たのか分からなくなっちゃったなあ。」

「海産物なら持ってくるように言ってあるから、10日後ぐらいには村に届けられる筈だけど。」

「腐らない?」

「魔法袋は太郎ちゃんだけが持っているワケじゃないのよー。」

「あー、なるほど。」


 スーが持っているのを自慢するように腰の袋を叩いた。


「じゃ、帰るか。」


 シルバを呼び出し、スッと消えていつもの村へ帰った。




 村はいつも通りに・・・騒がしかった。

 それは、突然たくさんの人が現れたからで、見慣れた姿を確認して安心すると、元通りに戻っていく。

 太郎は風呂に入って一息つきたくなって、自宅の風呂ではなく公衆浴場の方に向かった。男女が分かれる事も太郎を安心させるからだ。


「・・・それにしても、大それたことをやりましたね。」


 昼間から風呂をやるという話を聞きつけてやってきたのはカールだ。隊長が入るのだから部下が入るのを咎められる事は無く、ワイワイと入ってくる。子供たちの遊び相手になってくれるので助かる。

 カールには向こうでの事を話した時の反応は無言だった。


「ちょっとね、試しておくのも必要かなって思ったんだけど、俺だけの力じゃないからねぇ。」

「精霊を二人も従わせてくるなんて、もう、なんとも。」


 見た目だけなら太郎よりも強そうなカールが、全面的に負けを認めている。


「剣術だけなら並の冒険者に毛が生えたくらいですけどね。」


 そう言って太郎は何かを思いつき、湯舟に顔を突っ込んでバシャバシャと音を立ててから元の位置に戻す。


「そっか・・・瞬間移動か・・・。」

「何か思い付いたようで?」

「うん、ちょっと練習に付き合ってもらえると助かる。」

「かまいませんが、スーが拗ねませんかね?」


 そんな気を使う必要はないと信じたい。


「まぁ、ちょっとだけだから。」


 色々と用事を済ませて、陽が沈む少し前の時刻に、武舞台にカールと太郎が立った。太郎はシルバと何かを話した後に、剣術の練習をすると言った太郎に対して満面の笑顔で、スーが武舞台まで引っ張ってきたのだ。


「もう始めて良いかな?」

「あ、どーぞ。」


 太郎は模擬専用の木剣を構えると、同じ様に木剣を持ったカールが走り込んできて、一気に振り下ろした。


「あれ?え?どこだ・・・?」


 太郎はカールの目の前から消えた。当然の事だが、カールの目の前から消えただけで、武舞台を見ている者には太郎がどこへ移動したのか丸分かりだ。しかし、その移動速度に驚きを隠せない。


「あー、出来た出来た。」


 太郎がその場から足の一歩も動かさずに移動していて、声のする方向に振り返って、攻撃するカールから確実に必要以上の距離を取って避けていた。


「なんか・・・バケモノ級魔術師を相手にしている気分だ。」

「移動が難しいみたいですけど、頭で考えた事を読み取ってシルバが俺を瞬間移動してくれるんですよ。」

「なんだ、その反則みたいな技は。」

「気を付けていれば当てられる事は無いと分かったんで、助かりました。」

「・・・なるほど、常に気を張って確認をしているのは俺と同じという事か。」

「視界がブレるんで使いにくいですけどね。」

「そりゃあ、そんなに早く移動していたら・・・そうなるでしょうな。」


 この技はシルバが居ないと成立しない。なので実戦のような、戦闘状態の場所では使えるが、非戦闘状態の日常に、いきなり闇討ちされるような時は使えない。それは魔法と同じだという事だ。


「太郎さん・・・強いのは嬉しいんですけど、それはなんか違いますよねー。」

「そうなんだよな。殺されたくはないから戦闘に成ったら使うけど、なんだかなー。」


 太郎本人も納得していない。瞬間移動を戦闘に組み込むなんて普通の人には出来ない芸当だから、これだけでも太郎は強さが数段どころではない程にランクアップした事になる。なにしろ攻撃を受ける事無く相手の後ろを取れるのだから、一瞬で勝負は決まるだろう。

 太郎は何となくでも良いから納得できるようにしたいのだが、違和感が凄すぎて、どうしても自分の能力とは思えないのだった。






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