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第166話 近況まとめ (1)

 あの日以降、外部から来る者に商人はいなくなった。商人がいなくなっただけで商品は運ばれてくる。運び込む物、運び出す物、様々だ。


「運び出す物にそんな重い物ってあったっけ?」

「太郎殿が切って形を整えた石や木材を運んで街道の整備をしてるんですよ。」

「あー、なるほど。」


 太郎は今日も早朝に木を切り倒し、黒ずんだ土を剥がしている。午前中に農作業も終わらせているので、午後はまったり時間を満喫している。

 昨日、紹介してもらったナナハルの妹は、ツクモと言う名前で、ナナハルと比べるとだらしがなさが際立つ。ツクモと魔女のマリアに左右を挟まれながらの午後はまったりできない。


「お主はさっさと帰って良いのじゃぞ?」

「えー・・・もうちょっと居る。」

「魔女が怖くて太郎にしがみ付いておるのにか?」


 マリアの方は怖がるツクモを見て愉しんでいて、ニコニコとニヤニヤの中間ぐらいの表情を保っていた。


「今日は研究しないの?」

「毎日やっても飽きるのー。」

「流石に死なないと人生長過ぎない?」

「そうでもないわー、生きていると必ず興味が湧く事が起きるものー。あれをみてー、これをみてー、あれもつくってー、これもつくってー・・・。」

「色々と作ったんだ?」

「そうねー、言われて作ったモノも有るけど、何の役に立つのか分からない物も有ったわねー。」

「そう言えばギルドで使われている道具も作ったんでしょ?」

「さぁ?ギルドで使っているモノってなーにー?」


 太郎は、両手の指さきを使って宙に四角形を描きつつ説明した。


「こんなカタチの板でさ、パネルみたいなものにタッチすると色々と表示される奴。」

「それって、これのこと?」


 胸の谷間から質量の法則を無視して物を取り出すのやめてもらえませんかね。

 そのまま太郎は受け取る。


「これ何にも書いてないけど、確かに同じやつだ。」

「研究費が欲しくて作った依頼品なんだけど・・・使い道は知らないわー。魔石か魔力を込めれば動くから誰でも使える簡単な道具よー。」


 これが簡単な道具なのかと、太郎はまじまじと見詰める。

 するとマリアは身を乗り出して太郎の頬に付くぐらい近付いてきた。


「これ、こうやってやるのー。」


 指が木板の表面を撫でるように動く。丸を描いた後タッチを何度か繰り返す。


「こうすると一度書いたモノが何度でも消せるし直ぐ再現できるのー。」

「おー・・・。」


 思わず声を出したが、俺の世界にも似たようなモノが有った事を思い出した。もう遠い記憶だ。


「これもっと大きいモノを作って貰えたら、メモに便利だなあ。」

「欲しいなら作ってあげるわー。」

「いいの?」

「いいの、いいのー。」


 反対側でぼーっと見ていたツクモは何の事かさっぱり理解していなかったようで、つまらないのか小さな欠伸をする。


「料理の手順を書いて壁にかけとけば誰でも見れるし、何種類ものレシピも記憶できるな。」

「へーっ。」


 なんで魔女が感心してるの。


「勉強にも使えるし、子供達にも有ったらいいな。」

「えー・・・何個作るのー?」

「とりあえず20個ぐらい。」


 表情が歪んだ。


「じゃあトレントの木板20枚用意してねー。」

「うどんに頼んでみるよ。」

「あー・・・うどんね、トレントいたのよね。ここ。」


 マリアは話を聞いて面倒になったから、断らせるつもりで無理難題を言ったのだが、無理難題でもなんでもなかった事に気が付いてぐったりした。


「まー、世話になるつもりで来たしー、いいわー、たまには働いてあげるー。」

「魔女を働かせるとは流石じゃのぅ・・・。」


 何故かナナハルが感心していた。




 作った道具を太郎に渡して、それを子供達に配る。さっそく使っている子供達は楽しそうに書いていて、覗いて見てみると、周辺地図だったり、何かの図形だったり、良く分からない文字列・・・これ魔法言語なのか。読めたけど意味が分からんぞ。以前聞いたのと違うなあ。


「これ、教わったん?」

「先生凄いんだよ!」

「どんな感じ?」

「んーっとねー・・・数字の足し算と掛け算を教わってるの!」

「え、図形の計算式も?」

「うん。」


 確かにこの世界では数学と言うか算数程度でもかなり難しいだろう。教育レベルの問題もある。子供達には賢く有って欲しいが・・・俺もそんなに勉強は得意じゃないからなあ。

 魔法言語の数字だった。ローマ数字に似ているけどなんか違う。そっか、言語加護で記号は認識できないのか。

 あれ?

 うぅーん。


「おとーさんはべんきょーしないの?」

「もうたくさんしたからねー。」

「じゃー、これわかるのー?」


 喋り方が・・・。


「うん?3桁の引き算か。」


 サラッと答えると子供達が驚いてた。そういえば勉強を直接教えた事は無かった。父親失格かも?

 そのまま子供達に算数の足し算と引き算を教える事になった。それを見たマリアからの評価は下手との事だったが、子供達が満足したので良し。




 そのマリアはナナハルと会話していて、何かの取引が成立したのか、仲良く握手している。ナナハルはその内容を教えてくれた。


「あぁ、妹をな。」

「離れて暮らすのに?」

「そうじゃな。だからこそじゃ。」

「九尾の子なんだからそれでも強いんでしょ?」

「わらわはこんなに治安が保っていられるのに、強者が集まり過ぎている場所を他に知らぬ。」

「そんなに治安が良いとは思わないけど。」


 そういう太郎の基準は日本の治安である。


「何と比べてるかは知らぬが、お主が居るだけでこの治安は守られているのじゃぞ。逆に言えば太郎がいなければ、こんな場所に村なんて出来ぬ。ここに住む気になったのも、ココがドンドン大きく成るのもお主の所為じゃからな。」

「なんだかなあ・・・。」

「まぁ、気にする事を言っておいてなんじゃが、気にする事も無い。」

「うーん。」

「気にしても詮無い事じゃからの。」

「それもまた気に成る事ではあるんだけど、みんなが言うほど俺って強いの?」


 ナナハルは溜息を吐く。


「それじゃな。太郎自身が自覚してないからこそ、この村は成立しておるのじゃ。それ程の実力が有ればドラゴン退治を目指す冒険者か、国家転覆を狙うかむしろ建国するか。それほどの脅威であるのは間違いない。」

「そんな事する気はないけどねー。」

「それがお主の本心だと思えるから安心できるのじゃよ。」


 似たような事は何度も言われているし、ナナハルから言われるのも初めてじゃない。それで納得しないといつまでも言われそうなので、無言で肯いて終わらせる事にしたが、ナナハルはもう少し何か言いたそうだった。




 メリハリが有るのか無いのか良く分からない日常が続く。ハッキリ言えば変わり映えのしない毎日だが、それだからこその日常ともいえる。

 兵士達はいつも忙しそうに移動していて、馬車が何台も往復するほどで、いつの間にか川にも大きな橋が架けられていた。


「この石もこの木材も、建築に困らないほど有るのは便利ではありますな。」

「ダンダイルちゃんも最近はずっとここに居るけど良いのかしら?」

「フーリン様に引っ越していただけると少し気苦労も減るのですが。」

「お婆様の事ね。」

「・・・はい。」

「お婆様に頼めば引っ越しも数日で終わるでしょうけど。」


 家丸ごと圧縮して運んでしまうという究極の引っ越しである。


「太郎君も同じ様な事が出来るとは。」


 鉄材を大量に運んだのは太郎の持つ袋のおかげで、元々は神様から受け取ったので太郎の能力ではない。


「ここに居ればハーフドラゴンである事を隠す必要も無くなるのではないですか?」

「それはそうなんだけど・・・あっちもなかなか住み心地が良いのよね。」

「それは元魔王として有り難いお言葉です。」

「むしろ隠す必要も無くなりそうなのだけど。」


 そう言って何かの作業をするお婆様を眺める。

 太郎達が持っている木板の事を知って、マリアは同じモノをダンダイルからも注文されていて、こちらの場合は正規の料金を支払う事で契約が成立している。


「魔女は脅威でしかなかったのですが・・・こうなると考えを改める必要が有りそうで、どの魔女が敵なのか分からなくなります。」

「お婆様が特別なだけで、私も他の魔女に詳しい訳ではないし・・・。」

「我々の作業も太郎君が一人居れば終わってしまうのだな。」

「建築は無理だから、圧縮魔法の方が優秀なのでしょうけど。」

「どちらにしても、我々の培ってきた法則もルールも崩壊するんですな。」

「それは仕方がないわね。」


 仕方がないで済まされてしまうのも困るダンダイルだった。




 この村で今、最も忙しい男がいる。

 その男は山の中に籠り、奥の奥の暗闇の中に輝きを求めていた。

 

「・・・輝きだらけですね。」

「そーだな。ダリスはもう枯れかけてたから、こんなところに居られるなんてな。」

「レールの敷設も順調ですし、報告を兼ねて一度村に戻りませんか?」

「戻る必要が無いくらい穴に住めるからな。」

「お湯が流れる川なんて珍しいですね。」

「あの村に住んでからお湯が普通になりましたからね。」

「だよなー・・・みんな綺麗好きになっちまって。」


 まだ動力が無いので、兵士達がトロッコを手で押している。手漕ぎ式になるのは決まっているが、細かい部品からすべて作らなければならないので、手間が掛かっていた。


「トロッコばかり山積みにされても風呂釜にしかならんぞ。」


 食事をするにも困らないスペースと、寝泊まり出来る居住性、坑道内はぼんやりではあるが明るく、光るキノコを栽培して増やしても良いし、樽に詰まったロウを明かりに灯しても良い。


「ダンダイル様にも期待されてるしなー・・・。」


 脈絡も無く呟いた師匠の後ろを追うように進む。出口に向かって歩いていると、既に掘り出されている鉱物を運ぶ兵士とすれ違う。魔鉄鉱は兵士でも掘り出せるので道具さえあればいい。

 外に出ると待っていたダンダイルに招かれて小屋に入る。この小屋にも兵士達が詰めていて、監視所兼宿舎になっている。


「調子はどうだね?」

「順調すぎて怖いくらいですよ。」

「ふむ。」

「補強の必要な場所もありませんし、掘れば掘るほど出てくるし。」

「そんなにかね?」

「掘る向きに調整は必要ですが、今のところ問題は有りません。一つ問題が有るとすればお湯が出るところは暑すぎるという事ですかね。」

「太郎君が居なくても風呂に入れるのは便利ではあるな。」

「料理も楽です。」

「食糧は希望するモノを用意しておこうか。」

「ありがとうございます。」

「給料も欲しければ用意するがどうするかね?」

「弟子には用意してやってください。」


 弟子は夫婦だが子供がいない。それは稼ぎが少なくて子供を育てる自信が無いからだったのだが、この村にいる限りなにも困らない。それはお金がなくても困らないという事で、有っても邪魔になる事は無い。今後の発展を予想すれば沢山あった方が良いだろう。

 今後の採掘計画書に、必要な物品、消費物の一覧を記し、ダンダイルに手渡す。今日はココで寝る事にして、夫婦が兵士達に食事を振舞い、久しぶりにのんびりした。

 のんびりしたのだが、ベッドで寝ている夢の中でも働いている気がしたグルは、身も心も昔の自分を取り元した気がして、少し嬉しくなった。






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