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第200話 海と子供達

「それで、何をしに来たんだ?」


 ジェームスの発言で会話が始まる。

 フレアリスとマギは子供達の為に蜂蜜ミルクを用意したのだが、殆どミルク味だったので蜂蜜に気が付かなかったらしい。


「観光です。」

「それで、いきなり公用地に?」

「そんなところに居るとは思わなかったというのは後付けなんですけど、マナがはぐれちゃって、移動した先が綿花畑だったんですよ。世界樹の苗木も有りましたし。」

「ああ、他に植える場所がないんでな、城からも街からも港からも少し離れた丘の上に畑を作ったんだ。」


 と、答えた後に続く言葉は声が強くなる。


「そうじゃなくて、なんでいきなりあんなところに現れたんだ。」

「瞬間移動したんで、なんでって言われても。」

「・・・俺達も同時に移動する転移魔法なんて知らないぞ。」

「転移じゃないです、瞬間的に移動してる・・・らしいです。」

「あの村からここまで瞬間移動できるとして、もう少し場所を考えないのか。空に浮いていられるんだから、目的の場所の上空に行けばいいだろう?」

「そうね。」

「・・・なるほど。」


 太郎は魔力を提供しているだけで、移動先までの魔力操作はシルバが行っている。行先について考えるようには言ってあるが、目的地の上空で待機してから確認するというのは考えていなかった。

 そしてこの考えは今後の瞬間移動を使う者達が模倣する事に成る・・・が、まだ先の話だ。

 地面に直接着地するなんて芸当を極めるような事をする必要が無いのはかなり楽になるだろう。どうしても地上に着地しなければならない理由なんて元々無かったのだから。


「それにしても、太郎君はどれだけ強くなったら気が済むんだ?」

「え?別に強くはなってないですけど・・・?」

「転移でも瞬間的でもどっちでも良い事なんだが、それだけ素早い移動が出来るのなら、相手の後ろを取るのなんか簡単だろ?」


 太郎が少し考えて納得しかけたが、実際そんな事は無いと思う。


「確かに早く動けそうですけど、動いた俺も相手を見失いそうなんですが。」

「そこは慣れればいいだろ、何回でもやればいい。」

「そうね。」


 と言いながらポチを楽しそうに撫でている。


「出来るの?」


 すっと顔だけが太郎の横に現れる。スケスケなので輪郭が僅かにわかる程度だ。


「可能です。」

「確かに長距離移動手段を戦闘に利用しようなんて考えないもんね。」


 と、マナも感心している。


「ちょっと話がズレたが、太郎君達の目的は観光で良いんだな?」

「うん?なんでそんなに確認するんです?」

「またドラゴンが現れたら困るからな。」


 そう言った後に魔力の強い流れを感じる。

 フレアリスとジェームスが反応するくらいだから、危機を感じたのかもしれない。

 マナとスーは慣れているので警戒心は薄い。


「こんな所におったのか。」


 声の主を見ると子供達がワイワイと飛び込んで行く。


「ふー・・・、急に強い魔力を放ちながら現れないでくれないか。」

「瞬間移動をしておるのじゃ、今はまだ魔力の調整が難しくてな。」

「ナナハルも使えるようになったんだ?」

「ダンダイルのヤツももう少しで会得しそうではあったな。」

「そんなに使い手がいるのか?!」

「今のところ太郎を含めて5人じゃな。」


 ナナハルとダンダイル、そして魔女の二人だ。


「太郎のは別格じゃぞ、わらわは自分だけで精一杯じゃ。」

「そんなに軽々と使われると困るんだかなあ。」

「行った事のある土地ならばいつでも行けるようになるのは便利じゃが、魔力の消費が激しくての。」


 抱き付く子供をあやしながら応じている。


「行った事のない場所でも飛んで来たじゃないか。」

「太郎は別格じゃ。」


 なんでそこで俺は特別扱いされるの・・・。

 確かに太郎の力で移動している訳では無いし、太郎の知らない場所であっても、使用者のシルバが知っていれば問題の無い事だ。ただし、知らなくても飛べるが移動先を知らずに飛んだ場合、その先の地形が変わってたり障害物が作られていたりすると激突する事に成る。そんなに都合よく避けてはくれないのだが、シルバに限っては避けて移動しているので、世界中のどこにでも行ける事に成る。もちろん、風のように世界中をウロウロできる精霊なので、世界中のどこでも知っているが、それは地上に限る。

 地中や海中などのような場所は分からない。

 それらを確認したジェームスが、国王に報告する為の文言を考えている間に、子供達はナナハルにしがみ付いていた。こうしてみると見た目に比べてまだまだ子供なのだが、大人と呼ぶには早すぎる。


「ママー、パパー、海で遊びたーい。」

「行くか?」

「いくー!」


 太郎の力で子供達がふわりと浮かぶ。速度は無いが、海に行くには十分すぎる能力だろう。シルバに頼らず可能な能力だ。ポチは動けず、スーは行かないという事で、マナとマギ、エカテリーナが付いてくる事になった。

 この世界に海で泳ぐための水着など無いのでみんな下着姿だ。


「いや、売っておるが?」

「有るの?」

「売ってはいますがとても高いですよ。ただ水で遊ぶだけにそんなに高い買い物をする必要はないと思います。」


 エカテリーナの意見は尤もで、ナナハルも同意見で、買う気は最初からなかったらしい。確かに毎日着るモノではないのにお金を使うのは無駄使いだろう。

 子供達は初めて見る海に興奮していてはしゃぎまくっているが、マギとエカテリーナはそれほどでもない。ただ、海で遊ぶことは殆ど無いので、遊び始めると楽しいらしい。

 マナはなんで全裸なのさ・・・。

 マギとエカテリーナに注意されて下着っぽいモノを身に着けたようだ。


「みんな子供じゃのう。」

「ナナハルは遊ばないの?」

「ここは変わった貝が採れるらしいと聞いている。」

「変わった貝?パールが欲しいの?」

「知っておったのか。」

「買った方が楽じゃない?」

「こーゆーのは気持ちの問題じゃ、買えば良いというモノではない。」


 ナナハルが女性らしい事を言うのを少し意外な表情で見ていると、頬を撫でられた。


「木陰で休まんか?」


 日差しは強く、ここの海は砂浜が狭い所為で、木が生えている本数も少ない。

 暑いのは間違いないが、何か違う熱さを感じた太郎は、警戒しつつもナナハルの術中に飲み込まれていった。

 なるほどこっちの目的もあったのか。

 こんな美人に迫られたら判っていても断れるはずがない。

 マギとエカテリーナは気が付いていたが、子供たちと遊ぶ事ですぐに忘れていて、マナは珍しく見逃していて、ナナハルは誰にも邪魔されずに二人きりの時間を、僅かだが楽しむ事が出来た。

 短い間に二回ほど絞られたが満足してくれたようで、着崩れた服を整え終えてから耳元で囁くように言った。


「もっと子供は欲しくないか?」

「えっ・・・。」

「冗談じゃ。それにたくさん産むと子供に魔力を供給できずただの狐獣人になってしまう。数百年は無理かの。」


 太郎がホッと息を吐き出して、袋の中から椅子を取り出す。分解してしまってあるテーブルを組み立てて、椅子を並べたら子供達が疲れて戻って来るのを待つだけだ。


「それでこんなところにまで来た本当の理由は何じゃ?」

「特に隠しているような特別な理由はないよ。海産物が恋しくなったのも理由の一つかな。」

「海産物?」

「貝とか魚とか、あの村だとあんまり食べないでしょ。ササガキはタマに食べたけどちょっと物足りないし。」


 周囲を見渡すと大きな岩がゴロゴロしている場所も有る。海が穏やかでなければ太郎の居る場所にも波は寄せてくるだろう。

 子供達は戻ってくる様子が無く、器用に水の上を走り回っていて、マギとエカテリーナは真似できずに追いかけるのに苦労していた。


「どうしたのじゃ?」

「ノリとかワカメ・・・海藻類って食べるよね?」

「海草を食う連中は確かにいるが・・・。」

「魚を買うのも良いけど獲るのに許可が必要でもなさそうだし、息抜きに俺も遊びたい。」

「ほほう・・・太郎が遊ぶと。それは少し興味が有るな。」

「へ、変な遊びじゃないよ?」

「なんじゃ、足りなかったのならもう一度するか?」

「え、あ、うん。まあ、これを見てよ。」


 太郎が袋から取り出したのは、釣りセットだ。


「変わった素材で作られてるのぅ。」


 ナナハルは目の付け所が違う。リールにも興味津々だ。


「存在を忘れていた俺の釣り道具なんだけど、素材もフロロカーボン製だからね。ちょっと高めの物を買ったから簡単には壊れないと思う。」

「ふろろ・・・?海で使うには細くて短すぎないか?」

「これで良いんだ。」


 太郎は慣れているようで慣れない手つきで釣りの準備を始める。釣り針も少しダメになっていると思ったが意外なほど頑丈で、食べ物が腐る程度の期間では駄目にならないようだ。道具の一つ一つを確認している間、ナナハルが真横で見ているのでとてもやりにくい。一通りの準備が終わり、疑似餌を針に引っ掛ける。


「なんとも虫そっくりという程でもないの、本当にこんなので釣れるのか?」

「まー、少しテクニックは必要だけどね。」

「てく・・・技術じゃな?」

「あ、うん。そう。」


 子供達がはしゃいでいるところで釣りは出来ないので、岩場に移動する。

 ここなら子供達の姿も見えるから安心だ。

 いや、シルバにも監視してもらおう。

 更に安心だ。

 ナナハルは太郎のやっている事をずっと見ている。

 まるで恋人のように。

 正確には妻ではないが、子供を産んでいるので一部では正妻とも呼ばれている噂は知っている。

 手に僅かな引きを感じると、素早く合わせてリールを巻く。


「釣れた・・・けど、小さいからリリースだな。」


 そう言って魚を海に投げる。


「魚を釣るとは面倒ではないのか?買えば良いではないか。」

「こう言うのは気持ちの問題なんだよ。」

「言うと思った。」

「だよね。」


 二人は声に出して笑った。






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