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第165話 鉱山を開く

 魔女が来てからの毎日は・・・特に変化なかった。

ダンダイルは商人の事件を知った後にすぐに連れて帰ったので、暫くは平和な日々が続いていて、魔女がいる影響は全く無く、本人も魔女だという事を隠すこともせず、フーリンと仲良く世界樹の研究に励んでいた。

研究が趣味と言うだけあって、研究道具が魔法袋からたくさん出てきたのだが、あっという間に部屋を圧迫する勢いで色々と設置されている。

ちなみにこの魔法袋の中には家が建っているというのだが、出入口が一ヵ所しかないから入りたくないし、入ったからといって何かする事も無い。


「神気魔法で一応の生活は出来るわ。」


 袋の口を固定化して、そこに誰でも出入りできる頑丈な扉を作る予定らしい。


「これって・・・ある意味異世界だよね?」

「そうそう。」

「じゃあ、()()()以外にもこの方法で別世界を作っている人がいるかもしれないですよね?」

()()()ってなんかつれないわー。マリアって呼んでくれていいのよ?」

「マリアって名前に良い思い出が無いんですけど。」


 何かを諦めたかのような表情になって、先程の質問に答える。


「別世界ね・・・確かにいるとおもうわー。無限空間を作るのはそれほど難しくはないのだけどー・・・器が無いと制御が出来なくなるからー。」

「それで袋の様なモノで制御し易くしてるって事?」

「そうそう。」


 知りたければ教えるとまで言われたが、そんな危ない魔法は怖すぎるので遠慮した。むしろ簡単に覚えられないだろうとも思うのだが、素質は有るって言われた。

 そんな素質いらないな。

 ちなみにフーリン曰く、お婆様の言う「難しくない」はそれなりに魔力が有る事を前提条件とするので、太郎の場合は満たしているという事だ。


「魔法の根幹を考えたのはお婆様ではなく、応用しているに過ぎないというのだけれど、私からすると魔法を創っているようにしか見えなかったわ。」


 以前は、魔女といっても研究ばかりしていて、その影響をモロに受けているのがフーリンだ。そのフーリンは教わっていてばかりなので、魔法の先生と言う方が適切かもしれない。


 ちょっと!

 子供達にその魔法教えようとしないでもらえるかな。

 頼むからやめて。

 普通の魔法でお願いします。

 分かった、分かった。

 マリアさんね、そう呼ぶから。

 あー、マンドクサイ。




 暫く来ないと思っていたダンダイルが戻ってきた。

 わざわざ太郎の所までやって来て、商人達の処遇について報告している。その後にフーリンと魔女と話をして、笑ってはいるが凄く困っているのは誰が見ても分る。


「あんなダンダイル様は初めて見る。」


 と、兵士達が噂するくらいだ。

 更にダンダイルは兵士を連れて魔鉄鉱の採掘を始める為に、グル・ボン・ダイエと行動を開始した。鉱山まで移動で半日ぐらい必要な距離があり、道具だけではなく大量の食糧も必要で、実際に採掘が始まる迄10日以上必要になるらしい。それが早いのか遅いのかは分からないが。

 坑道内にある生活スペースには続々と荷物が運び込まれ、坑道の入口にも居住用の小屋が建てられた。


「ダリスの町から職人にも来てもらったが、やはりというか、鉄が不足している。」

「トロッコを敷けば村まで運ぶのも楽にはなりますが、さすがに一年ぐらいかかりますよ。」

「そんなモノは覚悟の上だ。それに、坑道周辺はまだ魔物が出没する。警戒は怠るなよ。」

「はっ。」


 この長期計画に、グルさんの弟子二人が喜んでいる。夫婦で弟子の二人は鍋釜などの生活品ばかり叩いていたから、大量の鉄を惜しみなく使った鉄塊を触れる事が久しぶりだったのだ。


「トロッコとレールは・・・持って来れれば少しは楽なんだが。」

「持ってくる?」

「あぁ、ダリスでは今も使われていて予備もある。」

「あー、なるほど。それなら取りに行きましょうか?」


 大量に何でも入れられる袋がある。魔女のマリアも持っていて、こちらも袋の口はそれなりに大きい。スーの持っている袋は小さいが、量は無制限なのだからこれもかなり使える。


「うー・・・ん。」


 ダンダイルが即断しないのは魔女の存在である。太郎がいるから魔女が大人しいと思っているので、この二人を別々にするのに躊躇いがある。無論、ただの杞憂に過ぎないのだが。


「お婆様は暴れるのは得意ではないから。魔法は勇者クラスで暴発する事が有って・・・。」


 研究の時の実験のミスで山を消した事が有るらしい。


「消した?!」


 その魔女がやって来た。


「何コソコソ話してるのー?」

「ダリスの町に鉄材を取りに行く相談です。」

「そんな町知らないわね。」

「お婆様がいない間にできた町です。」

「へー・・・。ちょっと行ってみようかしら?」


 魔女の意見を断る者はおらず、決定となった。

 もちろん、ダンダイルも同行する。

 指名された時に滅茶苦茶驚いていたのは言うまでもない。


「ダンダイルさんがいないと話がスムーズに進みませんよ。」

「とは言うが、太郎君。移動はどうするのだね?」

「俺がいっぺんに運んでも良いですけど・・・あそこで鼻息の荒い者がいるのでお願いしようかと。」


 そこには背の小さな少女がいた。


「我を頼って良いのだぞー!」


 こうして、グリフォンの背に乗って一行は出発した。

 メンバーは太郎をはじめとして、マナ、スー、魔女のマリア、フーリン、ダンダイル、そして乗り物のグリフォン。

 グリフォンの背に乗るのが初めてだったというより、誰かに乗って移動するのが初めてだった三人は多少の興奮もあったが、太郎が魔法で移動速度を加速させてしまうと、飛行魔法でも数日必要な距離を早朝出発の夕刻到着という偉業をいとも簡単に達成してしまった。

 ダンダイルが居ればダリスの鉱山で働く者達も協力してくれて、あっという間に作業は終わった。スーはついでに鶏を買っていて、村で育成するという。

 これで卵もなんとかなるけど、生で食べても平気だっけ?

 焼けばいいか。




 本来なら数ヶ月どころか、運ぶだけで一年でも済まないような作業を一泊二日の工程で終わらせてしまったので、今は鉱山の入口で可能な限りの人員を集めて、エルフも兵士も、男も女も関係なく、袋から鉄材を取り出す作業をしている。

 どんどん積まれていく資材に、計算をする兵士が目を回すほどである。当然、洞窟の内部にも運び込まれていて、レールが敷かれていく。

 ただし、トロッコは入らなかったので弟子達が作る事になった。

 袋に入れるのは楽だが取り出すのは大変なので、資材を全て出すのに三日三晩作業は続いた。


 その間の村ではスーを中心に子供達が鳥小屋を作っていて、カラー達が羨ましそうに眺めている。鶏は全部で10匹で、当り前の事だが意思疎通は不可能だ。

 鳥達も無理だって。

 子供達がガッカリしてた。

 それでも、子供達が世話をすると張り切っているので全面的に任せる事にした。


 数日経過すると早速卵を産んでいる。

 餌で釣って鶏を小屋から追い出してから卵を回収したので、その日の朝食は子供達だけ卵焼きになった。

 目を輝かせながら食べていたので、エカテリーナも食べたそうにしていたのだが、子供達優先という事で味見もしなかったとの事。

 遠慮しなくてもいいのに。

 あの、マリアさんは遠慮してくださいね。


「この卵って・・・温めたらヒヨコが生まれるんですよね?」


 エカテリーナの言葉は質問と言うより、産まれる筈だったヒヨコを殺してしまったんじゃないか、という不安感だ。


「雄と雌は別けてあるから、増やす有精卵は別にしてあるよ。」

「ユウセイラン?」


 純粋に知らないようだ。

 そりゃ、エカテリーナは子供だからな。


「有精卵と無精卵が有って、メスだけの所から卵を取るんだ。雄と雌で入っている方は増やす予定だから取らないようにね。」


 エカテリーナは頷いて了承した。

 子供達にはすでに伝えてあるし、スーは知っていたようで、実際に子供達に教えたのは俺ではなくスーだ。

 マナも知ってたの?

 なんで俺にアピールするんだ・・・。

 マリアさんは常識ですよね。

 はい。




 そんな子供達が更に大喜びする日がやって来た。

 それは、ナナハルが子供と妹を連れてやってきたのだ。

 やって来たのは良いのだが、いきなりマリアを見付けて睨み合っていたから、フーリンとダンダイルが畑仕事をしていた俺を、有無も言わさず担ぎ上げて二人の前に引き摺り出した。


「太郎、なんじゃこいつは!」

「なんなのー!」

「魔女だよ。」

「魔女じゃ・・・と?!」

「別に何でもイーじゃないのー。」


 ナナハルの後ろではすでに合流している子供達と、妹らしき巫女の様な衣装に身を包んだ女性がいる。

 恐怖に震えた表情なのだが、九尾だったよね?


「あんなのが居るなんて聞いてないわ。」

「わらわも聞いておらぬが、どういう事じゃ?」

「最近、突然現れてココに住む事になったんだよ。」


 諸事情を説明すると、とりあえず納得してくれた。妹の方はココに住むわけではないので問題はない。


「あの子達の母親って事ねー。」

「なんじゃ、おぬしら魔女に魔法を教わっておるのか?」

「そだよー!」

「せんせーだよー!」


 笑顔を向けられたら断る理由も無い。


「そうか、そうか。」


 魔女の指導による魔法なら効率も良いだろう。


「今日からみんな一緒に住むのー?」

「ああ、一緒じゃよ。」


 兎獣人の子供も交じって大はしゃぎ。

 仲が良い事は良い事だ。

 にこにことして眺めていると、ナナハルが魔女に対する睨みを緩めて寄って来た。


「じゃあ、妹を紹介するのじゃ。」






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