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第167話 近況まとめ (2)

 遂に完成した宿舎。兵士達は完成を喜んでいる。

 兵士達はこの建築が始まる前の、あの日を思い出している。




 建築資材は有っても建築技術は低く、エルフ達の協力が必須だったから、自分達で出来る限界を極めるべく、意地と根性で作業は続けられていた。

 当然、意地と根性で完成する筈も無く、誰かの手を借りる事にしたのだが・・・。


「設計図と言うか、アイデアくらいなら頼ればいいんじゃないの?」

「そうおっしゃいますが、なかなかアイデアが。」

「集合住宅で良いじゃん。」

「集合住宅?」


 太郎は木の棒を使って土を削り、地面に簡単な絵を描く。


「四角って言うか、長方形に作ってさ、これを基準に同じモノを何個も作って並べればいいんだよ。」

「そうすると資材がたくさん必要になりませんか?」


 太郎が大変にならないか、と暗に言っている。


「資材は溢れるほど有るし、時間も有るんなら一人一部屋だって出来るよ?」


 兵士達の夢ともいえる、一人一部屋。

 上官でも二人部屋だというのに、ここでなら最下級の兵士でも一人一部屋が可能だ。それは自分達で作るのだから誰にも文句を言われる筋合いでも・・・有るのが困る。

 早速、ダンダイルに申請すると、許可があっさりおりた。

 あっさり過ぎて逆に吃驚する。

 理由は簡単だった。


「可能ならかまわないぞ。」


 元々特別な任務地であり、周囲も特別な環境であるから、兵士達がそれで満足してくれるのなら、ダンダイルとしては儲けものであるのだから。


「やりましたね、隊長!」

「うむ。まぁ、俺は元々一部屋だから・・・もう少し広くしてもらおうかな。」

「それは自分でやってください。」

「ちっ・・・。」


 一人の要望を無視して作業は始まる。





 それから約二ヶ月、完成したのはまだ半分以下だが、庶民的なアパートで、完全なプライベート空間が得られるという事も有って兵士達は浮かれていた。もちろん、浮かれて良いだけの苦労も伴ったのだから、カールだけではなく、ダンダイルも兵士達を労う事となった。

 完成記念のパーティはカール主催で、宿舎前の広場で行われたが、その事前準備で魔物狩りに出かけて、ケガ人が出てしまったのが残念だった。 

 太郎達もパーティに協力し、この村では初めてとも言えるほどの大規模なお祭り騒ぎになった。完成した建物はエルフ達からすれば芸術の点で劣るという評価だったが、建築効率と居住性には文句をつける事が出来なかった。


「あの効率性はなかなか良いな。」

「銀髪の志士に褒めて貰えるとは光栄だな。」


 ワインを飲みながら占拠したテーブルの上には二人分とは思えないほどの肉料理が載せられていて、骨付き肉を手づかみで食べていた。


「それに、味付けや配膳まで手伝ってもらってすまない、遠慮しないで食べてくれ。」


 何故かこのテーブルには二人しかおらず、アルコールが振舞われた事で兵士達は飲みまくっている。それはエルフ達も同様で、ココまで大騒ぎするのなら全部出しちゃえと、商人達から買ったワイン樽をすべて放出していた。

 それでも全員で飲めば一晩で無くなる程度しかなかったのは非常に残念だった。無理に呑みたい訳でも無いから太郎にとってはどうでも良い事なのだが。


「こんなに賑やかなんて、良いわねー。」


 魔女であるマリアもワインを持って眺めている。


「ダンダイルちゃんは飲まないのー?」


 ついに魔女にまで「ちゃん」付けで呼ばれるようになった元魔王は、まだ一口も飲んでいない。

 隣ではフーリンが困り顔で立っていて、お婆様が飲み過ぎない様に監視している。


「名前だけの主催だが、やるからにはシラフの者もおらんと困るでしょう。」

「呑んでもそれほど酔わないでしょー?」

「そんな事は無いですぞ。」

「ダンダイルちゃんって呑んでるイメージないわね。どちらかと言うと仕事の虫って感じだったし。」

「それが嫌で魔王辞めたんですけど・・・。」


 やはり複雑な思いが有るらしい。

 太郎はスーとエカテリーナを左右に、頭にマナを乗せてやってきた。遅れて来たのは子供達と風呂に入っていたからで、子供達と母親も一緒に来ていた。


「賑やかじゃのう。」

「そうですねぇ・・・。」


 緊張しているのはウルクで、ナナハルの妹は目を輝かせながら食べ物に突撃していった。子供達が真似するからやめて欲しい。

 ポチやチーズとその子供達は、パーティに参加しておらず、グリフォンはさらに遅れてやってきたが、こちらは寝ていただけだ。

 そこへ兵士が近寄ってきて、案内すると言ってきた。


「太郎殿、席はあちらに用意してありますので。」

「あっち?」


 既にカールとオリビアがいるテーブルで、料理はほとんど減っていない。太郎達全員が座れるほど大きなテーブルではないので、自然と子供達は別のテーブルへ座る。

 ちょっと待って、なんで酒が置いてあるの。


「よいか、酒ぐらい呑めぬようでは一人前とは言えぬ。敵を呑み干してこその強者じゃ。呑まれるでないぞ。」

「はーい!」


 子供に何を教えてるんだあの母親は。ウルクの方も何か教えようとしているが、発情したら一人前と言うのは教えなくて良いから、ね?

 ね!

 カールがやってきた太郎に気が付いて立ち上がると、オリビアも立つ。


「太郎殿、来ていただけてありがとうございます。」

「なんか妙に緊張感が有るけど、なんで?」

「一応、立場的な問題なので気にしないで下さい。」


 めんどくさいからココではそういうことして欲しくないんだよなあ。

 とは、何度も伝えてるけどそういう訳にもいかないのも知っているから、半分諦めている。


「それにしてもお祭り騒ぎだね。」

「これ美味しいわね。」

「エルフ達との仲の悪さもこれで少しは解消してもらえると助かるんですけどね。」

「それは私の作ったのです。」

「そんなに仲が悪かったんだ?」

「ワインもっと買えばよかったですかねー?」

「男同士だといがみ合ったりしてる事も有るのです。」

「それちょうだい!」

「エルフの女性が美人揃いで、兵士共が浮かれてしまって。」

「ナナハルさんにワインを樽ごと奪われましたー!」


 会話がめちゃくちゃだ。

 それでもみんな楽しそうだから良いか。

 特にエカテリーナがみんなと一緒に食事しているのは珍しい。


「エルフとうまくいかない心配が有るんですか?」

「ある。」

「ある。」


 オリビアとカールが太郎を見て同じ語句を向ける。


「酒で少しは仲良くなれると良いんだが、基本的に女性の殆どは夫がいるからな。」


 エルフ達は山奥に隠れて生活していたから、ほぼほぼあぶれる事なく、美男美女だらけで、兵士達でエルフの美貌に勝てる者は少ない。更に言うと単体の戦闘能力はエルフが上だから、兵士達では恋のライバルにも成れない。

 その中でも僅かに仲良くなった兵士もいるが、結婚とまではなかなか行かず、条件に強さを求められたりすると困難を極める。


「兵士にも女性はいないんですか?」

「上官に女性がいただろ。」


 トヒラの事だ。


「だが、こんな山奥に来たがる女性などおらん。とくに、長期遠征だからな。設備がココまで整っている事が伝われば来る者も現れるかもしれないが。」

「私みたいな女性ばかりじゃないですからねー。」


 スーがエッヘンとしている。

 そこ自慢するトコなんだ?


「この兵舎をもっと増やせば女性兵士も来るでしょう。」

「もっと頑張って貰わんとなあ・・・。」


 と、カールは遠くにいるダンダイルに気が付かれないように視線を向けた。当然の様に気が付かれたが、ダンダイルはあえて無視する。

 そのダンダイルがいるおかげなのか、ワイワイガヤガヤと賑やかと言うよりは騒がしいぐらいだが、喧嘩は無かった。

 パーティは楽しいまま終わって、呑み過ぎた者達がその場で寝ていて、片付けるのに苦労したのは言うまでもない。

 そしてほんの僅かだが、エルフと兵士とのカップルが成立していて、効果が有った事を一番喜んでいるのがカールだったのは誰も知らない。




 魔女は今日も子供達に魔法を教えている。

 子供達は良い素質を持っているらしく、教わる魔法を次々と覚えていくが、覚えただけでは暴走してしまう為、マナのコントロールを重点的に実技指導を行っていた。


「二人が付いて来れるのは少し不思議なのよねー。」


 ククルとルルクは双子の女の子で、魔法に関しての才能が普通の兎獣人に比べるとはるかに高い。それでも九尾の子供達には及ぶはずも無く、覚えた魔法の威力もコジンマリとしていた。元々のマナが少ないのだから仕方がない。


「防御魔法の方が良いかしらねー?」


 実技指導を見学していたのはフーリンとダンダイルとナナハルで、何故か太郎とマナとグリフォンは子供達と一緒に実技の訓練をしていた。

 太郎もマナもグリフォンも問題なく熟していく中で、やはりククルとルルクは遅れていた。


「魔女から魔法を教わるとはのう・・・。」

「お婆様は教えるのが上手いので。」

「太郎君をこれ以上強くされると立場が危ないのだが。」

「ダンダイルちゃんの立場なんて欲しがらないから大丈夫よ。」

「それはそれで悲しいですな。」


 マリアの指導は的確でいて親切丁寧。とにかく出来るまで待っていてくれる。失敗しても怒らないし、教育的指導などといった暴力もない。


「防御魔法は子供達もマスターしているから、その先かしらねー?」

「防御魔法より上って何です?」

「結界魔法かしらー?」


 教える側が思いだしているようでなんだか不安になる。


「結界魔法って防御と違うような。」

「そんなことないわー・・・だって、結果的に同じ効果が得られればいい訳だからー、魔法を防ぐ結界を作ればそれは防御なのよー。」

「確かに。」

「結界のイメージは跳ね返すとか弾くとか言うイメージとちょっと違ってー、受け付けないとかー抵抗するとかー、通さないと言った感じでー。」


 違いが難しいな。


「結界魔法が極められると便利よー。」


 俺からしたら魔法自体が便利なのですが。


「例えばー、特定の人だけしか開けられない宝箱とかー、特定の条件でしか開かない扉とかー、全てを拒否するんじゃなくてー、特定の人だけを守る時にも必要ねー。」

「あー、スズキタ一族しか開かない扉みたいな?」

「もちろん可能よー。」

「それを使えば魔法も無効化できるという奴ですな?」

「結界の中だけねー。」

「それってかなり強くない?」

「強いけどー・・・魔物避けとかに使うぐらいじゃないかしらー?」


 ダンダイルとしては遠征する兵士達を守れるのならこれほど素晴らしい魔法はない。


「教えてあげられるけどー?」


 子供達も合わせて教わる事になったが、イメージ通りにならず難しい。あのダンダイルが苦労しているようで、防御魔法と結界魔法の効果は似ていても別物という事が良く分かる。子供達は誰も成功せずに終わって、最初に成功したのがナナハルだった。


「ほう・・・これは便利じゃのう。雨の日に傘がいらぬ。」


 そんな事に高度な魔法は使わないと思うんだけど、実験に俺の水魔法で試すのは何でなの。


「でーきたっ!」


 マナも出来たようだ。

 それを見ていた俺も何故か出来てしまった。


「これってやり方次第で応用の幅が広いね。」

「太郎君が出来てるのに何で私が・・・うっ・・・ぐっ。」

「我も無理だぁ・・・。」


 グリフォンの場合は何か違うモノに結界が掛かっているようで、成功しているのだが魔女から言うには失敗と同じとの事。

 そして一番吃驚したのは・・・。


「防御魔法の概念が強過ぎて上手くいきませんなあ。」

「あなた達は自分に自信があり過ぎて必要無いから、そういうイメージが弱いかもねー。」

「なるほど。」


 納得したようでかなり凹んでいる。

 元魔王としての矜持も邪魔しているのかもしれないが、フーリンとダンダイルとグリフォンはいつまでも唸っていた。






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