第196話 村の特産品
ミハエル・ド・ゴルギャンの取り調べは順調に進み、簡易裁判によって刑が確定した。労働奴隷となり、労働期間は100年。予想よりもずっと軽い刑期に成ったのは、ある程度の情状酌量が認められた事と、偽造に関しては彼一人の力では不可能な事、エクス・ガリバー将軍の杜撰な管理と、本来はミスであった事を隠し続けた事、それを利用して商人に売り渡した事などが絡み、将軍の辞職も有って、彼を重い刑にする必要が無くなった。
「偽造を手伝った者は誰だか分らないままか。」
「キンダース商会で匿われているという予想は出来るのですが・・・。」
「あくまで予想に過ぎないという訳だな。」
「正直言いますとこの先はかなり慎重に捜査しなければなりません。内部にもキンダースの息が掛かった者が居ないとは言い切れませんので、これからは捜査を一時解散させて極一部のみで極秘に捜査を続けることにします。」
「そうだな・・・。それにしても予想より早く終わってくれて助かった。」
「将軍が自白したのが大きかったですね。」
「奴はあの地位に辿り着くまで清廉潔白だと思っていたが、実はそうでもなかったという余計な事まで分かったのが残念だったがな。」
「魔王様もその事は気がかりのようですね。」
「そりゃそうだろう、この事件は魔王としての統治能力を問われる事にもなる。もちろん、今の魔王職をやりたがるような奴はいないから、まだ暫くはドーゴルが続けるだろうな。」
魔王国の問題は片付ける事が出来ないまま、事件は収束する事となった。
翌日の早朝は、やっとのことでいつも通りの朝とも言える。
一度は村に帰った太郎達だが、エカテリーナの料理を堪能したあとに風呂に入って仮眠すると、太郎達は再びフーリンの家にやって来たのだ。
往来が楽なので問題は無いが、今回は子供達も付いてきていて、フーリンの家の中庭は賑やか過ぎた。
「おはようございます。」
やって来たのはメリッサで、裏口から中庭に入って来た。元々中庭に直接入る為の出入り口は無かったが、今回の為に扉を突貫工事で作ったのだ。
裏通りから直接入れるだけではなく、曳車をそのまま中に入れる事が出来るので搬出搬入が楽なのだ。
「なんか子供がいっぱいいますね。」
見た目だけならメリッサとほとんど変わらないが、この子達はまだ産まれてから1年経過していない。
「俺の子供だよ。」
「そうなんですか・・・太郎様の。」
何故か少し寂しそうだ。
「おとーさーん。」
「これここでいーのー?」
「あー、それはこっちー。」
子供達が木箱を抱えて運んでくる。
その中には綺麗に並べられたパンも有った。
「これは・・・?」
「エルフの人達が沢山作ってるから持って来たんだ。」
「エルフ?エルフって、あのエルフ達ですか?」
「そーだけど、何か有るの?」
「エルフって排他的で仲間に成れないという話を聞いています。」
エルフ達のイメージがあまり良くないのは以前の騒動で知った事だが、そこまで嫌われる理由も良く分からない。
「・・・どうやって運んできたんですか?」
「俺が子供達と一緒に売り物も運んできたんだ。」
「・・・え?」
太郎が瞬間移動の魔法で運んできたのだが、実際に魔法を使っているのはシルバなので、太郎としては運んでもらっている感の方が強い。
「なんか他にもいろいろありますね。」
「雑貨屋だからね、色々並べても良いと思ったから、相談して持って来たんだ。」
他の箱には食器類が入っていて、スプーンもフォークも小皿も大皿も、全て木製だ。他にはポーション各種。この中庭で作って果物類も有る。
「生モノは今日中に売らないと拙いですよね。」
「そうなるね。ところで母親は?」
「母は先日頂いた薬草でポーションを作っています。」
「自作できるってそれなりの技術だよね?」
「そうみたいです。私も以前はポーションの作り方を教わっていました。」
そして視力を奪われた事で中断している。
「ねーねー、パパー、この人だーれ?」
「このお姉さんは・・・。」
先にメリッサが子供に自己紹介する。
「メリッサ・ド・ゴルギャンです。」
スカートを軽く持ち上げて挨拶をする。
そう言えばこの手の教育って・・・。
あ、ちゃんと返してる。
ママに教わったの?
え、スーに?
そうなんだ。
「お子さん達って言うとちょっと変な感じがするのですが・・・。」
「まあ、見た目がね。」
ハルオとハルマに至ってはメリッサより身長が上だ。
「でもみんな一歳になってないんだよなあ。」
「え、あー・・・もしかして狐獣人ですか?」
「違ったよね、妖狐だっけ?」
「うん、そー。」
「妖狐ッて伝説の・・・物語とかで出てくるアレですか?」
「その物語を知らないんだけど、どうなんだろ?」
「そうじゃよ。」
スッと現れたのは母親のナナハルだ。
「あ、おかあさまー。」
「急に現れるなあ。」
それにしても子供達も呼称を統一していないのが気になる。
気に成るんだが、多分言語加護の所為だと思う。
こんなにバラバラに呼ぶのはおかしすぎる。
「中庭に屋根が無くて助かったのぅ。」
「知らないで移動したの?」
「まぁ、瞬間移動が魔女の特権にされるのも悔しいでのう。」
「ママは何しに来たの?」
「・・・お子さんのお母さまですか?」
「そうじゃ・・・ほぉ、狼獣人とは珍しいな。」
「妖狐の方が珍しいみたいだけど?」
「我らは数も少ないであろうからなあ・・・。」
「あのー、これって凄く貴重な体験なのでは・・・。」
「そうかもしれないけど、それらも含めて全てが全部貴重な体験だよ。特に子供にとってはね。」
「おねーさんは幾つなんですか?」
「13に成ったばかりですが、皆さんは生まれたばかりなんですよね。」
「そうなるね。でも成長が早くてね、もう少ししたら俺と変わらないくらいになるって言うから。」
「ちゃんと働く事も教えないといけないんでな、こういう事はもっとやって欲しいところじゃ。」
子供達が母親の視線を感じて背筋を伸ばす。教育はしっかりしているというか、俺が甘やかし過ぎなのかもしれない。
「それにしてもこのクッション良いですね・・・。」
箱に詰められたフカフカのクッションで、特に装飾は無く、ただの白い枕と言われればそれまでのモノだ。
「あー・・・布団が古くなってるんなら上げるけど?」
「いえいえ、ちゃんと購入します。なんでも頼るのは良く無い事ですから。」
「ほう・・・なんと、しっかりした娘じゃの。」
「ぼ、ぼくたちだってちゃんとやってるよー!」
「黙ってやればいいのじゃ。」
「・・・ちょっと冷たくない?」
「良いのじゃよ。」
子供達はテキパキと働いているが、よく見ると男の子達だけだ。女の子達に重い荷物は持たせていない。
「俺といる時はこんな感じじゃないんだけどなあ。」
「働く時と遊ぶ時のメリハリが必要なだけじゃよ、わらわだって怠ける時は有る。」
「なんかサラリーマンみたいだな。」
「さらりぃまん?」
「あぁ、賃金を貰って働く人の事。」
「日雇い労働みたいなものかの?」
「まぁ、そんな感じ。」
「子供達には早く一人前にならないと困るのじゃ。」
「そんなに困るかなぁ・・・そういう意味じゃ俺は20年くらいは働いていないけどね。」
「普人にしては遊び過ぎじゃの。」
「俺の世界じゃそんなに驚く話じゃないよ。16から働く人もいるみたいだけど、あんまり若いのに働いているのは少し特殊な家庭環境だったりするから。」
「太郎の世界についてはあんまり話で聞かぬから分からぬが・・・まぁ良い。終わったようじゃぞ。」
子供達が曳車に荷物を載せ終えていて、どう見ても一人で曳ける量ではなくなってしまった。流石に載せ過ぎだろう。
「それにしてもエルフ達は器用で良いのう・・・。」
「道具はなんでも自作するのが当たり前だったみたいだからね。」
「街に住むと作るのではなく買えば済むというのは良くない事じゃ。」
「そうかな?」
「太郎の言いたいことは分かる。金が欲しい者は色んな事を考えて金を得る方法を見付けるモノじゃからの。」
「ママー、そろそろ運ばないと。」
「ふむ、えーっとお主なんじゃったか。」
「メリッサです。」
「そうか、メリッサよ。」
「はい。」
「少し我が子達に働く姿を見せてやって欲しいのじゃが、良いかの?」
「それはかまいませんが・・・。」
太郎をチラ見したのは太郎の許可が必要だと思ったからだろう。
太郎は少し驚いてからナナハルを見て頷いた。
「そうか、では運ばせるとしよう。」
子供達が曳車を動かす。もちろん子供達だけだ。
子供とはいえ、男が5人いたら簡単に動くが、それでもやっぱり重そうだ。
太郎が手伝おうとするとナナハルに止められたので、黙って後ろを付いていく。
「あ、マナ連れて行かないと溶けちゃうんだった。」
太郎は一人戻ってマナを連れてくる。ポチとスーも付いて来たので、フーリンは一人で家に残った。これはいつもの事だ。
並べられた商品には食べ物も有り、母親が太郎の子供達に一人ずつ挨拶をされて少し戸惑っていたが、開店に間に合うように準備を終えると、直ぐに店を開いた。
既に外で待っている客が居たからだ。
繁盛というほどでは無いが、それなりに客で賑わい、パンはすぐに売り切れた。売り切れた理由は試食を置いたからで、試食は一口だけ食べてから買うのを決めるという理由で設置したが、只で食べさせるという事に少し疑問を持ったナナハルとスーに説明するのは、それほど難しくはなく、受け入れてもらえた。
「この果物も試食してもらえば売れるんじゃないかな。」
「なんでも試食させてしまうと、この店に来ればタダで食べられると思われてしまうぞ。」
「一口だけって注意書きはしてあるんだけどね。」
「ばれないようにコッソリと食べようとした者がおったではないか。」
「逆にこっちから配るっていう手も有るから、今度はそっちで考えようかな。」
「そこまでしなくても売れると思いますよー。」
「まぁ・・・クルミパンは少し硬いから老人には向かないと思うんだよね。」
「そういうのは買う者の責任ではないのですか?」
「もちろんそうだけど、知らないと買えないし、買ってもらえないとこれを持って村に戻らないとならないからね。雑貨なんかはいつまで置いても問題ないけど・・・。」
「でも、パンは売らない日も有るんですよねー?」
「あー・・・毎日作る訳じゃないから、次の入荷日も決めておかないとな。」
「そうですねー。」
これならエルフ達の要望にも応えられそうだ。
太郎は満足してフーリンの家に戻り、村に帰ったのはその日の午後になった。
日常へ戻るまでの挿入的な話。
村の認知度が徐々に上がっていく・・・。
太郎君ってよく考えているようで考えてくれないからすごく困る\(^o^)/
・・・たまには後書き有っても良いよね?(笑)




