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第180話 ウルクの人生 (3)

 突然現れた一団に、場内では小さくない騒ぎになっていた。太郎がココに来るのは初めてではなく、偶然、太郎を見知っている者が慌てて上司に報告へ走っている。

だが太郎の前に現れたのは知り合いではないく、城内警備中の近衛兵だった。


「何者であるか!?」


 太郎の周囲は美女だらけで、しかも服装は下着に近い。隠れているだけマシ程度の者から、お腹が大きくて動きにくい者もいる。一見するとハーレムの団体に見えるが、いきなり現れる理由が分からない。

 ダンダイルに報告はしているが、そのダンダイルはまだ太郎の村に居るのだから、今の状況はただの侵入者になってしまう。


「不審者じゃないですけど・・・どう見ても不審ですよねー・・・。」


 近衛兵の後ろから慌てて現れた人物が話しかけてくる。


「あー、大丈夫だ、その男は俺の知り合いだ。」

「そうなのか・・・?」

「あぁ、問題はない。」


 問題しかない。


「俺が責任を取るからあとは任せてくれ。」


 その声の主は太郎の知っている男だった。


「あー、ルカさんですね。」


 太郎がそう言った事で近衛兵は納得しただろう。

 ルカ・チャチーノは生粋の軍人家系で、国にも軍にも信用のある男だ。その男を親しく呼んだのだから、知り合いではないという事もないだろうと、近衛兵は思っただろう。


「この人はダンダイル閣下の客人なのでな。鄭重に扱わないと困る事になるぞ。」


 余計な事は言わないで欲しい。


「そ、そうか。では後は頼んだ。」


 無理矢理納得させて、近衛兵が立ち去ったところでルカが近寄ってくる。


「事情は説明して貰えますよね?」

「私が説明する。」

「ダンダイル閣下?!」


 姿を探すがどこにもいない。

 それは声だけが聞こえたのだ。

 もちろんシルバの能力で。


「ちょっと事情があってな、彼女達をどこかの部屋に収容して欲しい。」

「閣下の及ぶ範囲で宜しいですね?」

「もちろんそれで構わない。その事についての責任は私がとる。」

「知っていたのでしたら声だけではなく姿を現していただいても。」

「この力は私の能力ではないのでな、全力で城に向かっているが、到着は夜になる。」

「事情が事情だからダンダイルさんも呼び寄せちゃって。」

「わかりました。」


 突然目の前にダンダイルが現れた。

 驚いたのはルカだけではなくダンダイルも驚いている。


「なんだこれは・・・?」

「閣下は瞬間移動が?!」

「シルバの能力です。」

「いえ、太郎様の魔力で可能です。」


 一瞬ではないが少し状況を理解したダンダイルが太郎に質問する。


「あー・・・出発する時に使っていた魔法・・・なのか?」

「正確に言うと俺の魔力を使ってシルバが発動している魔法みたいです。」

「従属しているのだからそれは太郎君の能力だろう。」


 飛行移動中だったのに、強制的に地面の上に立たされていたのだから、ダンダイルとしては何かに負けたような気分にもなる。


「そう・・・なんですかね?」


 ペチペチと頭を叩くマナ。


「周りからすごい注目されてるわよ。」


 野次馬がどんどんと増えていくようで増えていないのは、彼らは兵士であって、任務中に余計なことは出来ないのである。それでも気には成るから視線は向けるし、歩みは遅くなる。


「とりあえず部屋に移動しようか。」


 ダンダイルの言葉で一団は歩いて移動した。





「ダンダイルが転移魔法を使っただと?!」

「はい、良く分からない一団が突然中庭に現れたと思ったら、その後にダンダイル閣下が現れまして。」

「その一団とは?」

「男一人に他は全部女です。」

「・・・は?」


 報告を受けた男はカンガル・ド・ゴルルー将軍で、防衛将軍の立場から国内での大きな事件はこの部署に報告される。今回は城内だが、それなら尚更である。

 或る日、突然ドラゴンが攻めて来たので守れなかった。という言い訳は通用しないのが将軍の立場なのだ。


「良く分からない野盗が縛られた状態で現れたという報告からそれほど時間も経っていないではないか。」


 ダンダイルには報告済みだが、その他の人達は知らない。


「それで、その後にダンダイルからの報告は有ったのか?」

「いえ、まだ。」

「各部署に根回ししてからやって欲しいモノだな。」


 それから数分後、ダンダイルの部下が現れ、事後承諾になった事を謝罪しながら、各部署を放浪している。ついでにこっそりと蜂蜜入りの小樽が渡された事は、受け取った全員が黙っているので、今回は水に流してもらえるようだった。

 事件としてもそれほど重大でもない。

 と、したいところだが一つだけ説明して欲しい事が有った。


「ダンダイルでなければ、転移魔法は誰が使ったのだ?」





 部屋に集められた一団は、トヒラ直属の部下で、女性だけが10人ほど集められ、対応してもらっている。

 何故なら出産しそうな者がいるからだ。

 衛生兵が出動して、部屋の中は慌ただしくなっていく。トヒラは不在で、呼び寄せるという発想は太郎に無かった。


「出血が始まってるわ。」

「兎獣人って・・・こんなに若い頃から妊娠しているの?」

「まだ子供じゃない・・・それなのに。」

「そんな事はどうでも良いから早く清潔な布とお湯を持ってきて!」


 ダンダイルは太郎を連れてこっそりと隣の部屋に逃げた。

 その隣の部屋ではマナとウルクが待っていて、子供達は温かくて甘い蜂蜜ミルクをご機嫌に飲んでいる。


『手伝いたいのです。』

『今行ったら逆に邪魔になりそうだけどね。』

「・・・太郎君?」

「太郎はウルクと会話するとこうなるのよ。」

「彼女はワルジャウ語が話せるのでは?」

「片言だったから、詳しく説明しようとすると元の言葉に戻るのよね。」

「世界樹様は解るんです?」

「さっぱり。」


 シルバが現れて二人に太郎達の会話を説明した。


「太郎君は無茶苦茶過ぎて何も言えないな。」

「いつもすみません。」

「いや、蜂蜜も定期的にもらってるからな。あの村のおかげで兵士達の良い訓練にもなる。鉱山の採掘物もとんでもない事になる筈だしな。利益は大きいから少しぐらいの我儘を受け入れるのも私の仕事みたいなものだ。」

「我儘って酷いわねー。」

「あ、いや、要望ですな。要望。」


 少しダンダイルの本心が見えた気がする。


「それにしても大丈夫なのかね?」


 腕を組んだダンダイルがウルクに視線を向けると、太郎がウルクを抱きかかえた。


「ベッドに。」


 部屋の隅に複数設置してあるベッドの一番隅にウルクを寝かせる。

 その目は虚ろになり、太郎を見て、子供を見詰めて、再び虚ろになる。


「手伝いたいなんて言っても、もう何も出来ないわね。」


 横になったウルクは天井を見詰めていたが、暫くすると太郎に視線を向けた。瞳に溜まった涙がこぼれ落ちる。


『太郎様、ありがとうございます。太郎様が傍に居て、こんなに嬉しいのに、悲しくて、寂しくて・・・。』


 太郎は無言でウルクの頭を撫でる。


『子供達には、太郎様の子供を産ませてやってください。それは私の望みでもあり、子供達も喜ぶでしょう。』

『・・・そういうモノなんだね?』

『太郎様ほど優秀な男の人の子供を産めるのが一番の幸せです。』

『なんか照れるな。でも、子供には自由に相手を選ばせてあげて欲しいな。』

『私が何も言わなくても太郎様を選ぶと思います。』


 言葉を止めて、深呼吸をする。

 いつになく透き通り過ぎた瞳が光の反射で輝く。


『・・・古より伝わるだけの、我々のような者には使われる事のない素敵な言葉が有ります。』

『・・・うん?』


 腕を伸ばして、太郎の手を握る。


『愛しています・・・太郎さ・・・ま・・・。』


 握った手の力が無くなる。


『・・・・・・。』


 力無く瞼が下がるが、見た目にはこれと言った変化はない。流れる涙は止まっているが、スッと起き上がっても何も不思議に思わないほど若々しい姿をしている。

 これが寿命とは、とてもじゃないが、信じられない。


「・・・本当に突然なんだな。」


 死んでいるウルクは、死んでいるというには美しすぎて、太郎はその姿を見詰めた。複雑な想いが混じり、奥歯に力を入れて、声を出さずに泣いた。

 子供達が母親と太郎を交互に見た後、声を出して泣いた。

 大声で泣いた。

 太郎は、母親がそうしたように、子供達を抱きしめる。


「死んじゃったのね。」

「うん・・・。」


 泣きわめいても子供を叱る者はいない。

 叱る理由も無い。

 ただ、静かに抱きしめる。


「俺、ウルクの事を少し敬遠していたんだ。」


 マナもダンダイルも、黙っている。


「ウルクはずっと俺を見ていたんだよな。なんか、それが凄く悪い事をした気分になって・・・。」


 太郎はウルクに対して愛を持って対応した事は無い。愛していた事も無いし、少し気持ちを離して見ていた。それは、愛を感じるほどの接触期間が無かったのも有るが、実はウルクの方も太郎に対して遠慮していたからである。

 同じ条件でナナハルも該当するのだが、ナナハルの場合は愛と言うよりも熱意を感じるし、愛を作り上げるほどの関係も求めてこない。

 そういう意味でスーとマナは特別で、エカテリーナがそこに加われるかどうかはまだ太郎の中でハッキリしていない。

 だからこそ・・・。


「だから最期ぐらい、望みを叶えてやりたかったんだよね。」


 自責の念は有るが、それも正しくないような気がする。ウルクに対してどうすれば正解だったのか、だれにも解らないだろう。

 太郎は複雑すぎる思いに悩まされたが、それを吹き飛ばしたのは赤子の泣き声だった

 隣の部屋で生まれた赤子は元気よく泣いていて、それが次第に増えていく。本来であれば愛の結晶とも呼ばれる赤子ではあるが、愛を感じるほどの関係性を築けていない。


「俺はウルクに対して愛してるなんて言う資格はないからなあ。」

「相手が相手だからねー。」


 マナの言葉にはナナハルの分も含まれている。


「あ、うん、マナありがと・・・。」


 隣の部屋で赤子の大合唱が響く。

 ククルとルルクが泣き止んだが、流石のダンダイルも耳を塞いだ。


「赤子の泣き声は国を繁栄させる礎となる。」

「へー、そうなの?」

「子供は国の宝だからね。」

「太郎君には常識ですな。」


 太郎は眠っているように死んでいるウルクの額に手を当て、静かに見詰める。

 その太郎の頭をマナが撫でていた。







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