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第183話 空からの視察団

 太郎はマナとマリアの二人を連れて家に戻った。家に帰ると子供達が出迎えてくれたが、そんな暇はない。無視するのは心苦しいので、手を振って応じただけで通り過ぎ、そのままの勢いで兵舎に行くと、カールと相談して、集めた資材を袋に詰め込む。


「もう夕方になるのに?」

「突貫でやるので。」

「我々も手伝いましょうか?」

「いや、今回はオリビアさん達に手伝ってもらいます。」


 事後承諾となってしまったが、この事をオリビアに話すと、不快感を示すことなく、むしろ快く承諾してくれた。

 兎獣人達の事を知らない訳では無いし、関わったのも事実なので、太郎の行動には共感するところもある。


「それにしても、今からですか?」


 準備を終えると辺りは真っ暗だ。

 ポチ達は付いてくる気満々で太郎の傍に居るし、グリフォンも森にの中で魔物が現れるのなら必要だろうと、傍で待機している。


「私も行きますからねー!」


 スーもバッチリと装備を整えていた。


「キラービー達に話を通しておかないとならないけど、夜って起きてるかな?」

「明日の朝にならないと活動しないと思いますよー。」

「じゃあ、それは明日でいいや。」

「太郎様、明日になったら炊き出しに行きます。」


 こちらは断らせないという活力に満ちた瞳で目詰めている。


「まあ、そんなに遠くないだろうけど・・・。」

「目くらましの結界程度なら村が完成した後に私がやってあげるわよー。」


 みんなが協力的すぎて、太郎は何故となくオリビアに質問した。


「いつも太郎殿には世話になりっぱなしなのだ。何かをするというのなら我々だって恩を返したい。そのチャンスを逃したくないのだ。」

「いつも無茶し過ぎるんで監視の意味も有りますけどねー。」


 スーがそう言うと周囲に笑いが起こった。


「それで、どのくらいの規模の村を想定しているのだ?」

「とりあえず50人程度。」





 この土地に初めて来た時とは違い、今は仲間が沢山いる。材料も潤沢に有るし、家自体も特にこだわる必要がない。ボロ小屋に住んでいた事を考えれば、新築の家に棲むというのは兎獣人達にとって珍しい事だ。


「彼女達を全員受け入れるおつもりなのは構いませんが、発情期は大丈夫なので?」


 その事について説明すると、オリビアに限らず、女性達は複雑な表情になった。兎獣人の生態について知っているのは、とにかく誰とでも子作りをしたがるという事が当たり前なのだが、当人達が望んでいるのではなく、無理矢理性処理の為の奴隷にされようとしていたのだと知れば、怒りも込み上げてくる。


「ワンゴの部下も末端まで行けばクズ揃いという事だな。」

「そのワンゴが戻ってくる事は無いのか?」

「それは大丈夫よー。」


 ワンゴが戻って来るには危険だという事を伝えられるという事なのだが、詳しい説明は無かった。


「それに結界も貼ってあげるから、数百年は平和になるわー。」

「目くらまし程度じゃなかったの?」

「近寄らなければ何事も起きないモノよー。」

「そうなんだ。」


 暗い森の中を光魔法で周囲を照らしながら進む・・・予定だったが、太郎達は空から飛んだ方が楽なので、地上組と飛行組に分かれて移動した。

 地上組は勝手に付いてきた兵士達と一部のエルフ達で、周辺警備も兼ねている。

 飛んでいる太郎が空から見ると、森の広さが良く分かり、月明かりが綺麗な事も有って、神秘的な光景が広がっている。


「あそこに池が有るからあの辺りで良いと思うわー。」


 魔女の隠れ家はもっと奥の方なので、それとは別の場所を示した。


「あの辺りは少し拓けてるし、大き過ぎない家を建てるから丁度良いかも。」

「家はどのくらいの大きさの予定ですかー?」

「ベッドが置けて、竈はいらないらしい。それに扉もいらないし、マンドラゴラの畑が作れる場所と、複雑にならないように家を並べれば良いって。」


 寒さに強いのも兎獣人の特徴らしい。

 いつも薄着だもんな・・・。


「じゃあ、サクッとあの周囲の大木を切り倒しますか。」

「朝までに準備して、建築は明るくなってから。」


 地上に降りると、神様から貰った道具を取り出し、斧を振って大木をどんどん切り倒す。その音に驚いて魔物が現れても、ポチとグリフォンが威圧だけで追い返していて、エルフ達に手伝ってもらいながら資材を並べて行く。


「相変わらず凄い・・・。」


 斬り倒した後に残った切り株をエルフ達が引っこ抜くと、凹んでしまった土地を平らにする為にマリアが創造魔法で土を出す。

 綺麗に平地が出来ると、小さな畑を作って、マンドラゴラを植える。マナが直ぐに成長させるのでこの作業は終わりだ。

 夜明けを迎えると、陽の光が周囲を明るくし、一番簡単な四角い家が完成した。これは兵舎を作った時のノウハウを利用したモノで、二階建てにする必要がない分、建築は凄い楽だ。雨漏りなどが無い様にしっかりと組み立てる事は当たり前だが、火を使う場所が無いのは、自分達が困る。


「この家だけは少し大きめに作って一通りの家具を配置しよう。」

「何か有るんですか?」

「来訪する必要が有った時に俺達が困るから。」

「そんな事が有るんですか?」

「俺を含めて兎獣人が住むようになったら男が来るのは控えてもらいたいけど、女性達には警備に来てもらいたいからね。」

「ああ、なるほど。」


 太陽が見えるくらいになると、キラービー達が大群でやって来た。

 まだ事情を説明してなかったからで、太郎にしか出来ない事だ。

 シルバも出来るがやってはくれない。

 いつもどこか近くで見ているらしいけど・・・。


「なんでも、出張用のマーキングをするって言われたけど、蜂もここに棲むつもりなのかな?」

「太郎がそう言えばそうなるに決まってるじゃない。」

「あ、うん、そうだよね・・・。」


 見廻って欲しいと言えば範囲が広がるのだから、テリトリーが増える。何もない所に来てもらうのもちょっと可哀想だ。

 それなら、蜜の取れる何かを植えておくのもアリか。




 建築が始まるとものすごい勢いで家が増えて行く。

 恐ろしい程の早さなのは豆腐ハウスと揶揄されるもので、決まった長さと太さの資材を統一して、作り方のマニュアルが渡されていて、数時間あれば一軒できてしまう。ドアが不要と言うのも完成までの時間をかなり短くしていた。


「防犯とか考えないのです?」

「ドアを付けたとして、開いたり閉じたりするのは問題ないんだけど、壊れても直せないって事らしいよ。」

「我々が直せばいいのでは?」

「その家の中で発情していたら巻き込まれるかもしれないから。」

「・・・なんとも面倒な種族ですなあ。」


 5人一組でポンポンと造られる横で、無くなっていく物も有る。


「三日無くても完成しそうだね。」

「資材が足りません・・・。」

「あ、ごめん、直ぐ出すよ。」


 太郎はベッド作りも大きなベンチのようなモノに布団を載せただけの簡易的な作りにし、各家に設置していく。

 マンドラゴラを丸かじりするだけなのでテーブルも必要なく、食器も必要ない。こんな生活だから長生きしないのではないのだろうか?


「マンドラゴラは食材としてもポーションの素材としても優秀なんですけどね。」

「それだけしか食べない訳じゃないのに、なんでマンドラゴラなんだろう?」

「そー言われると、確かに普通の食事をする兎獣人は街で見かけました。」

「だよね。やっぱり、生活環境が悪いと思うんだけどなあ。」

「彼ら種族がそのようにして生活しているのを邪魔する理由は無いんですよ。」

「そんなもんかぁ・・・。」

「そんなもんです。」


 一軒だけしっかりとした造りの家には、食材の貯蔵庫も付けて、風呂場も作った。

 風呂に入らないのか・・・水浴びはする?

 するよね?

 たまに・・・?

 

「たろーさまーー!」


 エカテリーナがエルフ達を引き連れてやって来た。

 兵士達が喜んでいる理由は分かっている。

 エカテリーナは炊き出しにやって来たのだ。

 ついでに子供達もやって来た。

 騒がしくなったが、あぶないからココで遊ばないでね。


「どこで料理すれば良いですかね?」

「ココが中心になるから。」


 穴を掘って、石で囲って、鍋を吊るす台を設置する。鍋は太郎が袋から取り出し、食材はエルフ達が持ち込んだものを使う。

 ただのごった煮だ。

 期待するモノではないのだが、なんと言ってもエカテリーナが作っているという事に意味が有るらしい。

 そんなもんかー・・・。

 完成すれば兵士達が集まってくる。

 お椀とスプーンだけを配ったら列になって受けとる。

 太郎の個人的なイメージとしては被災地の炊き出しのようだ。

 喜んでいるし、いいか。




「こっちです。」

「こんな場所に村か。・・・世界樹だな。」

「ミカエル様を呼び捨てにするような男がいるんです・・・!」

「それよりも、なんか変な奴がいるな。」

「変な奴ですか?」

「覚られないようにかなり上空に居るはずだが、あいつは気が付いている。」


 指を差した先には、空を見上げている女性が一人。


「間違いがなければあれは魔女だぞ。」

「魔女って、絶滅したのでは?」

「噂は各地で聞くがな。」


 その女性がスッと消えた。

 そして目の前に現れた。


「なっ?!」

「天使族じゃない、珍しいわねー?」

「こんなところで・・・、いや、今どうやった?」

「そんな事どーだっていいじゃないのー。」


 マリアは瞬間魔法を練習していて、今も使ったのだが、移動先が空中だったので成功したのだ。地上だったら大穴が空いたかもしれない。


「で、団体で来て何の用かしらー?」

「用ならそちらの方が有るだろう?」

「以前ならねー。」

「どういうことだ?」

「ミカエル様も不要になるのよ、これからはねー。」


 不敵に笑う魔女と、笑ってはいるが眼力に鋭さがある大天使。


「それで、世界樹と男と言うのは何処だ?」


 目の前の魔女を無視して話を進める。


「あの男・・・は、あっちの森のようです。」

「あなた達、そんなに余裕が有ると思ってるの?」

「なんだと?」


 魔女の後ろにスッと現れたのは太郎とマナとシルヴァニードだ。


「ほんとだ、こんな所に天使がいっぱいいる。」

「なんで私に気が付かれずに目の前に現れるんだ・・・。」

「瞬間移動だからね。」

「なんだと・・・転移が可能になったのか?!」

「転移じゃなくて瞬間移動よ!」

「いや、そんな事より、なんで天使が大群でこんなところに集まってるの?」

「不穏な動きが有ると聞いたからだ。」

「不穏?」

「マナの動きが不安定になっている中心部という事だ。」


 太郎は突然連れてこられたので、実は良く分かっていない。

 天使が来たとマナに言われて、シルバを使って移動してきただけである。


「俺にとってはこれだけ天使が居る方が不穏なんだけどなあ。」


 ミカエルが太郎を睨んだ。威圧を込めて・・・。

 魔女がまた笑った。


「太郎ちゃんにそんなことしても無駄よー。」

「そのようだな。」

「ハッキリ言うと協力した方が良いわよー。」

「世界樹とは仲良くなれんのだがな。」


 仕事を取られたという理由かどうかまでは説明しない。


「仲良くなれないのなら、邪魔しなければ良いんじゃないの。」

「大天使相手にそんな事を言えるのは世界樹様だけよねー。」

「一体何の話になってるの・・・?」

「格で言えばそこの大天使の方が下になるのだけどー・・・。」

「私を格下と言うか。」


 取り巻きの同族達が一斉に魔女を睨んだ。もちろん平然としている。


「わからないのー?」


 くるっと太郎の後ろに回ると、突き出すように押した。


「ちょっ・・・なに?!」

「ほら、その眼でしっかりと見なさい。」


 マリアの口調が怖い。

 後ろの天使達は太郎を強そうな存在だとは解るが、それ以上は探れない。ミカエルが握手をするように手を出したので、太郎が昔の癖で手を出したところでぐっと握りしめられた。その直後だった。


「・・・神か?」

「へ?」

「この膨大なマナ量は神と言った方が近いぞ。」


 握り締める手が震え、笑顔はない。


「私と同じ存在ともいえるな。」

「あー・・・そうかもねー?」

「マナを自ら生み出せるという意味では私と同じだ。しかしその量が尋常じゃない。」

「そうなんだ?」

「太郎は特別な存在だけど、そんなふうになっちゃったのね?」

「マナも知らないの?」

「ちょっと前まで魔法も使えなかったジャン。」

「そりゃそうだけど。」

「魔法が使えなかった?」

「3年前なら全く使えなかったよね。」

「それは太郎の感覚じゃないの?」

「あっ・・・そっかー・・・50年ぐらい空白が有るんだったね。」


 握った手を離すと、震えが止まった。


「この二人は一体どういう存在なのだ・・・。」

「そうねー・・・今は太郎ちゃん忙しいから、また今度ねー。」

「あ、そうだ、早く家を作らないと・・・。もう用は無いよね?」


 魔女と天使を等分に見るが、返事もしなければ頷きもない。

 太郎は無視されたとは思わず、何も言わない事が返事だと思って地上に降りた。

 シルバを使って、スッと消えるように。


「何かとんでもないモノを見たような気分になるな。」

「太郎ちゃんはねー・・・。」


 残された天使達がその後もしばらく空中に留まり、マリアは何かを伝えていた。






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