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第147話 ワンゴは何処へ行く?

 スーが俯いて座り込んでいて、暫く動きそうもない。負けたのがショックなのは理解できるが、用の無い所にいつまでも意味もなく居るのに耐えられなくなった者が言う。


「我は帰るぞ。追い詰めても良いが・・・ダメだろう?」

「もちろんダメー。」

「俺達も帰るか?」


 ジェームスの問いにフレアリスが頷き、助けたエルフを連れて帰ろうとした時、マギが他のエルフ達と一緒にやって来て、もの凄い心配そうな表情で太郎に言った。


「さっきのもの凄い炎は何ですか?!」

「我だ。」

「森が燃えて大変な事になるかと思いました・・・。」

「そんな失敗するわけなかろう・・・まあ、知らないのなら無理もないか。」


 返答を聞いて不思議そうに見ていたマギが、動かない存在に気が付く。


「スーさん?」

「今はそっとしといてあげて。」

「え、あ、はい・・・?」


 マギはそのままスーから少し距離を取っている二人に状況を説明してもらうため、寄っていった。ジェームスが説明している一方で、仲間を心配して来たエルフは助かった事を喜んでいて、助けられたエルフが、こちらでもその後の事を説明している。


「ワンゴって・・・あの盗賊団のボス?」

「スーさんが叫んでたし・・・。」

「来るって言うのもちょっと怖いけど、それをあっさり撃退したのって・・・。」


 エルフ達の視線を集めている少女は我関せずと欠伸をしていた。

 いつまでも動かないスーに飽きれたポチが、言うのではなく、その背中に頭を擦り付けて無理矢理押した。


「お、おい・・・ポチ?」


 太郎の声を無視してグリグリと押す。


「動きたくないならチーズの背中に乗れ。いつまでもここに居られても困る。」


 スーの身体を軽々と持ち上げたポチがチーズの背に乗せる。ちょっと、よく見てなかったけど、どうやって乗せたの・・・?


「はわわわっ・・・。」


 スーが吃驚して声を出していたが、スーは突然変な声を出すんだよなあ・・・。少し恥ずかしそうにして座り直すと、移動を始め、エカテリーナの所へ戻る事となったのだが、何か忘れている気がする。


 なんだっけ?




「おかえりなさい!」


 エカテリーナとうどんが外で出迎える。その周りにはカラーと蜂が集まっていた。


「なんでこいつらひれ伏してんの?」


 蜂はひれ伏していない。


「そのドラゴンにも匹敵する炎に感服しました。」

「いや、お前たち我の事知ってるだろう?」

「鳥頭なんで。」


 鳥が鳥頭を自称するのが凄いな。


「食事の準備も出来てますから、中に入りませんか?」

「そうだな。」


 蜂達は解散して巣に戻り、カラーたちも適当にあちこちへと移動した。既に食べ始めている子供達がいる食堂に入ると、スーは入っても食事せずに、誰も引き留めることなく、スッと客室に消えていった。

 あれ、うどんもいない・・・。

 何事も無かったかのように時間は進み、子供達はマナとグリフォンに連れられて外へ行き、グルさん達もいつのまにかやって来ていて、食事が終わった頃に団体様がやって来た。


「タロー、さっきの奴らが来たぞ。」

「ん?」

「トヒラの隊だ。ワンゴを追ってここまで来たのが目的ではないんだろうな。」

「ここに来ることが目的と?」

「そうね。」


 あれ、きっちりグルさん達もいない。

 職人気質なのは分かるけど、すぐいなくなるのは何でだろう?


「失礼する!」


 入ってきた女の子は引き連れている男達と比べると、明らかに質の良い防具を身に付けている。


「私は将軍のトヒラ・ナオミだ。責任者の太郎殿はどなたかな?」


 責任者?!


「俺が太郎ですけど責任者って・・・。」

「この村で一番偉い者だと認識しているが、ちがうのか?それに、名前を聞く限り私と出身が同じの様だが・・・?」


 いきなりの質面攻めに軽い苛立ちを覚えたのは鬼娘だったが、声に出したのは男だった。


「将軍の癖に礼儀も知らんのか。」

「ん、お前はジェームスだな。」

「あら、こんな子供にも知られてるのね?」

「まぁ・・・子供じゃないからなあ。」


 なんかあっちで会話してるので、任せておこう。


「年齢は知らんがな。」

「こんなに若いのに将軍とはね。」

「そういう困り者の鬼人族は幾つなの?」

「女性に年齢を訊くつもり?」


 なんか火花が見えるんだけど・・・。


「それで、何の用ですか?」


 太郎が妙な危険を感じたので割って入る。勿論、声だけだ。視線の先の間へ入るなどという面倒な事はする必要も無い。


「あ、今度正式にこの村での駐屯と、街道の整備をさせてもらう事が決定した事と、警備もさせてもらう事になったのを伝えに。」


 普通に考えると勝手に決められてる事は問題だと思うが、警備してもらえるのは有り難い。しかし、疑問はある。


「引き揚げる事が決まったって聞いてましたけど?」

「キラービーの蜂蜜が大量に採れるという事が決定の要因です。」

「要するに金に転んだのね。」


 確かにそういう感じにしか受け取れない。


「ダンダイルさんは成功したって事かな。」

「事情は詳しく知らされていないのでどういう村なのかは知りません。なので色々と御教授願いたいです。」


 急に下手に出て来たな。


「とりあえずあの水魔法を放っていたのと、炎の魔法。あれはいったい・・・?」

「ワンゴに逃げられた連中が知ってどうする?アンタは諜報が得意だと聞いているのだが?」


 諜報と聞くとそのままスパイが想像されてしまう太郎だが、現代に生きる日本人なら普通なのかもしれない。


「この村を調べるんですか?」

「調べるというか、知りたいというか・・・。」

「まぁ、どちらにしても調べて報告するのはアンタらの仕事だからな。もしここで答えなくても勝手に調べるだろうよ。」

「あー、それは確かにそうかも。」

「我々はダンダイル様が来るまでの期間だけですので。」

「ダンダイルさんが来るんだ?」

「近日には。」


 何日後なんだろう?


「それにしてもワンゴを逃がしたような連中では信用できないな。」


 ジェームスがそう言うと明らかに目付きが変わった。


「アレはわざと逃がしたんだ。ちゃんと監視は付けている。」

「違うだろ?」

「ム?!」

「全力で戦ってもお前達じゃ勝てないだろ。」

「我々は戦闘が専門じゃないんだから仕方がないんです!」

「・・・なんでお前らが選ばれてこの村に来たんだ?」


 選出する暇が無かったのと、すぐに行ける者が他にいなかったという理由なのだが、いちいち説明する理由も無い。


「ハッキリ言うと蜂蜜の事も有るし、魔王国の決定を伝える為と言う事になるかな・・・。」


 いつの間にか質問攻めにされているのに気が付かない訳では無いが、トヒラとしては信用を得るのも必要な事だ。無言を貫くというのは無駄な選択だろう。


「ふ~ん。」


 フレアリスの目が冷たい。


「それにしてもワンゴがココに来た理由は何です?」

「それは城の位置的に逃げるのに都合の良い方向の先にこの村が有っただけで、特に狙いが有ったとは思わないかな。」

「世界樹はまだ城から見えないですよね?」

「山を越えないと見えないから、まだ心配するほどじゃないかしら?」

「じゃああワンゴ達はどこに行くの?」


 腕を組んで少し考える猫獣人の少女。耳がぴくぴくと動く。


「多分・・・迷いの森を抜けてガーデンブルクじゃないかなぁ?」

「迷いの森って魔女が住んでいるって噂の場所だよな?」

「噂だけで見た人はいないけどね。」

「ワンゴ達はあの森に入っても平気なのか。」

「確か隠れ家があるハズ。」

「流石の情報力って事か。」

「逃げたワンゴに監視を付けておけば隠れ家が幾つか発見できるでしょう。」


 魔女って・・・。


「魔女って、あの人以外にもいるんですかね?」


 太郎がわざとらしく一部を伏せて質問する。


「・・・太郎殿は魔女と戦っているのだろう?良ければ詳しくその話を聞きたい。」

「あんまり思い出したくないのでお断りします。」


 ハッキリとキッパリ断る太郎に、ジェームスが苦みを含んだように笑う。


「誰にでも嫌な思い出ってあるもんだしな。」

「そうです、そうです。」


 太郎が力強く同意した。


「で、魔女は?」

「情報通りに存在しているとなると30人以上は存在する。ただし、特定の場所に現れて以降、数百年も現れなくなっている事から、実際の人数はもっと少ないと思っている。」

「一人で何人も居るように振舞っているって事ですか?」

「そうなるかな。」

「ワンゴ達は魔女に襲われないんですかね?」

「それはどうなのだろう・・・まさか通じているとは思えないし・・・。」


 魔女とワンゴが協力関係に有るとしたら、自由に移動できるのも頷けるという太郎の意見だが、実はただ単に言ってみただけである。


「ガーデンブルクが魔女と協力している可能性の方が否定できないから。ここ数年だけど、急にいろいろな情報が入るようになったのよ。一番の理由はやっぱり世界樹ね。」

「・・・だろうね。」


 窓の外には今も青々と葉を付けて聳え立つ世界樹が見える。村と呼ばれるのも、ここが重要な場所と言われるのも、世界樹が存在しているからだ。

 世界樹の守護者としての能力があるのか分からないが、一度は燃え尽きたと言われていた世界樹が再び現れたという事は、あの悲劇もいずれやってくるという事で、太郎としてはどうすれば世界樹を守れるのか、真面目に考えなければならない日々と共に生活を続ける事となる。






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