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第170話 果樹園

 村での食糧事情を確認した魔王が、伝説の蜂蜜を食べながら話を聞いている。太郎の出したお湯で風呂も楽しんだ後で、子供達も魔王に懐いてしまって困っている。


「あいつって本当に魔王なのか?」


 グリフォンの疑問に力強く頷いたのはスーとオリビアで、時間を気にしているダンダイルとは対照的に、魔王はとても楽しそうだ。


「世界樹様の魔法は凄いですね。それにトレントが人型とは。」

「トレントは珍しいって話なので育てていただけるんでしたらナナハルの所にも有りますよ。」


 厳密に言うと妹のツクモの棲み処なのだが、太郎の中ではまだナナハルの家だ。


「実が成っておるから増やせるじゃろうな。」


 普通は芽が出るだけでもかなり大変との事だ。


「太郎様じゃないと苗木にできないのでは?」

「・・・うむ、そうじゃな。ツクモよ、ちょっと行って取ってくるのじゃ。」

「えーっ・・・。」

「行くのじゃ。」


 圧が凄い。


「実か種を持って来れば良いのよね?」

「そうじゃ。」


 凄く嫌そうな表情で、ブツブツ言いながら食堂を出て行った。何しろここ何日もずーっと食べて寝て食べて寝てを繰り返していたから、姉としては身体を動かす事を忘れないでほしいという意思表示らしい。


「なんか申し訳ない事をしましたね。」

「魔王が気にするような事では無いぞ。」

「流石に数時間かかるのでは?」


 往復に考える時間を考えれば、戻ってきたころには既に魔王がいないと考えるのが普通かもしれない。

 しかし、九尾と魔王が会話していて、その魔王の為に九尾の妹にお使いを頼んでいるというのだから、ダンダイルが魔王の頃では考えられないような状況だ。


「んー、まぁ・・・その時は届けさせるので問題ない。」

「少し可哀想な気がしないでもない。」

「それは気の所為じゃろ。」


 妹に厳しい姉だ。


「じゃあ世界樹の苗木も城に植えてもらうの、有りですかね?」

「いいですよ。」


 なんともあっさり。


「準備してきますね。」


 太郎が席を立つとなぜか魔王も立つ。


「ご一緒に。」

「どうぞ、どうぞ。」


 太郎が移動しているからではなく、魔王が移動している所為だと思う。ぞろぞろと皆ついて来るのだ。凄く気になる。


「凄く気になりますね。」

「え?」

「世界樹がこんなに並んでいると・・・特別感が無くなってしまうのではないかと。」

「その特別感が危うさも生むんですよ。」

「なるほど、確かに。」


 この世に一つしかないから大切にもするし、狙われもする。沢山あれば、誰も気にしなくなる。人の価値観なんてそんなもんだ。


「じゃあこれを。」


 太郎が土魔法でスコップを生成する。これは創造魔法で作ったのではなく普通の土魔法だ。イメージし易い物なら土魔法で作れるが、何故か未だにゴーレムは作れない。

 マリアに言わせると、何かが足りないけどうまく説明できないそうだ。

 エルフ達に作って貰った植木鉢に苗木を植えなおして魔王に渡す。


「私の分身みたいなものだから大切にしてね。」

「はい。」


 周囲をふわふわと飛んでいるのは、トレントの花の蜜を集めているキラービー。もちろん一匹ではない。周囲に人が居ても気にする事は無く、周囲の男達も気にする事が無く、アレが雄殺しと呼ばれているとは思えない。


「トレントの花って綺麗なんですね。」

「それはもっと近くで言ってあげるとあいつも喜ぶわね。」


 魔王はきょとんとしている。


「木なんだけど、言葉は解るみたいです。」

「そのうち、うどんみたいのがもう一人増えるかもね。」


 それは嫌だが、だからと言って肥料を不平等にするつもりはない。動けるトレントは自ら残飯処理をやっているので、それだけでも差が出る。

 うどんとマナはなんでも体内に吸収する事でマナに変換、いわゆる消化しているのだが、石でも平気で食べるので子供には見せたくない光景だ。

 もう見せたって?

 ですよねー。


「このトレントが実を付けれるならわざわざ取りに行く必要も無かったんですけど。」

「花が咲くならいずれは実も出来るのでは?」

「たぶんねー。」


 マナと魔王と太郎がトレントをじーっと見詰める。

 何か忘れている気がするんだけど、思い出せない。


「なんで恥ずかしそうにしてるんだ・・・。」

「何も変わっていませんけど?」

「あ、いや、何でもないデス。」


 キラービーが蜜を集めている。

 あっちに飛んで、こっちに飛んで・・・実が出来るのでは?

 トレントの枝が揺れる。


「忘れてるかもしれないですけど・・・ココに来た時からできますよー。」

「え?!」

「はいどうぞー・・・。」


 再び枝が揺れると実が落ちてきた。

 ひゅー・・・すとん。


「手に入ったんだけど・・・。」

「あの時食べたのと同じ実ですねー。」

「これで行く意味が完全に無くなったわね。」

「・・・そうじゃのう。」


 もう妹の姿は見えない。


「これ食べて種だけ出せばいいのよね?」

「うん。」

「トレントの実なんて・・・初めてみました。」


 魔王様がドキドキしている。


「たべる?」

「いいんですか?」

「いいわよ。」


 マナが渡すと、そのまま魔王がガブリとかぶりつく。

 シャクシャクとした咀嚼音が聞こえる。


「瑞々しくて美味しいですね。」

「種を頂けますか?」


 魔王は視線を気にする事も無く、綺麗に実を食べ終えて、種だけを残した。


「はい。」


 ダンダイルが溜息を吐いてから説明する。


「実が一つしかないのに全部食べてしまうのはどうかと。」

「あ・・・つい。」

「一つできたんならまたできるから気にしなくて良いですよ。」

「・・・気にしてください。」


 ダンダイルの言葉使いが妙に怖い。

 受け取った種はその場で地面に埋める。

 何処からともなく現れたうどんに頼むと、直ぐに「ぽんっ!」と芽が出た。

 小さな鉢に移して、改めて魔王に渡す。


「こんな簡単にトレントが手に入るなんて・・・信じられない場所ですね。」

「この村の存在自体が不思議過ぎますからなー。」


 魔王とダンダイルがしみじみと呟いている。


「・・・と、それよりもそろそろ戻りませんと。」

「もうですか?」

「夕刻までに戻られないと、会議に間に合いません。」

「仕方ないですね。」


 フーリンの飛行速度ならあっという間に到着するらしい。

 という事はフーリンさんの背に乗って移動するのかー、羨ましい。


「慌ただしくて済みません。また暇を見付けたら来ます。」

「何時でもどうぞ。」

「今度は何か用意しますね。」

「そんな気を使わなくても。」

「あ、あと・・・。」


 魔王が太郎の耳元に近づいて、小声で言った。


「ダンダイルさんを助けて頂いたのは感謝しますが、あまり使わないで下さいね。」

「へ?」

「ダンダイルさんが必要なのは私も同じなんですよ。」

「・・・。」


 周囲の視線が集まると魔王は太郎から離れた。


「では失礼します。」


 魔王とダンダイルが真っ直ぐに上昇して、空の彼方へと飛んで行く。

 あの空ではすでにフーリンさんがドラゴンに成って待っているらしい。

 気に成る・・・。


「太郎はあいつと何の話したの?」


 マナは太郎の頭の上に居たのに、全く聞こえなかったという。


「結界魔法の一種よ。」


 マリアが教えてくれた。太郎にだけ聞こえるよいに小さな結界を張っていたらしい。なるほど、そういう使い方も有るのか。


「そーいえば・・・忘れてたけどトレントって実が作れたんだったな。」

「うどんばかり見てたから忘れてたわね。」

「でも、花は咲かなかったよね?」

「マナが溜まれば咲きますー・・・。」


 トレントの声が響く。


「そうなんだ・・・。」

「花を咲かせる方が大変なんですよー・・・。」


 とても良く分からない不思議な木だ。

 マナの方が分かり易いかもしれない。


「そんなー・・・。」

「てか、その声ってみんなに聞こえてるよね?」

「聞こえてるわよ。」

「聞こえてますー。」


 と、周囲の者も頷く。


「うどんも知ってた?」

「訊かれなかったので。」

「確かに訊かなかったな。うん、俺が悪いです・・・。」


 そして気が付く。


「ナナハルさん、知ってて黙ってましたね?」

「・・・あいつが怠けるんでな。」

「・・・まあ、せっかくだし、果樹園と一緒にトレントも増やすかー。」

「ふむ。手伝うぞ。」


 早速みんなで果樹園用の土地に、リンゴとミカンの種を植える。クルミも有ったな。一緒にトレントの種も植える。


「梨や柿も欲しいなあ。」

「梨は知らぬが柿の種なら手に入るぞ。」

「じゃあ、頼もうかな。」

「妹に取りに行かせよう。」

「あ、そうだね。」


 もう、だまされないぞ。





 種を一列に等間隔で、大きく成った時の事を考えて広めに間を開ける。


「芽はすぐ出るよね?」

「はい。」


 子供達と並んで種を埋めていく。

 うどんの能力で芽が出ると、ニョキニョキと伸びてゆく。流石にトレントの種は直ぐに伸びない。そこは太郎の魔力が必要になる。


「マナ、ちょっと待って。」


 ぐんぐんと伸びるリンゴとミカン。

 既に太郎の背丈を超えて育っていて、葉が覆い繁り、つぼみが出来た。


「りんご食べたいんだけど?」

「この花がいっぱい咲いてる状態にして欲しいんだけど。」


 リンゴの花とミカンの花が咲いている。

 リンゴの花って意外と繊細で綺麗だな。桜と似ている気もする。

 うーん。

 サクランボ食べたい。


「クルミは植えんのか?」

「クルミは1本で良いかな・・・。」


 あの時の悪夢がよみがえる。

 ボトボトと落ち続けるクルミの木。

 エルフ達は何かに期待している者も居るが、太郎と同じ記憶を思い出しでゲンナリしていた。


「あー、きたきた。」


 ブーーンと飛んで来たキラービーの群れ。

 全部が太郎の前に集まってくる。


「見慣れたとはいえ、なんとも凄い光景じゃのう。」

「アレが全て宝の山に変わると思うと感動的ですー。」

「お主の感性にはついていけんわ。」


 太郎とキラービーが何やら会話をしている。

 暫くすると、キラービーがミカンとリンゴの花に群がる。


「太郎よ、なんとしたのじゃ?」

「あー、花の蜜を集めた時に混ぜないで、リンゴならリンゴだけ、ミカンならミカンだけ、、トレントの花も、竜血樹の花も、って、別々にして欲しいって頼んだんだ。」

「ほぅ・・・。」

「ただ甘いだけじゃなくて、リンゴの香りや味のする蜂蜜になるんだよ。」

「へーっ。」

「私の花が咲いたら私の味のする密になるのかな?」

「マナ様の蜜って言うとそれだけで・・・。」

「卑猥じゃな。」

「私の蜜は太郎にしか飲ませてないからね!」


 それが卑猥なんですよ、マナさん。






 

 

 

「果樹園って言うほど広くはないわね?」

「たくさん植えるより種類が多い方が良いからなあ・・・」

「だいたいマナ様の所為なんですよねー・・・」

「ただいまー・・・って・・・あれ?」

「チョット柿の種を持ってくるのじゃ」

「えーっ・・・今戻って来たばかりだしー・・・」

「行くのじゃ」

「・・・・・・」

「さすがにちょっと可哀想かな?」

「気の所為なのじゃ!」

「うー・・・」

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