第163話 世界樹の危険性
世界樹の危険性について話が始まる前に、スーとエカテリーナが食事を作るという理由で食堂へ移動した。少しだけ間が空いた時にマナがフーリンに訊ねる。
「魔女の子孫だった事もスズキタ一族の子だった事も知らなかったんだ?」
「全く知りませんでした。正直、無関係だと思っていました。」
「それにしてはお婆様って呼んでた理由が解らないんじゃ?」
「私がお婆様と出会ったのは山頂の村ではないんですよ。まだもっと小さかったころに別の村で良く話をしました。魔女だったなんて知る事も無く・・・。」
「私もねー、ドラゴンとのハーフが生まれたって事でちょっと興味が有ったからねー。ドラゴンの姿でいるのをすごく嫌がってたから人化の魔法って言うか、魔力を隠す方法とか教えたわー。」
「その当時に、周りの人達がお婆様って呼んでいたから何の疑問も無く・・・。」
「なかなか素質が有るとは思っていたのよねー。でも、あの泣き虫が立派になったわねー。」
フーリンの顔が真っ赤に成った。
「そ、それは・・・言わないで下さい。」
「人の流れが激しく動いた時期でもあったから、フーリンちゃん以外にもハーフのドラゴンはいる筈なんだけどー。」
「私以外に存在していたとしてもハーフドラゴンである事は隠していると思います。」
「そうよねー。そうなのよねー。国が出来たり消えたり、激動の時代だったから。その中でも魔王国は初代が優秀だったから生き残ると思っていたのだけど、案の定だったわねー。」
「そんな時代の話よりも、私の危険性を教えて欲しいんだけど。」
「むしろなんであなた自身が気がついて無いのよー?」
「知らないわよ。誰も教えてくれなかったし。あの子達だってそんな事は知らなかったはずよ。」
「あの子達って・・・まぁ、いいわー。危険性って言うのはねー世界樹が負のマナを消しているのではなく払い除けているからなのよ。」
「という事は、その負のマナは何処へ行くんですか?」
「どんどんと追いやられて最終的に不安定で凝縮されたマナの渦が出来るわ。」
「マナの濃い場所に凶悪な魔物が発生するっていうのと関係が有るの?」
「大有りよー。正のマナは濃くなっても悪影響はないけど、負のマナは異質なモノを産むわ。トレントも負のマナから生まれた筈なんだけど。」
「そうだったんですか。」
うどんが驚いている。
凄い、うどんが純粋に驚いている!
「負のマナって属性としては何処に?」
「属性?」
「火とか水とか、系統分けする事は無いので?」
「そんなことしたっけかなー・・・あの子達はしたと思うんだけどー。」
「まぁ、ゲームのようにはいかないわよね。」
魔女がごそごそと服の中に手を入れて何かを探している。胸を邪魔そうに動かさないで貰えませんかね。
「あー、あったわ。」
テーブルに載せられた一枚の紙。そこには細かく色々な事が書かれているようなのだが、字が小さ過ぎて手に取らないと読めない。
「まぁ、読んでもらってー。」
マナが一番最初に手に取って読み始める。
それを無言で見詰める一同。
「なるほどね、全く分からないわ。」
くすっと笑う魔女。
「それ、私も読めないのよー。」
「じゃあなんで出したの。」
「以前は読めたのよー。忘れちゃって・・・。」
「太郎は読める?」
マナから受け取った紙にはびっしりと文字が細かく書かれている。保存状態は良好。文字がかすれて読めないところはないようだ。
「火の魔法・・・高熱を操作して放つ事が出来る。魔力を送り込んでいる間は熱が内側に籠るため、魔法操作者が火傷する事は無い。魔力量が大きい程より高温になる。」
「すごーい。」
魔女に感心されたがこれは俺の能力じゃなくて貰った能力だからなあ。
「でも、役に立たないでしょう?」
「どんな魔法があるかって解るだけでも役に立つと思いますよ。」
「そうー?じゃーそれ上げるわー。」
これもの凄く古いモノなのでは・・・凄く笑顔だ。
「禁忌魔法も沢山有りますね。」
「禁忌って言うのー?」
「そう言えばあまり気にしてませんね?」
「どうせ、そんなに使える人はいないからー・・・。」
確かにそうかもしれない。
「逆に、使えば直ぐに広まるから身を隠して生活するしかなくなるのよー。だからねー・・・。」
流すように視線を動かして周りの人物を一人ずつ見る。
「この村って危な過ぎない?」
「危なくしたくてしている訳じゃないですけど。」
「可笑しな魔力量の人がちらほら居るしー。」
「俺とマナとフーリンさんとダンダイルさん・・・うどんもか。まぁ、でも俺とマナとうどん以外は住んでないから。」
「さっきの貴方の子供達でしょう?」
「うん?」
「あの子達・・・ちょっと見ただけだけど凄い素質が有りそうねー。」
「そんなに?」
「まだ子供だったのに、九尾の力を感じたのだけどー?」
「へー、アンタなかなかすごいわね。」
流石のマナも感心している。
「まぁ、魔法に関しては色々と研究したからー。だからー、マナの流れを調べているうちに、世界樹の波動と、危険性を知る事が出来たのよー。」
「それが負のマナ・・・。もしかして、俺達の中にも負のマナを使ってる人とかいますか?」
「周囲のマナに影響される事が多いから、周囲が負に染まっていると使う人も負になるのよー。ココは周囲が正だから問題ないわー。ただし、そこのエルフは少し負に傾いてるわねー。」
「私が?」
「そうよ。そしてアナタ。」
「おれ?」
「アナタはそのものが中庸だわー。」
「そのものって太郎が中庸?」
「魔女の中で探しても極僅かしか存在しなかったていう中庸よ。それも存在そのものが中庸だから、周囲のマナも均等にしてくれる・・・そーかー、アナタが存在しているなら、世界樹の存在を否定する理由も無くなるのねー。」
「太郎の傍に居るだけで良いの?」
「そーなるわねー・・・。てか、あなた達二人ともその変な波動の影響なんだけど・・・この波動を強く浴びたらあなたの事がとても魅力的に見えるようになると思うわー。」
強く波動を浴びた者・・・、何となく納得できるなあ。
「アナタの近くにいるほど影響を受ける筈だからー・・・抱きしめるだけでメロメロよー。」
メロメロって久しぶりに聞いたなあ。
「まあ、メロメロかどうかは横に置いといて、天使達がマナの均衡を保つ仕事をしてるっていう話だけど、その天使は影響受けないの?」
「受けてるはずよー。天使達が居なかったらもっと凶悪な魔物が現れていたかもしれないわー。」
それだけでも仕事としての効果は有ったという事だろう。
マナは負を消さない。
それを神様は知っているのか?
「凶悪な魔物ではないが、勇者はどっちなのだ?」
「勇者って何?」
「アンタの時代にも勇者は居たでしょう?」
「ゆう・・・しゃ?いたかしらー・・・?」
考え込んでいる魔女にそっと伝える者が居る。
「お婆様、死んでも死なない不思議な能力を持った者達の事です。」
「あー、あの化け物ねー。」
魔女にもバケモノと言われる存在とは。
「アレを勇者って呼んでいる連中は、限られていた筈なんだけどー?」
「今は一般的にそう呼ばれています。」
「アレは呪紋の所為で死ねない魔法が掛かっているっていう所までしか・・・。」
ホントにさらっと凄い情報を言う人だ。
いや、魔女か。
「じゅもんってなに?」
「呪いの紋様のことー。」
「呪いの紋様・・・呪文・・・?」
「あー、じゅもんって言うとちょっとややこしいわよね。でも実際は同じ事よー。」
「あの模様が身体のどこかに浮き上がると勇者としての素質に目覚める、と。」
それを聞いてくすくすと笑っている。
「あんなの呪いと一緒よ。しかも、どんなにバラバラになっても元に戻るのよー。気持ち悪いじゃない。」
「確かに・・・ホラーだなあ。」
「勇者についてどこまで分かっているのですか?」
「全く。」
両眼を閉じて両手を上げる。
降参という事だ。
「お婆様でも分からないって・・・。」
「でも呪いっていう考えは間違ってないと思うわー。半永久的に稼働する道具を人に当て嵌めたものと考えれば、悪意を持って人を利用しているのだからねー。」
「しかも期限付きと言うのも、より悪意を感じますね。」
「そうそう。」
魔女が何度も首を上下に動かしている。
ピタッと止まると、再び口を開いた。
「でも、あの呪いは解く方法も有るわよー。」
「解けるんですか?!」
「だって魔法だものー。呪い以上の魔力が有れば解くことも可能よー。」
「じゃあ、勇者って倒せるの?」
「魔女を100人ほど集めて殺した事が有るわー。」
どこかで聞いた話だな?
「ある意味実験みたいなことをしたのだけどー、あんな事は二度としたくないわー。」
「と、いう事は・・・。」
「そーねー、今ならそこの坊や3人分くらいで殺せるわー。」
ここに坊やは一人しかいない。
「太郎3人分?!」
「そのくらい強い呪いなのよー。だからー、その呪いの発生源さえわかればー・・・、って考えて辿り着いたのが負のマナよー。」
「それが解っていれば教えてくださっても良かったのに。」
「フーリンちゃん、教えたくても無理だったからー。」
「解った時は袋の中って事ですか。」
「そうそう。」
「呪いの発生源って事は、人為的な魔法ではなく、自然発生したと?」
「自然発生した負のマナを利用した人為的な魔法だと思うんだけどー・・・あの当時に私達より強い魔法使いって見た事ないのよねー。だから、何らかの詠唱魔法の影響だと思うのだけどー・・・もしも詠唱魔法なら、私達の誰かが誰にも知らせずに発動した事になるわー。まぁ、知ってたらー、全力で止めたけどー。」
「勇者自身も自分の能力を持て余していたり、魔女の敵になったり、国を崩壊させたり、良い事が殆ど無いですし。」
「そんな無茶苦茶な能力を身に付けた者を制御できる筈ないからー、それならまだキメラの方がマシだわー。」
グリフォンが丁度良いくらいか。あれ以上強い者があちこちに点在しているのなら確かに危ない。
「勇者同士が出会わないという謎も解りますか?」
「負の影響だと思うわー。」
「もうちょっと詳しく。」
「・・・負と負が接近するとその場に悪影響が起きるという事だけー。それ以上は分からないわー。」
その後に背伸びをする。
「久しぶりにたくさん話したから疲れたわー。」
「有益な情報ばかりで助かるんですけど、情報過多で脳みそがパンクしそうですね。」
「お婆様が魔女だった事が一番の驚きなんですけど。」
「フーリンが泣き虫って昔からだったのね。」
「せ、世界樹様まで・・・。」
「私なんかが聞いてしまって良かったのでしょうか?」
一人だけエルフの女性が何故か遠慮がちに言う。
「気にする事は無いよ。」
そう言って、太郎は言い方を変えた。
「気にして欲しいのは知ったという事かな。」
「ここまで知る事が恐ろしいとは思いませんでした。」
「そうだよね。俺もちょっと怖いよ。スズキタ一族が魔女の系統だという事は、いずれこの世界から排除されるかもしれない訳だし。」
「そういえばなんだけどー・・・。」
欠伸をした所為で言葉が途切れる。
「なんで、ススキダじゃなくなったのー?」
それは誰にも解らない一番の謎となった。




