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第182話 新しいが小さな村

 城の中庭では魔女のマリアが騒いでいる。

あのゆったりとした口調で苦情を言うモノだから、聞いている方が最後まで聞かないうちに言い返してしまい、事態の収拾がつかなくなってしまった。


「だーかーらー、実験n―――

「衛兵を呼べー!」

「ちょっと魔法に失p―――

「魔法攻撃だ!障壁で守れ―――!」


 ダンダイルが続々と集まってくる兵士に困惑し、何も出来ずにいると、将軍は魔法攻撃命令を出そうとする寸前だったのだが、ピタリと止まった。

 それは魔王が魔女の前に現れたからである。


「真上から降りて来るなんてカッコつけるわね?」


 マナの評価はどうでもいい。


「止めないんだ?」

「太郎がみんなに水をぶっかけて止めても良いのよ。」


 それは良いアイデアかもしれない。

 いや、ダメだろ。


「ま・・・魔王様?!」

「何の騒ぎかは分かっています。バカ騒ぎよりも先に報告して欲しいですね。」


 表情は怒っていないが、声には明らかに出ている。若い魔王という事で、将軍達にないがしろにされる事も少なくない経験だったから、この状況を利用して、少しでも威厳を高めておきたい。


「ダンダイルがいるのに、この騒ぎになるのも困ります。」


 口調が魔王様って感じがする。

 頑張っているなあ・・・と、太郎は思ってしまった。


「あ、え、いやー・・・流石にこの者達を止めるのは無理です。」


 者達、と言うからには太郎も含まれている。


「しかし、そいつは魔女で―――

「知っています。」

「え?」

「知っていますし、危害を加えたら城が無くなると思った方が良いですよ。」

「・・・。」

「へー、なかなか、見どころのある坊やねー。」

「坊やって言われると恥ずかしい限りですが。」

「あらー。でもまだ子供でしょう?」


 魔女から見たら鼻タレ小僧と同等レベルなのかもしれない。

 そうするともっと若い太郎は・・・。


「太郎ちゃんは特別だけどねー。」

「ところで、世界樹様と太郎君は、どうしてここに?」

「緊急避難的に安全で選べる場所がココしか知らないので。」

「?」


 兎獣人の説明はダンダイルが応じた。報告はされていても魔王の耳には入ってないという、矛盾した状態なのは、報告された内容が魔王へ届くまでに時間が掛かった事と、報告後の処理が事務的に行われた結果である。


「だんだいるさまああああああああああああ!」


 大声が空から聞こえる。

 泣いているような悲鳴のような耳をつんざく声の主は、追い求める姿を見付けると急降下して飛び付いた。


「よ゛か゛っ゛た゛~~~!」


 周囲の状況を無視した存在に、ダンダイルが手持ちの布切れを渡すと、鼻をかむ音が響く。


「独り言を言ってると思ったら突然消えるし、その後何の音沙汰も無いし、どうしようか悩んでとりあえず城に来たら・・・。ひんひん。」

「・・・突然消えた・・・?」


 また泣きだした。

 見た目通りの子供の様な泣き方に、周囲も困惑している。


「将軍ともあろう者が声を上げて泣くな。」

「それにしても結構遠かった筈だか、この短時間で良くココまでこれたな。」

「なんか変なマナを感じてすごいスピードが出たんです。ぐひっ。」

「・・・変なマナ・・・?」


 心当りの有る者が二名、空を眺めた。


「それって・・・ひょっとして―――

「俺の所為かも?」

「私の所為かも~?」

 

 シルバがいきなりダンダイルを呼び寄せた所為で、傍に居たトヒラが吃驚してしまった事と、瞬間移動の魔法を使ったのが初めてだった事も有り、マナのコントロールに失敗して、周囲に影響が出た可能性を否定しきれない。


「トヒラ将軍。」

「はひっ?!」

「貴女にもちゃんと報告してもらいますので、とりあえず顔を洗ってきてください。」

「は、はひっ!」


 魔王に話しかけられた事で、少し冷静になった。冷静になると周囲の状況が異様な事に気が付き、魔王に敬礼すると逃げるように走り去っていった。


「さて、そちらの方も説明して貰えますよね?」

「まー・・・仕方がないわねー・・・。」


 魔王相手にこの態度でいられるのは魔女だからと言うのが理由ではなく、魔王をそこら辺の石ころと同程度にしか思っていないからだ。

 しかし石ころは話しかけてこないし、周りの状況からすれば自分の立場が悪くなるのはあまり良い事ではない。面倒な事はとにかく面倒なのだ。

 特に太郎に迷惑をかけるのは避けたい。

 太郎のご機嫌を損ねたら居場所が無くなってしまいそうな気がするからである。


「では皆さんは下がってください。」


 ゴルルー将軍が集めた兵士達は、魔王によって解散された。事態は急速に収まり、事態の原因達だけが残された。


「その兎獣人の所へ連れて行って下さい。」

「はい、こちらです。」





 魔王が部屋に入った時、兎獣人達は用意された椅子やソファーに座っていて、子供の泣き声にも笑顔で対応している。胸は丸出しなので、魔王が目を逸らしたのは言うまでもない。


「なんとも艶めかしい・・・。」

「子育てしている姿を見てそういう感想を言うのって変態っぽいわねー。」

「変態の極致のような奴に言われたくないぞ。」


 ゴルルー将軍はどうしても魔女が嫌いらしい。


「彼女達をどうする予定ですか?」

「引き取ろうかと思います。」

「全員を?」

「はい。」

「兎獣人がこんなにいるのは初めて見ましたが、他の人達と混ざるのも困るのでは?」

「それで、あの迷いの森の中に彼女達が生活できる場所を作って隠そうと思っています。」

「では私が何かできそうな事は有りませんね。」

「これは俺の責任なので手伝ってもらうつもりも無いです。」

「魔王様相手に生意気な口の利き方だな?」


 ゴルルーがダンダイルに問う。


「太郎君ならこれで普通だ。さっき太郎君の魔力を見ただろう?」

「恐ろしい男だ・・・それが魔王国のハズレに村を造って住んでいるだけで満足するわけがないだろ。」

「太郎君はもっとひっそりと生活したかったらしいがな。」

「エルフにキラービーに我々の魔王国兵が駐屯している村なんぞ、どこもひっそりとしていないではないか。」


 確かにその通りなので、ダンダイルは苦みを込めて笑うしかなかった。


「太郎ちゃん、これ全部運んだのー?」

「う、うん。」

「あの移動魔法、とんでもなくコントロールが難しかったんだけどー?」


 ふわっとした風が流れ、スルスルっと現れたのはシルバだ。


「見ただけで真似できるだけでも凄いですが。」

「マナの残滓に情報が残ってたからそれでね。周囲に影響が出ちゃうのはその所為って事も解ったしー。」


 トヒラの飛行の移動速度が一時的に上がった理由である。

 シルバが現れると、子育てをしていない兎獣人達がシルバの周りにゾロゾロと集まってくる。不思議な光景を目の当たりにしているのだが、不思議と言うか、異常な事が多過ぎて、驚くのにも疲れていた。


「魔王様・・・。」

「将軍、どうされました?」

「なんか凄い疲れたので・・・失礼させていただいても宜しいですか?」

「構いませんよ。」


 額の汗を拭う事なく、よろよろと部屋を出て行く。入れ替わるようにトヒラが入ってきて、精一杯の敬礼をした。


「先程は失礼いたしました!」

「ああ、戻って来たか。」

「ダンダイル様もなんともないようで。」


 先ほどの鼻水と涙をまき散らしながら空から降って来た者と同一人物とは思えないくらい、表情を引き締めている。


「今回の件は太郎君が原因だ、何も気にする事は無い。」

「そ、そうなんですか・・・?」

「太郎ちゃんはどれだけ責任を抱える気なのかしら~?」

「太郎が気にする事じゃないのにね。」

「関わっちゃったら無視するのって、なんか気分が悪いというか、目覚めが悪くなるというか・・・。」

「損な性分ですね。」

「そうだ、魔王様に直接言って良いのか分からないんですけど・・・。」

「いっちゃえ~☆」


 魔女は何とも思っていない。

 もう少し、責任感を持ってもらいたいものだ。


「なんでしょう?」

「村を造成する数日の間だけ城内で預かってもらえませんか?」

「数日間で造る・・・のですか?」

「雨風を凌げれば、その後にゆっくり整えます。」

「普通は村を造るというのだけでも異常なのですが・・・あなたの事なので言った通りにしてしまうんでしょうね。」


 元気に泣き始める子供達をBGMにしても、平然として居られる魔王は、きっと度量の広い人物なのだろう。既に片付けられて、産湯などは無く、今は綺麗な布が部屋の隅に積み上げられている。

 兎獣人の子育ては、乳を飲ませる事と寝かせる事が重要で、清潔さはない。教えれば使うが、元々そんなモノの無い環境で子供を育てているのだから、せめてきれいな水のある場所が望ましい。理想は川だが、池でも良いし、無ければ井戸も掘りたい。


「忙しくなるかな。」


 窓から見る空の一部に赤みが有り、急がねばならない事を示していた。

 見送りに魔王がいるなどという特別な計らいのような状況ではあったが、太郎達を見送った後に思い出した事が有る。


「この大きな穴を埋めて欲しかったですね。」


 トヒラとダンダイルが兵を集め直して埋める事となった。






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