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第20話 特訓と休息

 朝はポチと一緒にランニングから始まる。朝昼晩と食事はフーリンさんが作ってくれるので旅に使う予定だった食材関係は渡した。無駄になっても意味ないしね。

 昼食まで魔法の訓練。火と水はかなり使えるようになった。右手に水、左手に炎。合わせるとお湯が出来る。温度調整に苦労したが、今ではこの家の風呂当番になっている。

 夕方まで中庭で剣術訓練。スーは細身の剣を使っての連続攻撃が得意で、間断なく攻め続けてくるが、最近になってやっと避ける事が出来るようになった。最初は剣で受けたり、盾で防いでいたので反撃も出来なかった。当然だが俺の攻撃は一度も当たったことが無い。剣術訓練で使うのは刃の部分が無い模造品で、強度も殆ど無い。


「土魔法を上手く使って武具に薄い膜を張るようにイメージしなさい。」


 これが出来るまでに剣は50本、盾は30個ほど壊した。スーの方も最初は上手く出来なかったみたいだが、俺よりも早く会得していた。この魔法による強度を上げる方法は土魔法でなくても可能らしいが、やはり俺にはイメージ力が足りない。

 マナはその間ぼーっと俺を見ている。とは言え、マナも魔法の訓練をする必要があるらしく、コントロールの重要性を再認識していた。

 ポチはフーリンさんの直接指導の下、敏捷力と攻撃力に磨きがかかった。たまに吹き飛ばされて壁に激突しているけど、すぐに起き上がる。強くなりたいという気持ちだけなら、ポチが向上心でナンバーワンだ。

 訓練をする中庭はなかなか広く、20㎡ほどある。元々は店で売る薬の材料を育てていたが、マナが薬草程度の小さい植物ならほとんどを急成長させてしまうので、畑の半分以上が不要になった。そこにマナの本体である木を植えて、周辺のマナの安定とコントロールをしている。中庭なので外部の目に触れることが無いから安心だ。一部の果樹の苗木を植えているのは、フーリンの許可とマナの希望もあって植える事にした。俺は存在を忘れていたよ。

 毎日を訓練に明け暮れていたら、三ヶ月ほど経過していた。世間一般では秋頃のはずだが、早朝に肌寒いと感じる程度で、それ以上寒くなる事は無かった。


「この辺りは雪なんて降らないのよ。」


 と、フーリンさんに言われた。どうやら赤道に近いんだと思う。そう言ってもこの世界の人には通用しないだろうけど。マナが元々いた場所も雪は降らなかったらしい。

 元の世界から持ってきた果実の中でも梨は人気だった。林檎はポチがお気に入りで、マナが急成長させるから安心して毎日食べる事が出来る。そして美味しい。

 ポチはいつの間にか俺と同じ言葉をしゃべっていた。この家の中なら隠す必要もない。そういう意味ではフーリンさんの存在も外部に漏れたら困るレベルで、スーがたまに叱られているのを見るが、その時の殺気が半端ない。


「世界樹ってなんだ?」


 訓練の休憩中にポチが疑問を投げた。世界樹の存在自体は多くの人に知られているが、500年前の事件以来、知る者は減ってきている。その中でもポチは生まれてから一年未満で、世界樹という言葉を知らないとしても不思議ではない。


「私も気になっていましたが、あの世界樹の事だとしたらここが火の海になっても不思議じゃないですよ?」

「あなた達、気が付いていなかったの・・・?」


 もう言ってもいいよね。俺が説明するとポチとスーは驚いていた。当然だけど、他の人に言っちゃだめな事だ。噂でさえ広まればどうなるかぐらいは想像がつく。


「あの葉っぱ一枚で金貨が何枚にも・・・。」

「スーちゃんはそんなことしたら・・・全裸で女に飢えた冒険者の前に放り出したあと、奴隷商人に二束三文で売られるぐらいの覚悟はしてね。」


 目が笑っていない。恐い、怖い。スーがガタガタと震えた。


「世界樹の葉って、何か特殊な効能が有るんですか?」

「・・・そういう噂が流れた時期が有ったわね。」


 生き返るというデマが流れた時期が有って、マナの木の葉は高額で取引されていたらしい。今でもどこかで売られているらしく、葉っぱ一枚が俺の全財産でも買えない。


「実際は効果が有る人と無い人がいて、その時々でまちまちだったのよ。」

「噂の出処が問題だったんですね。」

「そういうこと。死んだ者に食べさせたら生き返ったとか、それが国王の息子だったとか、どうやったら死んだ者が食べられるのか、ちょっと考えたら解りそうなのに。」

「酔い覚ましに毟られて食べられた思い出が・・・。」

「そんな馬鹿がいるんですかっ?!」

「・・・済みません。その馬鹿の息子です。」


 その日からポチとスーのマナを見る目が変わった。特にスーの方は顕著で、世界樹様、世界樹様、と少しうるさい。親しくなったら葉っぱ一枚ぐらい貰えると思っているのだろう事が良く分かる。鼻歌の間に混じるセリフが本気度を示している。


「葉っぱ一枚あればいい~♪」


 スーは美少女で、道具屋の仕事も問題なく、歩合制なのでたまに外に売りに行ったりして、精力的に働いているが、なんでそんなに高額の商品ばかり持って行くんだろう?売れている日もあるので吃驚(びっくり)する。俺はたまに手伝ったりすることもあって、この店の商品の事は半分ぐらい覚えた。



 剣術の訓練も魔法の特訓も、毎日やっているわけではない。雨で中止の日もあれば、身体を休める日もあり、その日は道具屋も休みにしていた。暇な日な筈なのに、朝も早くからスーが出掛けていく。


「ご機嫌に出掛けていくなあ。」

「まあ、常に負けているわけではないから・・・。」

「負ける?」

「あの娘の悪い趣味ね。以前の一掃作戦でだいぶ減ったはずなんだけど、またちらほら出始めているようね。」

「あー、不正ギャンブルとか言ってましたね。」


 フーリンさんに頼まれて後をこっそりつけていく。気配を感じ取られないようにするのも必要だそうだ。正直気配って解らない。殺気は身体に叩き込まれたのでなんとなく解るけど。

 今日はポチもマナもいない。冒険者としての武器も防具も身に付けていない。完全なるただの町の青年だ。スーの後ろ姿を見失わない様に歩く。この辺りは冒険者ギルドが近いので、人通りも激しく、スーばかり見ていると他の人とぶつかってしまう。スーは猫のようにするすると人混みを抜けていく。そういや猫獣人だったな。建物と建物の隙間のような通路を入っていくのを最後に、見失ってしまった。


「おかしいな・・・確かこの辺りに・・・。」

「誰を探してるんです?」


 バレバレだった。だが、スーは目の前にも後ろにもいない。通路の狭さを利用して壁に両足だけで身体を支えている。真上か!


「ふがっ。」


 スーがそのまま降りてきた。顔に股間を押し付けられる。布越しに決まってるだろ。


「これは後で料金をいただきたいですねぇ。」

「今は持ってないぞ。」

「後でって言ったじゃないですか。あ、もちろんフーリン様には内緒ですよ?」


 地面に立つと、眩しいほどの笑顔を見せた後、俺の腕を掴んで引っ張る。


「折角だし遊びますか。」


 俺の返答など気にせず、裏路地の店に入っていく。そこはカジノだった。いや、ただのギャンブルをする場所なのだろう。店内は意外にも広く、ゲーム別にちゃんと分けられていて、通路となる部分も広い。人もそれほど多くないようだが、考えてみればまだ朝になったばかりの時間だから24時間営業なんだろうか。サイコロを転がして勝負している男達の喚き声が聞こえる。その周りには、ルーレット、ビリヤード、ダーツ。トランプをしている人達もいた。ポーカーやブラックジャックがこの世界にも有るという事か。


「花札もあるのか。」

「太郎さんは花合わせを知っているんですか?」


 花札は知っているがルールは知らない。ついでに言えばこの世界の花札は絵柄も違う。季節ごとに分けてあるのだと思うけど、異世界の一般的な草花なんて知らない。


「店の人が客を相手にするんじゃないんだな。」


 制服らしい制服もなく、バニーガールもいない。カウンターバーのような場所に店の人らしき数人がいるだけだ。店のルールとしては、場所を貸しているだけで、店内で個人が個人を相手に勝負をしているらしい。だからこそインチキも可能なんだろう。

 

「ルーレットなんか親の方が儲かりそうな気がするな。」

「そうなんですよ。人気が有るので時間で区切って貸し切りで、今ももう予約で埋まっているんじゃないですかね。」


 暫くウロウロしていたが、俺は所持金を何も持っていない。荷物はすべてフーリンさんの家の俺とマナの部屋にある。スーに借りてまでやる気は無いので、色々と見て回るスーの後ろをついて歩く。


「今日はダメですねー。」

「やらないのか?」

「ここは時間潰しで来ただけですから、本命は国営ですよ。」


 ああ、なるほど。と、納得しているとスーには別の理由もあるようだ。


「国営の方が一発がデカいんですョ♪」


 ダメだこりゃ。そんな事してれば直ぐにお金が無くなる理由も解る。その国営とやらが開くまでにはまだ時間が有り、いつもこうして時間を潰してから向かうのだという。それなら開く時間に合わせて出掛ければ良いのでは?


 二人で店を出ると何もしていないのに、出口にいつの間にか立っていた男にスーがお金を払っていた。ああ、利用料金か。そしてさっさと歩きだすので慌て追いかける。再び大通りの人混みをすり抜けるように歩くスーを追いかけるのは大変で、休日の歩行者天国のようだ。大通りを曲がり、交差点の先は行き止まりになっているが、とても大きな建物がまるで道を塞いでいるように建っている。多くの人が開かれた門の中へ、更に奥の大きな扉の中へと、吸い込まれるように入っていく。建物の周りや屋上、周囲の壁は、昼間なのに大量の松明が灯されている。


「これがこの王都最大の国営カジノですよ。」


 いつの間にか真横に居たスーが俺の腕にしがみついて、カップルが遊びに行くような雰囲気を作りながらも、吸い込まれる群衆の一部となっていた。









何回もチェックしているんだけどなぜか気が付かない誤字が有る。


なぜだ (´・ω・)`

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