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第197話 再確認

 村では作業するエルフが増えた。

今までは作り過ぎても余ってしまう為、生産量を調整する事で暇を持て余す事も有った。直接の取引相手もいないまま道具や雑貨を作り過ぎても安く買い叩かれてしまう。それにゴルギャンの事も有る。


「我らにもやっと労働が与えられてホッとしているところだ。」


 村がどんどん大きくなり、村外から人も来るという時に役に立てることが少ない事を不安に思っていたらしい。兵士達とは別に村内に必要な物を作っているが、マナがいないと出来ない事が多い。作物を増やすにしても畑は小さいし、広げるにしても黒い土を剥がすか、木々を伐採しなければならない。

 木々を伐採するには魔物の襲撃にも対応しなければならないし、黒い土を剥がすには太郎の力が必要になる。

 役に立ちたいと考えているのに太郎の力を借りては意味がない。


「米が出来れば酒も出来る。楽しみにしておくことじゃ。」


 ナナハルは嬉しそうに言うが太郎はあまり呑めないので興味は薄い。


「小麦畑も増やしたいところだけど、広大な畑を作ると管理も大変でしょ。」

「世界樹様ほどの事は出来ないが、我々は生きていく為ならどんな事でもする。」

「ま、まあ、それは気持ちだけでね。」

「まあ、気概は必要じゃからの。」

「そういう意味じゃないんだけど・・・、とりあえずエルフの人達で管理できるくらいの畑を作って自由に管理してもらえばいい?」


 オリビアの表情が気合の籠った笑顔に変わる。


「太郎殿、本当に頂けるのか?!」

「ここの木々を伐採して新しく作れば他に迷惑も掛からないし、沼地が近いから水の管理も楽じゃないかな?」

「ふむ、分かった。沼地の魔物を殲滅しておこう。」


 止めようとした太郎は諦めた。

 大声で仲間を呼び集め、あっという間に武装して出発したからだ。

 モノの数分かかっていないからすごい。


「戦うのが専門だったのだ、いつでも直ぐに戦える準備しているという感じじゃの。」

「そうだね、ちょっと雑貨から特産品の相談もしたかったんだけど。」

「特産品じゃと?」

「あー、うん。町で不足しやすい物とか、日常的に使ってて、壊れたり無くしたりしやすい物とかね。」

「日常雑貨じゃな。」

「あーゆーのって売れるかな?」

「売れないとは言わんが、多少頑丈でもそんなに売れる物じゃないぞ。」

「そっかぁ・・・。」

「鉱山で銀が採れるのなら銀食器を作って貴族どもに売ればよいではないか。」


 一般人からすれば貴族はかなり上の存在だが、ナナハルからすれば格下なんだろう。歯牙にもかけない言い方なのは売る側としてはどうだろう。


「金さえ持っていれば偉いと思っている馬鹿連中ならそこそこ売れるじゃろう。」

「そういう連中だと思うと売るのに罪悪感が生まれるからやめてくれないかな。」

「売れるなら誰でも良いではないか。」

「そうなんだけど・・・。」


 エルフの作った家並みの通りの真ん中で話し込んでいるので、横を通り過ぎる者達が少し気に成ってこちらを見ている。

 気にしている理由は後ろの二人組だった。


「たろう!」

「太郎様!」


 マナとエカテリーナという珍しいコンビだ。エカテリーナは最近忙しそうにしている太郎をすごく心配していて、直ぐに休むように勧めてくる。


「一度お昼にしませんか?」

「あぁ、分かっているよ。」

「最近太郎が昼に食べに来ないから寂しがってるのよ。」


 モジモジするエカテリーナ。

 エカテリーナとはかなり親しくなっている筈だが、いつまで経っても少し身を引く癖が残っているのか、他の人が居る場所ではあまりくっ付いてこない。マナは全く気にせず俺の身体にぴったりとくっ付いてくる。


「今日はダンダイル達も来てるから賑やかになるわよ。」

「大人数に成ってもエカテリーナはちゃんと人数分の食事を用意できるのが凄いよ。」

「食材が足りなくなってもすぐに作って頂けるので。」


 マナとうどんのどちらでも作物の急成長は出来るが、マナの方が巨大で美味しい。大きさは負けるがうどんの方も美味しいという訳で、普段はうどんの力を借りているようだ。何しろ困っているオーラが出るとうどんがどこからともなく現れて、抱きしめてくるのだから。

 どこからともなく・・・?


「うどんって神出鬼没だよね。」

「言われてみれば普段から何処かでウロウロしているみたいだけど、何故かすぐに現れるわね。」

「もしかして瞬間移動してる?」

「うーん。」


 ぽよんとした感触が背中に現れる。


「お困りですか?」


 うどんはくっ付いているマナと俺を同時に抱き寄せた。


「うどんってどうやって移動してるの?」

「歩いてますが?」

「だっていきなり現れるじゃん、今みたいに。」

「瞬間移動とは違いますよ。凄く似ていますが。」

「え?」

「簡単に言うと水の精霊が水のある場所ならどこにでも現れるのと同じで、私の場合は地面と接続しているのなら直ぐに移動できます。ただし、自分しか移動できないので誰かを連れて行くことは不可能です。」

「良く分からないけどわかったとしようか。」

「そ、そうね。」


 マナも良く分からないらしい。

 何しろうどんの方がマナの10倍は生きているのだから、何か違う魔法を知っていても不思議じゃない。たまに魔女の二人がうどんと話をしているのはそう言うことなのだろうか。

 食堂に到着すると狩りに行ったエルフ達はまだ戻っていないのだが、確かに凄い賑やかだった。


「今日は鉱山の人達も来ているみたいです。」

「グルさんも?」

「まだです。」

「おーい、太郎君。」

「あ、ダンダイルさんこんにちは。」

「パパー!」

「父上ー!」

「おとうさーん!」

「おやじー!」


 誰だ、今おやじといった奴?!


「気のせいか。」

「そんな事よりしつこいのなんとかしてちょうだい。」

「なんで他国の魔女がいるの?」

「ぐ・・・。」

「この子達ねー、私の魔法を知りたがってるのー。」

「魔法?」

「そう、ぜひ転移魔法を教えて貰いたい。」

「・・・瞬間移動よー。」

「私も知りたいのよ。」

「ってわけでー、二人にせがまれて食事が進まないのー。」

「教えてあげれば良いじゃん。」

「私のアイデンティティが・・・。」


 なんでここだけ英語に聞こえるんだ・・・?


「どうせ使えるかどうかは関係ないでしょ。」

「まぁ・・・そうなのよねぇー。」

「私は太郎が連れてってくれるから覚える必要ないわ。」

「俺だってシルバにやってもらってるだけなんだから使える人の方が凄いよ。」

「精霊使いの方が凄いんだけどのぅ・・・。」


 ナナハルがそう言うと他の者達が同意した。


「これだけ人が揃ってるなら確認したい事が有るんだけど。」

「なんでしょー?」

「スーが詳しそうだね、村で作っているというか生産物の一覧とか作れない?」

「有りますよー。」


 スーがすでに用意していたのか、大きな紙を太郎に手渡す。くるくると丸められた紙を広げると、テーブルにのせられた食器が邪魔に成ったのでエカテリーナに片付けてもらう。


「あとで食べてくださいね。」


 悲しい声が辛い。


「ダイジョブだよ。」


 太郎が広げた紙は羊皮紙ではなく牛皮紙だ。

 という事は、ここで育てている牛が・・・。


「商人から買った奴ですよー。」

「そうなんだ。」


 広げると、既に書き込まれている文字を見る。


 人参 小麦 稲 玉蜀黍 タマネギ ネギ トマト 赤カブ レタス キュウリ ナス スイカ カボチャ 馬鈴薯 甘藷 マンドラゴラ オリーブ 自然薯 ダイコン ゴボウ 大豆


 綿花 ひまわり リンゴ ミカン 柿 クルミ


 鶏 卵 水牛 牛乳

 

 シイタケ、しめじ、えのき、エリンギ


 この他に薬草関係も育てているし、世界樹の苗木やうどんの仲間のトレントも苗木を育成中だ。ガラスだって作ってる。

 一通りの知識として覚えておくとして、気に成るもう一つの方も確認したい。


「鉱山の方は?」

「それはグルさんが来ないと分かりませんねー。」

「トロッコ駅の方に後で行ってみるか。」


 何故か子供達まで付いてくる事に成って、食事を終わらせて向かう事となった。




 駅に着くと丁度トロッコがやって来た。手漕ぎのレバーを動かしている二人のほかにもう一人乗っていて、グルさんだ。


「おう、なんでお出迎えとは珍しーな。」

「お久しぶりです。」

「あー、そういやそうか。穴倉に居ると時間を忘れちまうからなー。」

「快適ですか?」

「水にも食糧にも風呂にも困らない所なんてココぐれーなもんだからな。昔の鉱山と比べたら天国と地獄だな。」


 この世界なら本当に天国と地獄が存在していても不思議じゃなさそうだ。

 ・・・聞いた事ないな。


「鉱山で採掘できる量とか種類とか教えて貰いたいんですけど。」

「ダンダイル様は?」


 太郎が指で示した方向には土下座をする姿が有って魔女が困惑している。


「なに・・・やってんだ?」

「どうしても瞬間魔法を覚えたいらしいです。」

「そんな・・・そんな魔法が誰でも使えるようになったらとんでもない世界になるだろ。」

「使えるのって他に存在しないんじゃないかな。」

「まあ使えるようになったら自慢気に現れるだろうからな。」

「そっかー、確かにそうですねー。」

「所詮移動速度が早くなっただけなのじゃから慌てなくても覚えられるだろうに。」


 ダンダイルからの許可が必要だと思ったグルは、あの少し情けない光景をしばらく眺める事に成った。






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