表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/402

第150話 子供達の実力

 始まる。


 そう思った時、いつの間にかギャラリーが増えていた。

 エルフ達だけではなく、いつの間にか俺の横にはポチ達が、川向こうにはエルフ達が、そこから少し離れた所にトヒラ達が見ている。グルさん達はいつも通り窯に張り付いていて、コチラにはあまり興味が無いのかもしれない。

 エカテリーナとウルクは家事専門で、ここにはいない。似たような理由でグリフォンはいつもの倉庫で寝ているだろう。

 何処からともなく、ふわふわと飛んできたマナが俺の肩に座った時、それを待っていたかのように子供達が先に動いた。


 子供とは思えない綺麗な姿勢でククルとルルクが魔法を放つ。かざした両手の先から無数の豆粒ほどの小さな石が出現し、ジェームスに向かって飛んで行くと、ナナミ、ナナヨ、ナナコが右回りに、ハルオとハルマが左回りで接近する。


「分かり易いな。」


 豆粒が中ったくらいではなにも痛くはない。だから来ているのが分かる。地を這うようなほど低い姿勢で走り込んでくる姿は脅威に感じたが、最初に防ぐべき攻撃が別方向から来る。

 小さくジャンプしてから、三人の腕が一斉に振り下ろされると、小さかった盾を拡大変化させて同時に受け止めている。軽く圧し返すと、単純に力の差で負けているので弾き飛ばされて、本命の攻撃にはしっかりと正面から対応する。

 背が低い事も有って、低すぎる姿勢から中に入り込んでくる攻撃に不意を突かれた。


「えいっ!」


 意外にも威力と勢いのある攻撃と、子供の声に、思わず後ろに飛び退いて避けると、失敗した事に気が付いた。もう一人の姿が見えない。


「しまっ?!」


 回り込んできたのはハルマで、横に回転しながら剣を薙ぎ払うと、ハルオの剣で足元を突かれながら、左手を後ろに回して盾で防ぐ、そこからナナミ、ナナヨ、ナナコが接近して三本の剣を叩き付ける。


「ジェームスさんが一瞬にして囲まれちゃった?!」

「そうねぇ・・・。」


 フレアリスが中途半端な返事をしたのは、子供達の予想以上の連携のある攻撃に驚いたのと、反撃をどうしたらいいのか困っているジェームスに気が付いたからだ。

 たこ殴りの様な状態で防戦一方になったジェームスは少し困っていた。連携には吃驚したが、強い攻撃は盾と剣で防ぎ、それ以外は身体でそのまま受けている。それでもダメージは我慢できる程度に弱い。

 心にも身体にも余裕が有るジェームスは、どう反撃するか思案しつつ、観客となっている太郎をちらっと見た。


「あー、そうですよねー。」


 その視線に気が付いたスーも太郎をちらっと見たが、子供達を見ている太郎の表情に変化はない。ハラハラしてもいないのはもっと不思議だ。


「やっちゃっていいですよー!」


 その声でジェームスの心にあった鎖の一部が少し緩んだ。


「チョット痛くするぞ。」


 ギラリと光る瞳に、ハルマが怯えた。一瞬の隙を見逃さず、振り下ろそうとして止まった剣を素手で掴んで、手首を返してひねるだけでハルマはひっくり返って転んでしまった。そこへ真後ろからジャンプして頭を狙ったハルオの攻撃には気が付いていて、後ろを見る事無く腕を回して後頭部の直前で手で受け止める。


「ふんっ!」


 魔法で作られた剣先をそのまま握り潰すと、女の子達が吃驚して逃げ出した。

 攻撃手段を失ったハルオとハルマが四つ足のように飛び跳ねて逃げたが、それでもジェームスを挟むように移動しているところが、子供とは思えない。


「動きも判断も子供じゃないな、あいつは一体何を教えたんだ・・・?」


 子供達がどうやって攻めようか悩んでいるわけではなく、ジェームスがどうやって大人としての威厳を保つかを考えている。

 考えている・・・よくよく考えてみれば男は二人だけ、短時間だが、実力も十分わかった事だし、怪我しない程度に一気に決めるのもアリだろう。


「ん?」


 ジェームスの頭上にはジェームスよりも大きな水の玉が幾つも浮いていた。


「おー、流石親子ですねー。」


 スーの評価は太郎を知っているからこそで、トヒラは先ほど一度だけ見た魔法をもう一度見て驚いている。


「あんな水魔法の使い方が有るとは・・・。」

「アレが子供ですか・・・。」


 トヒラとその部下達が唖然として見つめる中、ジェームスの頭の上から巨大な水玉が落ちてくる。

 喰らったところで大きなダメージが有るとは思えないが、思わず避けてしまうのは本能だろうか。


「ですが、魔法を放ちながら浮いていられるのも時間の・・・ちゃんと支えてるんですねー・・・私はあんなこと教えてないんですけど。」


 風魔法で浮遊し、他の者の身体を支える。7人いるから出来る戦法だ。地面から離れないジェームスは、いつか途切れるのを待って必死に避けているが、体感で約3分ほど続くと、痺れを切らした。

 足元には幾つもの水溜りが有るが、それは魔法の力で発生させているだけであるため、マナが途切れれば消える。


「いくらなんでもポンポン出し過ぎだろっ?!」


 言うが早いか行動が早いか、ジャンプしたジェームスは水玉の隙間をギリギリを避けつつ、一気に上空へ跳んだ。

 

「グレイズしてるなあ。」


 太郎の感想は誰にも分からない。 

 ジェームスは一人でも叩けばすぐに崩れると思ったからなのだが、子供達を正面に見据えた時に、それが誘い込む為の罠だった事に気が付いた。


「子供だと思ったのが間違いかっ!」

「もえちゃえ~!!」


 可愛い声が周囲に響く。

 三人の手の先から三本の炎が放たれ、捻じれる様に絡まると一本の筋を作ってジェームスに襲いかかる。接近し過ぎて回避不能だが、ジェームスは冷静過ぎる眼で炎の先端を睨む。魔法なのだが何か魔法と違う感覚を受けた。

 観客に徹していて、興奮したトヒラが叫んだ。


「直撃するっ!?」


 直撃寸前で障壁魔法を張ったジェームスは、大人の意地で炎を突き破って子供達の前に躍り出ると、しっかり男だけを狙って肩と腰に一発ずつ叩き込んだ。その一撃で魔力が途切れると浮遊する力を失う。


「シマッタ・・・・強過ぎた。」


 それを見たスーとフレアリスが落下地点を予測して走り出す前に、太郎が肩に乗るマナに言った。

 

「マナ、頼んだよ。」


 気を失って落下する二人に、流石に太郎の声が強くなったが、マナはいつも通りだ。


「ほいほい。」


 最初から予定していたかのように、マナの魔法で黒ずんで硬い土がひび割れると、そこには一瞬にして草が覆い繁る。

 スーとフレアリスが走り出したが、ほっと息を吐いて足を止める。

 クッションよりも優しく包み込むように二人を受け止める草を見守っていると、スーが太郎に質問する。


「慌てませんねー?」

「そうかな。」

「太郎は予想してたもんね。」

「そう言えば、「頼む」しか言ってなかったわね。分かってたって事よね?」

「そりゃまあ・・・浮くんだから落ちるでしょ。」


 ハルマとハルオはその草の中から躍り出るように急上昇すると、ジェームスに攻撃を仕掛ける。終わったと思っていたジェームスは完全に油断していて、思わず全力で反撃してしまった。

 しかし、予想した空間に剣を振った時、そこには何もなかった。


「あ!・・・・れ?」

「もらったあっ!」


 上昇した時にジェームスの後ろを取るコースから変更し、そのまま通り過ぎて更に上から急降下したのだ。

 振り下ろされた剣をギリギリで頭は躱したが、肩に直撃し、集中力と魔力が途切れたジェームスが落下した。

 威力が十分に有れば地面まで落ちたかもしれないが、ジェームスは途中で魔法を張り直し、中空で止まった。そこへ追撃が来る。

 一人では手数が足りなかっただろうが、ハルマとハルオの連携は予想以上に激しく、子供だと思う事をどこかに残していたジェームスは、完全に消えた。

 間断なく攻め込まれると、流石に隙が無く、受けるのに苦労したが、宙に浮いていると戦い方は変わる。地面が有る時とは違って移動方向に選択肢が多いのだ。

 攻撃していた二人の目の前から、ジェームスは消えた。


「え?」


 少し離れた所から見ている者には直ぐ分かるのだが、戸惑っている二人は、左右と上下を見た。その二人の後ろに上下が逆さまのジェームスが現れる。気が付いた時には手遅れで、今度は力加減を考えた上での強い一撃を正確に叩き込む。

 二度もやられた二人は、再び落下したが、ジェームスが一緒に落下して両脇に一人ずつ抱えて着地した。

 他の子供達も降りて来て、心配しているような、悔しそうな、複雑な表情で近付いてくる。一番に駆け寄ったのは太郎で、父親の登場が意味する事は分かり切っていた。


「終りで良いかな?」


 両脇の二人を地面に降ろすと、悔しさで半ベソになっていて、本気で勝つつもりだった事が窺える。


「やっぱ強いですね。」

「まぁな。」


 父親に気が付いたハルマとハルオが吸い付くように太郎に抱き付いた。先ほどの戦闘と比べると、明らかに子供らしさで溢れている。


「頑張ったどころじゃないぐらい強かったぞ。」

「ほんとー?」


 太郎が頭を撫でると、色々な感情と涙が溢れて大声を上げた。

 想定以上の疲労感で、深く息を吐き出したジェームスが、ゆっくりと近寄ってくるスーとフレアリスに気が付いて愚痴をこぼす。


「ココまで泣かれると罪悪感が凄いな。」

「そうね。」


 鳴き声が響く中、エルフ達は楽しかったと満足し、トヒラはとんでもないモノを見てしまったと、妙に後悔していて、この村の今後について考えてしまうのだった。


「我々の戦力が必要な時なんて来ないんじゃないかな・・・?」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ