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番外 ウルクの一日

 太郎の住む村に到着してしばらく経ったころ。

ウルクは暇を持て余していた。

子育てに勤しむ予定は有ったのだが、気が付けば優秀な教師に教えられている。

たった二人だけの子供だと思ったら九尾の子が五人も・・・いる。

だからと言ってないがしろにされている訳でもなく、子供としてではあるけど、平等に扱ってくれている。


『太郎様・・・。』


 子育て中は発情しないが、太郎を見ていると胸がドキドキする。鼓動が早くなるのは年齢の所為かもしれない。

 兎獣人は他の獣人と比べるとはるかに短命で、長生きと言われても50年がやっとだ。それも発情期の期間が短いほど長生きする。

 どうやらこの自分の様子だと長生きできそうな感じがする。




 服を着る習慣は辛うじてあったが、寒さに強い所為も有って真冬で全裸でも寒くはない。今はエルフの人達から貰った服を着ていて、子供達にも普段は服を着るように教えている。

 ・・・むしろすぐ脱いでしまう癖は私の方があるようだ。朝になると着ていた服が脱げていた事が何度か有るからだ。

 双子のククルとルルクは今日も父親の所で寝ている。浴場が完成してからは、私の所にちっとも来ないので少し寂しい。子供同士で寝ているというのは太郎様に教えて貰ったが、私もそっちに行きたいです。

 とは、黙っていよう。




 食事は毎日が凄い料理で吃驚する。吃驚し過ぎて何にも言えないほど。あの子供が作っているらしいので、早起きして手伝ったりもしている。ただ、マンドラゴラ以外は食べた事が殆ど無いので、教わる事ばかりだ。


「・・・で、こっちはこうやって切ってください。」

「こ、こう?」

「そうです、そうです。」


 笑顔の可愛い子だ。私もこうやって娘に料理を教えられる親に成りたいと思ったのは、この子に教わったからだけど、以前の村に居たらそんな事は考えもしなかった。マンドラゴラを育てて食べているだけで、特に困らなかったからだ。

 しかし・・・。


「こんなにも美味しい料理がアルなんて知らなかったデス。」

「私も知らないですよ。全部太郎様に教えて貰ったレシピですから!」


 食材を調理する。それは訪れた冒険者達がやっていた事で、あの頃は火だって怖かった。今は目の前で燃えていて、その上で鍋やフライパンが踊っている。踊っているというのは言い過ぎかもしれないけど、この子の道具捌きは踊っているように見える。なんとも楽しそうだ。


「完成したらこっちはテーブルに並べて、この鍋の方はお代わり用ですが、最初からみんなに自分で取りに来てもらいますので。」

「それは?」

「太郎様の分です。」


 なるほど、特別扱いですね。それは解ります。

 兵士達がなだれ込んできて、あっという間に去っていく。残されたテーブルには汚れた食器が沢山・・・残ってない。


「食べ終えたらここに置いてもらっているんですよ。」


 返却用の棚にお皿がズラッと並んでいる。

 兵士の人達は色々と自分達の仕事があるようで、あちこちへと散って行く。


「仕事・・・。」

「どうしました?」

「わ、わたしにもナニか仕事を下さい!」


 エカテリーナは困った表情で答えた。


「仕事と言えば仕事ですけど、私はやりたくてやってますし、太郎様の役に立てることなので譲る気は無いですよ。」

「何かアリませんか?」


 皿を洗いはじめると、うどんさんがやって来た。とても不思議な人で、困っている人に胸を触らせようとする。


「お二人とも困ってますね?!」


 有無を言わさず胸を押し付けられた。ただ、この人の胸は大きいだけではなく、なぜかほわわんって気分になる。不思議な感覚だ。


「お、お水下さい。」

「はーい。」


 ガシャガシャと洗い始めたので、洗い終わったお皿を乾いた布で拭いて棚に戻す作業を私がやる事に。ちいさなことでも、何かやっていると落ち着く。こんな感覚は今までになかった事だ。




 少し冷たい風が吹く中、一人で畑に向かう。今もマンドラゴラは青々と生っていて、今は世界樹様が定期的に育てている。凄い魔法だと思う。どんな植物でもあっという間に成長してしまう。スイカというモノを食べた時は甘さと食感に感動した。


「おやー?」


 振り返るとスーさんだ。暇そうにウロウロしているのではなく、村の周囲を警備していたようだ。


「どうです?ワルジャウ語には慣れましたかー?」

「それナリにデス。」

「太郎さんも心配しているみたいですし、また勉強しましょう。」


 ワルジャウ語を一から教えてくれるのはこのスーさんだ。私の子供達も教わっていて、今じゃ私より子供の方がワルジャウ語に詳しい。魔法とか剣術も子供達に教えているのは何でだろう・・・?


「あの村との変化が凄すぎて辛くないですか?」


 語尾が伸び無い。


「この村は良い村です。」

「・・・そうですかー。」


 なんだろう、今の間は?


「仕事というか、何かやる事を探しているみたいですねー?」

「スーさんは強いから・・・。」

「太郎さんの方が普通に強いですよー。」

「だ、だから、ハタケに来て何かする事がナイかと。」


 見渡すと、特にする事は無さそうだ。あの鳥達が、ワルジャウ語ペラペラの鳥達が畑を陣取っていた。黒い土が剥がせない。魔物と戦えない。計算だって出来ない。


「確かに困りましたねー。でも、別に太郎さんはそんな事は求ていないと思いますよー。」

「何をシタラ・・・。」

「それを見付けるのが最初の仕事だと思う事ですー。」

「ナ、ナルホド?」


 去っていくスーの背を見詰めた。しかし、答えは見つからない。




 兵士達が帰っていく。村だと思ったこの場所も、凄い賑やかだった昨日も、今は心にぽっかりと穴が開いたみたいだ。外に設置されている椅子に座っていると、隣にうどんさんが来て顔に胸を押し付けていく。

 エルフの人達も毎日何らかの作業をしているし、新しく来た狸獣人も、弟子の二人と鉄を打っている。鍛冶というのが珍しくて一日中見学していたのだが、冬とは思えない暑さだった。


「魔法も出来ない。勉強も出来ない。・・・料理は楽しそうでしたが・・・。」


 エカテリーナが忙しそうに何かしている。あの子がするのは家事だけではない。気が付いたら私の子供の分の洗濯もしている。センタクって知らなかった。服って洗うのだと教えられた。


「積極的にやらないと、何も出来ないですよー。」


 頭の上から声がした。スーさんだ。


「太郎さんはアナタの身体に興味があるようですけど、ね。」

「子作りはする気がアリマセン。」

「その方が良いでしょうねー。」

「あんまり子供を作ってしまうと・・・。」

「兎獣人は寿命が短いですからね。」

「!!・・・知ってましたカ。」

「ウルクは純血でしょう?」

「はい。父親も母親も同じデス。」

「町に居る兎獣人の殆どは混血で長寿に変化していますから、知らない人も多いと思いますが・・・今幾つなんです?」


 この人に嘘は言ってはいけない。だから、正確に教えた。


「そうでしたか・・・、でも兎獣人が長生きしない理由って知ってますか?」

「知らないでス。」

「マンドラゴラしか食べないからですよ。今はキラービーの蜂蜜を食べてますよね?」

「アレはすごく美味しいですね。」

「超高級品ですからね。」


 言葉に妙な力が入っている。


「エカテリーナの作る料理も美味しいですし、たくさん食べているでしょう?」

「美味しくて、ツイツイ。」

「それは解りますー。あの子は上達が早いですよねー。最初は芋の皮だって剥けなかったのに。」

「スーさんが教えたんですか?」

「太郎さんも教えてたみたいですけど、基本的には。」

「いいなぁ・・・。」

「それは同感ですー。」


 小さく笑うと、スーはまた表情を引き締めた。


「純血でも長生きした人はいたでしょう。その人は特に村に住む事を拘らなかった。人の多く居る町に出て、数百年生きたという伝説の。」

「そんな人がいるのデスか?」

「いたんですよ。名前は知りませんけどねー。ただ、そういう人がいるのならウルクにも可能性は有るんじゃないんですかね。」

「カノーセイ?」

「たくさん食べるようになって、肌の艶が更に良くなったようにも見えますし、何故か性欲が感じられないですし。」

「発情期はそろそろ来ると思います。」

「判るんですか?」

「身体が妙にムズムズするんです。ただ、ちょっと、以前とは違うむムズムズですケド。」

「それは性欲じゃないムズムズかもしれませんねー。」

「判るんでスカ?」

「そうですねぇ・・・何となく体を動かしたいとか、色々な事に興味が出て来るとか、心配事が増えるというのもムズムズかもしれませんねー。」

「・・・。」


 ウルクは考える。そう、その考えるという事が、今までは無かった事だ。自分の身の振り方を教えてもらうのも新しい感覚だ。


「発情期が来たら私に教えてくださいね。」

「ああなったら私じゃ止められないです。」


 自分の意志では無理という事だ。


「男と言うか異性を見なければ良いのでは?」

「確かに、居なければ少しは耐えられますケド・・・食べるモノは食べますし、ズット家に居るというのも無理です。」

「まぁ、変化が現れれば私でも気が付きますかね?」

「そうだと思いマス。」


 スーが考え込んで、長いこと立っていたのだから、疲れて座ると、うどんがやって来て胸を押し付けていく。あの人はあれで良いから羨ましい。

 いや、やっぱりダメだ。


「・・・あの蜂蜜は、長寿の薬でも有るんですよ。だから、たくさん悩んで長く生きてくださいよ。」

「え、あ、はい・・・。」


 いつの間にか傍に居たケルベロスのチーズ。彼女も私と同じでワルジャウ語がまだ苦手だ。狡賢い言われるケルベロスとお話しできるというのも、この村だからだというのは理解が出来る。なんとも、村の外は不思議でいっぱいだ。

 これから私はどうなるんだろう・・・?

 いや、どうなるんだろう、じゃなく、これからどうするのかを自分で決めるのだ。

 太郎がこれからの方針を決めるのとは違い、ウルクは自分の事だけを考えて決めればいいのだから。






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