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第185話 輝きは100万ボルト

「見えなくなりましたね・・・。」

「結界を張ったな。」

「我々から隠す為に?」

「いや・・・あれは、か弱き者を護る為のモノのようだな。」

「態々兎獣人なんかを護る為にあれほどの手間をかけて?」

「そのようだ。あの男は恐ろしいな。」

「転移魔法ではないと言っていましたが・・・。」


 ミカエルが地上に向けていた視線を同じ高さの空へ動かした。


「ハーフドラゴン?」

「・・・の、ようですね。」


 暫く不在だったフーリンは、ダンダイルに事情を説明してもらった後にやって来たのだが、天使が居る事までは知らない。それも特級の警戒対象だ。

 フーリンは迂回してからいつもの場所に降りたが、降下中も警戒を忘れない。


「お婆様は?!」


 食堂には誰もいなかった。

 ポチやスーだけでなく、エカテリーナの姿もない。

 騒がしい子供の姿もない。

 

「だれもいない・・・?」


 偶然通りかかった兵士が呼び止められ、緊張してつつ返答する。


「た、太郎殿は迷いの森で建築作業中です。」

「森にそんなところなかったけど・・・?」

「なんでも魔女の結界を張ると言っていましたのでその所為かと。どんな効果なのかは知りませんが。」

「お婆様の結界なら私じゃ見付けられない訳ね・・・。わかったわ、ありがとう。」

「あ、いえ、お役に立てて何よりです。」


 ハーフドラゴンに声を掛けてもらうなどという事は一般兵士では有り得ない。望外の幸運に紅潮して敬礼する兵士を困ったように笑った後、空からの視線を気にしつつ森へ向かった。





「なに・・・これ?」


 フーリンの見える景色は森しかなく、気配は感じるが、見える範囲に誰もいない。

 ブーンと飛んでいるキラービーがフーリンに気が付いて逃げて行く。突然現れたのがドラゴンだったら驚くのが普通なので、特に気にはしない。

 木の陰に消えた姿を追いかけ、木の裏を見ると、姿が消えていた。


「これが、結界・・・?」


 そっと腕を伸ばすと、指の先に違和感を感じる。


「なんか近寄っちゃいけない感じがするけど、この先よね・・・。」


 歩みに力を入れて一歩踏み出すと、景色が一変した。


「フーリン。何やってんの?」

「世界樹様?」

「これが結界の影響よー。」

「なるほど、ドラゴン程の力の有る者でも近寄るのを躊躇うって事なんだね。」

「そーよー。結界にはある程度の条件が必要になるようにはしてるんだけどー、細かい設定は来ないと変更できないからー。」


 魔女がフーリンの肩に触れると、僅かな輝きを発生させる。


「これで制限が無くなったわー。」

「ダンダイルさんも同じことやらないと入れないんじゃない?」

「多分だけどー、勝手に入って来ると思うわー。」

「そーいや、元魔王だったなぁ・・・。」


 そんな感じが全くしなくなってるんだけど・・・。それでも元魔王だったのはかなり有名なんだろう。何千年も閉じ込められていた魔女が知っているくらいなんだから。

 視線を気にしていたフーリンが上空に目を向けるが、不思議そうな表情だ。


「気配は感じるけど・・・何か変ねぇ。」

「結界の所為だからー。」

「お婆様の魔法だから、そうなんでしょうけど。」

「幾つもの障壁魔法を掛け合わせた魔法陣だからねー。」

「ひょっとして、組手魔法を考えたのって・・・?」

「防御魔法なら幾つも考案したからー、その中の一つじゃないかしらねー。」


 この魔女ってやっぱりこの世界に影響残し過ぎじゃないかな。

 平然と笑っている魔女は、それほど気にしていない様子なので、話題を本題に戻す。


「あのミカエルは何のために来たんです?」

「監視でしょうねー。」

「太郎君を?この村を?それとも、世界樹様を?」

「全部でしょ。」

「あんまり見られるの好きじゃないんだよなあ・・・。」

「太郎が嫌だと思うなら力で追い返すしかないけど。」

「交渉は?」

「あのバカ天使が言う事を聞くわけないじゃない。」


 マナにかかったらなんでもバカが冠にされてしまう。

 そういう言葉使いは褒められないから、直して欲しいのに、直してくれないのはなんでだろう・・・?

 兎獣人の問題も解決(?)したという事だが、畑や鉱山のなどの問題は山積みされたままだ。ただ、太郎が直接関わらなくても勝手にやってくれることの方が多くなっているので、何もしないでゴロゴロ過ごす事も可能だ。

 そう思ったが、一つ思い出した。 


「・・・ウルクはもういないんだな。」


 お墓という感覚が無い者達にとって墓参りも無い。だからと言ってウルクが家族ではないとも思えない。村に埋めて欲しいという希望は叶えて上げられないが、ココが新しい村として良いのなら、ココに埋めるのも一つの案ではある。


「所詮、墓参りは生きている人のエゴか。」

「何の話?」

「生きている人達は死んだ者達の分まで生きるって話。」

「何か宗教っポイ考え方ねー?」

「まぁ・・・俺の生まれた国がそんな感じだから、影響は受けてるだろうな。」

「太郎はタマにわけわかんない事を言うわね。」

「マナには分かってもらいたいところだけど・・・こればっかりは仕方ないか。」

「墓参りぐらいするんじゃが?」

「そっかー・・・ナナハルが一番近いのか。」

「本当に何の話をしですかー?」

「ウルクの墓を作って命日にお参りするかどうかという事になるけど・・・。」

「命日に墓参りするなどかなりの人物でないとやらんぞ。」

「俺は家族の墓参りって子供の頃に行ったぐらいだしなあ・・・今はどうなっている事やら。考えても意味の無い事だから諦めてるけど、こっちではちゃんとしてもいいかな?ってね。」

「お墓を作って貰えるだけでも、特別なんですけどねー。」

「俺はそれほど特別だとは思わないけど。」

「誰かが死ぬたびにお墓なんか作ってたら村が墓だらけになっちゃいますよー?」


 広大な墓地が存在するのが当たり前だったから深く考えた事は無かった。確かに墓場だけを一か所に集めたらとんでもない広さになるだろう。日本ってどうなってるんだ・・・。


「大きな墓を作ってみんな同じ場所に埋めればいいよ。俺が死んだら焼いて骨だけにしちゃえば埋めるのも楽だし。」

「焼くんですかー?!」

「土葬が普通なのか。そっか、そうだよなあ・・・。」


 死者への扱いについては時代によっても違うのだから、世界が違えば考えが違うくらい当り前だろう。だったら、その扱いについて俺のやり方で良いという事だ。宗教なんて関係ないし、ちゃんと祭らないと呪われるなんて有り得ない・・・有り得るのか?

 ナナハルに質問すると笑われた。


「何故子々孫々を呪わなければならぬ。大切な子供達ならば大切に想うのが当たり前じゃ。」


 全くその通りだ。

 太郎は自分の思いを込めてウルクを弔う事にして、それを子供達に強要しない事も心に決めた。もちろん、他の者にも俺に対しても、だ。

 墓の場所を皆で考えた結果、今後も使う事が有るというのならば、自宅の近くが良いという事になった。

 穴を掘り、棺を・・・。

 棺?


「棺、置いてきちゃった・・・。」


 太郎はシルバを呼び出して棺を瞬間移動で運んだのだった。




 一段落して夕方が近づくと、いつも通りに食堂へ人が集まる。棺を埋めた後に解散という事になったので、結界に護られた兎獣人の村は暫くあのままに、ざっくり言えば放置する事になる。

 放置と言っても交代で村を守る者達が残るし、食糧を運んだりする必要も有るので、毎日とは言わないが数日毎にあの村へは行く事になっている。

 いつもの夕食、いつもの入浴、いつも通り、後は寝るだけ・・・。

 今日は子供達が全員で俺のベッドに乗り込んできた。

 子供達は楽しそうだが、大きく成ったので狭い。

 身体は大きく成っても子供は子供だ。

 どの位置で寝るかで取り合いになっているのだから。


「ねー、おとーさん。」

「ん?場所は決まったか?」

「ううん、外がね、朝みたいなの。」

「え?」


 綺麗に作られたガラス窓から外を見ると確かに明るい。

 明るいがとてつもない違和感しかない。


「なんか下りて来るよ!」

「眩しくてなんだかわからないけど、天使じゃないかな。」

「てんしー?」

「眩しすぎるから直接見るんじゃないぞ。」

「「はーーい!」」


 寝室のドアをノックしただけで返事を待たずに開かれる。


「なんか変なのが降りてきましたー!」


 スーの頭にはマナが座っていて、珍しく二人で寝ていたようだ。


「何をするつもりなのか知らないけど、嫌がらせなのは間違いないわね。」

「もう少し見ているだけだと思ったのよねー。」


 スッと現れて会話に混じる。

 眩しすぎる光に、周囲の家も、警備の者も、その光に視界を奪われている。


 <<<ゴン>>>


 <<<ドサッ>>>


 光が消えた。


「あれ・・・フーリンじゃない?」

「フーリン様ですねー。」

「落下したのは天使という事か。」


 太郎は子供達に部屋から出ないように言った後、外に出るとすでにみんなが集まっていて、ポチ達が並んで眺めていたので近寄る。


「太郎、アレは何だ?」

「ミカエルだと思うんだけど。」

「みかえるって何だ?」

「天使の名前なんだけど、あの人って一番偉い人だよね?」

「そーよー。」

「フーリンさんがメいっぱい頭を殴って叩き落としたよね?」

「そーねー。」

「喧嘩にならない?」

「なるわねー。」


 その後、暗がりの中で鈍い音が連続で聞こえた。


「あんた、なにすんのー!」

「眩しいのよー!」


 近寄ると、魔女が強過ぎない光で辺りを照らす。


「いったい!なんの!ようなの!」

「あんたに!かんけい!ないのよ!」


 美女二人が拳で殴り合いながら会話している。

 一歩も引かない殴り合いに男らしさを感じるが、それどころじゃない。


「止められる人いる?」


 近寄って来たので視線をグリフォンに向けたが、首を横に振った。


「タロー以外に止められるわけないだろ。」

「気が済むまで殴らせておいた方が良いわよー。」

「そうなの?」

「フーリン様ってあの天使と知り合いだったんですかー?!」

「ドラゴンと仲が良くないのは知ってるけどー・・・あの二人にどんな因縁があるかなんて知らないわよー。」


 二人を止める者は無く、兵士やエルフ達に見守られる中、二人は疲れるまで殴り合っていた。







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