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第144話 脱走者の行き先

 真っ暗な城内の最深部。

そこには生きているのか死んでいるのか不明な者もいるが、その者達の目は死んでいた。しかし、たった一人だけ、ギラリと光る眼を持つ者が存在した。

その者は精力に溢れ、肉体は逞しく、鎖で雁字搦(がんじがら)めにされて動けない筈なのだが、「いつ動き出しても不思議じゃない。」と、警備の者達は語っていた。

警備は厳重で、二人一組の8人体制で常時監視し、重犯罪人と言っても食事は与えるので、食事係も含めると10人以上がたった一人の警備に使われている事になる。

直ぐに処刑しない理由は、犯罪グループやそのネットワークについて聞きだしたいからで、時には拷問も有ったが、効果は全く無かった。


「俺を処刑すると国が滅んでも知らんぞ。」


 嘯いているが、この言葉にはかなりの重みがあって、多くの盗賊団が彼を差し置いて行動を起こそうとせず、ある程度配慮して、狙いが被らないようにもしている。

 それが盗賊団としての統率と統制が取れている証拠で、それら集団が各国に入り込んでいる以上、国としても無視できない。

 更に言うと、彼が率いる盗賊団に依頼を出す者もいる。なぜなら彼らは盗みのプロフェッショナルで、報酬さえ出せば、ちゃんと依頼を引き受けて行動するのだ。ただし、彼らが自身で盗み出したモノについては無視されるので、依頼を出す事で誰に盗まれたか判断するということも出来る。もちろん、個人までは特定できないが。


 それ程の盗賊団のボスが捕まったという事件は表社会でもかなりの噂になったが、裏の世界では激震に近かった。魔王国の最下層の地下牢に捕らえられているというのは直ぐに分かったが、そこに行って帰って来た者は存在しないと言われるほどの厳重な警備で、脱走は不可能だと言われている。


 ―――しかし、その不可能にひびが入った。


 もっとも単純な方法と言えば警備兵をどうにかしてしまえば良いという事で、ありとあらゆる手段で担当の警備兵を調べ出し、金と女と快楽でその者達を篭絡する事だった。

 捕らえられている正確な位置は極一部しか知らないので、知っているというダケで関係者だと分かる。

 分かるが、その者達に接触するのは不可能に近い。絶対に不可能とは言わない。同じ兵士なら接触するチャンスはいくらでもあるが、すぐに疑われてしまう。

 そこで、助け出そうと画策したモノの最後の手段は、国内で疑われない程度に騒ぎを複数個所で発生させ、多数の兵士を出動させ少しでも手薄にすること。

 一両日程度で収まってしまう騒ぎではなく、かなり本格的に。

 次に、スパイとして兵士になって働いている者に連絡を取り、協力者を増やす事。協力する内容について、事実は教えない。城の宝物庫にある宝を狙っていると言えば、あのダンダイルが犯罪撲滅作戦を展開した時に奪われたモノが沢山収められているから、疑われる事も少ないだろう。

 そして、その作戦の所為で城内のスパイの大半が失われてしまったが、そのおかげで残った者は疑われ難いので使い易いのだ。

 皮肉なモノである。


 様々な準備が進められる中、決行日を決定付ける面白い情報が入った。将軍級が一堂に会する会議が数日後に開催されるという話だ。理由は知らないが、これほどの好機はなかなか来ないだろう。少し無理してでも担当の警備兵たちに接触する必要が有る。

 彼らの好みを調べ、誘惑し、姦通したところで美人局は完成する。そこまでやって得られた時間はたった2時間だったが、会議が始まると同時に警備を薄くしてもらい、そこから忍び込む。彼を解放出来てしまえば、脱出するのは簡単だった。

 破壊と放火を繰り返し発生させ、大混乱したところで、集まってくる兵士は国内の騒ぎの収拾に兵士が出動しているので、一線級は不在。二線級以下の兵士が集まったところで何も怖くない。

 会議を開催していて将軍達の耳に届くのは遅れるため、予定よりもかなりの時間稼ぎが可能となって、地下牢の崩壊と脱走者が多数との情報が魔王の耳に届いた時には、城外に出ていた。




 脱出して、用意してある服に着替え、水代わりの酒を用意する。ボスは酒を呑むまでに少し時間を要したが、呑み始めると、途中で止めることなく最後まで一気に呑んだ。

 胃に酒が沁み込む感覚を懐かしく感じて、良い気分になる。酒の臭いを呼気に混ぜて吐き出すと、殺風景な作りの家の天井を見上げた。


「こんなに早く助けに来るとは思わなかったぞ。」

「俺達も予定より少し無理をしましたが、将軍達が秘密の会議をしているらしくて、このチャンスを見逃せなかったんですよ。」

「秘密の会議?」

「内容は解りません。調べる余裕も無いですし、知ったところで脱出の方が最優先ですから。」

「そうだな。」


 ボスの周りにはたった5人だが、優秀な戦闘能力を持った者達が揃っている。ボス自身も良く知る者達で、あの時一緒に捕まった者も含まれている。


「それで、言いにくいんですが・・・。」

「お前の言いたいことは分かるぞ。次に何をするか予定が無いんだろ?」

「そーなんですよ。」

「ここから逃げると、どこまで行っても魔王国だからな。」

「世界樹が復活したと言う噂も静かな広がりを見せていて不気味なんですよ。」

「世界樹だと?!」


 盗賊団のボスも驚く情報は、確かめる術もない。


「あの土地の方角に隠れ家が有っただろ?」

「ああ、あの水の流れる洞窟ですね。」

「暫くあそこに隠れるとするか。」


 彼らは数少ない選択肢の中から、仕方がなく選んだだけだが、その洞窟に行く事は無かった。




 査問会議が中断し、解散したところで、魔王はゆっくりとキラービーの蜂蜜を味わっている―――


「失礼します!」


 返事を待たずに魔王直属の兵士が大声で叫んだ。


「ワンゴが脱走しました!地下牢周辺はかなりの被害がでています!」


 帰路へ向かう将達の歩みを引き戻させる声が響く。


「詳しい状況は?」


 一番落ち着いていたのは珍しく魔王だ。


「重犯罪人が何人も脱走していて、応戦していますが新兵だらけで苦戦しています。」

「近衛兵をすぐに向かわせてください。それと、ゴルルー将軍とゾル将軍は協力して対応してください。此処を臨時指揮所にします。」


 残りの将達も戻って円卓の周囲に集まる。トヒラはどこから呼び寄せたのか、部下に指示を与えている。情報収集に努めているのだろう。

 数分と待つことなく、トヒラが魔王に報告する。


「ワンゴの他にも8名の重犯罪人が脱走したそうですが、内6名は既に捕縛したとの事です。地下牢は火災が発生していますが、鎮火は時間の問題です。」

「さすが、早いですね。で、そのワンゴは?」

「不明です。」


 トヒラからその言葉を聞くと、ゴルルーとゾルは申し合わせたかのように、魔王に対して同時に敬礼し、部屋を出て行く。ワンゴだけは自由にさせてはならないという意思が伝わってくる。

 事態の重大さが一気に広まって、混乱は収束する気配もなく、その夜に集まった将達は夜が明けて事態を確認するまでベッドに横たわる事は無かった。




 翌日の夜。再び集まった将達の顔は絶望の色が染め上げていた。ワンゴとその部下の2名は完全に逃げられたという事が分かっただけで、警備責任者の首が飛ぶ。しかも、トヒラによって明かされた事実に、絶句している。


「兵士達が裏切ったという事ですか?」


 魔王の質問は、心苦しいと解っていても問いたださねばならない。


「いえ、裏切ったのではなく、最初からワンゴの部下として潜入していたという事まで分かっています。それも数10年も前から存在していたようです。」

「そんな事がこんな短時間で良く分かったな?」

「一緒に逃げようとしたワンゴのスパイが喋り散らかしていたところを捕まえたのです。」

「逃げ遅れるような間抜けな奴がいて助かったという事か。」

「そうなりますね。」


 それでも事の重大は変わらない。ワンゴに逃げられたという事は、再び盗賊団との小競り合いが始まるという事だけではなく、ダンダイルの犯罪撲滅作戦も失敗だっという事になる。撲滅作戦によって綺麗になったと信じた者達をも裏切った事になり、ダンダイルとしても少し身を縮めていた。


「そこまで手薄な警備では無かったとしても、人が作った物は人が破壊するという良い例ですね。」

「処分なら甘んじて受けますが、今少しチャンスを頂けませんか。」

「処分?そんなことしませんよ。責任の所在を明らかにすると、ほとんど全員が処分対象になりますよ。訓告が限界でしょう。」


 それは確かにその通りなのだが、あえてそこまで言う必要も無く、魔王として甘すぎると思われる理由の一つでもある。


「そんな事より、チャンスを欲しがるのであればワンゴがどこへ逃げたか調べる必要が有りますね。」

「それなら調べる事も無く行く方向は決まっています。」


 トヒラの説明は城から逃げて国境方面に向かうにはガーデンブルクもハンハルトも遠すぎる。そうなれば魔物も迷う森を抜けるか、あとは一つしかない。


「それは・・・太郎君達が危ないという事か?」

「はい。」

「今あの場所を狙われたら・・・。」

「ワンゴが部下をどれだけ集められるかにもよりますが、集めればその動きは我々でも分かるでしょう。なので少人数で行動するはずです。」


 トヒラの説明は理に適っていて将達は納得している。


「直ぐに兵をあの村に向かわせましょう。」


 魔王の発言に珍しく将達が一同に頷いて即決し、派遣される部隊の臨時指揮官にトヒラが選出され、あの村に向かって即日出発したが、トヒラ率いる部隊が村に到着するのは、早くても2週間は必要だった。






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