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第186話 天使の言い分

 疲れるまで殴り合った二人。

今は食堂で甘くて温かい蜂蜜ミルクを飲んでいる。

特に何も言わなかったのだが、エカテリーナが持って来たのだ。

むしろこのミルクをどうやって手に入れたんだ・・・?

 疑問はマリアが教えてくれた。


「瞬間移動の魔法を練習したついでにねー。」

「もう完璧なんだ?」

「もう・・・ちょっとねー。」


 流石魔女と言ったところだろうか。


「それより、さっきの凄かったわー。」

「流石太郎さんですー。」

「まさか、あんな事になるとは思わなかったけどねぇ。」


 二人が殴り合っているのを見ていたが、何時まで経っても終わる気配がなかったと感じた太郎が叫んだのだ。


「やめろーーーー!」


 と。


 ただ、それだけの筈だったのだが、その音に魔力がのって物凄い超音波を放った。

 フーリンとミカエルに直撃し、真横に吹き飛ばされ、とっさに互いを抱きかかえるようにして地面に倒れた。


 それを見ていた一同が呆然としていた時間はかなり長かったと思う。

 太郎が一番驚いていたのだが。


「思いっきり叫ぼうと思ったらなんか漏れ出たんだよね。」

「超音波みたいねー。」

「超音波って知ってるんだ?」

「強い音波は魔法じゃなくても発生させる事が出来るんじゃないかって研究した事が有るのよー。」

「へー・・・確かにカマイタチとかも魔法じゃなくても出来そうだもんなあ。」

「カマイタチ?」

「真空の事ね。」

「真空って何かしらー?」


 その説明をどうしようか悩んだ太郎が窓に視線を向ける。

 その視線の先には、窓から覗き込んでる者が居る。

 もちろんココに居る全員が気が付いているが、入りたそうに眺めているだけで、入っては来ない。外でポチに吠えられると慌ててどこかに逃げて行くが、直ぐに戻って来る。


「あの天使って・・・。」

「トリソロエルって言うのよ。」


 何でも持っていそうな名前だな。

 いや、違う。

 そうじゃない。


「もしかして入ってくるのが怖いの?」

「世界樹の所為じゃないわ。」

「じゃあ、フーリン?」

「そこの男の所為よ。」


 食堂に居る男は太郎しかいない。


「さっきの超音波を見て怖くなってると思うわ。」

「それにしたってポチに吠えられて逃げるのもおかしくない?」

「あなたが来ると思ってるのよ。」

「ポチー、ココに連れてきてー!」


 嬉しそうに遠吠えするポチが、トリソロエルの翼に噛み付いて引き摺り込んで来るのに5分と掛からなかった。


「このケルベロスを何とかしてぇ~~~~!」

「コイツ弱いな。」

「ケルベロス一匹に何やってるの?」

「四匹居たのよ~~~!」

「居ただけでしょ?」

「え、あ、う、そ、そうだけど・・・。」

「こんな奴なら俺だけで充分だ。」

「天使って強さがバラバラなんだね。もっとみんな強いってイメージだったけど。」

「太郎さんのイメージって、なんなんですかー?」

「ちょっと偏見のある漫画だったけどね。」

「まんが?」


 太郎は返事をせず、天使を連れてきたポチの頭を撫でている。


「言葉を喋るのは驚かないけど、そこまで従順なケルベロスは初めて見るわ。」

「太郎は俺の恩人だからな。太郎の為なら何でもするぞ。」

「嬉しいけど、そう言う事はしなくて良いから。」


 ポチが無言で頭を太郎のお腹に擦り付けてくる。

 これだからポチは太郎の事が好きでたまらないのだ。

 そして、太郎で良かったと本気で思っている。


「で、何の用?」


 落ち着いたフーリンだったが、語調は強く、問い詰めるような口調だ。


「鈴木太郎とは何者だ?」


 ミカエルの質問はただそれだけで止まる。

 疑問符が周囲に湧きおこった。


「え?」

「だから、何者なのだ?」

「俺は普通の人間だけど・・・そんな事を訊く為だけにあんなに目立つ事をしたの?」

「夜に光って降りて来るのはコイツの趣味よ。」


 変な趣味だな。


「昼間に光っても目立たない。」

「ハタ迷惑じゃな。」

「九尾に言われたくは無いな。」

「どういう意味じゃ?」


 この天使は他人を見ると喧嘩を吹っ掛けるのが趣味なのだろうか?


「力が有り過ぎているのだ。」

「俺弱いけど・・・?」

「戦闘能力の強さだけで判断するモノではない。お前の周りではお前をどう思っているかは知らないが、少なくとも強い魔力の持ち主は、その能力も凄いというのが当り前の考えなのだ。」

「魔力が有ればそれだけ強力な魔法を放てるからね。」


 補足したのは肩に座るマナだ。

 スカートが太郎の頭を覆っているので、マナが動くと前が見にくくなるのが問題だ。


「まー、何となく分かる。」


 以前にも太郎は巨大な水玉を作って敵を撃退した事が有る。

 洞窟を水没・・・は、思い出したくない。

 今は平和的に利用して、池の水を増やしたり、風呂に活用している。


「だからと言って俺が脅威だと問題になる・・・よね、まぁ、そこまでは理解しても良いけど、その後の要望には応じたくないかな。」


 太郎がミカエルが言いそうな事を先回りして返答すると、美しい顔が少し歪んだ。


「では、敵になるのか?」

「友好的である必要はないけど、中立で良いんじゃない?」

「それならば世界樹の波動を止めてもらいたい。」

「それは無理ね、私がやっている事じゃなくて、人間がご飯を食べないと生きていられないのと同じで、波動を飛ばせなくなるって事は枯れる事だから。」

「じゃあダメ。」


 太郎としては当然の回答だった。


「波動の悪影響については知っていると聞いたが?」

「結果は誰も知らないという話でしょ?だったら、そうなってから考えたら良いんじゃないの?」

「魔素の荒しというのを知っているか?」

「・・・知らないけど。」

「魔素が世界を覆い、吹き荒れた時、世界は滅亡する。」

「滅亡して、誰が困るの?」

「太郎?」

「滅亡するのは誰か一人の所為じゃない、ましてやマナの所為でもない。世界は何度も滅亡の危機を経験している筈だけどね。」

「何を言いたい?」

「この世界を平和にしたいのかどうかは、俺個人の力じゃないって事。」


 腹の探り合いの様な会話に、周囲は少し困惑している。

 それはミカエルの態度ではなく、太郎が予想以上に自分を語っているような、そんな気がしたからだ。

 太郎は人々を魅了する不思議な力は無い。カリスマでもなければリーダーでもない。だからこそ、本気で言っているのだと、太郎を知る周りの者達は思っただろう。


「この村・・・って言っちゃうとアレだけど、ココだけでも問題は何度も起こったよ。それを世界規模に変えて、大規模にしただけで、実際は100人の集落も100万人の大都市も、やってることの根本は変わらないから。」

「ちょっと特殊だけどねー。」

「それは、そう。」


 ミカエルは本来交渉するのを好まない。

 どうせ嫌がったり無理難題を吹っ掛けて来る事を知っているからだ。

 だったら最初から叩けばいい。

 それで済む。

 それで済むはずだったのだが、それを許さなかったのがドラゴン達であり、魔女の存在で、天使達はかなり面倒な事に巻き込まれていて、特に世界樹が燃やされた後は天使達が各地に奔走していたという事実がある。

 もちろん、何も変わらなかったのだが、天使達は何も変わらなかった事を我々の力だと自負しているのだ。


「鈴木太郎の言いたい事が少し解らないところが有る。」

「なんです?」

「キミは何のためにこれだけの人を従えているのだ?」

「従えてはいないけど?」

「何を言うか、どう見てもお前の一言でここに居る者達は世界を変えるだけの事をするぞ?」

「しないし、させないし、やらせるつもりもないけど。」

「それはどうかな?」

「めんどくさい奴ね、太郎がそうしないって言うんだからしないわよ。」

「何もしないのなら、これだけの能力者を集めて何をするつもりだったのだ?」

「・・・勝手に集まったんだよ・・・。」


 太郎が本気で困ったような表情だったので、それが妙な刺激になってくすくすと笑いだした。一人が笑うと釣られるように笑いだし、天使二人と太郎以外は笑いを堪えるのに必死になっていた。


「あなた達みたいに自分の力を過大評価していると、太郎君みたいな存在にコロっと足元をすくわれる事になるわ。」

「ハーフドラゴン程度ならそうだろうな。」

「さっきの続きしてもいいのだけど?」


 太郎が座っている椅子を揺らすと、二人の視線が太郎に向いた。

 太郎はただ単に座り直しただけで、何も考えていない。

 小さくホッと息を吐き出すと、互いに視線を戻すことなく、大人しく座り直す。


「もう太郎ちゃんの術中にはまっているくせに、これ以上言う事あるのー?」

「ぐっ・・・。」

「つまり、そう言う事じゃな。」

「はー、我も子供を産める身体だったらなあ・・・。」

「そういうことはココで言わないの。」

「ハーイ。」


 ミカエルとトリソロエルは、改めて周囲を見渡す。

 こんなに力の有る者同士が喧嘩をする事も無く、仲良く同じ時を過ごしている事に違和感を覚えているのだ。

 あのグリフォンにしても、こんな所で大人しくしているような者では無かった筈だし、九尾が静かに座っていてあまり意見を言わないのも不思議過ぎた。長寿を売りに語るのが九尾ではなかったのか・・・?


「まあ、天使は天使で仕事に自信が有るんでしょ?」

「愚問だな。」

「だったらそれで良いじゃん。これから起きる問題について想像しても、それが正解だとは限らない訳だし。」

「それでは遅すぎるかもしれないのだぞ!」

「俺はね、世界樹を育てるためにココに来たのであって、世界を守るつもりじゃないから。平和ならそれで良いし、平和じゃなくなるんならその時に考えるよ。」


 あの神様に世界が大変な事になるかもしれないって、言われた事は忘れていない。


「つまり、行き当たりばったりか。」

「常に全てを監視するなんて無理な話だよ。それこそ神でもない限り。」

「あの神さまは出来るけどやらないわね。」

「たまに忘れるって言ってたから・・・。」

「何を言ってるのだ、まるで神に会った事が有るみたいな言い方をしおって。」

「神様が居なかったら、俺はこの世界に居ないんじゃないかな。」


 死んで生き返らせてもらっている存在なのだが、それ以前にこの世界に来なければあんな死に方をする事も無い。そういう意味では神様のおかげでは有るが、神様の所為でも有るし、その原因に成った事はドラゴンによる世界樹を焼失させたことなのだから、何か一つ抜けていても太郎はここに居られないのだ。


「神は我々でも、誰も会った者が居ないのだぞ・・・。」


 羨ましいとは言わない。


「我らに備わった能力は世界を守るのに必要なのは間違っていない筈だ。」

「間違ってないと思うよ。」

「それならば、我々が世界に必要とされている存在であって・・・。」

「それは違う。」

「どう違うのだ?」

「みんな必要な存在だと思うよ。もちろん、全ての人が全て必要だなんて極端な事は言わないけど、必要な存在が自分達だけで構成されていると思うのなら、他の存在がなぜ存在しているのか考えなかったって事にしかならないよ。」

「それを納得してしまうのは、我々としては無理だな。」

「それって、本当に我々なの?」


 太郎はジッともう一人の天使を見詰めた。

 そして、その天使は少し恐怖を覚えてミカエルにくっついたのだった。






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