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第181話 面倒を抱える

 生まれた子供達を抱きかかえ、兎獣人の一団をどこへ移動させるのか、太郎ではなくダンダイルが激しく悩んでいた。人数が多いだけではなく、産まれたばかりの子供が10人以上。その殆どが双子なので、全員で40人に達する。


「どこかに安全で良い場所は無いですかね?」

「完全に安全な場所と言われると、なかなか。」

「あの森の中に新しく作っちゃえば?」

「世界樹様、あの森とは?」

「蜂の巣の近く。」

「迷いの森ですか?」

「そうそう、そこ。」

「あそこってワンゴが逃げ込んだ場所だよね?」

「どうせあいつら戻ってこないでしょ。」

「確かにあんな危険な場所に戻って来るとは思えませんな。」

「危険だったらダメじゃない?」

「蜂がいるからその近くなら良いんじゃないの。」


 確かにマナの言う通り、キラービー達とは会話が出来るので、襲わないように言えば襲わないし、偵察範囲も広げてもらえるだろう。それにキラービーは冒険者に恐れられている存在なので、無理して近付こうともしない。

 そのワンゴと言う名前でダンダイルが気になった。少し躊躇ったが、思い切って言ってみる。


「太郎君はさっきの魔法でワンゴを捉えられるのではないのかね?」

「そうなの?」


 いつの間にか消えていたシルバが再び姿を現す。


「可能だと思いますが、そのワンゴは何処にいるのですか?」

「・・・どこ?」


 捜すのも楽なのでは?

 太郎の視線を感じてシルバが応じる。


「捜す事は出来ますが、移動されたり隠れている物を探すのは私でも少し手間です。」

「場所が解れば連れてこれるのですか?」

「太郎様の魔力がかなり減りますし、場所や相手にもよります。ないとは思いますが抵抗されたり拒否されても運べません。」

「なるほど・・・どちらにしても凄い能力ですな。」


 感嘆するダンダイルは、ただそれだけではない理由が隠されている。

 確かに凄すぎる能力だと思う。

 これなら世界中のどこへでも一瞬で行ける。


「移動に制限は無いの?」

「基本的には有りませんが、特殊な結界や特定の場所は無理です。」

「特定の場所?」

「風の届かない場所です。」

「あー、なるほど。」

「魔力もかなり消耗しますので・・・本来は何度も使える魔法ではないのですが。」


 シルバが心配そうに太郎を見ている。

 確かに、水の中に移動されても困る。

 と、考えていると隣の部屋での泣き声が止んだ。

 だが、まだ少し騒がしい。

 騒がしい理由はお湯が足りないようで、太郎は子供を連れて隣の部屋にはいると、いきなり何かの魔法を掛けられた。


「な、なに?」

「魔法で浄化させていただきました。」

「あー、清潔じゃないと困るのか。」


 たくさんの赤子が綺麗な布でくるまれていて、身体を洗いたくてもお湯が無い事で困っている者のところに近づく。


「お湯だすよ。」

「え?」


 太郎が空の桶に魔法でお湯を注ぐ。

 驚いてはいるが、それを触って確かめると、子供の身体をお湯に浸した。


「ちゃんと温めにしてるよ。」

「あ、ありがとうございます・・・。」


 何故か不安そうにしている女性は何度も太郎をチラ見していた。


「ああ、そのお湯は消えないから大丈夫。」

「え・・・え?」

「初めてが太郎君のお湯なんて有る意味贅沢だな。」


 ダンダイルも入室していて、その発言の後にすぐ追い出された。

 汚いとか言う理由ではなく、出産する場所に男が居るのは邪魔なのだ。

 太郎が許された理由は、子供の兎獣人と一緒に居たからである。

 グイグイと圧され、元の部屋に戻されたダンダイルは虚しく呟いた。

 

「・・・あれを全て太郎君に任せるのか・・・なんとも情けない話だ。」


 



 一段落すると、兎獣人達が棺の周りに集まっている。

 そもそも棺に入れるという習慣も無ければ、こんなにじっくりと死んだ者を眺めている事も無い。

 発情していない者達が穴を掘って遺体を埋めるぐらいで、葬式も無ければ別れの寂しさを感じる事も無い。生きている者達は生きる事に必死なのだ。


「ウルクってもっとのんびりしているような感じがしたけど、どことなく何かをしたくて必死だった感じもするんだよな。」

「それは習性じゃないかな。」

「習性?」

「純血の兎獣人と言えば何もしていないのは寝ている時ぐらいで、子育て、畑仕事、性行為、時間が余れば食事をするくらいで、男が足りなくて発情しても相手を見付けられないと、奪う様に混ざるらしい。」

「詳しいですね?」

「魔王国内には何か所か村が有ったという報告を受けた事が有って、生態を調べた事が有るんだが・・・。」

「兎獣人のようなスケベな男にとって、これほど都合のよい種族が純血で生き残れたのが不思議なんだけど。」

「保護するにも、保護しようとする者に発情してしまうし、それなら女性をと思うと男に襲われるんでね、かなり面倒な種族でしたな。」

「でも放置したらすぐ減っちゃうんじゃないの?」

「減ったりしてるはずなんですが・・・いつの間にかどこかに現れるんですよ。戦闘能力が全くない種族だから、襲われたらすぐにいなくなるんでしょうが・・・。」


 ダンダイルが腕を組んで集まっている兎獣人を眺める。


「しかも何を言っているのか分からないのが何とも・・・。」

「言語加護を持つ者でも解らなかったんですか?」

「解っても文字が無いのだ。それに複雑な会話がほとんどできない。」

「ウルクに限らずちゃんと会話できるんですけど。」

「あー・・・言語加護が有るんだったな。でも、それほど複雑な言葉があるのか?」

「普通に出来ますよ。」

「太郎君の言語加護ってどうなっているのだ・・・?」


 それは太郎にも分からない。

 シルバが全ての言語を理解できるというのと同じ理由だと思うが、シルバがどう理解しているのかが分からないからだ。

 考え込んでも解らない事に頭を悩ませるよりも、この兎獣人達を連れてきた責任をとらなければならない。

 一番簡単なのは、マナの提案だろう。

 森の中に新しく村を造ってしまえば良い。

 答えとしてはシンプルだが、実行するとなれば大変だ。


「ダンダイルはいるか?」


 部屋の外から声が聞こえた。

 ダンダイルを呼び捨てにするくらいなのだからそれなりの人物だという事が、太郎には嫌でも分かる。

 ダンダイルが直接ドアを開くと、そこに居たのは将軍級の男だった。


「ゴルルー将軍ではないか、何の用だ?」


 今はそれどころではない。

 と言いたいのを我慢しているような表情だ。


「転移魔法を使った者が居ると聞いてな。」

「部下を使わず自分で来るとは。」

「お前が居るのだから直接来るのが礼儀だろ。」

「まあ・・・そうなんだが、この場所はあんまりお勧めしないな。」

「どういう・・・!」


 ダンダイルの後ろに美女軍団がいる。

 それも子供を抱えている。


「殆ど裸なんだな・・・。」

「スケベな男ねぇ。」

「なんだと!」


 怒鳴りつけようと声の方向に視線を向けると、ダンダイルの頭の上で、器用にしゃがんで座っている少女の姿がある。もちろん下着なんて穿いていない。


「あっ・・・か、か、け・・・。」

「なんでこいつ顔を赤くしてるの?」

「世界樹様、せめて肩に座ってください。」


 言われる通りに座り直し、ダンダイルの頭を肘置きにした。


「ダンダイルはこんな子供にそんな態度で怒らんのか?」

「このお方は世界樹様だ。私程度では頭なんぞ上がらん。」

「じゃあ、コイツが転移魔法を?」

「ちょっと懲らしめて良い?」

「・・・ご自由に。」


 何を言っているのか問いただそうとする前に、靴の裏から草がもわっと伸びてきて男の身体をあっという間に包んだ。


「種を踏みつけて歩くとそうなるのよ。」

「普通は何もならないと思います。」


 その時の太郎は考え事に没頭していて、マナのやっている事を気にも留めない。


「なんだこれは・・・草か、草なのか?」

「あんたねー、相手はちゃんと見ないと良い事ないわよ。」

「世界樹と言えばあの木だろう?」


 報告にも挙がっているので、将軍級ならだれでも知っている。もちろん、燃やされる前からの常識だ。


「こんな子供が?」


 草に包まれても慌てて暴れたりしない。

 風魔法を操って草を切ると直ぐに動けるようになった。


「へー、アンタなかなかやるわね。」

「世界樹様、話がややこしくなるのでその辺りで。」


 ダンダイルに言われたので、仕方がないと言った態度で太郎の方へ移動した。軽すぎて移動してきた事に太郎は気が付かない。


「転移魔法は太郎君の魔法だが、シルヴァニード様によるものだ。」


 これで理解してもらえると思っていないので、太郎を呼ぶ。

 振り向いた太郎が二人を見ても驚く事は無い。

 むしろゴルルーの方が驚いているのだ。


「お前は・・・勝手に城に侵入した上に、態度が悪いな。」

「許可はダンダイルさんから貰ってますよ。」

「ああ、一年くらい前に許可証は出したから問題はない。」

「一般人に許可証を出すほどなのか?」

「太郎君をよく見てみろ。」


 言われて査定するように睨み付ける。

 ものの数秒で汗がダラダラと流れ落ちてきた。


「こんな男が存在するのか・・・。」

「するから困っているんだ。」

「確かに困るな。それに転移魔法を使えるなら、尚更だ。」

「今回は緊急だったんで済みません・・・あ、これでひとつ。」


 スッと取り出したるは樽である。


「話が分かると言いたいところだが、次は通用せんぞ。」


 受け取って中身を見て目が飛び出した。

 小さいとはいえ、両手で持つ程度の大きさの樽の中には、たっぷりの蜂蜜だ。


「こんなモノを簡単に渡すとは・・・。」

「太郎君は蜂蜜の価値を安くしないでくれないかな。」


 と、ダンダイルに釘を刺された。

 咳ばらいをしてから姿勢を整える。

 そして改めて問いただす。


「お前が転移魔法を使ったのか?」

「・・・そうなるみたいですね。」

「転移ではなく瞬間的に移動しているだけです。」

「なんだ・・・声が???」

「あれ、なんでこの人シルバの姿が見えてないの?」

「何を言っているのだ、声は聞こえるが姿は見えんぞ。」

「この人には信仰心ってモノがまるでないようですね。」

「そういうものなの?」

「そういうものです。」


 太郎は何となく納得した。

 その後の詳しい説明はシルバがしていたが、ずっと不思議な顔をして声を聞いていて、話の内容が入ったのかどうかは微妙なところだ。


「そんな簡単に移動できるという事は・・・他にも使える者が居るのか・・・?」

「今のところ存在しないようですけど、ただ移動を早くしているだけなので使えるモノが現れても不思議ではありません。」


 その時、外からもの凄い音が聞こえた。

 ズドーンという音とともに、地面が揺れる。

 将軍の顔色が一気に悪くなった。


「おいおい・・・また何かあったのか。これ以上俺の立場を悪くするような事件が起きたら困る!」


 慌てて出て行くのでダンダイルが追いかけると、そこには大きな穴と、その穴の底に女性がいた。

 女性はむくりと起き上がると数メートル凹んだ底から浮き上がってきて、最初に見知った姿を見付けたので、その者に近寄った。


「またダンダイルの知り合いか?」

「あれは・・・。」


 魔女だと言いかけてやめた。


「太郎ちゃんの魔法を見て使ってみたんだけど失敗したわー。」

「魔法と言うと瞬間移動の?」

「そうなのー・・・膨大な魔力を使う上にコントロールが難しすぎるわー。」

「あんな魔法が簡単に使えても困るんだが?」

「大丈夫、普通に飛んだ方が楽だからねー。」


 無視された方の男がイラっとして問い掛ける。


「お前は何者だ?」


 まずい。

 この者は平気で質問に答える存在だ―――


「なーに?私は魔女よー。」


 ダンダイルは右手の平で額を覆った。

 ぺちんと良い音がしたが、その音はダンダイルの耳にしか入らなかった。






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