第2話 異世界へ
あんまり重い空気苦手なんです。
俺も異世界連れてって\(^o^)/
マナの木と話をして分かったことといえば、言語が違うのは神さまが何とかしてくれる。衣食住は保証しきれない。住む場所には神さまが転移してくれる。マナの木はすぐに大きく成長はしないだろうから、出来る限り隠して育てる。いくつかの国があり、俺みたいな人間のほかに魔物もいれば、人獣、ドラゴン、魔王や天使もいる。幻想世界らしく魔法もあるが、今の世界のような科学技術はほとんど進んでいない。
「俺も魔法を使えるようになるのか?」
「もともと優秀な一族だったからね、彼の大賢者と言われたスズキタの子孫だし。ある程度の訓練は必要だけど、魔法の場合は才能の方が重要だからねぇ。マナが無ければ魔法の使い方は知っていても、威力はこじんまりとするのよ。」
ちょっと期待した自分がいるのがわかる。魔法なんてゲームの世界でしか見たことがない。ただし、当然の様に人を殺すための技術として発展したので、高位魔法ともなれば小さな村が消滅するくらいの威力になるらしい。戦争の為に利用するとなれば技術が進むのはどこの世界でも同じというわけだ。悲しいことだ。
「あんまり変なものじゃなければこの世界のものを持ち込んでもいいわ。薬とか機械関係は困るけど、衣服や食べ物は、最初に用意できないと困るしねー。携帯電話なんか持ち込んでもどうせ使えないでしょうけど。」
この世界の様に電気を使うものはなく、代わりにマナを利用することが多いとのことなので、家電製品は持って行かないことにした。それでも持って行きたいものはそれなりにある。
「通貨はどうなっているんだ?」
「500年前と変わってなければ金貨が主流ね、20gぐらいの丸い金貨ってあるでしょ?あんな感じだけど、どこの国で発行したかわかる程度の刻印ぐらいしかないわ。この世界みたいな紙幣はないのよ。偽紙幣が横行して国が潰れたことがあって以来、どこの国も紙幣を発行するのを止めたわ。あとは銀貨と銅貨ね。ただ、銅貨の価値が低すぎて、この世界の1円ぐらいの価値しかないわ。」
「この世界の金をそのまま持って行っても使えるか?」
「うん、大丈夫よ。混じり気のないちゃんとした金なら扱ってくれるわ。」
「ふむ・・・。じゃああとは・・・食べ物関係だな。調味料とかどうなってる?」
「こっちでいう香辛料とか、あることはあるけどすごく高価よ。何せ戦争ばっかりしてたから農業関係は衰退しているし、育てやすいものを大量に作っているわね。家畜も育てるのがすごく大変だから、魔物の肉を食べることが多いみたい。」
「魔物を食べるのか・・・。」
「食べさせてもらったことあるけど結構おいしいわよ。ただ、この世界の食べ物は口にしたことがないから比較はできないわね。」
見た目は子供でも、流石は8000年を異世界にいただけあって色々と詳しい。こっちの世界でも500年いるわけだから、そこらのじーさんよりよっぽどこの世界を知っている。感心した目で子供の姿のマナの木を見ていると、にっこりとほほ笑んで言った。
「あっちの世界にはこの世界ほどしっかりした法律はないけど、むやみやたらに人を殺したりしちゃだめよ?」
「そんなことするわけないだろ。」
「・・・いくら性欲を満たすためだからといって女の人を襲ってもダメよ、あのゲームみたいに。」
エロゲがある。そうか、全部知っているといっていた。あんなことやこんなことをしていたのも見られていたのか・・・。俺は急に無口になった。そう、あのころのように。
「・・・まあ、それはその時に考えるとして・・・。種とか大丈夫か?」
「この世界の植物は品種改良が進んでいるだけで、同じ種類のものがあるから問題ないわ。農業でも始めるの?」
「農業は面倒だからあんまりやりたくないけど、ある程度はないと困るだろ。必ずしも魔物と戦って勝てるわけじゃないんだから。どのくらい強いのかもわからないし、口頭じゃ限度あるだろ?」
「そうね。」
しばらく無言で考え込む。
「そうだ、時間とか暦とか使えるのか?」
「全く同じだから使えるわよ。言い方が違うだけね。1月とか2月がないから太郎がこの世界の日時を使っても伝わらないだけだから。」
「ゼンマイなら時計使えるか。」
「今時あるの?」
「アンティークショップで探してくるわ。流石に武器とかは買えないけど、ナイフぐらいならあるなあ。サバイバルセットも持ち込むか。・・・あ、最後に重要なことがあった。」
「なに?」
「結構な量でも大丈夫かな。」
「それならこの部屋ごと転移するから、この部屋の中に入るぐらいなら大丈夫。」
「そっか、じゃあ色々集めないとな。」
会社へは両親が危篤ですぐに行かねばならないというウソの辞表を出し、2週間ほどかけてじっくりと必要な物を揃えた。金は延べ棒の状態で1kgも買えた。自分でも吃驚で、持ち帰るときにドキドキした。植物の苗木もある程度の種類を集めたが、ちゃんと育つのか、風土に合うのかを心配したが、マナの木のそばなら問題ないということで部屋にびっしりと詰めた。最初はひっそりと育てなければならないのでテントや寝袋も必須だ。流石に借金してまで集めようとは思わなかったので、貯金が無くなるまで買い物をし、保存食やインスタント食品も買い集めると、さながら避難準備の様にも見える。服に靴に帽子、同じ物をいくつか買いそろえ、いよいよ出発の日となった―――
「しかし、良くもまあ、これだけ並べたわね。」
「大丈夫なんだろ?これで異世界に行けないとか言われると悲しいを通り越して虚しいんだが。」
「へーき、へーき。」
玄関のドアの内側に、”探さないでください”と張り紙をしてある。電化製品や家具は無造作に別の部屋に置いてあり、小さいテーブルの上に”使える物なので自由に使ってください”と、置き紙もある。水道とガスの元栓も閉め、電気のブレーカーも落としたのを確認すると、マナの木がいよいよといった表情に変わる。
「・・・・・・・・・。」
小声で何かを呟いている。何を言っているかは聞き取れなかったが、急に視界が暗転した。気が付くと、そこは俺の荷物の他には何もない白い空間だった。
「おおおお・・・。」
思わず声が出る。しかし周りには誰もいない・・・マナの木は、効果音が鳴っているんじゃないかと思うような歩き方で、俺から離れていく。
「かみさまー、かえってきたわよー。」
「お、おぉ。帰ってきたか。いつもすまんのう。」
「それは言わない約束でしょ。」
どこかで聞いたことのあるような会話を耳にしたが、その”神さま”とやらの姿は見えない。二人?は500年ぶりの再会で何やら話をしているようだが、俺についてのことも言っているようだ。
「ふむ・・・。まあ、あのスズキタ一族の子孫なら問題ない。もともとマナの木の管理を任せていたしな。」
「太郎は意外とマナの素質ありそうよ。500年間では一番じゃないかしら。」
「それほどなのか、あの若者・・・若者じゃないな。」
「若くは見えるけど38歳よ。」
「なんと、50年程度しか生きられない人間なのに大丈夫なのか?」
「何の問題もなければ100歳ぐらいまで生きると思うわよ。ただ労働力にはならないからそのあたりは神さまが何とかしてくれるんでしょ。」
「わしの我儘もあるし、約束したことだから、それは仕方ないのぅ。」
マナの木が俺を見る。だが声は別だ。
「鈴木太郎君だな。すまないな、マナの木がないと世界が崩壊するからちょっと手伝ってくれ。」
「え?混乱する程度じゃなくて崩壊するんですか・・・。」
「マナの木は別名”世界樹の木”とも言って、この世界のマナの安定とすべての植物の頂点にある唯一無二の木で、戦争による飢餓で奪い合いになって、破壊される寸前でわしが別世界への転移を認めたんじゃが・・・。」
代わってマナの木が喋る。
「500年の間に飢餓が進んで、生物が減った所為である意味安定してるんだって。」
「え・・・俺が来た意味は?」
「結局、私がいないと世界は荒れた大地になっちゃうから、しばらくはどこか見つかりにくい場所で育ててもらうことに変わりはないわ。」
どこにいるのかよくわからない神さまの声がする。
「それにしてもすごい荷物だな。これ全部持ち込むのか?」
「それくらい飲み込んでくれるでしょ?」
「まぁ、いいか・・・。」
僅かに無言の時間が過ぎた後、ぼんやりと神さまの姿が見えてきた。俺と変わらない普通の人間のようにも見えるが、はっきりしない。そしてどこから取り出したのか、俺が見るにサンタクロースが持ち歩いているような大きな袋を俺に渡す。
「見ての通りの袋だが、容量は無制限だ。ただし太郎君にしか扱えない。この袋の口に入る大きさのものなら何でも入るし、取り出すときも欲しい物を想像して手を入れれば簡単に取り出せる。食べ物を入れてもいいが腐りにくいだけで、腐らないわけではないから長期保管はおすすめしない。」
受け取った俺は不思議な表情で袋の口を開いて中を覗いて見ている。
「・・・ところで、どこに転移したらいいのかね?」
それについてはある程度の考えがあったので、自分なりの意見を言うことにした。
「木を育ててばれ難いと言うのでしたら森の近くがいいと思います。あまり森の奥だと何が生息しているかわからないから、ある程度の視界が確保できて、川が遠くないくらいの距離にあるといいですね。村か町が遠くなく近くもない距離にあればもっといいですけど。」
「島はダメかね?」
「そこそこの大きさと水が確保できるなら島でもいいですけど、せっかく異世界に来たんだから、多少は異世界の人と交流もしてみたいです。」
話をしているうちに、神さまの姿はかなりはっきりと見えるようになってきた。ただ、男か女かはまだわからない。男性のような気もするが・・・そういう喋り方の女性かもしれない。
「まあ、太郎君にとっては元の世界に戻ってきたという感覚はないから、それはいいとしよう。言語についてもある程度太郎君の世界と感覚は変わらないようにしておく。そっちの世界のことは詳しくないが、太郎君にとってそう聞こえていて、そう喋っていれば通じる状態であれば問題ない。ちょっとイレギュラーな存在になってしまうが、もっと変な連中もいるし、この世界に溶け込めるだろう。あ、あと袋の中にわしからのプレゼントがある。武器と防具も入れておいた。太郎君以外には扱えないようにしてあるから、お金に困っても売ったりしないように頼むよ。」
「・・・お金をいただくわけには?」
「すまんが、金は持っていないんだ。その代わりに役に立つ道具で勘弁してほしい。あとは、少し若返らせておこう。すぐに死んでしまっても困るから病気やケガがしにくい身体に・・・。」
わずかに俺の身体が光を放ったような気がした。
「じゃあ、あとは森があって川があって村か町が遠くない場所のところだな。そんな都合のいい場所あったかな・・・。」
神さまが何やら思案している間に、マナの木と俺は袋の中に道具を詰めている。本当にとんでもない袋だ。水18リットルのポリタンクが5個入っても袋の重さは変わらない。面白くなってポンポンと詰め込んでいく。流石にベッドは入らないので分解した。
時間的にどのくらい経過したのかわからないが、詰め込み作業が終わって袋と俺と、マナの木と神さまだけになった。
「それでは次にわしに会えるとしても1000年後ぐらいだろうから、マナの木を頼んだぞ。」
「俺は1000年も生きられないはずですけど。」
「太郎君の子孫かもしれん。」
「あー・・・、結婚できるかなぁ?」
変なところで不安になるが、これからの方をもっと不安になった方がいいと、気持ちを切り替える。
「では、またの。」
「またねー。」
マナの木が手を振ったので俺は軽く手を挙げると、白い空間が消える。次に視界に広がるところは森の手前にある小川と少し広い草原のような場所だった。